旅の目的
中身が無い…
余りにも残酷な現実に出せるはずもない涙が溢れそうになる。
「確かに頭は良くは無かったけどさ…流石にここまで空っぽだとは、思わんかったよ…」
どれ位の時間を絶望しながら過ごしたことだろう。
いっそこのままこの部屋に居て、来るかも分からない人間を驚かす為に待機していようか?
「リアルさまよう鎧だな…これじゃ」
あと必要なのは、円盤型の盾と西洋風の剣だな…などとくだらない事を延々と考えてしまう。
「いかんな…このままじゃダメな子になっちまう」
ダメな子から脱出する為に部屋を調べよう…と言ってもこの部屋にあるのは扉と妖しげな台座だけだ。
「RPGの基本的に言えば台座なんだが…」
調べてください。と言わんばかりの台座の存在感にどうしても胡散臭さが拭えない。
「調べるか…」
台座に近ずいてみると、其処には深紅に輝く宝石が一つ置かれていた。
「売って金にしろってか?」
とその大粒の宝石を摘み上げる。しばらく眺めていると急にドロリと宝石が形を崩す。
「うわっヤベッッ!!」
慌てて左手で溶け落ちた宝石を受け取る。すると宝石はまるで鎧に溶け込む様に黒に沈んでいく。
「きもっ!気持ち悪っっ!」
手に着いた宝石を振り払う様に腕を振るう。
だが着々と宝石の侵食は進んでいき最終的には全て溶け込んでしまう。
どうしようかと手の平と甲を確認する。左手の手の甲には先ほど見た宝石が浮かんでくる。
「何なんだよコレ…」
そう呟くと宝石が再び輝きだす。すると
「nowloading…」
とゆう少女の声が聞こえてくる。
その声に、他に誰かいるのか?と思い周りを見渡すが誰も居ない。
「マスターの初期登録が完了しました…こんにちはマスター」
久しぶりに聴いた人の声に感動と同時に戸惑いと恐怖を感じる。
「マスターの精神に異常を感知しました。如何致しましたか?」
「だ…誰なんだ!?何処にいる!?」
まるで追い詰めらた小物の様なセリフを叫んでしまうほどに追い詰めらていた。
「マスターの問いに回答致します」
「マスター。マスターの左手の甲をご覧ください」
狼狽しながらも言葉に導かれるままに先ほど宝石が溶け込んだ左手をの甲を見やる。
「初めましてマスター。今日よりマスターをサポートさせて頂きます『ノア』と申します」
ノア…?えっ?この石生きてる?
「サポート?どうゆうことだ?」
混乱の中なんとか搾り出した質問に『ノア』は答える。
「はい。わたくしノアは預言者である『ルドルフ』により、いずれ現れるであろう次元の迷い子に然るべき知識と力を与える為に製作されました。」
預言者…?そいつは俺がここに来ることを知っていたのか?その為に自分は作られたとノアは語っている。
「次元の迷い子とはどうゆう意味だ?」
薄々気付いてはいた…余りにも信じられないことの連続に深くは考えて来なかったが恐らくこの質問の答えは、今の自分の置かれた状況を明確にしてしまうだろう。
「次元の迷い子とは、この世界『神世界ウルド』において本来開かれはずのない次元の壁より、偶発的な現象に導かれて現れる存在に付けられる呼称です」
やはりか…考えていただけに混乱する事なく受け入れられた。普通なら元の世界に帰れないのか?など問わなければならない事も多いが今の俺では帰ったところで学校の七不思議に仲間入りするだけだ…
「俺は何をすればいい?」
この世界で生きる為に、このノアとゆう宝石の庇護を受けなければ恐らく俺は生きていけない。
「全てはマスターのご意志のままです。マスターがこのままここで過ごすならばそれも可能です。幸いマスターは食事の必要もございませんので…」
「此処から出ると言ったらどうする?」
「その場合、マスターが外での生活に必要な知識を提供します。生活の知識、戦闘においての知識、魔力を使用した術式についての知識などマスターのお力になる為に私の全てを捧げます。」
そうか…こいつに自由意志は無いのか…
俺とゆう存在に従事しその知識を提供し続ける。そんなノアに俺は一つ質問する。
「なぁお前やりたい事ってあるか?」
俺にはこの世界に何もない。当然なにをしたらいいかなんて見当もつかない。
だったら目的はどうあれこの世界に産まれたコイツの方が此処で過ごすことにきっと意味を見出せる。そう思い問いかける。
「私は…私はマスターに知識を…」
「俺はこの世界で生きる意味を見出せない。
このまま行けばきっと意味も無く朽ちてくだけだろうさ。だから、お前が俺に意味をくれ。この世界に生きる意味を…」
ノアは沈黙を保っている。
やはりダメか…諦めかけていると不意に
「断章を…私の欠片を集めたいです」
「断章?それはなんだ?」
「生前のルドルフが言っていました。私には、私という存在の元となる『ノアの断章』とゆう宝石が12個存在すると」
「それは、何処にあるんだ?」
「分かりません…私も存在するとしか…」
声だけなのはずなのにしょんぼりとした顔が脳裏に浮かぶ。
「すいませんマスター。せっかくのご厚意ですのに…」
申し訳無さそうに声を出す。そんなノアに俺は
「いいんじゃねぇか?目的はあるんだ。どんだけ時間がかかったっていいさ、一緒に見つけようぜ」
そう言って左手にある宝石をゆっくりと撫でる。
「フフッ変なお方ですね。でも、嬉しいです。ありがとうございますマスター」
若干の照れ臭さに頭をかきながら足を動かす。
「なら早速行動だな。行こうぜノア」
「了解しましたマスター。全力でサポート致します。」
そんなやりとりをしてドアノブに手を掛ける。
鎧に憑依した魂だけの少年と宝石にその身を宿し自らを求める少女はまだ見ぬ世界に足を踏み出す。
この時の彼等はまだ知らない。『ノアの断章』を求めるとゆうことが、世界の根幹に否応無く関わって行くとゆう事を…
あれ?でも大和君これって左手に向かって話しかけてるちょっと痛い子じゃ…
まぁいっか!
次回「牙を剥く世界」
よろしくお願いします