夏祭りと盆踊り
神社の石段はそんなに急じゃないけど、登るのが楽なわけじゃない。
息を切らしながらみあげると、紺絣の浴衣を着た中背で細身の後ろ姿があった。
向こうも気づいたらしくふり返る。あたしの胸はドキンとした。
「やあ、昼子くんじゃないか」
気さくな口調だけれど、銀縁の眼鏡の奥にひんやりと冷めた何かを隠している。
「せ、先輩」
優しいけど冷たい。まるで氷菓子のようだ。
見かけはありきたりだけど、才能はありあまりすぎた人だ。
だから、惹かれたのだろうか。見てくれだけで空っぽのあたしを満たしてくれる気がして――。
「奇遇だね。付き合いたまえ」
「ツ、ツキアウ……」
「われわれは演劇部だ。盆踊りに参加しよう」
ソ、ソッチデスカ。
「先輩、、盆踊りはこっちですよ」
あさっての方にいこうとしている。
「うっ、そうか。これはうっかりしていた」
彼は頭を掻いて笑う。
「しかし、お盆は仏教だろう。神社で盆踊りとはこれいかに」
石段は途中で踊り場のように中休みになっている。
「日本は神仏混交なのです。いい加減でいーのです」
左手に広い場所があって櫓が組まれていた。
「ふむ、君のいうとおりかもしれない」
上にある境内までくると静かだ。
町を見下ろす柵の手前で線香花火をする。
「昼子くん、きれいだね」
「花火が、でしょ」
「花火をしている君がだよ。浴衣にはエロスを感じる」
「先輩のスケコマシ」
「そうなのだ。いかにもどうということのないフツメンでありながら、どれだけの女の子をたらしてきたことか」
「それ、自分でいいますか」
「しかしながら、長続きしないのだよ。大抵、向こうのほうからあいそをつかす」
「先輩は性格がわるいですから」
「わっははは。ばれたかね、明智くん」
二十面相ですか。
「けど、先輩。好きです……」
「付き合ってみるかね」
「盆踊りですか」
「い、いや、そうじゃなく」
めずらしく先輩が狼狽えた。
「花火、終わっちゃいましたね。わたし達もこんなふうに、すぐに、終わっちゃいますか」
「さあ、それはわからない。ただ、僕はすべてに終わりをみ、それすらも美しいと感じる。ま、性格破綻者だよ」
「性格破綻者なら、うちにもいますよ」
「君の妹は怒るだろうね、僕を嫌ってるから。歯ぎしりして悔しがるのが、目にみえるようだよ」
「先輩、やっぱり性格わるいです」