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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

我輩は龍である

作者: ナオヒラ

暇つぶしにでもどうぞ

我輩は龍である。名前はもう無い。

 …あ、ちょっと待って、無言で攻撃しないで!痛い痛い!爪楊枝で爪の間をつつくぐらい痛い!

 ごめんなさい、調子乗りました!だからお願い、話を聞いて〜!

 

 ……あ〜良かった。もうRPGでラスボスの台詞はスキップしちゃう人?おかげで久しぶりの出会いを無駄にする所だったよ。ん?口調?いやこれが素だよ。いや〜こんな姿になったら一回ぐらい言ってみたいでしょ?え、そんなことない?さいですか……

 まあ改めまして、初めまして、龍です。名前はありません。捨てました。

 君たちは勇者かな?何処から来たの?何、北の王国?いきなり召喚されて国境に巣食う邪龍を退治してほしいって言われた、と。

 邪龍は多分僕の事だね。しかし邪龍呼ばわりとは、あの国は変わってないな。僕は激オコだよもう。

 あ、ところで君たち日本人でしょ?日本の何処から来たの?ああ、**県か、僕の出身は##県だから近くだね。

 え、そうそう。僕も昔、北の王国に召喚された勇者だよ。漱石文字ったり、激オコ言うてたら気づくでしょ?え、日本人に龍はいない?まあこの姿にはいろいろ事情があってね、僕は正真正銘の大和民族の元高校生だよ。


 まずは聞いてくれよ。話すは涙、聞いたら失笑物の僕の話を。


 5年くらい前かな。僕も友達達と一緒に北の王国に召喚されたんだ。ちなみに僕はおまけで友達が勇者だったよ。君たちはその男の子の方が勇者かな?隣の女の子は彼女?ああ、違うの。友達ね。

…OH.肘鉄。いい腕してるね、お嬢さん。何々?職業は拳聖なの?

 成る程、お嬢さん、彼は朴念仁なようだから自分から食いに行かないと想いは成就しないよ?僕の友達(男)も朴念仁だったから、友達(女)も苦労してたよ。最終的にはこっちで既成事実を作って物にしてたけどね。


 ユー、ヤッチャエYO!


 もう、そんなに殴らないでよ。タンスに小指をぶつけるくらいには痛いんだから。あれ?何の話だったかな?

 そうそうその朴念仁な友達(男)が勇者だったよ。友達(女)の職業は賢者だったね。僕?僕の職業は龍だったよ。

 職業:龍って何かだって?僕も知らないよ。何か王国の人たちも見た事無くて困っていたね。スキルの欄にも一語‘龍’って書いてあっただけだったしね。ひどいよねー、勇者のスキルには光魔法だとか剣術だとかカッコいいスキルがいっぱいあったのに、僕のスキル欄は一文字だけだよ。ひどいよね〜。

 まあ、何か力持ちになってたし、僕が前衛、賢者が後衛、勇者が遊撃のパーティーで魔王退治に出発した訳。


 ん?ああ、そうそう魔王ね。魔族って言う種族を自分で作って世界征服をもくろむ様なろくでもないおじさんだったよ。一時はこの向うにある北の皇国を滅ぼして、中の帝国まで侵略してたからね、他の国も必死になって戦っていたよ。それでも負けそうになったから、溺れる物は藁をも掴むって半ばおとぎ話だった勇者の召喚ってわけ。まあ呼ばれた方はとんだとばっちりだけどね。


 そこからはずっと戦いの日々さ。勇者や賢者は色々苦労してたよ。平和にラブコメしてた高校生にいきなり戦記の主人公をやれって言われるんだからね。常夏のハワイからから極寒のツンドラにお引っ越しだよ。困っちゃうよね?

 僕?僕は一番最初に殺しの童貞捨てちゃったらもう吹っ切れてね。まあ前衛が敵を殺せなかったら全滅の危機だからね。頑張ったよ。前衛のおまけ君が無双ですよ。えっへん。


 まあ、なんだかんだで勇者や賢者も慣れて来て、持ち前のチートで魔族を蹴散らしていたら僕の体がおかしくなってきたんだよ。

 最初は力んだら腕に鱗が生えて力が上がる様になったんだ。まあ、鎧で隠せたし、並の攻撃じゃあビクともしないくらい硬かったし、個人的にはかっこ良かったから便利に使ってたんだけどね。だんだん鱗が生える範囲が広くなって来て、あるときから全身鱗で覆われちゃう様になったんだよね。

 

 見た目はまあリザードマンかな?腕が鱗で覆われてたときの方がかっこ良かったね。

 それを見た人たちが「竜人だ」なんていって怖がってたね。まあ、一緒に前線で戦ってた人たちには割と好評だったよ。まあ物理特化のチートで勇者並みに強かったからね。ダークヒーローですよダークヒーロー。

 それで魔族を中の帝国から追い出した頃だったかなぁ。ついに翼と尻尾が生えて火が噴ける様になってね、もう見た目は二足歩行のドラゴンだったよ。

 戦えば戦う程、変化したときの見た目が人間離れしていくもんだから、勇者と賢者のカップルや仲間達は戦うのを止めさせようとしてたけどね、そんな余裕も無かったから僕はもう戦○無双かってほど戦いまくったよ。人間場慣れすればする程強くなるのに中二心が刺激されたのは否定しないけどね。


 ああ、その頃には勇者と賢者は恋人同士になっていたよ。やっぱ殺伐とした毎日を送っていたら人肌が欲しくなるよね。どうも勇者は賢者が僕の事を好きだと勘違いしていたっぽいけどね。まあ実情はどう攻めても反応しない鈍感勇者に苦労してた彼女のお悩み相談だったんだけどね。


 え、僕?僕はもっぱらそう言うお店のお姉さん達にお世話になっていたよ。勇者君もどう?いいお店知ってるよ?

 ちょっと拳聖ちゃん。そんなに睨まないで、殴らないで、冗談だって。


 まあ、なんだかんだでどんどん魔族を倒して行って南の皇国に巣食っていた強めの魔族を倒した頃かな。また僕の体が変化してね、今の半分くらいの竜に変化する様になったんだ。

 人を載せて飛べる様になったから、勇者と賢者、後中の帝国の王子と南の皇国の王女、東の公国の将軍と西の連合の総隊長を乗せて魔王の本拠地がある離れ小島に乗り込んだわけ。すごいパーティーでしょ。

 北の王国?途中まで王子が賢者を追いかけて居たんだけどね。途中でびびって国に帰っちゃった。因にその王子が君たちを呼んだ国王ね。


 まあそこからは激戦だったよ。本拠地を守る魔族はなんかデカイしグロイし頑丈だし、魔王のおじさんも切っても焼いても再生するプラナリアより生命力強いし。仕方ないから食べちゃったよ。

 うん、丸ごとごっくんだね。ちょっとそんなに引かないでよ。流石に生は体に悪そうだったから、ちゃんとブレスでこんがり焼いたよ?そう言う問題じゃない?けどもう胃液で溶かすぐらいしか思い浮かばなかったんだよ。仲間の皆も吐かせようとしたけども、きっちり消化出来たし結果オーライだよ。

 まあ、その時だね。体がこの状態になって元に戻れなくなったんだ。調べたら種族が龍になって、職業が龍王になっていたんだ。


 人間じゃあ無くなっちゃったんだ。


 まあ、個人的には悲観してないよ。龍だよ龍、種族的に大出世じゃない?

 まあ、勇者パーティーの1人が人間じゃあ無くなって、それ以上に多くの人命が失われて、けれども魔王は退治されてめでたしめでたし。


 なんて問屋は卸さない。


 戦争が終わればあるのは復興だよ。北の王国以外は結構な被害を受けていたし、南の皇国と中の帝国に関してはほぼ壊滅したからね。いまでも道半ばと言った所だね。

 此処で出てくるのが、唯一被害を免れた北の王国。平和になったのを機に王位を譲られた王子様が「今こそ大陸を支配するべきだ」と主張。その言葉に欲望をくすぶられた貴族の皆さんと共に宣戦布告したんだよ。

 ああ、僕たちも戦えっていわれたね、元の世界に返すって言われたから、城に行ってみれば「勇者は将軍に、賢者はよの妾にしてやる。ありがたく思え」なんていうから北のアホ王の頭の病気を疑ったよ。

 僕?僕はそれを空から聞いていたよ。完全な龍になってからいろいろな魔法が使える様になってね、空から城内の話を盗み聞きするなんて容易いもんだよ。

 まあ、あまりの言い分に僕も怒ってね。屋根を破壊して城内に乱入。そのまま二人を日本に送還しちゃった。

 で、北の王国がやんちゃしない様に此処で見張っている訳。


 僕の話は此処までだよ。その北の王国に召喚された君たちにはあんまり面白くなかったかな?

 で、君たちはどうする?帰りたいって言うなら僕が送ってあげるし、北の王の命令通り僕を殺したいって言うのなら相手をしてあげるよ。

 戦ってみたい?男の子だねぇ。まあ殺しはしないし、回復魔法も使ってあげるからかかっておいで。



……中々強かったよ。まさか僕の鱗に傷をつけるなんて思わなかったよ。スタートしたてのパーティーがラストダンジョンのパーティーにダメージを与えるなんてやるじゃない。

 で、ここからどうする?帰るの?分かったよ、じゃあ送るね。

 ああ、送るついでに僕のお願いを聞いてはくれないかな。ええと、何処にあったかな?これは今日のおやつだし、これは前来た騎士さん達の忘れ物だし。

……ああ、此処に埋めたんだったね。

 この箱?中に紙が入っているからその住所にこの箱を送ってくれないかな?手紙と僕の鱗が入っているよ。生ものじゃないからクール便じゃなくていいよ。悪いけど郵送代は君が払ってくれる?お代に僕の鱗をあげるから。


 じゃあね、懐かしの同郷の人たち。久しぶりに人と話せて楽しかったよ。





 あの夢の様な、悪夢の様な体験から5年。大学に進み、あの悪夢を共に乗り切った彼女との中も良好だ。ただ、あの夢の中に置いて来てしまった親友の事がまだ心残りだ。


(あいつが今の俺を見たら、容赦なく馬鹿にするんだろうな)


 平和な、心底幸せと言える日々のはずなのに心は晴れない。ため息を吐いた時、玄関から声が聞こえた。


「宅急便で〜す!」


「ああ、はいはい。ありがとうございます」


 そう言って小包を受け取って、ドアを閉めた。


「ん?誰だこの人は?**県に知り合いが居たかな?」





 やあ、元気にしてる?

 僕としては無事に彼女の尻に敷かれていると心から笑えてうれしいな。

 もしかしたら、あの国がまた誰かを呼び出すかもしれない。そう言う可能性に賭けて、今手紙を書いてます。

 どうやって書いているかって?僕が龍王になった時に‘人化’ってスキルが手に入ってね、人の姿に成れるんだ。皆には内緒だよ?人に成れると分かったら、彼らは僕に会おうとするだろうからね。人の国に龍はいらないよ。

 あのときから何年経ったかな?君たちはもう結婚したかな?子供は出来たかな?君の事だから、子供が出来たら僕の名前をつけようだなんて馬鹿な事を考えてそうだから怖いけど、子供に失礼だから止めようね?

 あの後、八つ当たりで城を半壊させた後、国境の森で悠々自適な毎日を送っています。

 帝国と皇国はすごいスピードで復興が進んで行ってます。魔法って便利だね、すごい勢いで建物が建って行っているよ。

 魔王に奴隷にされた人たちも皇国で受け入れられて生活してるよ。まあ、すこしは蟠りがあるようだけど、みんな笑っているし、大丈夫じゃないかな。

 そんな国を魔法で覗きながら、北から来るお馬鹿さん達を相手に暇をつぶしているから大丈夫だよ。

 まあ、どうせ君は僕を見捨てただ、何だ言ってウジウジしているのでしょう。いい加減に吹っ切らないと彼女に捨てられちゃうぞ☆

 どうせ死んだと思って忘れろって言ったって、いつまでもウジウジする様な意気地なしの君に最後のアドバイスだよ。

 強くなりなさい。どんなに悩んだって、僕はそっちに戻らない。それならそれを背負え。僕を残したと言う罪悪感を背負って、それを誰にも悟らせるな。何でも無い様に明るく振る舞って、立ち直った様に演じろ。

 そして幸せになれ、彼女は君の痛みを知っている。そして彼女も痛みを持っている。その痛みを支え、支えられて、笑って、笑って、笑って家族に囲まれて幸せに死んで行け。

 天涯孤独の僕にとって君たちだけが僕の家族だ。

 


 だからどうか、お幸せに。

 いつかあの日々をいい夢だったと笑える様な日が来る事を祈って


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