彼女
家に帰ろうと道を歩いていると、僕のスマホが鳴り出した。僕に連絡を取るような、間柄の人って居たっけ?自虐的かもしれないけれど、悲しいくらいにその程度の交友関係なんだ。
スマホを開いて(僕はスマホにロックをしない主義だ。見られても困るものなどないし、それに何より一々ロックを解除するのが面倒だからだ)、誰からか確認する。
『今から家行っていい?』
それだけのメールだった。
最近の若者が使うような緑のあのアプリは入れていない。だからメールで正解だ。
僕はそのメールに素早く返信した。
『いいよ。気を付けておいでね』
たった一文だけど、それで充分だと思う。
メールの相手は、ふうちゃんと言う女の子だ。自分で言うと自慢みたいで恥ずかしいのだけど、彼女ってやつだ。
これも交友関係の内に入るのかな?
だとしたら、僕の交友関係はほんの少しだけ(厳密に言うと1人だけ)広がった。
ところでだけど、もう終わった話だけど、聞いてくれるかい?C君のことさ。
あの後の事後処理についてちょっとばかり話しておこう。君にもいつか、自分でやらなければいけない日が来るかもしれないからね。もっとも、そんな日は来ないほうがいいのだけど。
ざっくり説明すると、まず警察に連絡。
念のために、匿名で。まあ、すぐバレるけど。
そして、C君が九十九だと言うことの証明。これは軽くで大丈夫。警察もそれで多分納得するから。
それから、やったのは誰かは言わないこと。自分でやっても、絶対に知らないで通すこと。
別に捕まる訳じゃあないけど、今後も普通に生活したいなら、出来る限りやったのは自分だと知られないことが大切。
ん?あぁ、お金のことなら心配いらない。
前の時もそうだったけど、いつの間にか僕の口座にお金が振り込まれてたんだ。
つまり、僕の犯行だということはバレバレだったということなんだろう。その時も知らないで通したけど、家に帰ってお金を卸そうと口座を見たら、本当にいつの間にかお金が増えてたんだ。
きっと今回もそうなるんだと、僕は思ってるよ。
と、まあ今回はこれくらいでいいだろう。
丁度良く、家についたわけだし。
これからふうちゃんが来るから君は帰って。
大丈夫、大丈夫。
お金なら君の口座に振り込んどくからさ。
これでまあ一件落着ってことで、また今度ご飯でも奢るよ。
うん。ならまた学校で。
*************
ガチャ
僕の家の扉が開く音がした。
きっとふうちゃんだろう。
そう思っているときに甘ったるいけど、どうも憎めない声がした。
「僕君、おかえり~。ふうちゃんのお出ましだ!」
「はいはい、そんなパタパタしないで。ホコリが舞うから」
「僕君また主婦みたいなこと言っちゃって~」
このこの~、って指で僕の脇腹をつついてくる。
可愛すぎか。僕は思った。
*************
「僕君は今日何してたの?」
「なんでそんな事聞くんだい?」
質問に質問で返すのは良くない気がしたけれど、答えにくい内容だったので濁そうとした。
「ん~、なんかいつもより元気無さそうだったから」
僕の些細な変化に気付いてくれるのは大変嬉しいのだけど、この時ばっかりは、嬉しいとは思えなかった。
「ちょっと最近クラスで色々あってね…」
嘘は吐いていない。
「九十九出たんだって?僕君のクラスも大変だな~、よし!このふうちゃんに任せなさい!」
胸を張り、拳を胸に当てた。
「この私の胸で、パフパフを…」
軽く小突いた。
「痛い!僕君痛い!ふうちゃんの心はズタズタだよ!折角慰めてあげようと思ったのに~」
やめなさい。女の子がはしたない。
*************
「で、どうなったの?九十九は」
ふうちゃんが真面目トーンで聞いてきた。
だから僕も真面目に返す。
「やっつけたよ」
殺した、とは言わない。
誰が、とも言わない。
けれど、ふうちゃんは全てを察したようで。
「そっか…可哀想だね…」
きっと殺された九十九に対して言った言葉だったのだろうけど、それだけではない気もした。
「私は、僕君にそんなことやって欲しくないな。辛いだけだもん」
僕は答える。
「でも誰かがやらなきゃ、また誰かが犠牲になるんだよ?僕はそんなの耐えられない。ふうちゃんが犠牲になんかなったら、僕は後悔するよ。やっぱりあの時、九十九をやっつければ良かったって」
殺す、とはやっぱり言わない。言えない。
ふうちゃんには綺麗でいて欲しいから。
「じゃあさ」
ふうちゃんが口を開いた。
「私が九十九になったらどうする?私をやっつけてくれる?」
即答した。
「やっつけない。僕は離れない。そうなったら、僕が一番最初に犠牲になる」
「ダメじゃん」
フフッ。ふうちゃんが少し笑った。寂しげで悲しげだったけれど、僕はそれに気付かない振りをした。
「逆にさ、もし僕が九十九になったらどうする?」
「決まってるよ、僕君と心中する」
あ、僕のことはやっつけるんだね。
それが可笑しくて僕も笑った。
きっと僕も、寂しげで悲しげな笑みを浮かべていたのだと、悟る。
「僕君の気持ちは嬉しいけど、私が九十九になったらやっぱり僕君に殺して欲しいな」
殺す、なんて直接的な言葉をもしかしたら、ふうちゃんの口から初めて聞いたかもしれない。
「じゃあ、こうしよう」
僕は1つの提案をする。
「どっちかが九十九になったら、二人で心中しよう」
それはある意味、プロポーズよりも芝居がかっていて。告白するときよりも緊張した。
ふうちゃんは答える。
「乗った!」
この物語でちゃんと名前が決まっている人は3人います。やっと3人とも出て来ました。
ふうちゃん、主人公、あと1人は出て来ているけど、直接的には出ていないかな?
どっちなんだい!そんなツッコミが聞こえてきそうです。
僕が聞きたい!