回収した旗は
「僕君」
「うん?」
「痛い」
「うん」
「僕君」
「うん?」
「離して」
「うん」
「僕君」
「うん?」
「離してってば」
「うん」
抱き締めた身体は華奢で、力を入れすぎると折れそうなほど。けれど僕は力を緩めない。
「僕君」
「やだ、離さない」
「分かったから。話すから。だから、ね?」
思えば付き合ってから振り回されていた僕だったけれど、この時だけは僕が振り回していて、少し嬉しく感じた。
ポツポツと。
涙ぐんだふうちゃんの声がする。
きっと僕がふうちゃんの家に駆けつけるまでずっと泣いていたのだろう。
「私のクラスでさ」
「うん」
「九十九が出ちゃったっぽいんだよねぇ」
平静を取り繕おうとしているように聞こえたのは、気のせいではないのだろうけれど気付いていないことにした。
「それで?」
言ってしまえばこのご時世、九十九と会わない人生の方が珍しいのだ。その程度でふうちゃんが僕に助けを求めるはずがない。ふうちゃんは僕が九十九を殺すのを嫌がっているのだから。
「でさ、最初に犠牲になっちゃったのが」
「うん」
「私の親友なんだよね」
大体分かった。分かりたくなかった事実が見えてきた。なるほど神様はどうやら僕が大嫌いらしい。
ままならないものだね。
僕の人生。
「私がさ」
「うん」
「九十九かもしれないって言ったら僕君は、笑ってくれる?」
答えの代わりに、精一杯ふうちゃんを抱き締めた。さっきよりも強く。強く、だ。
「僕君」
「うん」
「だから痛いってば」
さっきから同じ事を言わせている気がして、笑ってしまったのだ。
「僕君」
「うん?」
「泣いてる?」
笑っていたはずなのに。
止まらない。
家族が九十九に変わって。家族が家族を殺して。家族を僕が殺して。
すべて失った。
やっと手に入れた。
ふうちゃんや、君みたいな繋がりを。
また壊せって?
冗談にすらならない。
だから止まらない。
何が?
簡単だ。
「僕君泣きすぎだって、私が泣きたいわ!」
僕がいつもふうちゃんにするみたいに、ふうちゃんに小突かれた。
それが堪らなく嬉しくて、哀しかった。
それはそうだ。泣きたいのはふうちゃんだ。親友が死んだ上に、犯人が無自覚とは言え自分なのかもしれないのだから。
「九十九かもしれないだけで、九十九じゃないかもしれないじゃん。ふうちゃんは。見つけようよ、僕らで。ふうちゃんが九十九じゃない証拠を」
藁にもすがる思いとはこのことか、なんて考えつつ言ったセリフは本音だ。
ふうちゃんは九十九じゃない。
だから僕はふうちゃんを殺さない。
殺せないんじゃない。
殺さないんだ。
「その言葉には賛成だけど、どうやって私が九十九じゃないって証明するの?」
「簡単だよ、九十九を見つければいいんだ。ふうちゃんのクラスから、新しい真犯人ならぬ真九十九を」
ふうちゃんが平静を取り繕おうとしてくれているのだ、僕だって平静を取り繕おう。取り戻そう、いつもの調子とやらを。
「心当たりはない?他に、ふうちゃん以外に九十九かもしれない人に」
「う~ん……取り敢えず明日から探してみる!」
勢いのあるいい返事に頭を撫でて返した。
それから数日後僕は死にたくなる。
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「やだっ……もうやだ……」
いない。九十九らしき人が。
いない。クラスから人が消えていく。
僕君はこんな思いを繰り返してきたのだろうか?誰も信じられない。皆信じられない。皆死んでいく。
いつか…私も…?
いや、違うか。
私が殺しているのだから。
私は誰だ?
私はちゃんとふうちゃんか?
私はちゃんと僕君の彼女か?
それとも九十九なの?
死にたい、なんて人生で初めて思った。
死にたい、なんて言ったら僕君は怒ってくれるかな?
あの時私たちは約束した。
どっちかが九十九になったら心中しようって。あぁ、僕君には死んでほしくないな。
そうだ、僕君に殺してもらおう。
僕君は九十九を心底嫌っているから。
きっと今の私なら殺してくれるはずだ。
私がそんなことを思っている女の子だって知ったら、僕君に嫌われるかな?
……そっかもう嫌われた方が殺されやすいから、それでいいんだ。
次僕君に会ったら、全部話そう。
多分私が九十九だってことも。
殺してほしいってことも。
僕君のことが本当に大好きだってことも。
ねぇ、好きだよ。
だからかな?
「僕君に殺してほしいんだ」
そろそろ完結かな?
そんな25話目でした。
次回もよろしくお願いします!




