もう少し真面目で章(ブリザラ編)1 ムハード国その後
ガイアスの世界
スプリングが行きつけの食料店
光のダンジョンで伝説の武器を探し始めた頃よりも少し前、冒険者の真似事をガイルズと始めた頃、依頼でゴルルドに立ち寄ったとがスプリングと食料店の付き合いの始まりであった。
自分の味覚にばっちり合う携帯食が揃っていたことに感動したスプリングはこれ以降ゴルルドに立ち寄る際は常にこの食料店に立ち寄っていたようだ。
ガイルズもこの食料店の携帯食はお気に入りのようで、この店だけは自分の金でしっかりと品物を購入していたようだ。
もう少し真面目で章(ブリザラ編)1 ムハード国その後
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
大陸の三分の一が砂漠であるムハード大陸。その砂漠の大陸を支配していたムハード国の王が素性の分からない者達によって討たれたという話はすぐさまムハード大陸にある国々に広がった。
表面上では国の体を成していたムハード大陸にある他の国々はその実、ムハード国による武力の支配によって属国状態にあった。しかしムハードの王が死んだ今、ムハード国による支配は弱まるとムハード大陸にある他の国々は、暗闇から解放され希望の光を見たように歓喜の声を上げる。だがこの光は当然新たな争いを生む光でもあった。
ムハード王の死の一報を聞き、即座に動き出したのはムハード国の次に大きな領土を持つバンルーヤ国だった。即座に行動に移したバンルーヤ国の王は、まず近隣の小国に伝令兵を送った。その伝令兵に託された内容は、力を結集しムハード国を攻め落とすという内容であった。バンルーヤ国の王は王亡き今、統制のとれていないだろうムハード国を一気に攻め込む企てを考えたのである。
バンルーヤ国の王の考えに賛同する国々は多く、ムハード大陸にある六つの国がムハード国を攻め落とすためバンルーヤ国と連合を組んだ。しかしその計画は最終段階、後は攻め入るだけという段階のとこで頓挫することになる。
バンルーヤ国とその他、連合を組んだ国々はムハード国の現在の状況を知るために偵察部隊を編成するとムハード国へと送りこんだ。だが数日後、偵察から帰ってきた偵察部隊の持ち帰った情報は信じられないものばかりであった。
まずムハード国の象徴であった気味の悪い城は跡形も無く破壊されていたというものであった。その跡地には新たな城が建設されてようとしている形跡があるというものだった。
ムハード王が死んでまだ一カ月も経っていない、その短い期間で気味の悪い巨大な城を跡形も無く破壊したというだけでも驚きではあったが、そのうえ新たな城が建設されようとしているという情報はバンルーヤ国や連合を組んだ国々に衝撃を与えた。それはムハード国が未だ健在であると証明しているようなものであったからだ。
次に上げられた偵察部隊の情報によれば、ムハード国であることを示す旗の横には盾が描かれた旗が掲げられていたというものであった。
盾が描かれた旗を掲げる国、それはガイアス中にある国々の中で一つしかない。ムハードとは真逆の環境にある大陸フルード大陸にあるサイデリー王国だけであった。
両国の旗が隣同士で掲げられているということは世界一の大国であるサイデリー王国がムハード国と手を結んだということを示しているに等しい。その事実は、バンルーヤ国と連合を組んだ他の国々に更なる衝撃を与えた。なぜならサイデリー王国は他国を侵略しないという理念を掲げていたはずであったからだ。
他国に対して侵略行動をしないと宣言していたはずのサイデリーが、ムハード国と手を結んだ。しかしムハード国に王が居ない以上、手を結んだと言っても実質的にその支配権はサイデリーにある。ムハード国を侵略したことに変わりはない。
サイデリー王国の行動はバンルーヤ国や連合を組んだ他の国々にとって獲物を横取りされたようで面白くなく怒りを植え付けた。
だがこれはある意味でチャンスだとも考えるバンルーヤ国の王。今まで侵略行動をしないと宣言してきたサイデリーがその宣言、理念を破ったという事実を世界に公表すれば、たちまちサイデリーは信用を失う。そこにムハードを奪い取る隙が生まれると考えたのだ。
しかしそんなバンルーヤ国や連合を組んだ他国の思惑を見計らったように、ムハード国はムハード大陸にある全ての国へ使者を送った。
やってきた使者は言う。
「私達は、ムハードの復興の為力を貸しにきた、悪しき王が討たれた今、ムハード王家の最後の生き残りの者がムハード国の新たな王になる」
そう口にした使者はなんとサイデリー王国の王、本人であった。
バンルーヤ国や連合を組んだ国々、そして状況を静観していたその他の国々にサイデリーの王自らが使者として出向いたのであった。
そしてムハード国の使者として各国に出向いたサイデリー王は、ムハード大陸にある全ての国々に対して利益となる条件を提示した。
まず今までムハード国が武力で手に入れた領土の全て、そして元々にムハード国が持つ領土の五割を周辺にある全ての国々に返還するというものであった。そう提示したサイデリー王の手から渡された資料には、全ての国が以前よりも多くの領土を手にするようになっていた。
次に貿易の要であったムハード大陸にある全ての港の修復、復興にかかる資材などは全てサイデリー王国が賄うというものだった。
更に港が全て復興した後、サイデリー王国とムハード大陸にある全ての国々と独占貿易を結ぶというものまであった。
サイデリー王がムハード大陸にある全ての国々に提示した条件は、サイデリー王国からすれば何の得にもならない不利益だらけのものである。
そんなあからさまな条件を提示されれば何か裏で良からぬことを考えているのではと疑うのは当然でバンルーヤの王も、他の連合を組んだ国々の王も、そして状況を静観していた他の国々もサイデリー王の腹の底を探ろうとした。
しかしそんな中、サイデリー王はムハードにある全ての国々の王に対して本来ならば有り得ない行動をとったのだ。
王にあるまじき行為、それはサイデリー王が他国の王に対して頭を下げたのである。しかも本来ならば全く関係の無い状況の立場にあるにも関わらずだ。
「新たな門出を迎える新生ムハード国をよろしくお願いします」
そう付け加えるサイデリー王。
当然、サイデリー王のその行動は、ムハード大陸にある国々の王達を騒然とさせた。それと同時に顔を上げたサイデリー王の幼さの残る無垢な表情からは、一切の企みが感じられない。それ所かサイデリー王から発せられる慈愛とも思える雰囲気に対峙したバンルーヤ国と連合を組んだ国々の王達の毒牙を抜き去ってしまったようだった。毒牙を抜かれ連合が成り立たなくなったバンルーヤ国の王もブリザラと対峙した際、最後には自分が起こそうとした行動を恥じたという。
これがムハード国へ攻め入ろうとしたバンルーヤ率いる連合の計画が頓挫した理由であった。
― ムハード国 ムハード城跡地 ―
今までのようにただただ暑いだけでは無く、何処か晴れ晴れとした雰囲気を漂わせる太陽の光がムハード国を包み込む。そんな太陽の光は心なしか新たな出発を迎えたムハード国を歓迎しているようにも思えてくる。
それは国だけでは無くそこに住む人々にも言えることで一人一人が希望に満ちた顔をしていた。
「おねぇーちゃん!」
そんな今までとは全く別の国になったのではないかと思えるムハード国の中心、元はムハード国の象徴にして人々の心に恐怖や不安を植え付けていたムハード城があった場所から少年の元気な声が響き渡った。
「レイド君」
崩壊し瓦礫と化したムハード城を背に元気一杯な笑顔で自分の下に走ってくる少年をレイドと呼んだ大盾を背負う少女はニコリと笑みを浮かべる。
「お帰りなさい!」
嬉しそうな顔を浮かべながら少女の帰りを大声で叫ぶレイドはその勢いのまま、少女の胸に飛び込んでいく。
「おッ! この国を救った英雄がご帰還されたぞ!」
「おお! ブリザラ様が帰ってこられたか!」
瓦礫の撤去作業をしていた男達は、レイドの大声でムハード国を救った英雄の帰還を知ると作業の手を止めゾロゾロとサイデリー王国の王ブリザラの周囲に集まってくる。
「皆さんご苦労様です……それで状況の方は?」
瓦礫の撤去作業をしている男達に労いの言葉をかけたブリザラは、間を開けて現在の撤去状況を聞いた。
「ああ、撤去の方は順調だ……だが、前ムハード王の所業の跡とでも言えばいいのか……今まで処刑された者達の遺体が沢山出てくる……正直これには俺達もな……」
瓦礫の撤去作業をしていた男達は、ブリザラの帰還を喜びつつも作業中に出てくる数多くの遺体に心を痛めているようだった。
「……そうですか……その方達の供養は我々サイデリーの僧侶にまかせてください」
暗い表情を浮かべながらもブリザラはしっかりとサイデリーの王としての責任を全うすべく瓦礫の撤去作業をしていた男達を安心させようとする。
「ああ、何から何まで悪いな……このムハードには今死者を慰める者がいないから助かるよ」
ムハード国に僧侶はいない。それは、前ムハード王が僧侶を全員殺害したからであった。その理由は定かではないが前ムハード王は死者に対して全く敬意を払わない人物だった。だからこそ城の前に処刑した者を吊るし続けたり、城の内部に遺体を飾り付けたりとおおよそ人とは思えない所業ができたのであろう。瓦礫から出てくる遺体は全て前ムハード王が城の内部に飾り付けていた遺体であった。
城の内部に飾り付けられていた遺体はその全てが腐らないよう処置が施されていたという。それは前ムハード王の悪趣味による所業であった。
しかし不思議なことに城の崩壊の影響によって本来なら破損してもおかしくは無いはずの城の内部に飾られていた遺体には崩壊の影響による破損は見られずどれも生前のような姿を保っていた。
「親族の方が居る場合はまず再会させることを最優先で、その後丁重に供養してください」
「ハッ」
即座にサイデリーの僧侶を呼んだブリザラはそう指示を出すと自分に抱き付いたまま離れなないレイドを見つめる。
「今日もしっかりとお祈りはしたの?」
抱き付いたまま甘えるレイドにまるで母親のような様子で声をかけるブリザラ。
「うん! ごめんなさいってたくさんあやまっておいのりしたよ!」
レイド自身、自分が犯した罪を理解していないのか元気よくそう話すとニコリとブリザラに笑顔を向ける。
「……」
レイドの様子に瓦礫の撤去作業をしていた男達は複雑な表情を浮かべる。
「……レイド君、今日はもう家に帰りなさい」
「えーまだおねえちゃんといっしょにいたい!」
男達の複雑な胸中を理解できるブリザラはその原因でもあるレイドを家へと帰らせようとする。だが幼いレイドは周囲の重たい空気を感じ取れずにブリザラとまだ一緒にいたいと駄々をこねた。
「だーめ、私はこれからこの人達と大事なお話があるからレイド君は家に帰るの、大事なお話が終わったら私もレイド君の家にいくから」
「ほんとう! 約束だからね!」
ブリザラが家に来る。それがよほど嬉しいのかレイドはニコニコした表情を浮かべるとブリザラから離れると自分の家がある方角へと走り出した。去り際、何度も振り返り見送るブリザラに何度も手をふるレイドの表情は本当に嬉しそうであった。
「……皆さんの気持ちは分かっているつもりです」
家に帰るレイドの姿が見えなくなるとブリザラは少し低めの声で男達にそう話しかけた。
「……彼は……この国を地獄に変えたムハード王の息子……」
三週間前、幾つもの奇跡が重なりブリザラは、『闇』に取り込まれたムハード王を救った。捕らわれればもう元に戻ることは出来ないと言われている『闇』を浄化したのだ。
だが『闇』を浄化した後、そこに姿を現したのはムハード王では無く幼い子供だった。その場にいたブリザラは一瞬驚いたものの、その子供が間違いなくムハード王本人であることを確信した。何故ならブリザラはムハード王の幼い頃の記憶を見ていたからだ。
しかし本来なら当に成人を超えた年齢に達しているムハード王がなぜ子供の姿で現れたのか、ブリザラには全く見当がつかなかった。そんなブリザラに対し自我を持つ伝説の盾キングはあくまで仮説としてムハード王が幼い時の姿として現れた理由を説明しようと口を開いた。
心と肉体その全てを『闇』に支配されたムハード王は、その時点で『闇』の存在として生まれ変わったようなものだった。だがブリザラが起こした奇跡はその生まれ変わりを無いものとしたのだ。そのため『闇』の存在として生きてきたムハード王の数十年の時間は無かったものにされ『闇』に捕らえられる前の幼いムハード王が姿を現したのではないかというのがキングの仮説であった。
到底普通の者ならば信じられない仮説である。ブリザラ自身もその仮説に対して半信半疑である以上、ムハード国の人々へうまく説明する自信が無かった。そもそもムハード国の人々にこの話をする必要は無く、幼いムハード王は身寄りのない子供として扱うという選択肢もあった。しかしブリザラはそうはしなかった。なぜなら王を失った国には新たな王が必要だったからだ。
現状、ムハード王が討たれたことはムハード大陸全域の国々に既に広まっているはず。そうなれば、今まで支配されていた周辺国はここぞとばかりに大きな領土を持つムハード国に攻め入るはずである。そうなれば、再び争いが広がる。下手をすればムハード王が討たれる前よりも酷い状況になるかもしれないとブリザラは考えていた。
だからこそムハード王は討たれたが、ムハード国は未だ健在であることを武力では無い別の方法で周辺国に伝え広げる必要があった。その為にもまず早急に必要なのが新たなムハード国を導く新たな王の存在であった。
新たなムハード国の王をムハード国の人々の中から選ぶという考えもあったが、それでは時間が足りないと思うブリザラ。
王としての才覚や知識は短期間で簡単に習得できるものでは無い。そしてその習得を待つ時間も今のムハード国には無いのだ。
その点でいえば幼いムハード王ならば、ムハード国の王家である以上、才覚に関しては十分な素質を持っている。そして知識や立ち振る舞いも多少は学んでいるはずだ。そして例え王が幼くとも周りが後楯になれば問題ないはずだ。それは同じく幼い王であったブリザラ自身が実感していることであった。
そこまで考えを巡らせたブリザラは、ムハード国の人々に対しレイドが前ムハード王の息子であり王家の最後の生き残りであると説明した。
当然ムハード国の人々はレイドの存在に複雑な表情を浮かべた。何十年も自分達を苦しめてきた王の息子なのである、その反応は当然のものであった。
しかしブリザラはムハード国の人々に訴えた。例え親が悪道の限りを尽くした罪人であっても、その子供に罪は無いのだと。そして何より今この国には王という存在が必要なのだと、レイドという存在が必要なのだと必至で訴えたのであった。
だが人の心は早々簡単に変わるものでは無い。ブリザラの訴えに一応の納得はしたものの、ムハード国の人々の心の中には幼いムハード王に対しての複雑な心情が消えることは無かった。
それがレイドを見た時の瓦礫の撤去作業をしていた男達が見せた反応の正体でもあった。
「だから……私からお願いしたいのです、どうか彼が……レイドが道を踏み外そうとしたら王家の子供としてでは無くこの国に住む一人の子供として叱ってあげてください」
もし再び以前のムハード王のように道を踏み外そうとしたならば、その道を正して欲しいと男達に願ったブリザラは頭を下げた。
「や、やめてくれブリザラ様」
ムハード国を救った英雄であるブリザラの行動に戸惑い動揺をみせる男達。
「どうか……どうかよろしくお願いします」
念を押すようにブリザラは男達にレイドの事をよろしく頼みますと口にする。
ブリザラは知っている。王は一人で王になるのではない。王を支えてくれる国の人々がいるからこそ王は王で有り得るのだと。
幼い頃、悪戯をして服屋を営むピンキーさんに怒られたこと、花屋のサイジーさんには店の手伝いをして褒められたこと。その全ての経験が今、王としての自分を形作っていることをブリザラは知っている。 だからこそレイドにも時には叱られ時には褒められるそんな国の人々と距離が近い優しい王様になって欲しいとブリザラは願うのであった。
ガイアスの世界
ムハード城の秘密
ムハード城の外観は人々の恐怖や不安を煽るような建築をされている。一目見ただけでまるで地獄にいるのではないかと思うぐらいに悪趣味なデザインをしている。
だがこの外観はただ人々の心に恐怖や不安を植え付けるだけでは無い。そこから生まれる負の感情を吸い上げ、城内にいる『闇』に取り込まれたムハード王に供給する役目を持っている。
その負の感情を吸収したムハード王は、自国の兵の心に負の感情を宿らせ戦いに置いて恐怖や不安を抱かない戦闘狂を作りだしていたようだ。これがムハード国の強力な武力の理由の一つでもある。




