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もう少し真面目で章(ブリザラ編)4 側にいられない者達

ガイアスの世界


クイーンの防具としての性能


 伝説と言われるだけあり、当然であるがクイーンの防具としての性能はガイアス一といえる。毒や痺れに対しての性能は勿論、世の中にある大抵の状態異常は無効化する。

 それ故に寒さや暑さが厳しい場所でも平常時と変わらぬ行動がとれる。しかし所有者のアキ自身が半死である為、状態異常にかかりにくくクイーンの性能のありがたみが薄い。

 その他、物理的な防御面も高く受けた攻撃の痛みは軽減される。だがこれもまた半死であるアキにとってはあまり意味の無い能力である。

 正直他の自我を持つ伝説の武具達に比べるとその能力は劣っていると言わざる負えない。しかしクイーンの真の力を引きだせていない所有者であるアキ自身にも問題があると思われる。





 もう少し真面目で章(ブリザラ編)4 側にいられない者達



剣と魔法の力……


「おい、アキが一人で試練に向かったって本当か!」


 太陽が一番高い所に昇った頃、ムハード国の中心である以前まで人々に恐怖と不安を振りまいていた城の跡地から少し離れた場所に建てられた二階建ての建物に焦る女性の声が響いた。その声はお約束をかき消す勢いで建物の中にいた少女に向けられた。


「ど、どうしたんですかウルディネさん!」


突然部屋に怒鳴り込んできた女性に目を丸くしながら驚く少女ブリザラは寝間着姿のまま、その突然の訪問者の名を口にする。


「どうしたもこうしたも……もしかしてブリザラ、お前もアキが試練に向かった事を知らなかったのか?」


 凛とした顔と水を連想させるその姿が相まって女神かと一瞬思ってしまう程の美しさを持つウルディネは寝間着姿のままのブリザラを見て驚きの表情を浮かべた。


「……えええええ!」


ウルディネの口から放たれ言葉を聞いたブリザラは、一国の王として威厳もヘッタクレも無い年相応の驚きの声をあげた。


「……クソッアキめ、ブリザラにも話していなかったか」


驚く様子からブリザラもアキが一人で試練に向かった事を知らなかった事を確信したウルディネは、美しい顔を曇らせる。


「ウルディネ!」


その見た目に反してアグレッシブな雰囲気を持つウルディネの背後から幼い少女の声がする。


「勝手に出歩いてはいけないって言われているでしょ!」


そう言いながらウルディネとブリザラが居る部屋に入ってきたのは、まだ十代にもなっていない少女だった。


「テイチちゃん!」


ウルディネの背後から姿を現した少女の名を叫んだブリザラは、少し興奮した様子でテイチの下へと近寄って行く。


「あ、ブリザラさん、ウルディネがご迷惑をかけてごめんなさい」


 その見た目その声とは裏腹にしっかりとした言葉使いと礼儀を持ち合わせている少女テイチは、ウルディネの非礼を詫びる為、ブリザラに深く頭を下げた。その行動は年端もいかない少女にしては大人びており、逆に隣に立つ精霊の行動が子供のように見えてしまう程であった。


「うん、こっちは別に大丈夫だよ、ふふふふ」


 礼儀正しく振る舞う少女を前に、ブリザラの表情はまるでとろけているのではないかと思う程にだらしなく緩む。そして何故かブリザラの両手は凄い速度で動き出した。

 明らかにいつもの様子では無いブリザラ。その理由は目の前にいるテイチにあった。礼儀正しいという内面の美しさとは別に同性までも虜にする容姿をテイチが持ち合わせていたからだ。僅かに磨いただけでその美しさを放つ原石というものが存在するとして、例えるならテイチはその原石と言える。

 顔についた泥や埃を拭うだけでテイチからは小動物が持つ無条件で頬が緩んでしまう程の愛くるしさが姿を現したのだ。

 そんな小動物のような無垢で愛くるしいテイチの容姿は、簡単に一国の王であるブリザラの心を陥落させる程の威力を持っていた。その結果が一国の王とは思いたくないだらしない表情でテイチを見つめるブリザラの様子であった。

 

「ああああ! もう我慢できない!」


もう辛抱たまらないという様子でテイチを抱き寄せるブリザラ。


「体の調子はどう? 腕は?」


一度テイチを強く抱きしめたブリザラは、テイチの体の柔らかさと愛らしさを確認しながらだらしない表情のままテイチの体を心配する。その姿はまるで妹を溺愛する姉のようであった。


「あ、はい……体のほうはもう大丈夫です、腕はまだ少し痛みますけど」


頬を擦りつけてくるブリザラの過剰なスキンシップに若干引き気味の様子ではあるが聞かれたことに対してはしっかりと受け答えするテイチ。


「ああ! そうか、ごめんね」


テイチが腕に傷を負っている事を思いだしたブリザラは慌てて抱きしめていた腕を解いた。


「大丈夫です、この腕の痛みは……大切な痛みなので」


ウルディネには聞こえないようになのか、少し声を落とし目の前のブリザラにしか聞こえないようそう呟くテイチ。


「うぅぅぅ……テイチちゃん!」


そんなテイチの姿に脳天を直撃する愛くるしさを感じ思わず再びテイチを抱きしめるブリザラ。

 ムハードの王がブリザラ達によって討たれた日、その日一番の功労者であった水を司る上位精霊ウルディネは、腹部に受けた傷と精霊の力を使い果たした影響で、ガイアスから消失しようとしていた。

特に腹部に受けた傷が致命傷となっていたウルディネ。その姿は人間で言えば出血死のような状態であった。ムハード国の人々は、ウルディネのその様子を見て自分達の血を使うことでウルディネを救う事ができるのではないかと思い自分達の血をウルディネに分けた。  

 しかし人間と精霊は違う種族、違う理で生きている。人間の血を分け与えたからと言って精霊が息を吹き返すはずも無い。ムハード国の人々がウルディネに血を分け与えても消失は止まらなかった。

 ムハード国を救った英雄の一人を助けられないのかという雰囲気がムハード国の人々に広がった時、一人の少女が腕を差し出した。それは深い眠りから目覚めて間もないテイチであった。

 自分の命を救ってくれたウルディネを助けたいその一心でテイチは周囲の反対を押し切り己の腕に刃を突き立てたのである。テイチの腕の傷は、その時に負ったものであった。

 テイチの血が影響してウルディネの消失が止まったのか、詳しいことは定かでは無い。しかしテイチの想いがウルディネの消失を止める何等かの作用を与えたことは事実である。

 消失が止まりウルディネの存在かが安定すると、周囲の者達はテイチに腕の傷を回復魔法で治療することを勧めた。だが回復魔法で腕の傷を癒すことをテイチは拒んだ。

 ブリザラを含めたその場にいた者はテイチのその行動に首を傾げていたが、テイチ自身にとっては意味のある行動だった。

 確かに回復魔法を使えば、傷も残らずすぐに痛みも消える。だがテイチは自分の腕に出来た傷や痛みを消したくなかったのだ。

 テイチにとって腕の傷はウルディネとの絆を確認する為の証だった。消失を間逃れたウルディネは確かに目の前に存在している。しかし今まで自分の中に存在していたウルディネが居ないということは、テイチにとっては半身を失った感覚にも等しく、そこには消失感や孤独感があった。

 それほどまでにテイチにとってウルディネは大きな存在になっていたのだ。だからこそウルディネに関係した何か、絆を感じることが出来るものをテイチは求めた。それがウルディネの消失を止めた腕の傷であったのだ。

 しかし腕の傷など無くともウルディネの間に既に強い絆が結ばれているということをテイチは理解していなかった。

 今までの二人の関係は宿る者と宿られる者という関係だった。しかし現在、テイチが理解していない所で二人の関係は大きく変化している。その関係は使役される者とする者という関係に変わっていたのだ。

 今までその身にウルディネを宿していたことによって精霊という存在に対しての相性が驚く程に高まっていたテイチは、本来ならば召喚士でなければ出来ない精霊との契約を結ぶことが出来る能力を得ていたのだ。しかしその事実を知るのは使役された側であるウルディネだけだった。だがウルディネはその事実をテイチや他の者達に公表する気は無かった。

 何故ウルディネがテイチの能力をテイチ本人や他の者達に公表する気が無いのか、それは召喚士や精霊とのつながりを持つ戦闘職でも無いのにテイチが精霊との契約を結べる存在であったからだ。これはガイアス史上今まで確認されていない事でありテイチという存在が特別であることを現していた。もしこれが公になれば必ずテイチは良くも悪くも好奇の目に晒されることになる。下手をすればテイチのことを調べようと攫いにやってくる者やテイチを危険視して命を狙って来る者もいるかもしれないとウルディネは考えていた。だからウルディネは誰にもこの事を話すきが無かった。

 だが時がきたら、テイチが自分の事を自分自身で考えられる年齢になった時がきたらウルディネはテイチにだけこの事実を話そうと決めていた。


「あああ! もう今からでもアキの後を追おうぞ!」


テイチにへばりつくブリザラを引きはがし自分の下へ大事そうに抱き寄せたウルディネは、そう言うと部屋の出入り口に視線を向けた。


『それはならん!』


ウルディネがテイチを連れ部屋を出て行こうとした瞬間、その部屋に威厳を持った低い声が響いた。しかしその声を発した者の姿は部屋には無い。


「……キング、アキさんが一人で試練に向かったというのは本当?」


名残惜しそうにテイチが居なくなった両腕をフラフラとさせながらも真剣な表情で姿の無いキングという人物にアキの動向について尋ねるブリザラの視線は壁に立てかけられた特大盾に向けられた。

 既にムハード国の人々にも認知されているその特大盾は、ブリザラのトレードマークになっている。しかしその正体は、計り知れない知識と様々な能力、そして強固な防御能力を持つ自我を持った伝説の盾であったる


『……ああ、夜もふけた頃にあの小僧はこの国を出たようだ』


まるで本来ならばここで口を挟む予定では無かったというように歯切れ悪くブリザラの問に答えるキング。


「なに! 何でそれを知っていて私達に声をかけない!」


そんなキングの言葉に怒りを爆発させるウルディネ。


「私達がついていないとあの馬鹿、自分の力すら制御できないっていうのに……そもそもそう言っていたのはお前だろう! それが何で……」


アキを一人にしてはならない。そう一番に口うるさく言っていたのはキングであった。しかしそんなキングがアキの単独行動を許したという矛盾に怒りを露わにするウルディネ。


『……ここに居る者達で今、あの小僧の試練について行ける者がいるか?』


「……」


キングの言葉に言葉を失うウルディネ。


『……王は今、この国を建て直す事で忙しく小僧と行動を共にすることは出来ない、テイチの幼い体では試練の場は愚か、そこに行くまでの砂漠を越えることすら難しい、そしてウルディネ、お前は病み上がりだ、今のお前では足手まといにしかならん……そんな者達を小僧が試練に同行させると思うか?』


キングの言う通り三人にはアキの試練に同行出来ない理由があった。それを理解しているからこそアキは誰にも声をかけず、そしてキングもまた出て行ったアキの事を誰にも知らせることは無かった。


「だが、それじゃアキはどうなる? ブリザラの力と私達がいないとあいつはすぐにでも黒竜ダークドラゴンの力に呑まれてまた暴走することになるぞ!」


 この場にいる誰よりも一番アキと行動を共にしてきたウルディネは、アキが抱える黒竜ダークドラゴンという危険な力を理解している。だからこそキングが黙っていたことに納得が出来ないウルディネはアキが抱えている問題を口にした。


『……本来、小僧のそういった問題を手助けするのはクイーンだ……』


「そのクイーンがアキの力を全く制御出来ないから何度もアキが危険な状態になっているんじゃないか!」


キングの言葉に対してクイーンの今まで行動を口にするウルディネ。


「この際言っておく……大事な時はいつも黙りこんで、アキが危険な状態になっても助けることが出来ないクイーンを私は認めない!」


 アキと一番行動を共にしてきたからこそ、危険な状態になった時にクイーンが何も出来なかった事を知っているウルディネ。そんなクイーンをウルディネは信じることも認めることも出来なかった。


『……確かにクイーンは、小僧の危機に対応することが出来ていない……今まで小僧が黒竜ダークドラゴンの力に呑まれ暴走した時は全て王とこの場にいる者によって自我を引き戻したことは事実だ……私もそれを危惧して小僧一人での試練は有り得ないと考えていた』


 自分の所有者であるアキが黒竜ダークドラゴンの力に呑まれ暴走した時、クイーンが無力であった事を認めるキング。


「だったら!」


『だが、それでは駄目なことに気付いた……現実の話、常に王が小僧の側にいることは不可能、そしてそれはウルディネやテイチにも言えることだ……』


 皆それぞれが人間や精霊である以上、その時の状況によって常にアキの側にいることは不可能である。現在の状況を見ても、ムハード国の立て直しや体力的な問題によってブリザラ達はアキと共に行動出来ない状況にあった。


『だが……王達は違い常にアキの側についていられる者がいる……』


「ッ……」


 その先の言葉を聞かずともその場にいる三人は、アキの側に常に居られる存在が誰なのかを知っている。肌身離れずその言葉通り常にアキの側にいられる存在を思い浮かべたキンウルディネの表情はまるで嫉妬する乙女のように歪む。


『……これは小僧だけの試練では無い、この試練は彼女自身の……小僧が所有する自我を持つ伝説の防具としての矜持プライドを賭けたクイーンの試練でもある……』


「……ウルディネさん……キングの言う事は正しいと思います……」


怒りを押さえつけるように体を震わせるウルディネに声をかけるブリザラ。


「うん……今の私達じゃお兄ちゃんの邪魔になっちゃうよ」


ブリザラに続くように震えるウルディネの手を握ると優しく声をかけるテイチ。


『……ウルディネ、お前の怒りは理解できる……だが少しでいいクイーンの事を信じてもらえないか……』


それは同胞として、同じ自我を持つ伝説の武具の仲間としてのキングの言葉であった。


「……分かった……信じはする……だが勘違いするな……私はあの女を絶対に認めない」


そう言ってウルディネはテイチを抱き抱えると、ブリザラがいた部屋を後にした。


「……キング……別に自分の力に己惚れている訳でもクイーンを信じていない訳でもないけど……本当に大丈夫なの?」


ウルディネとテイチが去った扉を見つめながらブリザラは自分が抱く不安をキングに吐露

する。


『……心配無い……とはっきりと言えない……こればかりは小僧の中に存在する黒竜ダークドラゴンとクイーンの戦いだ……だが一応の保険はかけておいた、説得するのに少々苦労したが』


 キングもクイーンを信じていない訳では無い。しかし相手は黒竜ダークドラゴン。はっきりと問題ないと言い切れる相手では無い。そう思ったキングは保険をかけているとブリザラに打ち明けた。


「保険?」


キングが口にした保険という言葉に首を傾げるブリザラ。


『……ああ、正直頼りになるかは分からないが……』


「えええ……」


キングの言葉に何とも不安そうな声をあげるブリザラの声が部屋に響くのであった。


ガイアスの世界


 テイチに秘められた力


 本来、精霊と契約するには召喚士や、精霊と関わりのある戦闘職でなければ契約することが出来ないと言われている。しかしテイチは、召喚士は愚か戦闘職にも就いていないのにウルディネと契約することに成功している。これは召喚士や精霊と密接な関係を持つ戦闘職の歴史の中で前代未聞の事である。

 テイチが召喚士でも無いのにウルディネと契約出来た理由は定かでは無いが、考えられる可能性として長い間ウルディネを自分の体に宿していたことが影響していると思われる。

 長い間精霊であるウルディネを体に宿すことによりテイチの精神肉体共に精霊という存在に馴染んだことが影響しているのではないかと思われる。

 しかしテイチ自身は現在ウルディネと契約していることを自覚していない為に自分がそんな状態になっていることを知らない。


 




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