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家族

「自分の名前は分かるかい?」

 頷く。

「言ってごらん?」

「僕は僕です」


 何回かこのやり取りを繰り返したら、医者も僕の名前を聞き出すのを諦めた。どうせ最初っから知ってくる癖に。


「じゃあ僕君、君は今何歳になるのかな?」

「9歳かな?10歳かな?8歳かな?7歳かな?11歳かな?12歳かな?6歳だっけ?なんでもいいや、僕は僕です」

 とぼけるのは、昔っから得意だったようだ。この精神科に連れてこられた理由も、こんなカウンセリングじみたことを受けている理由もなんとなく悟ってはいた。


「僕君の好きなことは何かな? 何でもいい、食べることでも、寝ることでも、運動でも、勉強でも。何でもいいんだ。」

「僕の好きなこと?」

「そう、君の好きなこと」

「じゃあ、何でもいいです。食べることでも、寝ることでも、運動でも、勉強でも。何でも好きで好きでたまりません」

 わざと、相手の神経を逆撫でするように、あの時の僕は意識して言ったように記憶している。

 けれど、今から考えれば全てがどうでも良くなっていたのだと、遅まきながら気付いた。僕もまだまだだね。


「先生もね、結婚してて僕君くらいの子供がいるんだけど、僕君の方が少し大人な気がするよ」

 僕は豚じゃないから、おだてられたって木には登らない。

「そうですか、それは嬉しいです」

 とだけ、答えておいた。


「そろそろ聞いてもいいかな?」

「はい、何でも。何でも答えます。僕は患者で、先生はお医者さんですから」


 何を聞かれるかは、まあ分かっていた。

 僕だってそこまで馬鹿じゃないし、僕が先生だったら同じ事を聞くのだろうからさ。


「僕君の家で何が起きたの?」

「何も。なあんにも起きてないです。むしろ寝てます。弟も寝ちゃったし、お父さんもお母さんも寝てます」

「僕君はどうして」

 そこで、先生は言葉を一度切った。


「どうして、お父さんとお母さんを刺したの?」


「どうしてって、当たり前じゃないですか。決まっているじゃあないですか。それとも僕が間違っているんですか? 九十九をやっつけるのは、人間の仕事じゃないですか。お父さんもお母さんも九十九だった。だから僕がやっつけた。何か問題でも?」


 早口でまくし立てた。僕が責められているみたいで、腹が立ったから、少し口調が荒くなっていたのにその時は、気付かない。


「僕君、落ち着いて聞いておくれ。僕君のお父さんもお母さんも九十九だった確証はなかった。それなのに僕君はどうして、九十九だったと言い切れるんだい?」

 確証、なんて言葉が小さな子供が分かるわけもないんだけど、先生もそれほど余裕がなかったって事だろうね。

 そしてそれに対する僕の答えはこうだ。


「弟を殺したから」


 その一言だけで充分だった。

 先生は絶句して、開いた口が塞がらないようだ。

 どうやら弟も僕に殺されたのだと、誤解していたらしい事に呆れた。どこまで子供の僕に罪を背負わす気なのだと。


 もう一度、言う。


「お父さんとお母さんが弟を殺したから。僕がお父さんとお母さんをやっつけた理由になる?」


「それは…本当なのかい?」

「本当ですよ、別に信じてくれなくてもいいけど」

 暗に、僕はお前ら医者なんかこれっぽっちも信頼していないということを含みながら、言った。


「それで、僕はどうなるんですか?罪に問われるんですか?少年保護法だっけ、それで名前は伏せてくれるんですか?僕が殺したのは九十九なのに?」


 医者は顔を伏せ、口を塞いだ。

 自分の保身しか考えていない大人なんか信じるものか。


 少ししたら、医者は僕の方に向き直って重苦しい口調で言葉を紡ぎだした。

「とりあえず、今日はここで寝なさい」

「そうさせてもらいます。帰る場所もなくしちゃったし。ああ、僕がなくしたのか。ま、どっちでもいいや」


 看護士に手を引かれて、僕の病室へと連れてこられた。心なしか、僕の手を引いていた看護士の手が震えていたのを気付かないふりをしながら。大方、僕が怖かったのだろう。恐れていたのだろうね。親殺しをした子供なのだから無理もない。


 ガチャン


 僕が部屋に入るなり、外側から鍵をかけられた。それこそ、僕を恐れての事だろう。人間は殺さないのに。


 生活する分には何不自由なく問題ないだろう。トイレも、冷蔵庫も、電子レンジも、食料も、冷凍食品も、テレビも、ゲーム機も、ランニングマシンも。何でもあった。

 何をするわけでも、する気が起きるわけもない。食欲も全くない。


 その日は別に何もせずに、ベッドに突っ伏してそのまま深い深い眠りについた。まるでもう起きてこないのではないだろうかと、錯覚するほど深く。

 夢を見た気もするけど、覚えていない。覚えていたところで、何かあったわけでもないけれどさ。


 目を覚まして、何時か確認しようとした。しようとしただけであって、結局は出来なかった。

 何故ならこの部屋には時計がなかったのだ。


 何でもあるわけじゃないんだ。


 そう思ったことを今でも確かに覚えている。

短いっっ!!

すいません、でも多分またすぐ投稿するので、何とぞ…

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