もう少し真面目で章(アキ編)2 己の成長を望む防具
※(注意) この前書きは全く物語の内容とは関係ありません
新年のご挨拶
明けましておめでとうございます、山田二郎です。
いや2020年ですね……うん、はいあまり実感がありません。
という訳で前回の後書きに続いて今回は前書きで新年のご挨拶なんです。
といっても殆ど書くことは無いんですが(汗
えー自分は殆ど家でゴロゴロしていて正月らしいことをしていません。唯一したと言えばコンビニで雑煮を購入して別の店で購入したハンバーガーと一緒に食べたくらいでしょうか。
幸い周囲に十代の親戚がいないので(一度しかあっていない子はいる)今年もお年玉をあげる心配は無いようです(汗
今年は昨年よりも少しでもうまく書ければと願いながら頑張ります。でも誘惑に負けてしまうんだろうな……。
という訳で今年もよろしくお願いします。
2020年 1月3日(金) 三が日最終日にしてようやく自分の部屋のカレンダーが去年のものであることに気付きながら(汗
もう少し真面目で章(アキ編)2 己の成長を望む防具
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
― ムハード国 外 砂漠 ―
冷気が支配していた夜の砂漠に、ここからは俺の時間だと言わんばかりに昇り始めた太陽が、冷えた砂漠を温めていく。いや、そんな生易しいものでは無い。氷のように冷えていた砂は一瞬にして熱を帯びる。太陽が覗きその姿を完全に現した頃には、冷気が支配していたなどとは思えない灼熱の砂漠が姿を現す。これがムハード大陸にある砂漠の日常である。
『マスター、ウルディネやテイチに声をかけないで出てきて本当に良かったんですか?』
ムハードの大陸の砂漠で一瞬だけ訪れる極寒でも無く灼熱でも無い生物にとって適温と言われる環境の時間。そんな夜と朝の狭間を歩く漆黒の全身防具から、冷気や灼熱など全く気にしてなどいない声が聞こえる。
正直、夜であっても朝であっても最適とは言えない、むしろ死に行くのかと思われても当然な漆黒の全身防具の姿からは想像できない女性の美しい声色は、近くにいる誰かに話しかけているようだった。しかし周囲を見渡しても彼女以外、他にムハードの砂漠を歩いている者は見当たらない。
「……ああ、病み上がりについてこられても足手まといだ、それに今のテイチじゃこの砂漠を超える体力は無いだろう」
女性の問に答えるように、砂漠では自殺行為に等しい金属製の漆黒の全身防具の姿をした者から今度は男の声が聞こえる。先程の女性よりもその姿に見合った声は、ぶっきらぼうに、だが何処か優しさが見え隠れする言葉で女性の問に答えた。
『でも、「行って来る」の挨拶ぐらい……』
「くどいな……そもそも今向かっている場所は俺の試練なのだろう、だったらあの二人にどうこう言う必要は無い」
ウルディネとテイチという人物を気にかける女性の声に対してくどいと一蹴する男の声には僅かな苛立ちが感じられる。
『はぁ……全く……』
そんな男の態度に呆れる女性の声。
「ふん……それで? 俺はこのまま真っ直ぐ進めばいいのか?」
すでに夜と朝の狭間は過ぎ、徐々に昇り始めた太陽の光によって明るくなる砂漠を見渡す素振りを見せる漆黒の全身防具。声と動きからどうやら、男の声の主が全身防具を身に纏った者であることが分かる。ならば、姿が一切見当たらない女性の声は何者なのか。
『はい、問題ありません、真っ直ぐ進んでください』
「……どうもお前の道案内は信じられない……クイーン……もう一度聞くぞ……本当に真っ直ぐでいいんだな」
女性をクイーンと呼ぶ男は、何か苦い経験があるのか再度自分が進むべき道を尋ねた。
『……は、はい、それは勿論……』
「おい待て! 出だしの間と言いよどんだのはなぜだ?」
最初の問の時と比べ明らかに自信の無い返答をするクイーンに歩みを止める漆黒の全身防具を纏った男。
『ああ、いやこれは、その……大丈夫です、本当にこのまま真っ直ぐの方角で大丈夫ですから、歩みを止めないでくださいマスター』
砂漠のど真ん中で歩みを止めてしまった漆黒の全身防具の男に焦るクイーンは、自身の信頼を取り戻そうと必至でそう呼びかけた。
「はぁ……」
既に周囲には砂漠を形成する砂だけしか無く町の一つも見当たらないそんな場所で漆黒の全身防具を纏った男は深いため息を吐く。男が吐いた息は砂漠の灼熱で熱を帯び常人ならばその温度に反応し顔をしかめてもおかしくは無いが、男の表情は呆れたまま変化は見られない。そもそも金属性の防具を身に纏って極寒の夜の砂漠を歩いてきたという時点で常人ではありえないのに、朝を迎え灼熱へと姿を変えた砂漠でも平然としていられるのもおかしな話である。そう、漆黒の全身防具を纏った男は常人では無いのである。
男の名は、アキ=フェイレス。そして一向に姿を見せない女性の名はクイーン。アキは自我を持つ伝説の防具、己が身に纏う漆黒の全身防具の所有者であり、一向にその姿を見せないクイーンはアキが身に纏うその漆黒の全身防具、自我を持つ伝説の防具であった。伝説の防具と言われる程の代物であるからして、同然寒さや暑さに対しての耐性は十分に備わっている。
本来ならば寒さや暑さを防ぐ耐性を持つ防具や道具を所持しなければ一日とて生きていられないムハード大陸の砂漠を殆ど手ぶらの状態で歩いていていけるのである。
「……わかった、信じてやる……だが……」
『大丈夫です、今回は自信がありますから!』
アキの言葉に食い気味に割って言葉をねじ込むクイーン。
「……」
今回はというクイーンの言葉に引っかかりながらも止めていた足を再び動かし始めるアキ。
「それで……その試練っていうのはどんな事をするんだ?」
仕方ないといった表情で歩き始めたアキは、自分がこれから挑む試練の事についてクイーンに尋ねた。
アキがムハード大陸へやってきた目的は二つ。その一つは数日前に当初の着地点とは違う方向ではあるものの片が付いた。そして一つ目の目的を終えたアキは二つ目の目的であるクイーンの所有者としての試練に向かうべくムハード大陸と同じ名を持つ国ムハードを出て砂漠へとやってきたのだった。
『安心してくださいマスター、この試練は純粋にマスターの技量を高める為の試練、ややこしい制約は無く兎に角向かって来る敵を薙ぎ払うだけの試練です』
「ん? 何かその言い方ちょっと引っかかるぞ……それじゃまるで俺がいつも頭を使って……」
『はい、黒竜の力を毎回振り回し結局制御できなくなって暴走させるようなマスターには打ってつけの試練です』
再びアキの言葉を遮り割って言葉をねじ込むクイーン。しかし先程とは違い一切の誤魔化しや不安はその言葉からは感じとれない。感じ取れるのは嫌味だけであった。
「お前……」
鋭い眼光で自分の胸元を睨みつけるアキ。全身防具が相手である以上彼女、クイーンを睨みつける場合胸元に視線を向けるのがアキにとっての一連の流れにはなっているが、はたから見れば自分の胸元を睨みつける変な人物としてしか映らない。だが幸いにも現在アキ達が居る場所は人影一つ見えない灼熱の砂漠なので何の問題も無い。
『これだけは何度だって言いますよ……マスターの不用意な黒竜の力の行使は、黙って見ていられません……マスターが黒竜の力を使わない為であれば、心を鬼にして嫌味の一つでも千でも言い続けます』
黒竜の力は、本来人間が操れるような代物では無い。それは自我を持つ伝説の防具の所有者であっても例外では無い。
「くぅ……という事は……まさか……」
『はい、試練に一切の制約はありませんと言いましたが、黒竜の力は極力……いえ絶対に使わないようにお願いしますねマスター』
自分が今から挑む試練に制約は無い。本来ならば例え黒竜の力であろうと使うことに問題はない。しかしクイーンはアキに対して黒竜の力を使うことを禁止した。
「はぁ……」
再びアキの口から吐き出されるため息。
黒竜の力が危険であることはアキも知っている。しかし黒竜の力は、まるで邪薬のように常習性を持っている。使えば使う程にその強力な力にのめり込み、その力を渇望するようになる。アキは幾度となく黒竜の力を使い己の身を危険に晒して来た。黒竜に自我を乗っ取られたことも数度もある。それでも渇望してしまうのだ。
それは邪薬でも生易しいく感じる程の強烈な呪いにも似たもの、ガイアスで生きる生物の頂点の一つに君臨している黒竜の力を前にアキは、理性を保たなくてはならなかった。
しかしその理性を引きはがそうとアキの頭の中では常にまるでパーティーにでも誘うが如く、自分の下へ引き込もうとする黒竜の声が響き続けている。
「……ん? だったらなぜ俺が試練に一人で行くことを止めなかった」
はたからみると常に黒竜の誘いに抗っているようには見えないアキは、単独で試練に向かうこと事体には一切口を挟まなかったクイーンの行動に首を傾げた。
「……あの盾野郎の言い分じゃブリザラだけが自我を乗っ取られた俺を止めることが出来るんだろう? だからわざわざこんな砂漠しか無いような大陸に一緒に来たんだろうに」
アキが言う盾野郎とは、クイーンと同じ自我を持つ伝説の盾キングを指している。そしてキングの所有者であるブリザラだけが唯一、黒竜に自我を乗っ取られたアキを止めることが出来る力を持っているようであった。故にキングからブリザラと行動を共にするのが最善であると聞いていたアキはなぜ単独で試練に向かう自分を止めなかったのか疑問を口にした。
『それは……』
そこで言いよどむクイーン。
なぜクイーンがアキ単独で試練に向かうことに一切口を挟まなかったか、それには理由がある。まず理由の一つとして挙げられるのが現在のブリザラの状況にあった。端的に言えば現在ブリザラは多忙なのである。王が討たれことにより、良くも悪くもその支配力を失ったムハード国をそのまま放置していれば、ムハード国の周辺にある国々がこの機に乗じて侵攻してくる可能性が大きかったからだ。僅か数日の滞在期間ではあるものの、その期間で多くの者と知り合ったブリザラがそれを黙って見過ごすはずも無く、自分が現在使用できる全ての力をサイデリーの王としての権限まで行使して、ムハード国を建て直すことを決意し実行したのだった。
サイデリー王国というアキから見れば甘々な国の王であるブリザラは、本来ならば全く関係の無いムハード国に対して異常とも思える程の物資や人材を自国から送り込み、自らがムハード国の使者としてムハード大陸にある全ての国へ出向くという行動力を見せた。
そんなムハード国の復興で忙しい今のブリザラに試練を受けるような時間は無い。そう思ったクイーンはアキが単独で試練に向かうことに口を挟まなかったと説明した。しかしこれは建前でクイーンには本当の理由があった。
防具という存在である以上アキの身を護ることは必須事項であるクイーン。しかしクイーンの役目はそれだけに留まらない。
自我を持つ伝説の武具達には所有者の精神管理という役目もある。だがクイーンはその役目を行えている自覚が無かった。常に黒竜の誘惑に耐え続けなければならないアキの精神が良好であるとは全く思えないからだ。
更に言えばアキが黒竜の力を手にしてしまった根本的な原因を作ったのは、クイーンにあった。
不慮の事故とはいえ、自分の行動によって黒竜の力をその身に宿してしまったクイーンは、アキに対して責任を感じていた。しかし今の自分ではその責任をとることすら出来ない、そう感じていたクイーンは、少しでもアキの精神が黒竜に蝕まれないよう自分の成長を望んだのであった。その試練としてアキがこれから向かう場所はクイーンにとってもうってつけの場所であった。当然危険が伴うが、もしブリザラが一緒に同行していれば、自分の成長は望めないと半ば邪魔であるという感情を抱きながらクイーンは、アキが単独で試練へと向かう事に一切口を挟まなかったのである。
膨大な知識をその身に宿す自我を持つ伝説の武具達。それほどの知識があれば成長したいなどと考える必要はないのではと思うが、当然、知識と感情は別物だ。
自我を持っている以上、感情は存在する。所有者の為に成長したいという感情がクイーンに生まれても一切おかしくは無い。
成長を望むクイーンは自分に生まれたその感情を同族であるキングに相談した。初め渋った雰囲気を漂わせたキングではあったが、クイーンの熱意と現在のブリザラが置かれた状況を前にアキが単独で試練に向かうことを承諾した。だがキングは最後に一言クイーンに言葉を残した。
『小僧が終わりを迎えた時、その責任をとるのはお前だ』
小僧の終わり、これはアキの死を意味する言葉であると同時にアキという存在が消滅した後、そこに現れる存在を示した言葉である。その時そこに立つ存在が黒竜なのか、それともクイーン達が懸念しているもう一つの存在であるかは分からない。だがアキが終わりを迎えた時、そのどちらにもならないよう責任をとるのはお前であると口にしたキングの言葉は、クイーンにとって重く辛さを伴うものであった。
「たく……力の制御を重視しろって言うなら、最初から言え……おい話聞いているか?」
『え? ……あっはい、ムハード城についての事ですね』
想いにふけっていたクイーンは、アキの言葉で我に返ると、話を合わせるようにアキが何について話していたのかを一瞬で推理しその話題にあった返答をした。
「お前……本当に聞いていたのか?」
まだ数カ月という付き合いではあるが、出会ってからは一瞬たりと物理的に離れたことは無いアキとクイーン。特に最近アキのほうは僅かなクイーンの変化にも気付くようになっていた。そんなアキは自分の話に対して正確に返答したはずのクイーンを疑っていた。
『……すみません、少し考え事をしていました』
「……たく、ここから俺が頼れるのはお前だけなんだ、しっかりしてくれよクイーン」
乱暴な口調ではあるが、そこに怒りや苛立ちは見られない。何かクイーンの中に感じたのかアキはそう言うとそれ以上追及はせず真っ直ぐに自分がこれから向かう場所の方角に視線を向けた。
『……マスター』
自分の所有者としてアキという存在が大切な存在であることはクイーンも自覚している。しかし今クイーンが抱いている感情は、それとは全く別のものである。だがクイーンはそれが何であるのか理解できていないようであった。
「おい……あれか?」
周囲全体が砂で覆われた一体。その中で不可思議にポカリと口を開けた大穴がアキの視線に入ってくる。明らかにその大穴は砂漠には不自然な状態でそこにあり、常人ならばまず入ろうとは考えない。
『はい、そこがマスターの試練の場、続戦のダンジョンです』
自我を持つ伝説の武具の所有者だけが辿りつけるダンジョンの名を口にするクイーン。
「続戦……もっと捻った名前はなかったのかね」
これから潜って行くダンジョンの名を聞いたアキは、緊張の欠片も無い笑みを浮かべながら誰とは言わず皮肉を言うと、迷うことなくその大穴へと足を進めるのであった。
ガイアスの世界
邪薬
邪薬とは体を治す為の薬とは別で一時的な快楽をもたらす薬の総称である。種類が多く、現在確認されているものだけでも40種以上はあると言われている。その効果は様々ではあるが、全てに共通するのは使用者を快楽に誘うこと。だが、邪薬は快楽だけをもたらす訳では無く、その後にやってくる副作用のほうが大きい。使ったが最後、どんどん邪薬を使う頻度が上がり気付けばそのことしか考えられない体になっているという。
当然、正規の流通では不正に作られた強化飲料同様、禁止されている代物であり、流しているのは外道職の者達である。




