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真面目で章(スプリング編)17 試練への道

ガイアスの世界


スプリングが持つ魔法の才能とは


「自分には魔法の才能は無い」と口にしたスプリングに対してインセントが口にした「お前の中には立派な魔法の才能が流れているよ」という言葉。これはインセントがスプリングの両親を知っているということを意味している。

 どうやらインセントとスプリングの両親には何等かの関係性があるようだが、今の所不明である。


 





 真面目で章(スプリング編)17 試練への道




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




「よう、あんちゃん久しぶりだな!」


 携帯することに特化した食料がずらりと並ぶ食品店に姿を現したスプリングに対して店の奥から威勢のいい声が響く。


「ああ、久しぶりおっちゃん」


 店の奥から響く声にそう答えたスプリングは、慣れた様子で綺麗に陳列された携帯食に目を通し始めた。

 インセントとソフィアと別れ、ガウルドの草原を後にしたスプリングは、約半日を費やし山岳地帯にあるゴルルドへと辿りついた。

 ゴルルドは光のダンジョンに最も近い町であり伝説の武器の噂が広がった当初、その噂を聞きつけた冒険者や戦闘職の拠点の場となった。

 当然スプリングも光のダンジョンへ潜る際、ゴルルドを拠点として利用していた一人である。


「最近は顔を見せなかったから、てっきり伝説の武器を探している最中に命を落としたのかと心配していたんだぞ」


 店の奥から姿を現した店主は、伝説の武器の噂が広がる前から自分の店を利用しているスプリングの姿を見て安堵の表情を浮かべる。


「ああ……ちょっと事情があってな……」


最後に店主の店を利用した後、色々なことがその身に起きたことを思い出しながら自分のことを心配してくれていた店主にそう答えるスプリング。


「そうか事情か……まあ深くは聞かないよ……」


客が抱える事情に深く踏み込まない、商人として店主が心構えている信念の一つであった。だからこそ本人も自覚していない僅かに困ったような表情を浮かべるスプリングにたいして店主はそれ以上話を進めなかった。


「ところで俺の所に来たってことは……まさかあんちゃんまた光のダンジョンに潜る気か?」


そう言いながら近づいてくる店主に視線を向けるスプリングは僅かに頷いた。


「それならやめとけ、残念ながら伝説の武器はちょっと前に誰かが手に入れたって話だ、もう光のダンジョンには搾りカスも残ってねぇーよ、その所為でこの町は静かになっちまったがな」


そう言いながら店主は自分の店の外を眺める。そこには静かでのどかなゴルルドの風景があった。

 伝説の武器が光のダンジョンにあるという噂が流れた当初、町に入り切れない程の冒険者や戦闘職がゴルルドに殺到した。それまで静かでのどかな雰囲気を持っていたゴルルドの状況一変、ダンジョンへ潜る上で必要となる携帯食を扱っていた店主の店にも客が殺到し商品が売り切れることなどざらであった。

 しかし伝説の武器が何者かの手に渡ったという噂が流れると、今まで殺到していた冒険者や戦闘職はまるで潮が引くようにゴルルドからいなくなっていった。


「あ……ああ」


まさかその伝説の武器を手に入れた誰かが自分であるとは言えないスプリングは何とも言えない表情を浮かべる。

 伝説の武器の噂の影響で、光のダンジョンに近いゴルルドに冒険者や戦闘職が押し寄せたことによって町には莫大な利益が生まれた。その部分だけ聞けばいい事のようにも思えるのだが、冒険者や戦闘職が殺到したことによってゴルルドが本来持つ静かでのどかな雰囲気は騒がしい町になってしまった。それに加え冒険者や戦闘職が増えたことによっていさかいが頻繁に起こるようになった。冒険者や戦闘職は莫大な利益をゴルルドにもたらしはしたが、それ以上にゴルルドに多大な迷惑をかけたのである。


「まあ、商売人以外の町のもん達は静かで穏やかな町の方が好きだから騒ぎが落ち着いて一安心しているけどな」


 スプリングが伝説の武器を手にしたことで、光のダンジョンに伝説の武器は無いと噂が流れると伝説の武器を探し求めていた冒険者や戦闘職はゴルルドから姿を消していった。今では初心者冒険者や戦闘職がチラホラと顔を出すぐらいで以前のような静かで穏やかな町に戻り人々は胸をなで下ろしているようだった。


「とりあえず、これと……これ……後これを四日分包んでくれ」


携帯食が陳列された棚から自分好みの物を素早く指で店主に示しめすスプリング。その様子は今すぐにこの場から立ち去りたいという焦りのようなものがみてとれる。


「うん? ……何も無いのに光のダンジョンに潜るのか? 好きだねぇ」


そう言いながらスプリングが示した携帯食を手際よく集めていく店主。


「ふむ、やっぱあんちゃんは見る目が違うな、そこら辺の冒険者や戦闘職とは違う」


スプリングの携帯食の選び方を褒めながら店主は手にした携帯食を袋に詰めていく。


「こりゃ俺一押しの携帯食だ、腹持ちもいいし何よりうまい……あんちゃんが無事だった記念だ、一日分おまけておくよ」


店主はスプリングが無事であったことが本当にうれしいのか、ニコニコしながら携帯食を一日分多めに袋に詰めるとスフリングに手渡した。


「あ……ありがとう」


申し訳なさそうな表情で店主に礼を言うスプリングは、携帯食の代金を支払うと逃げるようにその店を後にする。スプリングの心内を知らない店主はわざわざ店の外まで出て去って行くスプリングを見送るのだった。



「……はぁあああああああ……」


『どうした主殿、深く長いため息など吐いて?』


店主の姿が見えなくなるとそれを見計らったようにスプリングは深く長くため息を吐いた。そんなスプリングの様子に疑問を口にする自我を持つ伝説の武器ポーン。


「……いや、折角の稼ぎ時を俺が潰しちゃったようだから……何か申し訳なくてな」


 昨今、冒険者や戦闘職になろうとする者が少なくなり当然光のダンジョンへ入る者達も年々減少している。光のダンジョンへ入る者達の装備や食料で生計を立てているゴルルドの商人達にとってこれは大問題になっていた。

 そこに舞い降りた伝説の武器の噂はゴルルドの商人達にとっては稼ぎ時であったはずで、このまま伝説の武器が見つからないでくれと願っている者もいたはずだった。そんな商人のひとりである携帯食を売る店主の話を聞いて稼ぎ時を邪魔してしまったとスプリングは申し訳ない気持ちを抱いていた。


『主殿はそんなことを気にしていたのか?』


スプリングの考えに驚いたような声をあげるポーン。


「え? どういうことだ」


なぜポーンが驚いているのか理解できないスプリングは聞き返した。


『金が稼げなくなればまた新たな稼ぎ方を考える、それが商人というものだと私は思うがな』


「……ああ……確かに……あの店主も季節やその時の状況で微妙に携帯食の種類を変えていたような」


ポーンの言葉に思いあたる節があるのかうんうんと頷き納得するスプリング。


「……」


『どうした主殿?』


うんうんと頷いていたスプリングの動きが突然止まったことが気になったポーンは、すぐさまどうしたとスプリングに尋ねた。


「いや……何でも無い」


そう答えたスプリングは口をつぐんだ。その表情には微かに戸惑いが見える。

 現在スプリングとポーンの関係は微妙な状態にあった。ポーンが持つ自分の所有者の肉体を奪う能力が事の発端であった。

 その能力を知ったスプリングは、ポーンが自分の体を奪おうとしているのではないか疑っているのだ。だがその反面、今までのポーンとの付き合いの中で生まれた絆を信じたいと思う自分がいることも理解しているスプリング。

 そんな複雑な感情が心の中で渦巻くスプリングは、自分が今ポーンと今までと同じように自然に会話をしていたことに気付き心が片方に傾く感覚を感じていたのだ。

 光のダンジョンの最奥に向かいポーンの完全修復、そして所有者の肉体を奪う能力の抹消が済むまでは自分が抱く感情がどちらに傾いてもいけないと思うスプリング。その心の現れが口をつぐむことであった。


『……そうか……』


そんなスプリングの心の動きを感じ取ったのかポーンの口数も減る。


「準備は整った……これから光のダンジョンへ潜る」


感情を抑えつつそう口にしたスプリングは、光のダンジョンへ向かうため、ゴルルドの町を後にするのだった。



― ゴルルド周辺  光のダンジョンへ誘う森 ―



 初心者御用達と言われる光のダンジョン。当然その道程も初心者に優しく、強力な魔物は殆ど現れない。時々、初心者冒険者や戦闘職を恐怖に陥れる突然変異した魔物が現れることがあるが、限りなく遭遇する確率は低い。そして例え出くわしたとしても初心者にとって恐怖なだけあってスプリングにとっては恐れる対象では無い。


「……まさか町を出て早々に珍しい突然変異種に出くわすとはな」


 ゴルルドの町を出て一キロ程歩いた場所、光のダンジョンがある森の入口付近でスプリングは、滅多に遭遇しない突然変異した魔物に出くわしていた。

 スプリングの前に姿を現した突然変異した魔物は、本来ならば群れを成すはずの小鬼猿ゴブリンモンキーだった。

 小鬼ゴブリンと猿の間の子である小鬼猿ゴブリンモンキーはその存在自体が突然変異のような魔物である。しかしそのうえでスプリングが対峙する小鬼猿ゴブリンモンキーは突然変異していた。

 まず通常の小鬼猿ゴブリンモンキーよりも筋肉が発達しその体は本来の四倍に膨れ上がっている。その姿は小鬼ゴブリンでも無ければ猿でも無くどちらかと言えば上位小鬼ハイゴブリンと大猿の間の子に近いように見える。

 その大きな肉体からくる自信によるものなのか、本来ならば絶対に単独行動はとらないはずの変異した小鬼猿ゴブリンモンキーは単独でスプリングの前に姿をあらわしたのである。


「さあ、どうする小鬼猿ゴブリンモンキー?」


小鬼猿ゴブリンモンキーの知能は、小鬼ゴブリンや猿よりも高く人の言葉も少しは理解できるという。しかもそれが変異しているのだ、自分の言葉を理解できるかもしれないと思ったスプリングは、目の前にいる変異した小鬼猿ゴブリンモンキーに選択を委ねた。


「ギィギィ……コロ……ス」


スプリングの態度が気に喰わないのだろう変異した小鬼猿ゴブリンモンキーはぎこちない人語を口にすると、その発達した足で地面を蹴る。その勢いのまま変異した小鬼猿ゴブリンモンキーは真っ直ぐにスプリングへと向かい襲いかかる。だが迫ってくる変異した小鬼猿ゴブリンモンキーに対してスプリングは顔色一つ変えない。

 ここは初心者の冒険者や戦闘職が行き来する場所。突然変異し筋肉が異常に発達したとはいえ、所詮初心者を脅かす程度の力しかない。例え強制的に拳士に転職させられたとはいえ、随分前に初心者を卒業しているスプリングにとって目の前に迫る魔物は脅威を抱くような対象では無い。

 まるで止まっているようにさえ見える小鬼猿ゴブリンモンキーの動きに合わせ、スプリングは右手の拳を握りしめるとまるで弓の弦のように右腕を後ろへ引き絞る。後は引き絞った右腕を目の前に迫る突然変異した小鬼猿ゴブリンモンキーに向け放つだけだった。

 破裂音と共に周囲に小鬼猿ゴブリンモンキーの血液が飛び散る。スプリングが放った拳は小鬼猿ゴブリンモンキーの顔面を捉えるとその力はそのまま頭蓋骨を粉々に粉砕させ行き場を失った力が小鬼猿ゴブリンモンキーの頭を破裂させたのだった。


「……」


真っ赤に染まる自分の拳を見つめるスプリングの表情は変異した小鬼猿ゴブリンモンキーを一撃で仕留めたというのに悔しさに満ちていた。

 

「……こんな拳じゃあの力を持ったソフィアに辿りつけない……」


スプリングの表情を支配する悔しさ。それはスプリングがソフィアに対して抱く劣等感からくるものだった。

 今まで自分よりも下だと思っていたソフィアが見せた未来への可能性。それはスプリングの自信を砕くには十分なものであった。


『主殿……少しいいか?』


拳に着いた血を払い森の奥へと足を進め出すスプリングに対して声をかけるポーン。


「何だ?」


自分の中で暴れる感情を抑えポーンに返答するスプリング。


『……今主殿が倒した変異種がなぜ生まれるか、その理由を知っているか?』


「はぁ? ……いや……分からない」


ポーンの突然の問に今まで考えたことも無かったスプリングは少し戸惑いながらそう答える。


『突然変異とは生物が持つ設計図に様々の要因もしくは傷がつくことによって発生する現象だ。大抵は虚弱になったり肉体的不備がでたりとあまりよろしくない方向に行くことが多い。しかし稀にだが先程の変異した小鬼猿ゴブリンモンキーのように本来の個体とは明らかに違う能力や肉体を得る存在もいる』


「……それで?」


なぜ今そんな話をするのかポーンの考えが読めないスプリング。


『もし……この現象を意図的に操作することができたとしたら?』


「なっ! そんなことができるのか?」


ポーンの言葉に思わず声を荒げるスプリング。


『ああ……私達が誕生した時代、人間は過酷な環境に適応する為に己の肉体にある設計図をいじることによってその環境に適応していった』


自分が存在した時代の事を口にするポーン。しかしその口は何処か重い。


「生物にある設計図……あんまり想像できないな」


ポーンの説明に今一ピンと来ないスプリング。


『うむ、主殿はそれでいい……この技術はある種の禁忌だ……簡単に扱っていいものでは無い』


「……禁忌? ……なあポーン、なんでそんな意味の無い事を俺に話すんだ?」


やはりなぜ自分にこんな事を話すのか理解できないスプリングは率直にポーンに真意を尋ねた。


『……いるんだよ、光のダンジョンに隠された通路の先に意図的に設計図をいじられた魔物達が……』


「なっ!」


 数えきれない程の冒険者や戦闘職によって探索し尽されたと言われている光のダンジョン。その光のダンジョンに未だ隠された通路が存在しているそれだけでも衝撃的なのに、その通路の先には意図的に設計図をいじられ突然変異した魔物達が存在しているということに驚きを隠しきれないスプリング。


『しかも主殿が遭遇したことがあるだろう突然変異した魔物とは桁違いに強い魔物がその通路の先には存在している』


「桁違い……」


 ポーンと出会う前、何度か突然変異した魔物と遭遇したことがあるスプリング。そのどれもが強力な力を持つ魔物であり苦戦を強いられた思い出があるスプリングは、ポーンが口にした桁違いという言葉に更に驚きを増していく。


『主殿、これは試練だ……光のダンジョンの突然変異した魔物達を倒し最奥に到達することが出来た時、今主殿がソフィア殿に抱いている感情……その壁を乗り越えることができる』


「ポーン……」


ポーンに自分の感情が見透かされていたことに今更ながらに気付いたスプリング。


『説明が遅れたが、光のダンジョンの最奥へ向かう目的は私が持つ能力の修復以外に、所有者の力を高める意味合いもある……辿りつけず死ぬ可能性の方が高いこの試練、主殿は受けるか?』


「……」


まだ引き返すことは出来る。まるでそう言っているようにも思えるポーンの言葉。しかしスプリングの答えは一つしかない。


「ああ、受けてやるその試練」


 最強の戦闘職の一つと言われる『剣聖』への道。そして『剣聖』の先に待つ復讐。スプリングには下がることが出来ない理由がある。そして何よりも今は、想い人でありながら好敵手ライバルにもなったソフィアに対しての劣等感を壊す為、スプリングは迷うことなくその足を光のダンジョンへ向けるのであった。



 あとがき


 どうもお久しぶりです、山田二郎です。


 えっと、今回ちょっと短いのですがここで一区切りです。前回以上にあらぬ方向に物語が展開してしまって大風呂敷の上に更に大風呂敷を広げてしまったというのが正直な所です(汗

 とりあえず次回からは再びアキやブリザラの話になる予定……です、多分。


とまあそんな訳でここまで読んでくれた方々ありがとうございます。未だゴールが見えない状況ではありますが、これからも生暖かい目で見てくださるとありがたいです。


それではまた!


2019年11月29日(金) 某荷物を運び絆を繋ぐゲームに心を引かれ過ぎて集中力が散漫しながら……


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