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笑顔

 まず血圧を計られる。熱を測る。そしてまたつまらないカウンセリングが始まる。

 僕は精神が病んでいる訳でもないのに、大人たちは何故か僕を病人扱いしたがる。うんざりするほど色々なことを聞かれて、1日が終わりまた始まる。


「僕君、君の名前は?」

 何回目の質問だろう。毎日、毎日その質問を受けた。だから、毎日同じ答えを返す。

「僕は僕です」

「僕君は何か先生に聞きたいこととかあるかな?良かったら、何でも聞くよ?」

「僕はいつ家に帰れるんですか?」

 黙っていても何かが解決するわけでもないので、率直な疑問だけ尋ねておいた。なんだかんだ家が一番落ち着くからね。

「僕君に何も異常が無いことを確認できたら、すぐだよ。だから先生の質問に答えてくれるかな?」

「僕に異常なところなんてどこもないですよ。強いて言うなら、顔かな。もっとイケメンに産まれたかったです」


 ちなみにこのやり取りも、もう三回目だ。

 精神に異常があるとされて、僕は二週間ほどこの病院に入院している。入院と言えば聞こえはいいんだろうけれど、実際はほぼ軟禁とか監禁とかそんな感じ。

 だって、カウンセリングが終わったら部屋に帰されて鍵をかけられるんだ。外にはこの病院に来てから一度も出ていない。

 僕は正常なのに。


 ああ、でもそう言えば帰っても誰もいないんだった。じゃあ別に帰れなくてもいっか。

 あれ?こういうこと前も考えていたような気がするな。ま、それこそどうでもいいか。

 結局は、ここから出たいだけなのだから。


 だから僕は一つの名案を思い付いた。


 そうだ、ここから逃げよう。


 逃走方法を考えながら歯磨きをして鏡を見たとき、僕の顔は自分でも驚くほど不気味に笑っていた。


 今思うと丁度、君の笑顔に似ているような気がするよ。不敵っていうか、不気味っていうか、無気味みたいな笑顔。自分を嘲笑っているみたいな、自嘲気味なやつさ。

 いいや、取り敢えず戻すよ。


 その日は遠足を楽しみにする子供のように、なかなか寝付けなかった。

 明日、僕は自由になるのだ、そう思うと顔が綻ぶ。

 やはり、遠足を楽しみにする子供のように、いつの間にか僕はぐっすりと夢の中へとダイブしていた。

 時計がないので、体内時計で目覚ましをかけた。器用なことに起きようと思えば、僕の身体は勝手に起きるようになっているんだ。学校へ行くために目覚ましをかけても、その目覚ましがけたたましく鳴る五分ほど前に目を覚ます、みたいなあれさ。

 僕は寝起きがあり得ないくらいに悪かったからそのまま二度寝をして、よくお母さんに怒られていたのだけどね。


 その点、弟は真逆と言ってもいい。

 目覚ましがけたたましく鳴ってもびくともしない。それどころか、寝たまま目覚ましを止めることが出来る。

 けれど、お母さんに起こされた途端パッと目が覚めるのだから不思議なものだよ。羨ましい限りだ。


 さてさて、僕の体内時計では七時。

 一分一秒のずれもなく、目が開いた。体内時計だから何とでも言えるのだけど、そこはご愛嬌ってやつだ。

 この頃の僕は、ご愛嬌なんて難しい言葉を知っていたのかは、はてさて知るよしもない。


 朝ご飯が部屋に運ばれてきた。不味いわけでも美味しいわけでもないご飯だった。なのにその朝ご飯は格別美味しいと思うことが出来た。

 きっとそれがここで食べる最後のご飯になると思っていたからだろう。

 …どうでもいいだろうけど、メニューは鮭の塩焼きと、さつまいもの味噌汁、ほうれん草のお浸し、それとお決まりの白ご飯だった。


 いつものように、食べ終わった頃合いを見計らってドアがノックされ、返事をする前に開かれる。

 返事をする前に開くのは失礼なのだと知ったのは、ここを出てしばらくした後である。この時はそれが普通だと思っていたのは僕と君だけの秘密だぞ?


「僕君、お話のお時間だよ~」

 看護士が優しい口調で語りかける。お話の時間っていうのは言うまでもなく、カウンセリングのことである。しかもカウンセリングは三時間もやるのだ。毎日懲りもせずに。正直やりたくない。

「今行きます」

 嫌な気持ちを押し殺しながら返事をして、子供らしさを意識しながらトテトテと小走りに看護士に近付いた。そうすると看護士は手を伸ばしてこちらを見ながら笑顔を作った。

 作った笑顔に、僕も笑顔を作って返した。

 そして、伸ばされた手を握った。ビクッと看護士が震えたのを感じ取って、やはり僕は気付かない振りをしながら考える。

 なんで、僕のことを怖がっているのに毎回手を繋ごうとするのだろう、と。僕と手を繋ぐことまで仕事の内容に入っているのかな?


 大変だな、看護士も。

 他人事のように思った。


 カウンセリングをするあの先生のところへ連れていかれた。


 どうせなら、美人な先生が良かったな。

 ちょ、引かないで…冗談だから!ほんのちょっとした冗談だから!君に引かれたら僕はこの話を誰にしているのか分からなくなってしまうじゃあないか!


 コホン、と。咳払いを一つ。


「おはよう、僕君。昨日はよく眠れたかな?」

「眠れました、眠れました。もうばっちしです。だから帰っていいですか?」

「さて、僕君」

 僕の返答を完全に無視して、先生はカウンセリングを始めるつもりだ。それってカウンセリングの先生としてどうなのかな?って僕が心配する必要もないか。


「僕君の名前は何かな?」

 いつも通り。

「僕は僕です」

 いつも通りだ。


 そこから先はカットするね。

 ハッキリ言ってしまうと、あんまり覚えていないからさ。カウンセリングが終わった頃まで丸々カットしちゃおう。

分かりにくく書いてる気がします。

それでも読んで頂いてありがとうございます…

精一杯精進します。

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