もう少し真面目で章(ブリザラ編)2 サイデリーの美人盾士上陸
ガイアスの世界
ムハード国へ派遣されたサイデリー国の者達。
ムハード王を討ったことによりムハード国に広がっていた絶望は霧散した。しかしムハード王が討たれれば、それで終わりという訳では無く、今までムハード国、ムハード王の力によって大きな圧力をかけられていた他の国々が、今までの鬱憤を晴らそうと攻め込んでくる準備を始めていた。
これではムハード王が生きていた時と何も変わらない、下手をすればそれ以上に最悪な事態が起こると考えたブリザラは、キングを通じて自国であるサイデリーと連絡をとり、現状ムハード国に必要な人材を派遣してもらうよう願った。
そんなブリザラの突然の願いに最初は難色を示したサイデリー側であったが、王の願いということもあり概ね快諾しムハード国に人材を派遣することになった。
サイデリー王国から派遣された人材は誰もが優秀な者達で、ムハード国に着くやいなや、早速色々な作業を頼まれることになっという。
もう少し真面目で章(ブリザラ編)2 サイデリーの美人盾士上陸
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
表向きは突然崩壊したことになっているムハード城。まさか一人の男の手によって破壊されたなどと思わない人々は、ムハード国の負の象徴であった城が突然ほ崩壊したことにムハード王が討たれたことに次いで歓喜の声を上げた。
しかし王しかり城が崩壊してそれで終わりという訳にはいかない。崩壊したムハード城の瓦礫の山をこのまま放置する訳にはいかないからだ。この国をこのムハード大陸を地獄に変えたムハード王が討たれこれから新たな道を築こうとする新生ムハード国にとって、城の瓦礫は過去の記憶を思い出すには十分な光景であるからだ。
「この瓦礫を撤去しない限り、この国は新たな一歩を歩き出すことはできません!」
少女は人々に訴えていた。
正直、ムハード城の瓦礫を撤去するだけならば、少女が持つ力だけでどうにかるものであった。しかし少女はそれでは駄目だと考えていた。今までムハード国の人々を苦しめてきた国の象徴。その象徴を片付けるのは、ムハード国の人々でなればならない。そうしなければムハード国の人々は、前ムハード王の恐怖から解放されず新たな一歩を踏み出すことが出来ない、そう思う少女はムハード国の人々に訴えたのだ。
「お、俺はやるぞ!」
「あ、ああ! 俺も撤去作業に参加する!」
少女の言葉に賛同した者達のその声は皆、震えていた。たが声が震えるのも当然である。例え瓦礫の山になったとはいえ、そこにあったのは自分達を恐怖や不安に陥れた象徴。その恐怖や不安は未だ声を上げた者達の中にも存在しているからだ。
だが彼らはその恐怖と不安を乗り越え、いや乗り越えようと声をあげたのである。しかし彼らのように勇気を奮い立たせ声を上げられるのは少数である。
この国を救ってくれた英雄である少女が言わんとしている事は理解出来る。しかし殆どの者達は例えそれが既に瓦礫の山だと理解していても見えない恐怖と不安という鎖が体に絡みつき動けないのだ。
「……」
瓦礫の撤去は重要ではあるが、それ以上に未だムハード城に心を捕らわれた人々の心を解放する必要があると少女は考える。しかしこの国にやって来てまだ日が浅い自分では、彼らの恐怖や不安に寄り添うことも深く理解することも出来ないと思う少女。
「……ならばこうしましょう」
今の自分ではムハード国の人々の恐怖や不安を解消する力を持たない。そう思った少女は、不服ではあったが今の自分が出来うる最大限の方法でこの状況を前に進めることにした。
ムハード国の英雄となった少女。だが彼女にはムハード国の英雄とは違うもう一つの顔がある。
「……瓦礫撤去の一日の対価と朝昼晩の食料、それを我国サイデリー王国が提供します!」
そう、少女の名はブリザラ=デイル。ガイアス一の大国であるサイデリー王国の王であった。
一人の少女でも無く一人の英雄でも無く、サイデリー王国の王としてブリザラは、その強大な王としての力、財力を使いムハード国の人々に今一度瓦礫の撤去作業をしてほしいと訴えた。
瓦礫の撤去作業は過酷なものである。王を討たれ悪夢は去ったとはいえ、今のムハード国の人々はその悪夢で疲弊している状態と言ってもいい。恐怖や不安に加え、疲弊しきった状態で過酷な瓦礫の撤去作業を無償ですることは中々に難しい。だがもし瓦礫の撤去作業が無償ではなく報酬が発生する依頼ならば、安定した金額と腹を満たす食料ならばどうだろう。
金や物で人を釣る。本当ならば人の弱みにつけこむような行為をしたくは無かったブリザラ。だが人間としても一国を背負う王としても自分は未熟であると理解するブリザラは、今の自分では貫けない矜持は捨てた。今は自分が持っている最大限の力を活用する。それがブリザラが行きついた現状での最大の答えであった。
(……サイデリーに連絡をとりたいのだけれど、キングできる?)
自分が背負う特大の大盾、自我を持つ伝説の盾キングにそう尋ねるブリザラ。
《ああ、それで内容は?》
可否など問わずぐに本題に入るキング。
(至急、ムハード国に対して人材を派遣して欲しい……ああそれと沢山の食料……後はお金の援助かな……?)
経験したことの無い状況に何が必要なのか自信が無いブリザラの言葉には不明瞭さがあった。
《……わかった、そこら辺のこまごましたことは私が指示を出しておく》
ブリザラの自信の無い指示に頷くように声をあげたキングは、不明瞭な所は自分に任せろと言うと次の瞬間には沈黙した。
(ありがとうキング)
何時でもどこでも頼りになるキングにありがとうと呟いたブリザラは再びムハードの人々に視線を向ける
。
「兎に角、食料や瓦礫撤去に対しての報酬は私に任せてください、だから瓦礫撤去に協力してください」
そう言うとブリザラは、一国の王でありながら自国の民でも無い者達に頭を下げた。
「や、やめてくれ」
「王様頭を上げてくれよ」
「英雄にそんなことされちゃ俺達どうしたらいいか」
少女にして、サイデリーの王にして、ムハード国の英雄でもあるブリザラのその行為に自分達を助けてくれた存在に対して自分達は何をさせているのだと男達は顔を真っ青にした。
「わ、わかった! ……俺はやるぞ! こんな状況だ金も飯も欲しい!」
「この国を救ってくれた英雄の頼みだ! 俺はやるぞ!」
「僕は……今まで自分がしてきたことの償いをしたい」
王にあるまじき姿を見せたブリザラに純粋に心動かされる者、今までムハードの兵として人々に酷い事をしてきたことを自覚しその贖罪をしたいと言い出る者、その背景は様々であったが多くの人々が瓦礫撤去に参加することに声をあげた。当然、中にはただ報酬や食料が目的の者達も多い。だが今はそれでいいと思うブリザラ。兎に角今は瓦礫の山と化しても人々の心を縛り続けるムハード城という存在を跡形も無くムハード国の人々の前から消し去ることが重要なのだと思うブリザラであった。
そんなやり取りがあってから四日後、ムハード城の瓦礫撤去作業が始まったムハード国の港にサイデリー製の船が五隻到着した。
フルード大陸を出発してムハード大陸まで四日で辿りついたという記録は、後々伝説として語り継がれることになるが、それは別の話である。
ムハード城跡地に広がる瓦礫の撤去作業をこなす男達。瓦礫からは城を作り上げていた素材の他、金や銀、宝石といった前ムハード王よりも以前の王達が収集していただろう宝の山が沢山発見されていた。勿論この財宝はこれからのムハード国への復興資金となるが、瓦礫の撤去に参加している男達への特別報酬にもなっていた。しかし瓦礫の撤去作業で出てくるのはお宝だけでは無い。
「はぁ……またか……僧侶さん、またご遺体だ!」
瓦礫の山から発見した遺体を一瞥した男は、辛そうな表情を浮かべ瓦礫の下で祈りを捧げているサイデリーからやってきた僧侶に声をかけた。
「はいッ! 今行きます!」
祈りを中断した僧侶の一人は、そう答えると駆け足で男の方へと向かっていく。
何の理由もなくただ理不尽に処刑された者達、それを収集して城の内部に飾っていた前ムハード王。もう一つの負の遺産とも言えるムハード国の人々の亡骸が瓦礫の撤去作業を始めたと同時に次々と発見され始めた。
瓦礫の撤去作業をする男達にとって精神的に堪える状況がこの遺体を発見した時であった。城の内部に飾り付けられた遺体は特別な処置を施され、まるで生きている時のように状態が保たれている。城の内部に遺体が飾られていたということと遺体に処置が施されているという二つの事実は、城の内部に入ったことがある者以外、知らない事であった。その為最初に瓦礫の中から遺体を発見した者は、その遺体がまだ生きているものだと思い、生存者がいたぞと大騒ぎになった。
しかし残念なことに発見された者達が目を開けることは無い。まるで生きているような状態にあるその遺体を発見するたび瓦礫の撤去作業をしている男達は心を痛めるのであった。
しかし例え遺体が傷まず破損しないような処置を施されていたとしても限度というものがある。城が丸々一つ崩壊したというのに、現在までに発見されている全ての遺体は傷一つ無い無傷の状態を保っていたのだ。
本当にそんな状況が起こり得るのか、傷一つついていない遺体の話を聞いたブリザラは驚きを隠せなかった。だがその反面、ムハード城を破壊した張本人であるアキならば可能であるかもしれないと、僅かに頬を緩めた。
それが偶然なのか、それともアキの考えによるものだったのかそれは本人に聞いてみなければ分からない。だが真相はどうであれ遺体が綺麗な状態を保っているということは、それだけその遺体の関係した者達、家族や恋人などを再び繋ぐことができるのではないか考えるブリザラ。もし瓦礫の中から発見された遺体とその遺体に関係した者達が再会できれば、ちゃんとしたお別れや弔いを行うことが出来るはずだとブリザラはずくに行動を起こした。
まず瓦礫から発見された遺体の特徴を記した記録を作成したブリザラは、その記録をムハード国の人々全てに公開した。
すると公開された記録を見て自分の家族だ恋人だと言う者達がすぐに現れた。既に遺体となっている為、話すことは出来ないがそれでももう二度と会う事が出来ないと思った者との再会に家族や恋人は、悲しみを抱きつつも再び会うことができた嬉しさに僅かに表情を緩めていた。最後の別れ告げ、弔うことが出来たのは残された者達にとっては心の整理になったのではないかと、遺体と再会する者達の姿を見て思うブリザラ。
これを皮切りに、瓦礫で発見された遺体は、直ぐにムハード城の横に建てられていた建物、元々は囚人や死刑者を一時的に隔離しておく為の隔離施設だった場所へと移送しその遺体の特徴などを記録するとムハード国の人々に公開する流れが生まれた。これによりムハード国では遺体となった者と再会を果たす者達が増え、弔いの儀式が行われるようになった。その影響でサイデリーから派遣された魂を天に返す役割も持つ僧侶達は、ムハード国上陸直後から休む暇も無い程に大忙しとなっていた。
そんな大忙しの僧侶達を横目にサイデリー王国の特別職、盾士である事を示す特別な盾を背負った女性がムハード城跡地を颯爽に通り過ぎていく。女性が向かう先には、跡地の横に簡易的に建てられた小屋があり盾士の女性はその中へと入っていった。
「お疲れさまですブリザラ様」
小屋に入るなり女性はその小屋で休憩をとっていたブリザラに声をかけた。
「ティディさん」
ムハード国の使者としてムハード大陸中の国々を回っていたブリザラは小屋に入ってきた女性、ティディを前に立ち上がった。
「お疲れでしょう、お座りください、ブリザラ様」
使者としての務めを果たし帰ってきたブリザラの表情に僅かに疲労の色が見えたティディは直ぐに椅子に座るよう促した。
「え、あ……はい……」
戸惑いながらもティディの言う通りに椅子に座るブリザラ。しかしその表情は何処かぎこちない。その理由は、目の前に立つティディの表情が今にも倒れそうな程に疲労していたからだ。
本来ならば異性同性に関わらず見惚れてしまう程の美貌を持つティディ。その美貌の所為で中々男性が近寄ってこず婚期を逃している程であった。しかし今のティディにその美しさは無いに等しい。世の中を恨み殺しそうな目をしてその目の下には大きなクマが出来きている。最上級盾士という地位を持つため身なりはしっかりと整っているが、それでも普段に比べるとボロボロな印象をティディに抱くブリザラ。
「あ、あのそれでムハード国の現状はどうなっていますか?」
明らかに自分よりも疲れているだろうティディを前に座っていいのかと悩みつつも椅子に腰かけたブリザラは、自分が居なかった間のムハード国の状況を聞いた。
「ムハード国の使者としてブリザラ様が周辺国への挨拶周りをなさっていた間、ムハード国の方も順調に事は進んでいます……順調すぎて……眠る事が出来ない程に……」
明らかにティディの最後の言葉はブリザラに対しての抗議ともとれるものであった。
「あ、ああ……その……突然招集をかけたうえに膨大な仕事を押し付けてごめんなさい」
そんなティディの言葉に慌てて頭を下げるブリザラ。
サイデリー王国という国は、他の国に比べ、王と人々の距離が近い。それは他国から見れば異常とも言える程の距離の近さである。例えば町を覗けば王が定食屋で皿洗いをしていたり、花屋で店番をしていたりと他の国では考えられない光景を見ることができる。それほどまでにサイデリー王国の王と人々は物理的にも精神的にも近い所にあるのだ。その距離感は王と国の人々に限ったものでは無い。サイデリー王国という大国の防衛を担っている盾士にも言えるこことである。
もし他の国の王に対してティディが今のような発言をすれば、不敬罪とみなされ即刻首を刎ねられてもおかしくは無い。
しかしこれがサイデリー王国となると、その事が笑い話になったり、それこそ膨大な仕事を与えた王自身が、その盾士に対して謝罪したりする。
サイデリー王国にとって地位とはあくまで便利上の物で、その心はみな対等なのである。
「……確かにキング殿が考えた人選は素晴らしいと思います……もし私では無くランギューニュがこの役目を担っていたら、ブリザラ様の身が危険に晒される可能性があるし……」
「身の危険って……」
ランギュー二ュに対してのティディの評価があまりにも低いことにブリザラは苦笑いを浮かべる。
「もしグランならば自分が面白いと思った方へと流れる傾向があります、そんな者に国の復興など任せたら……」
そう言いながら頭を抱えるティディ。
「……うぅ……確かに……」
何か思い当たる節があるのかグランに対するティディの分析が的確だと思うブリザラ。
「そしてガリデウス……もうこの人は論外です、そもそも最上級盾士の長という立場があるので不用意に国から出ることは出来ない、ですがそれ以上に子離れ宣言をしたというのに、その舌の根も乾かないうちにブリザラ様に会う事なんて出来ない」
「……」
親離れ子離れの時期が来たと言いブリザラはガリデウスの下から離れこのムハード国へとやってきた。だがやはりまだしっかりと自分の中で整理がついていないのか生まれた時から親代わりとして自分を世話してくれたガリデウスを思い出したブリザラの表情には寂しさが広がる。
「……そんな面子です、私がキング殿に選ばれるのは分かり切った事……でも、でもですよブリザラ様……私、先日とうとう三十歳になったんです……結婚適齢期から離れてきちゃってるんです……本当なら今頃、男性とディナーをして愛を深めていてもおかしくないんです……なのに私の前に現れるのは男性では無く、多忙な任務……私……私結婚出来るんですかね!」
「あ、あのティディさん?」
いつの間にかティディのムハードの報告は、自分の近況報告にすり替わっていた。そんな己の婚期に不安を抱くティディを見ながらブリザラは今日一番の苦笑いを浮かべるのだった。
ガイアスの世界
ティディ=ランシェールの恋愛、結婚事情
その美しさから鉄壁の美人盾士と呼ばれるティディ。先日三十歳になったがその美しさには更に磨きがかかっようで、普通の男にとっては高根の花状態で声をかけるのもはばかれる程であった。
しかし本人はそんな状況に焦りを感じているようだ。ティディは至って真面目に恋や結婚のことを考えているのだが、彼女の周囲に存在する男性たちは、あまりにも美しく完璧なティディに対して恋愛感情を抱けないようだ。意を決してティディに迫ろうと近づいた男性は次の瞬間には、自分では不釣り合いだとすぐに諦めてしまう。
彼女から迫った場合でも、男性は皆困った表情を浮かべながら自分よりもいい男性がいるはずだとお付き合いを断られるようだ。
彼女自身、自分の美しさを理解していない訳では無いが、それに己惚れることも、逆に卑屈になることも無く生きてきた。だがそれがいけなかったのかもしれない。元から美しいティディは己惚れる事無く自分磨きを徹底したことで更なる美しさと、知性、そして何より最上級盾士という地位まで手に入れた。そんな完璧な女性とつり合いが取れる男性など早々存在しない。ティディ本人はつり合いなど気にしてはいないのだが、周囲の男性でそう思っている者は誰一人としていないようで盾士としての任務に関係した会話は別としてプライベートな会話になった途端、会話一つろくにできなくなってしまう者までいるという。
驕らずふて腐れず一生懸命頑張ってきた結果、婚期が遠のいていくティディ。果たしてティディは結婚できるのだろうか?
ちなみに同僚的立場である他の最上級盾士達は、ティディにとって恋愛、結婚の対象外であるようだ。




