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閑話 神々の戯れ

開始していきなり閑話を挟む狂気の所業。

展開遅いって文句言われそう。

「ナポレオン君。これは面白いことになったよね~」


「黙れ、ガキが!!」


 親し気に話しかける神流に、ナポレオンは苛立ちを隠そうともしない。


「ひど~ぃ、仮にも母親に向かって何さ、その口調は」


「俺は黙れといった、聞こえねぇのか」


 苛立ちに呼応して真紅の情熱が燃え上がった。


 ―――その質量に世界がゆがむ。


 蜃気楼というものがある、空気のゆがみによる虚像。

 見えている世界がゆがむ最も身近な例の一つだろう。


 ―――だが違う。その程度の現象ではない。

 視界ではなく、空間そのものがゆがんでいるのだ。


 ビックバーン。


 星の末期の叫びは、空間の歪み(ブラックホール)すら発生させるという。


 まずはじめに音が消えた。

 光が飲まれた、世界が死んだ―――


 だというのに

「これはないよ。僕を殺すには温すぎるけどさ。さすがに熱いんだよ、このレベルになると」


 意に返されない。

 ナポレオンと呼ばれるかわいらしい豚の姿をした神は不毛さを理解したのだろう。


 ため息ひとつ。

 紅蓮の矛を収めた。


「それにしても、これはこれは、彼女には期待してたんだ。能力値は上から数えたほうが速いし、それが強化イベ発生だ。一気に五指に上り詰めるぞこの子。

 いいね、いいね。魂が黒い太陽のような輝きを放っている」


 目を輝かせてはしゃぐ姿はどこまでも無垢。

 ゲームに熱中する子供を思い起こさせる。


「黙れ、クソが」


 だが、子供の遊びには残酷さがつきものだ。

 理解しているからこそ、付き合いきれない。


 いらだちと共に、口にくわえたパイプから紫煙が漏れる。


「ふぅ~ん、君的にはどこか思うところがあるのかな、何しろ兄妹の不始末が絡んでいるんだしさ」


「俺は黙れと言った。焼かれたいのか」


 ナポレオンの本気を見たのだろう。

 神流は両手をぶんぶんと振るい待ったをかける。


「ごめん、ごめん。君の攻撃を食らうと熱いから勘弁してよ。

 それにしたって、今の状況は予想外だ。故に興味深い」


「だろうな、あの売女(ばいた)の呼び出しに無関係の存在が引っかかるとは、予想外もいいところだ」


「だよねぇ~、最も彼女の力も私からきてるから、ありえなくはない。けど、それにしたって奇跡だよ」


「だが、問題はあのガキにどういった変化をもたらすかだ」


「だよねぇ~、え~っと、……エリスちゃん種族は吸血鬼だっけ」


 一瞬。神流の視線が虚空に揺れた。

 かと思うと、話題の少女について知った風に語り始める。


「強力なスキルを多数保持しているが、致命的な弱点を抱えた欠陥種族。それがあのガキだ」


「うんうん、よく分かっていらしゃる。ナポレオン君、もしかしてこれから生徒になる子たちの情報、丸暗記しちゃった~」


「うるさい。黙れ、殺すぞ!」


 ぶっきらぼうにいうと、ナポレオンは顔を背けた。

 

『えっ! まさか本当に』


 意外に事実に驚愕するものの、流してやるのも母親としての役割だろう。

 例えベットの下からエロ本見つけても、訳の分からない趣味にのめりこんでも、意外な事実が判明しても、流してやるのは母の務め。


『何というかそう、これは不良が雨の日に子猫を傘に入れる。そんなじらしさをナポレオンから感じるなぁ~」


「おい、その生暖かい視線はやめろ。殺すぞ」


「コホンッ。

 うまく融合すれば、吸血鬼が持つ幾つかの弱点は消えるだろうね」


「そうだろうよ。だが、共通する弱点、例えば聖属性は克服できねぇだろ」


「そうだけどさ。日光とか、ニンニクとか、分かりやすい弱点のうちいくつかはなくなるだろうね」


「にんにくはまだ分かる。だが、日光を克服できるのか。あれは、一応ではあるが浄化に繋がる物だ」


「はぁ~、ナポレオン君。エリスちゃんをもっとよく見て、影があるでしょ、それに、結界に姿がうっすらとだけど移っているしさ」


 ナポレオンの目が僅かに細まった。


 巷の占い師がやっているように星を読む必要も、水晶を覗き見ることも、手相を拝見するまでもなく千里を見通す。

 その在り方こそが神といえる。


「これは、あのガキあたりを引いたな。悪魔として得た特性が吸血鬼の弱点を克服するような形で発言しやがったぞ」


「そうだよね~。でも問題はここから。果たして、これだけの格を生まれたての彼女が……、おい、ちょっと待て」


「おい、どうした」


 神流はさっきまでの上機嫌がウソのように静まり返った。

 山の天気のようにわずかな時間で感情が移り変わるが、いつものことだ。よってナポレオンは気にも留めない。

 

「二重人格。おい、二重人格だよ。一体何なのさこの子。恵まれたステータスに、ほの暗い過去、それに今回の事故。

 幾らなんでも話が出来過ぎだよ。確率で言うならくじ引きで五回連続一等賞引き当てるみたいなものだ」


「おい、くじ引きで一番上は特賞だぞ。一等賞は上から二番目だ」


「なら言い直そう。宝くじで大当たりするぐらいありえない確率だよ」


『こいつ、突っ込まれて言い方変えやがったぞ』

 今度はナポレオンが神流を白い目で見ることとなる。


「元々設定過多だっていうのに、今度は二重人格。

もしかしてこの子が主人公なわけ‼

 すごいぞ! 吸血鬼モードと悪魔モードの使い分けができるなんて」


「おい、神流。お前、愛の女神(腐女子)がBLプレイを覗き込んでるようなテンションになってるぞ」

 

 ピタリ! 騒いでいた神流の動きが止まった。

 流石に腐女子扱いはいやらしい。

 

「恐らくあの子、成長しきれば、見れる程度にはなるだろうね」


「育ち切ればな」


 期待する神流だがナポレオンは否定的だ。


「人格が二つに分離だと、こんなもの統合しそこなったの間違いだ。

 本来持つであろう力までそがれてやがるじゃねぇか。

 力をそがれだ状態で生き残れるかすら微妙だろ」


「ロマンってものを分かってないな~。一理あるけど。

 けどさ、これだけ僕とおしゃべりに興じてくれたんだ。

 君だってエリスちゃんに興味を持ってるんだろ」


「……」


 それは、無言の肯定。


「彼女は何かを持っているんだよ。

 運命力的な何かをね。

 今回は悪い方向に作用しちゃったけど、それでも彼女には何かがある。

 だから、君も彼女に注意を向けたんだ。違うかい」


 そう言って、意地悪く笑う。


 エリスが、未だに自身の名を知らない少女がこれからどうなるのか。

 それは神すらも関知しない。


 賽は投げられたのだから。

 何が出るかはお立合い。


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