病院
病院の雰囲気はなんだか嫌いだ。
薬品の匂い、体調の悪そうな人達、これといって可愛くない看護士(ただの僕の偏見なので異論は受け付けない)、無愛想な医者。どこをとっても嫌いになる要素しかない。
そして僕は昔、病院で決定的な出来事が起こっているんだ。それは精神科での話で、この病院ではないけれど、僕としては病院ってだけで嫌な気分になる。
あ、そうだね。丁度いい機会だ。
その精神科の病院で起こった事件のことでも語ろうか。
1つだけ忠告しておくよ。楽しい話でないのは承知だろうけど、多分想像の何倍も楽しくない話だと思う。
それでも聞きたいなら話そうか。
君は、物怖じしないね。
好奇心旺盛なのは良いことだから、別に悪い意味で言った訳じゃないことを知ってほしい。
と言うより、僕は素直に君が羨ましい。
そうやってズカズカと人の心に土足で踏み込めるのがさ。
いやいや、これも悪い意味でないから。
それも1つの才能だと思うしね。
君にはそういう才能があったってことだ。僕にはない才能が。
まあ、それは僕にも言えたことなのかな?君の持っていない才能を僕が持っていることだってあるだろうから。
才能、なんて一口で言うけど。
どこからが才能で、どこからが努力なんだろうか?よくスポーツ選手や、テレビに出ている有名人を指して才能って言葉を使うけれど、本当にその人達は才能を持っているのかな?
その人達の中には努力で登り詰めた人だっているだろうに。
それを指して才能、才能って、少し違うと思う。あんたらはその人のなにを知っているのだろう?
努力をしているのを見てまだ、才能だとのたまうのなら、きっと世界に才能を持っていない人などいないし、差が出るわけもない。
おっとっと。…おやつじゃないよ。
話を逸らしてしまったね。
僕の悪い癖だ。
過去語りを始める前に、僕の怪我について一応、念のため、心配してくれてるであろう心優しい君に報告だ。
「やっぱり縫うんですか?」
「そりゃあ、こんな酷い怪我をしていたらね、縫うよ。それより、一体どうやってこんな怪我をしたんだい?診たところ刺し傷のようだけど。ナイフ、いや包丁か何かかな?」
さすが医者だけあって、鋭い。鋭すぎる。
でも僕が本当のことを言うわけもない。
天の邪鬼だからね、僕は。可愛い可愛い天の邪鬼だから。
嘘を吐く。
「いやね、僕って今一人暮らしをしているんですけれど、どうも料理が苦手でして。豆腐を4等分にしようと、手に乗せて切ろうとしたその時です!力の配分を間違えて、豆腐に僕の血をトッピングした結果になっちゃいました」
僕は舌を出して、にやけた。
上手く言えたぜ、的な笑顔を。
「ふぅん。ま、今後気を付けてね」
きっとこの医者には嘘がバレてしまったようだけど、追及はしてこなかった。
「それじゃあ、縫うよ?麻酔は効いてる?」
「いっそ一思いにやってください。出来れば痛くしない方向性で」
結局、滅茶苦茶痛かった。
8針縫った。
全治四ヶ月だそうだ。
けれど、利き手でない左手だし日常生活にそんな支障は出ないだろう。…お風呂は苦労しそうだけど。
そもそも、ふうちゃんになんて言い訳しよう?
ヤバい、ヤバいヤバいヤバいヤバい。
また九十九をやっつけたなんて言ったら、多分この前と同じように傷付ける結果になりそうだ。出来るならふうちゃんを傷付けたくない。今は大切にしたいとそう思ってるから。
なら、九十九やっつけるのをやめればいいだけだって?
ごもっとも過ぎてぐうの音も出ない。
けど、やめることは出来ない。
九十九を殺すことが僕であり、それ以外は僕でないのだから。
復讐、なんて大層な理由ではないけど、それに近しい理由なのだから。そう言うと、君やふうちゃんは分かってくれるだろうか?笑ってくれるだろうか?きっと理解されないし、僕にしか理解できないのだろうね。
別にそれで構わない。
僕は君やふうちゃんを本当の本当に大事だと思っているけれど、九十九を殺すのに邪魔になったら迷わず裏切るよ。
僕は最低だと自分でも言えるし、事実だ。
君だって利害が一致しなくなったらいつでも裏切っていいよ?
僕的には案外早く『その時』が来ると思っている。
どうだろう?君的には僕を裏切る予定はあるかい?
あぁ、そりゃあ良かった。
僕だって君に裏切ってほしくないしね。
一番敵に回したくないタイプだから。
金で動く人間は、人間であることを簡単にやめちゃう人が多いからね、君もその一人だろうて。
九十九を殺そうとしているのがそのいい証拠になる。僕だって君だって、僕らのクラスメイトだって。
そろそろ語ってもいい?
精神病院の話だよ。僕の昔語り。
うん、じゃあポップコーンとコーラを用意しておくことをおすすめするよ。
昔々あるところに…
病院編です。
また少しえげつなくなるかな?
よろしくお願いします。




