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今は亡き君へ


 その日、俺は死ぬはずだった。


 ついていけない。

 そう思い師のもとを離れた。


 今まで踏ん切りがつかなった自分を恥じながら。


 計画は完璧なはずだった。

 だというのに、出会ってしまった。


 心臓が止まるほどの衝撃だったな。

 僕は見逃されて生き残った。


 最後の良心だったと信じたいが、正常な思考ができていなかっただけとも思ってしまう。

 信じていた人を信じられないというのは最悪だと思いながらも。


最後の一線(殺人)は超えていなかったはずだろう!!』

 目の前の光景は、シックの常識をはるかに越えていた。


『遅かった』

 目の前には地獄が広がっている。


 助けて!

 助けて! 助けて! 助けて! 

 と、救済を願う人々の祈りが耳に聞こえてきそうだった。

 男が、女が。大人が、子供が、老人が。

 老若男女区別なく、無数の死体がぶちまけられている。


『僕が止めなかったからみんな死んだ』

 彼らは孤独の中、痛みの中、憎悪の中で死んでいったのだろう。


 そんな中でも光はあった。

 生存者だ。


 露骨に警戒している少女の顔を見た時。

『『エッ!!』』 シアノとシックは郷愁にとらわれた。

 少女はあまりにもエリンに似ていた。


 ショックが大きすぎて幻覚を見たのだろうか。

 シックは一端目を閉じるが、少女が消えることはない。

 

「いや、でも、流石に違うはずだ。でも……」

 

 シックはまだ冷静だった。

 だから、同じように驚いているであろうシアノのほうへ駆け寄る。


「シックあれはいったいなんだ」

 

 シックが駆け寄ったのは、思った以上のファインプレーだったようだ。

 

 明らかに取り乱している。

 

「生き残り? なのでしょう」

 

 そんな都合がいい話あるわけがない。

 分かってはいるが、それでも……。


「じゃあ、助けに行かないとな」


 シアノは明らかな地雷に向かって進んでいる。

 シックにはどういう状況なのかおおむね答えが出ていた。


 だから引き留めようとして……。


「シアノ、シック」

 

 少女が自分たちの名を呼んだ。

 シックも凍りついた。


 シアノを止めるものはもうどこにもない。


 虫が密に誘われるように、シアノは前へと進む。

 それにつられて、彼の部下が生き残りを保護しようと前に進み。


「待て」


 賢者に押しとどめられた。


 光が瞬く。

 すると、少女は地面に崩れ落ちた。


「いったい何を!!」


 シアノは怒りに刈られライプニットに切りかかろうとするが、寸前でシックに取り押さえられる。


 もう彼女はいないのだ。

 実際、あれは悪魔だとライプニットは言った。


 シアノは逆上していて耳に入っていないようだ。

 シックにはその気持ちが痛いほどにわかる。

 助けてと手を伸ばしてくれたのだから。


 そして、悲しい現実が突き付けられる。

 

 彼らとて分かっている。

 目の前の少女は偽物だと。


 昔話をしても過去に戻れないのと同じように、思い出の中のエリンが返ってくることはない。


「シック。あれを倒すぞ」

 

 傷が修復されていく。

 流れ出た、血一滴の例外もなくだ。

 

 この異常な状況を見て頭が冷えたのだろう。

 シアノは落ち着きを取り戻した。

 そのうえで、義務と人情二つを天秤にかけて、義務をとった。

 

「それは……」

 

 後に続くのは、殺せるのか、殺していいのか、殺すべきなのか、そのいずれかのはずだった。

 シアノが口にしたのは、シックが無意識の中で避けたがっていた結論なのだから。

 

 それでも―――。


「そうですね」


 夢とはいずれ覚める物。

 それがどんなに美しい宝石だ有ったとしても、人は旅立たなければならない。


 頭では理解しているのに、この微睡があまりにも気持ちよくて。

 ほんの少しでもいいから長く夢を見たいと願ってしまう。

 

 その願いにすがってシックは失敗したのだ。

 だから、前に進めた。

 エリンを眠らせることが自分の役割だと信じて。


 だけど、彼らは忘れていた。

 夢とは必ずしも幸福なだけではないのだと。


 ―――さあ、悪夢が始まるぞ。



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