ギア
ここでは少しだけこの戦闘のテーマ、一人であることと、仲間がいることを出してみたつもりです。
キーワード一つ。
発動条件が分からないが故の苦肉の策だが、ほぼ正解と言ってもいい。
魔力の放出量には訓練や体質によっても変わるが個人によって上限が存在する。
無論、放出量を上昇させる方法がいくつかある。
その一つが言葉。
魔法の詠唱は魔力の放出補助と現象への変換を同時に行っているが、それ以外の魔力行使、エリスが使用した爪の一撃や、騎士団が使用している魔力放出といった、生来備わった力や神の加護による力でも数割程度の出力増加が確認されている。
けれど、彼女は未熟過ぎた。
もしも仲間や師がいたのならば、教えを乞うなり、時間を稼いでもらっている間に能力を掌握できただろうが、生憎彼女は一人。
「チッ!!」
確かに能力は発動した。
極小の黒い穴がほんの一瞬だけ。
『自分の能力を確認できてラッキーと考えるべきだな。そうでなけれややってられないわね』
挑戦の対価は左腕に走る薄い切り傷である。
能力に気を取られ、腕の速度が鈍ったのだ。
そしてまた打ち合いが始まる。
そんな中、アインだけが異変を感じ始めた。
『こいつ攻撃に緩急をつけてやがるぜ』
先ほどまでの攻撃は常に一定の重さだった。
だが今は違う。
例えるなら、自転車のギアだ。
目的や用途に合わせて適切なギアを設定し、速度や体力の消費をコントロールする。
変化はそれだけにとどまらない。
『こいつ避けやがったぜ』
少し前までは、剣に対して爪をぶつけるという力技で攻撃を防いでいたというのに、だんだんと小技が見え始めた。
『だが、まだまだ、脅威になるほどじゃねえよ』
動きはまだまだ荒い。
避ける動作は大きすぎたり小さすぎたり。
絶好の反撃の機会を逃したり、軽い切り傷を作りながらも、あきらめずにこちらの反応をうかがってくる。
だが、
「アインさん」
呼びかけひとつ。
それだけでアインは察した。
『このまま最後までやりてえって思いもあるんがよ』
それでも彼は一人ではない。
仲間がいるのだ。
自分が背負うべき重責を背負ってくれる隣人が。
大きく後ろにステップを踏んだ。
むろんエリスは逃がしてなるものかと、追撃を試みるのだが断念する。
エリスを四人の騎士が囲んでいたのだ。
そのまま一斉に剣を前に飛び込んだ。
逃げ場は一切存在しない。
それでもエリスは獰猛に笑う。
エリスもまた敵へと向かう。