終演
生きるということを、今一度しっかりと見直してほしい。ただの願望でしかなく、別段僕の言うとおりにしなくても何ら問題はないけれど、問いたい。
生きるとは、なんだろうか?
意味を君や、その他大勢の皆に問う。
誰かの為に生きる、それも生きる理由の一つだと思うよ、今になって。本当にそう思うよ。
自分の為に生きる、大抵はそうであるよね。僕もそうだし。一番生きることに貪欲になれる気がする。
だけれど、忘れないでほしい。
それらはいっさいがっさい依存しているということを。誰かに、自分に、そしてプライドとか愛とか。そんなもんに死ぬほど依存して生きている。
いやいや、さっき言ったものを否定したり悪いと言ったわけではないから、そこら辺勘違いしないでね。
依存していることを、忘れずに生きてほしいだけさ。
そして、そしてだ。
何より奪うことに依存している。
己以外の全てを。
生きるために、命を奪う。
食べる、住む、娯楽、憂さ晴らし、何となく、気付かず無意識に。
奪う、殺す。
他を蹴落としてそれを良しとする理由を、建前を、生きるために仕方なく。
人間とやらは何よりも、殺すことで生きる。
さて、少しばかり話題を変えよう。
九十九の話でもしようか。
忌々しい九十九の話をさ。
あいつらは生きているだけで、周りを死なせる。とどのつまり悪意なき殺人ってやつだ。悪意がないから許される、なんてことは僕らの世界では有り得なかった。
だから悪意なき殺人犯である九十九を殺したところで、罪に問われることはなかった。
では、何故?
そういった話が今日はしたい。
何故九十九は周りを殺すのか。
答えは至って簡単だ。
君は分かるかい?
……うん、大体あってる。
理由なんてないんだ。九十九が周りを殺す理由なんて、一つもないんだよ。
無理矢理こじつけるなら、生きているから。
生きるために。
自分の意識とはかけ離れて、無関係に近付いた全てを巻き込んで殺す。
生きたいから。
食べるためじゃない、住むためじゃない、娯楽でもなく、勿論だけど憂さ晴らしでもない。
人間とは違う。
九十九には明確な理由はない。
唯一、人間と同じことがある。
さぁ、また問題です。
それはなんでしょう?君にも分かるだろ?
……え?分からない?
なんでさ……こんなに懇切丁寧に解説してたのに……まぁいいや、どうでもいいや。
それはね、命を奪うことさ。
九十九も、何より殺すことで生きる。
理由は全く違うものの結論は完全一致だ。
結局周りを殺すのだ。
人間も、九十九も、僕も、君もね。
そう考えると、あんまり大差ないね。
人間と九十九はさ。
どっちも自分勝手で、自己中心的で。
ほぼ同じじゃないか。
ということはさ……
ということは、だよ?
……あれ?僕まだなにも言ってないのに、こういう時だけ察しがいいよね、君は。それとも思考が似てきたのかな?僕と君の思考回路がさ。……なんか嫌だなぁ。
さておき。
九十九を殺そうが、人間を殺そうが、変わらないってことだよね?
そうだ、そうだよ。結局殺せばいいじゃん。一緒じゃん。結末は変わらないよね。
どっちにせよ周りを巻き込んで殺しちゃんうだから。無自覚か、自覚があるかの違いしかない。むしろ自覚がある分、人間のほうが質が悪いと思わない?
殺せばいいんだ。
壊せばいいんだ。
奪えばいいんだ。
あは、あはは、あはははっ
笑っちゃうよ。
九十九を殺して、ふうちゃんを殺されて、九十九を殺し尽くして、次は人間か。
それはいささか僕らしいね、全く。
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刺す時はそうでもないけれど、刺して刺し尽くして抜くときに、ちょっとばかり問題がある。
心臓に近ければ近いほど、抜くとき肋骨が邪魔なのか思いの外、力がいる。
力強く抜けば、今度は血が吹き出る。
きっと血管を切ってしまったのだろう。
可哀想に。
痛かっただろうに。
ごめんね。
苦しみのないよう出来るだけ即死させるようにしてるんだけど、たまにこうやって骨に引っかかったり、血管を切ってしまったりする。
骨に当たると、音が凄い。
ボギンッ!
みたいな音がする。聞いてるこっちが痛いってのなんのってさ。
血管を切ると血がピュウピュウ出るもんだから、罪悪感が湧き出てくる。だから謝ってるじゃん、ごめんってば。
もっとあれなのかな?
喉とかの方がいいのかな?
次試してみようか。
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喉もあんまり変わらないね。
血に濡れることに変わりはないよ。
けれども骨がない分、幾分か刺しやすい。先端から根元まで、あまり力をかけずともスルリと入り込む。
うん、これだとあんまり罪悪感は湧かないね。
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もっぱらの悩みとしては、断末魔がうるさい。喉元を突き刺す訳だから、声ではないにしても、ヒューヒューと空気を吸う音が耳障りだね。
ハンカチでも噛ませればいいのかな?
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……あのさ……一ついい?
薄々気付いてたことがあるんだ。
君も?
なぁんだ、やっぱり気付いてた?
むしろ気付くなって方が無理があるんじゃないかな、ってくらいだよね。
いやいや本当自分でも悲しい事実だよ。……でも認めないわけにはいかないからね。
認めないことは、僕らしくない。
認めないことは、狂気らしからぬよ。
命を奪う。
殺す。
壊す。
全部僕じゃん。
全部全部僕じゃないか。
人間として周りを殺す。
憎いから、憂さ晴らしに、生きるために、僕が僕であるために。
でも半分くらい無意識でもある。
九十九として?
僕が?
そうか、だから……僕はきっと狂気を抱えているんだ。なるほどなるほど、納得だね。やっと答えが見つかった気がするよ。
九十九とは?
簡単だった。
みんな九十九。
人間として奪って、殺して、壊して。
いつかそれが当たり前になる。
当たり前になって作業へと成り変わる。
そして作業が無意識に成り果てるんだ。
九十九は人間。
人間は九十九。
なんだこれ……
駄作じゃん。
ミステリーの要素があるかと思えば、言葉遊びに踊らされて。……九十九に踊らされて。最後にどんでん返しが待っているかと思えば、呆気のないくだらない終末。終演。
けれども、どんなに駄作でも終わらさなければいけない。僕の物語は、僕の手で。
だがしかーし!
それでは癪に障る。
最期の最期で、僕は悪あがきがしたいわけさ。踊らされた分、やり返したいわけさ。僕が主人公の物語だとするならさ、筆者がいて読者がいるわけじゃん?
言わば僕の人生を、手のひらで弄んだ。
ふざけるなよ、って言ってやりたいね。出来れば筆者にさ。いや僕の物語を書くなら、もっと幸せなハーレム的なの書けよ。
そして時には涙し、時には笑えて、時には熱い、そんな感じの書けよ。
だからやり返すのさ。
仕返しするのさ。
え?
何をするかって?
鈍いなぁ……君は。
殺すんだよ。
僕を。
君の手で。
「だってそうすればこの物語は続かないじゃん。いわゆるデッドエンドってやつだよ。筆者が発狂するだろうね。だって登場人物……ましてや主人公が意図してない場所で勝手に死ぬんだもん。物語はそこでしゅーりょー、さ」
そう言って僕君が手渡してきたナイフは、驚くほど重く感じた。
「どうしたのさ、ほら君の手で殺っちゃって。僕を。引いては終わらせちゃって、こんな茶番」
この時が人生で一番手が震えたってことは、墓に入るまで飲み込んでおくことにした。
どうせ前に突っ立っている僕君からは、丸見えなのだろうが俺の面子を立ててくれているらしい……
「はーやーくー、君を見込んでお願いしてるんだからー、とっととやろうぜ」
手をおおっぴろげにして体で大の字を作った僕君は、俺が見てきた僕君の中で最も晴れやかな笑顔を浮かべていた。
だから決心した。
僕君を殺そう。
終わらそう。
ナイフをおもむろに僕君の胸へと降り下ろした。
嫌な感覚がナイフを通じて、指へと、腕へと、肩へと、心臓へと伝わった。
「散々、人とか九十九にナイフを突き立ててきたけど、突き立てられるのは……なるほどそんなに悪い気分じゃない」
僕君はどこまでも狂気じみているのだと、俺は思った。やはり俺と僕君は、心の奥底から身体の至るところまで狂気じみているという一点に置いては一致している。
「あぁ、痛いなぁ…………ふうちゃんに会えるかな……?天国とか信じてないけど、筆者さんに……お願い。次、僕……が出る物語でもふうちゃんと……さ、一緒にいさせて……バッドエンドでも何でもいいから……」
もう僕君の眼は焦点が合っておらず、目の前にいる俺はきっと見えていない。
見えているのは、彼女だけだろう。
僕君の最期はやはり僕君らしいのだった
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「っていう劇を文化祭でやりたいと思っています。少なくとも俺は。一見、ミステリーでいてホラーが混ざり、サイコパスへと移り変わり、言葉遊びをやるだけやって、どんでん返しも何もない。笑えるほど不気味で、話題に出すほど面白いわけじゃない。ただただ俺の知る限り、これが一番怖い話だと思うぜ。反対、もしくは他の案がある人、挙手をお願いします」
……返事がない。
しばらく返事を待ってから、台本を閉じ眼を周りへ向ける。
ああ、そうか。すっかり失念していた。
特に最近この風景が当たり前すぎて、無意識に無視していた。物が散乱しているこの風景は慣れてしまって、まるで最初からこうであったかのように。
散らかっていて、最早なにが落ちているのかすら分からない。原型を留めていないのがほとんどだからだ。
……もうこのクラス、俺以外いないんだったわ。
全員殺した。
殺し尽くした。
……気持ちかったなぁ……特に僕君を殺すときは嬉しさが爆発して、手の震えが止まらなかったくらいだからな。
手持ちぶさたになってしまったので、とりあえず床に落ちていた、少し太い木の枝みたいな何かを拾い上げた。
手触りは柔らかく、だが濡れていたのか湿っている。ちょっと黒ずんだ部分は、鉄の匂いが漂う。
その木の枝のような何かは、よく見れば靴を履いていたので、これは誰かの足だったものだと確信した。
「うわ、きったね」
思わず声に出たがそれを聞く者は誰もいない
俺のクラスメイトが死に尽くした
何を信じて、何を信じないか。それを決めるのは自分自身です。
また人生における全てのことは自分の責任です。何一つとして、人の責任になることはありません。何故なら、自分で「こうしたい」「あれをしたい」そう思ったからこそ、人との繋がりが出てくるものだからです。
例え人のせいであったとしても、それは間接的に自分が関わっていないはずがないのです。
私はそう思います。あくまで個人の意見ですけどね
そんなテーマで始めた物語もここで完結となります。
こんなにも更新が遅かったにも関わらず、読んでいただけたこと、本当に嬉しく思います。
よかったら感想などもお待ちしてますよ!!!
ダメ出しでも!!!




