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回収しきれないほどに

 好きになった理由なんて今更覚えていない。一目惚れだったような気もするし、段々と好きになった気もする。

 ただ一つ確信していることとしては、ふうちゃんがこの上なく好きだってことくらいだ。それだけで十分なような気がするけれど、それだけでは不十分なことだってある。


 いくら好きだからって、一日中一緒に居るわけじゃない。毎日一緒に居られるわけじゃないのだ。


 だから、である。

 だから僕が最初の犠牲者になれなかった。


 できれば僕が一番最初に殺されたかった。ふうちゃんが九十九だったのなら、最初に死ぬのは僕でありたかった。


 こぼれだす願いとしては、些細なこと。


 ふうちゃんと幸せになりたかった。


 それだけ。


 願いとは相反して不幸が降りかかる。

 どれだけ振り払おうとしても、僕にまとわりついて僕の首元から離れようとしない。


 蜘蛛の糸はもう掴めないところにあるし、結局掴んで手に入れた先は地獄なのだろう。


 カンダタの気持ちを理解した気になった僕から滲み出た笑顔は、自分でも分かるくらいに皮肉に満ち溢れている。


 蜘蛛の糸は実のところ、諦めさせるための首吊り用のロープみたいな役割にすら思える。


 それでも、だ。


 それでも諦めない。

 諦めちゃあいけないんだ。


 昔読んだ漫画でも言っていた。


「諦めたらそこで試合終了ですよ」


 その通りだろ。

 諦めていいわけがないだろう。


 諦めて言い訳がないだろう。


 好きな子を諦める言い訳がないだろう。


 九十九だから? 一緒に居たら死ぬから? だからどうした。ロマンチックだろう。それくらいあった方が、物語性が出てくるだろう。


 僕がこの物語の続きを紡ぐならどうするのだろう?


 逃げよう、二人で。

 死ぬまで逃げよう。


 全てから。


 僕がふうちゃんに殺されるまで。


 一生一緒に居よう。


 一世一代のプロポーズだ。


 僕が死んだらふうちゃんが独りになってしまうけれど、許してほしい。(むし)ろ僕が死んでしまって哀しんでくれるふうちゃんが見たいな。


 哀しんでくれるのかな?


「僕君が死んだら後を追うぜ!」


 なんで言い出しそうだ。

 ふうちゃんはああ見えて、愛が重い。

 重い分、想いが込もっていると思いたいものだ。なんて、面白くもない言葉遊びかな。


 そうだ。僕はまだこの物語を紡ぐほどの語彙力がない。だからちゃんと生きてこの物語を紡げるようにしたい。拙いなりに頑張って紡ぐけれど、それでも物語を楽しんでもらいたいから。


 生きて、生きて、生きて、生きなければ。


 ふうちゃんと。


 楽しい物語をふうちゃんと。


 悲しい物語をふうちゃんと。



 ねぇ、好きだよ。


 だからだよ?


「僕はふうちゃんを殺せないんだ」


*****************************


 伝えると呆気ないほど簡単に、僕の言葉を受け入れてくれた。


 ふうちゃんが嬉しそうに泣いているのか、悲しそうに笑っているのかは、君のご想像にお任せするよ。


 答えは僕も分かんないからさ。


******************************


 時間というものほど残酷なものは、この世に無いと思う。どれだけ願っても、どれだけ願っていなくても不平等なほどに平等にそれは流れていく。


 学校の時間が今は一番嫌いだ。

 ふうちゃんがいないから。


 嫌いな時間ほど長く感じる。今日の授業も長いものだった。二次関数なんて勉強したって意味は僕にないのだから。


 どうせすぐ死ぬ。


 ふうちゃんと一緒に居るから。


 九十九と一緒に居るから。

 ちょっと前の僕ならこういう風に言っていたのだろうと思うと、少しばかり成長している気がしてなんでか笑ってしまった。微笑んでしまった。


 確かに九十九は九十九だけれど、元はちゃんと人だったのだ。弟も、お父さんもお母さんも。C君もD君も。人間だ。人であり、九十九だったのだ。気付くのが随分と遅かったけれど、気付けただけまだ良かった。


 そんな間違いも、少しばかりの成長も、何もかも全てが(いとお)しい。


 それら全てが、僕が生きた証で。

 生きた実感だ。


 そして幸福だ。


 これから死に往く僕。


 相応しくない鼻唄を歌いながら、ふうちゃんの家へと。死ぬ寸前に生きている実感を感じるのも、いささか狂気的であると言えばなるほど、僕らしい。


 何処までいっても、何処から来ても、僕は僕であり狂気は狂気のまま終わっていく。


 その僕であり狂気を終わらせてくれるのが、彼女のふうちゃんというのが、また僕らしい狂気的な(おわ)りである。


 終わらせてくれる元へと、鼻唄を。

 終わらせてくれる元へと、愛を。


 合鍵を使って。


「ただいま」


 ここはふうちゃんの家だけれど、なんとなく言ってみた。お帰りと返して欲しくて。


 ところが返事が来ない。


 僕の方が先に着いたかな?

 帰宅部だから。


 仕方ないからリビングで待とう。

 今日は僕がご飯を作ってみよう。


 きっと不味いけど、不味いねって笑いあえる。そしてふうちゃんに教えてもらいながら、また作るのだ。次は普通だね、とか。まだ食べれるね、とか。


 なんて幸せなのだろうか。



 ガチャ、と。



 リビングに入った途端、異変に気付く。


 気付く、というよりは異変があった。


 天井から何かがぶら下がっている。

 人形のような何かが。


 ギシギシと人形のような何かを吊っているロープが奏でる不協和音以外は、聞こえない。


 強いて言うなら、僕の荒い息づかい。

 過呼吸気味の。


 何故なら知っているから。



 その人形みたいな何かの正体を。



 ……死体。


 死体だ。



 誰の?



 ここは誰の家だ?


 知ってるだろ?



 うるさい、知りたくない。


 でも知ってるだろ?



 信じない。


 それは信じないんじゃなくて逃避だろ。

 ちゃんと見ろ。


 そこには。

 そのロープには。



 ふうちゃんがぶら下がっていた。

……続くッ!!

よろしくお願いします!

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