幕間 冬のモノローグ
毎日、雪掻き。
毎週、雪下ろし。
雪国の乙女は大変なのです。
寒くて寒くて鼻水がでます。
鼻をかむには手袋をはずさなきゃ。
めんどくさいんで啜っちゃいます。
ウッ、ウェ~ッ! のみ込んじゃった。
おしっこも、もれ……ちゃいそです。
で、でも、もうちょこっとで。
ぜ、全部、、すむ。
と、ところで、ですね。雪の上のおしっこって、品位がないですよね。
まっ白な雪、にポツリと黄色い穴、なんて。
だからこそ、清らかな、ものを汚す、背徳的な快感が……。
○o 。.(@ ̄ρ ̄@) Y
し、してません。してないです。
人里はなれた山奥とかじゃあるまいし。
だれかにみられたら。
スリルがあってこーふんする。
ち、ちがいます。ちがうです。
昼子はこんなとこで、お尻をだして
お、股、ひろげるような
痴女なんかじゃ、な、ないのです。
そんなことしたら、汗が冷えちゃって
風邪ひき……。
ヘッ、ヘクチン。
ズビッ――。
「せ、せんぺー! なしてこんただどごさ?
おらあんましさびぐて、しょんべむぐれそで」
(せ、せんぱい! どうしてこんなとこに?
あたしあんまりさむくて、おしっこもれちゃいそうで、、)
野良ションは気持ちいーです
でも、やっぱ死にたいです
お姉ちゃんが涙と鼻水でびちょびちょの、残念な美少女になって、雪掻きから戻ってきました。
先輩に野良ションみられたって、がっくし落ち込んでいます。
先輩というのは演劇部の部長さんで、お姉ちゃんが恋してる最中の人です。
顔は普通ですがおそろしく頭がよく、底知れないほど人がわるい男です。
お姉ちゃんはメンクイで気が多いふりしてますが、ほんとうはやたらシニカルでさめた女でした。
そんなお姉ちゃんの恋する姿なんて、わたしはみたくありませんでした。
お姉ちゃんの話をききながら、わたしは嫉妬と憎悪でいっぱいでした。
彼がうちにきたことがあります。
お姉ちゃんがあんまり、わたしの悪口をいうので、興味をもったそうです。
人づきあい嫌いで、ひきこもっているわたしに、彼は声を掛けました
わたしの書いた駄文をみせてほしいといいました。
わたしの差し出したノートを丁寧に読み終えるといいました。
[昼子、君の妹はすばらしい」
わたしは不覚にもまっ赤になり、お姉ちゃんはまっ青になりました。
にぎやかなお姉ちゃんがだまりこみ、怨みのこもった眼差しで睨みます。
こいつ! お姉ちゃんの気持ちをしってる。
しってて中途はんぱな状態で、お姉ちゃんをもてあそんでいる。
お姉ちゃんがほかの男の子達にしてきたように――。
お姉ちゃんがこんな奴を好きだなんて許せない。
こんな奴がお姉ちゃんをないがしろにするなんて許さない。
わたしは彼を睨みつけた。
彼はニヤリと笑った。
「おや、わかったのかい」
という共犯者の笑みだった。
わたしは想う。
わたしがこいつを奪ったら、お姉ちゃんはどうするか。
それはありえない、わたしは美しくない。
でも、わたしには才能がある。
こいつにとってたぶん、他のいっさいはどうでもいい――。
お姉ちゃんは体温計をくわえながら、ストーブの前でふるえています。
熱を測るときくわえるのは、お姉ちゃんの癖です。
「こーするほうが、本格的なんだよ」
「いいんですかね? 水銀は有毒ですよ」
「えっ?!」
「ま、いいんでしょう。かみ砕きでもしなきゃ」
「いま、パリンて。パリンて」
「キャンディーじゃないですよ」
「うわ~ん! 昼子 、死んじゃう。死んじゃう~っ」
なんだか背中がゾクゾクします
これはなんかの予感でしょうか
お鼻がキュンキュン切ないです
これはもしかして恋でしょうか
ひとすじたれた鼻水は
あなたへの想いでしょうか