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回復能力

 近頃、日本の文化継承が叫ばれ、多くの学校で授業として柔道が取り入れられている。

 ここで最も力を入れて行われるのは、技や間合いの取り方ではなく、受け身である。

 いかに怪我をしないかの訓練なので当然かもしれないが。


 当然ではあるが、受け身にはいくつもの注意事項が存在する。

 その典型的な例の一つが、掌を地面に付くというもので、脱臼の危険性が高い。


 化物が左腕を前に出したまま動かない。

 正確には動けない。


 そして気づかれた。


 ローブに血の跡がある。

 斬撃としては落第でも、浄化の力を持った剣で切り付けたのだ。

 剣の接触部は流石に癒える気配を見せないが。切り傷以外は治療されていく。


 そして、右腕を一向に構えない。

 これに関しては理由が見えてこない。

 

「後少しだったて言うのに」


 これを見た騎士一同は、後少しで化物を仕留められたのにと悔しそうだ。


 シアノが使っていたのが、アインの持つ剣ならば勝負は決していただろう。


 正確には違うが、魔力放出というのは透明な鎧のようなものだ。

 防御や打撃には相性がいいが、斬撃の場合、アインの騎士団が行っている魔力伝達を高める加工を施さずに、過度の魔力を込めればなまくらと化してしまう。

 

『しかし、シアノ団長らしくもない失敗だな』


 それも使い手の技量しだい。

 魔力量の調整によって問題はクリアされる。

 シアノの部下一同はこの凡ミスにわずかな違和感を覚えた。

 が、今はそれどころではない。


 これは紛れもないチャンスだからだ。


 肩の傷は修復中に強引に動かしたので、傷口が開いたが順調に回復している。

 十分もあれば完治するだろう。


 手首の脱臼は軽傷だというのに修復されているようには見えない。

 これはどうしてか。


「もしかすると、化物の回復能力には癖があるのかもしれません」


「それは一体どういうことだ」


「シアノの剣での傷が治癒できないのは当然でしょう。

 ですが脱臼が一向に治癒されないのはおかしい。

 それに最初と比べて回復速度が遅くなっています。

 人を食っているのは魔力の補給と考えれば、魔力という燃料の豊富さが関係していると思います。

 だから、怪物の治しやすい傷とそうではない傷が表れた。

 脱臼をねれって行うのは難しいでしょうから、腕を切断してみてはどうでしょう。

 魔力の消費が高くなるでしょう」


 それはそれで、脱臼を狙ってやらせるのと変わらないほどの難易度であることをシックは気が付いていなかった。

 それでも、

「なるほど、そういうことかよ。

 総員、攻撃する時には気を付けやがれよ。

 そりゃあめんどくさいだろうが、その程度できなきゃ騎士の名折れってもんだ」


 アインは気持ちよく笑う。


「まってください。

 この相手はユースティティア様の加護が明確な弱点となっています。

 ですから浄化の……」


「いや、そいつは無理ってもんだ。

 俺らの仕事はあくまで対人戦。魔獣退治も仕事に入って入るが、それでも破邪の気の習得レベルは低い。

 魔力放出による防御能力を低下させてまで、拙いそれを使う意味がないってもんだ」


『なるほどそういうものですか』

 同らや、戦況分析に信頼を勝ち得たからか無意識に気が大きくなっていたのだろう。

 戦闘の素人がこれ以上口出しをするべきではないなと、シックは自身を省みた。


 エリスも話をじっくりと聞いていた。

 不親切なことにホルダーカードには大まかな情報しかない。

 なので自分の能力の分析は新鮮だった。


 故に彼女は陣形の立て直しをあえて見逃し。

 騎士団の方も治癒の時間を与える。


 アイン率いる騎士団総勢五十名。

 そのうち前線に出ているのはアイン含めて22名。

 補助要員が15名。

 残り13人が負傷したときの交代要員。


 一方でシアノ率いる騎士団は、前線にシアノを含めて11人。

 交代要員として二十名が待機。

 近場の街には基地が存在し、補充要因は100名を超えるが、純粋な戦闘要員は2,30名程度。

 これらの人員が洞窟の出入り口を抑えている。


 エリスは敵方が強固な陣形を取っているので、強引に突入する以外の手がないのだ。

 それも今回で三番煎じ。

 化物が構えを取っただけで何をしてくるのか想像がつく。


 シアノは手にした剣を固く握りながら、怪物がとるであろう手を何通りも想像していた。


 理屈から言ったらアインの騎士団が肩つけるのが一番だ。

 先程の攻撃は不測の事態だったが、連携を考えれば自分は裏方に回るのが一番だということを理解している。

 

「なぁシアノ、僕たちで勝とう」


 それでも譲ることのできない思いがあった。

 彼らの夢の残骸の一挙一動を決して見逃すまいと強く睨み付ける。

 そして―――


「行くぞ」


 三度目の突撃が繰り出される。

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