真面目で章 1 (ブリザラ編) 王の盾
ガイアスの世界
ガイアスの世界は神の究極のツンデレのデレから生み出されたと言われている。ツンデレという言葉はガイアスにはないがそう表現するのが一番早い。
ガイアスの産みの親女神フリーダが双頭の双子神の片割れ光のアーギにデレたことでガイアスという世界は産み落とされたと神話で語り継がれている。(もう一度記すがツンデレという言葉はガイアスの世界には無い)
神のツンデレとは一体どんな物だったのだろうか……(しつこいようだが、ガイアスの言葉にツンデレという言葉は無い)
※あくまで噂です
真面目で章 1 (ブリザラ編) 王の盾
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス。
『王よ……目覚めるのだ王よ』
宝物庫に保管されていた特大盾が放った光に飲み込まれ意識を失ったブ『サイデリー』王国、現国王ブリザラ=デイルに対して威厳のある声が語り掛ける。自分に向けられた声に失っていた意識を取り戻しゆっくりと目を開くブリザラ。
『おはよう……気分はどうかな?』
「うん……悪くない」
寝ぼけた表情で自分に話しかけてくる声に返事を返すブリザラ。
『そうか、それはよかった』
ブリザラの返答を聞いた謎の声は安堵の息を漏らした。
「眩しい……」
自分が倒れていた場所に置かれていた特大盾を見つめたブリザラは、その特大盾から発せれる光に目を細めポツリと呟く。
『……ああ、すまない』
ブリザラの呟きを聞き逃さなかった謎の声は何故かブリザラに謝る。すると暗かった宝物庫を照らすように神々しい光を放っていた特大盾の光が弱まり、ブリザラが持っていたランプの灯りより少し明るいぐらいの輝きにおちついていく。
『これで眩しくは無いだろう』
まるで自分が特大盾であるかのように話す謎の声。
「うん、眩しくなくなったわ、ありがとう……ん?」
そこでようやく寝ぼけていた頭が動きだしたのか自分は誰と会話をしているのだろうと首を傾げる。
「……もしかして今私と喋っているのは……そこの大きな盾さん?」
首を傾げたまま、温かみのある光を発する特大盾を見つめボソリと呟くブリザラ。
『ああ私だ』
「……」
特大盾は何かおかしいかというような口調でブリザラの問に答える。人語を話す特大盾を前にブリザラは硬直する。盾が人語を喋るなど考えたことも無いブリザラにとっては当然のリアクションであった。
『王よ……』
それは特大盾にとっても分かり切った事であった。ブリザラが自分に対してどう反応するか大体見当がついていた特大盾は、瞬時に硬直したブリザラが次にとる行動を何通りか予想する。
一つは恐怖に発狂する。本来盾が人語を喋るはずが無いのだ当然の反応である。二つ目はこの状況に耐えきれず再び気絶する。これも有り得ない状況では無い。三つ目は何も無かったようにその場を立ち去る。理解できない事は見なかった事にする、これは人間の防衛本能からくるものであり可能性としてはある。
だがその三つの予測全てが現状、特大盾にとってはよろしくない状況であった。そうならない為に特大盾は先手を打つ意味でブリザラに話しかけた。
「……すっごい、凄いよ! 盾が喋るなんて!」
のだが、ブリザラがとった行動は、特大盾の予測には全て当てはまらず見事に外れた。
特大盾が予測しなかったブリザラの行動、それは全く怖がる事無く、気絶する事も無く、何も無かったと立ち去る訳でも無く、ブリザラは人語を喋る特大盾に目を輝かせ興奮気味に好奇心からの驚きを見せたのだった。
『なッ!』
自分の予想とはかけ離れたブリザラの反応に、逆に困惑する特大盾。
「凄い! 盾が喋るなんて私聞いた事も見たことも無いよ!」
興奮したブリザラの目は、先程特大盾が発していた光よりも綺麗に輝いている。その目には恐怖も疑いも無く純粋な好奇心しかない。
『お、王よ……その……なんだ? 突然盾が喋って怖いと思ったりはしないのか?』
目の前のブリザラは言ってもまだ少女。暗い宝物庫に一人で足を踏み入れること事体本来は有り得ない。そんな状況で突然盾が喋り出せば取り乱すのが普通である。
「ううん 驚いたけど全く怖くないよ」
ブリザラは、年齢相応の無邪気な笑みを特大盾に向けながら首を横に振る。
『そ、そうか、怖くないのか……ならば話は早い、王よ、私は自己紹介をしたいのだがよろしいか?』
混乱が覚めないまま特大盾は、己が何者であるかを語りたいと純粋な好奇心で見つめてくるブリザラに告げる。
「うんうん、いいよ……私はね、ブリザラ=デイル、よろしくね!」
『そ、そうか……』
頭をブンブンと縦に振り、特大盾の申し出を了承するブリザラ。しかし子供特有といえばいいのだろうか、目の前の特大盾に対して興奮しているブリザラはなぜか自分の自己紹介をはじめる。
「私の好きな食べ物はね……城下町のお菓子屋さんに売っているケーキ! 宮殿で出てくるケーキは甘すぎるの、嫌いでは無いけれど城下町のお菓子屋さんのケーキは甘すぎなくて私は大好き!」
正直特大盾にとってはどうでもいい話が次から次へとブリザラの口から語られていく。あまりの勢いに特大盾はブリザラの話を切る事が出来ず己の事を話すタイミングをどんどん逃していく。
「はぁ……こんなに喋ったのは久しぶり、宮殿には私ぐらいの子供が居なくて皆大人だから難しい話しかしないの……」
気が付けばいつの間にかブリザラの話は、日ごろから抱いていた不満を愚痴るものへと変わり、自己紹介からどんどんかけ離れていく。
宮殿には同世代の子供は一人もおらずブリザラはいつも一人で遊んでいた。周囲の大人達は王であるブリザラを子供としてでは無く王として扱う為、誰もブリザラと遊んではくれない。唯一かくれんぼの相手をしてくれたガリデウスもブリザラと遊んでいた訳では無く勉強をさせる為にブリザラを追いかけていただけであり遊んでいた訳では無い。城下町へ下り町の子供達と遊んだりもしていたが、それも先代の王が亡くなりブリザラが王になってからは色々と難しくなっていた。
そんな時、宝物庫に保管されていた喋る盾がブリザラの前に姿を現した。周囲の大人と同じような喋り方をするが、ブリザラはなぜか瞬時に理由の分からない親近感を特大盾に覚えたのだ。そして何より喋る盾ならば、周囲の大人に普段話せないような他愛無い話をしても怒られることも呆れられる事も無い。例え怒られ呆れられてもかまわないのではないかとブリザラの口を饒舌にさせていた。
「……そう言えば、盾さんは名前があったりするの?」
怒涛に喋り続けたブリザラは、満足したように軽く息を吐くとようやく特大盾が本来話したい話題を口にする。
やっとかと、特大盾は思いつつようやく話を聞く体勢に入ったブリザラを見つめる。
『王よ、私の名はジョブアイズだ』
自己紹介の始まり。特大盾は自分の名を口にする。しかしブリザラはキョトンとした顔で盾を見つめる。そこでジョブアイズと名乗った特大盾はある事に気付いた。
『……ああ、この世界で私の言葉は聞き取りにくかったな……ならば……』
「ジョブアイズでしょ、ちゃんと聞き取れるよ、でもなんか名前には聞こえないね」
ガイアスの人間には自分の名が聞き取りにくい事を失念していたジョブアイズは、自分の名を言い直そうとする。しかしその言葉を遮るようにブリザラは、しっかりとジョブアイズの名を聞き取り発音してみせジョブアイズに笑顔を向ける。
『……!』
特大盾であるジョブアイズに顔は無い。しかし顔があるとすれば驚愕の表情を浮かべるジョブアイズ。
「どうしたの?」
驚きから言葉を失っているジョブアイズを不思議そうに見つめるブリザラ。
『……王は本当に私を驚かせる』
「そう?」
自分がどれほど凄い事を口にしたのか理解していないブリザラは、ジョブアイズが何に驚いているのか理解していない。
ジョブアイズという言葉は、ガイアスで使われる共通語では無く、ましてや他の言語でも無い。ジョブアイズとはガイアスには存在しない、文献すら残っていない言語だからだ。そんな聞いた事も見たことも無い言語を一発で聞き取り口にしたという事は、ジョブアイズが誕生してから今まで有り得ない事であった。
『……王は資格を持っているのかもしれないな……』
「資格?」
それ故にジョブアイズは、目の前の少女ブリザラに自分の所有者としての運命を感じた。
『いや、こちらの話だ、王が嫌でなければ私の事はジョブアイズでは無くキングと呼んでくれ』
純粋に真っ直ぐ自分を見つめるブリザラに特大盾は、ジョブアイズ改めガイアスの共通語でキングと名乗った。
「キングって……王様って意味だよね、それって私と同じだね!」
自分と同じ呼び名を持つ存在キングに更に親近感を覚えたのかブリザラは満面の笑みを浮かべ嬉しそうにキングにそう答えた。
『……王よ、今日から私は王の物だ、王を守る盾としてこの身を捧げよう』
『サイデリー』王国にある氷の宮殿の地下の宝物庫に保管されていた特大盾、その正体は伝説と呼ばれる盾であった。その伝説の盾キングは、ブリザラを自分の所有者と認めその身を所有者であるブリザラに捧げる事を宣言する。しかしキングが宣言した瞬間、キングに触れていた手が離れ体を強張らせるブリザラ。満面の笑みを浮かべていたはずのブリザラの表情は一瞬にして暗いものになっていた。
『どうした王よ?』
突然様子が変わったブリザラを今度はキングが不思議そうに見つめる。
「……駄目……」
ポツリと呟くブリザラ。しかし何が駄目なのかキングには分からない。
「キングは、国を守ってくれる兵士さんや私の周りにいる家臣さんみたいなこと言わないで!」
『サイデリー』の象徴であるブリザラは王国を守る兵達や家臣達にとって決して失ってはならない存在である。それ故にその身を捧げブリザラを守る事を第一にしている兵や家臣達は己の忠誠心を見せる為に多用する言葉でもある。しかしブリザラはその言葉が大嫌いであった。身を捧げるという事はブリザラの為ならば死ぬことも覚悟しているという事であるからだ。幼いながらにその言葉の意味を理解していたブリザラは自分の為に死んでほしくはないと考えていた。
「私とキングは同じなの、だからキングは私の前に行かないで、私の横にいて」
幼く拙い言葉。しかしキングは目に大粒の涙を溜めた幼い少女の言葉の意味をしっかりと理解した。ブリザラは守られたい訳では無く共にありたいのだと。
《……なるほど……あの者達にソックリだな》
遠い過去、もうどれほど前か定かでは無い記憶を思い出しキングは目の前に居るブリザラでは無く、その場にはいない誰か達に向かってポツリと呟いた。
『御意……いや、分かった。 王のその言葉深く刻むことにしよう』
盾という性質上、ブリザラの身に何かが起こった時、キングがブリザラの横に並ぶ事は決して無い。しかしブリザラが抱く想いだけはしっかりと汲み取り対等であろうと心に決めるキング。
そこには幼い少女の姿があったが、その心は気高く美しく、そして立派な王のものであるとキングはブリザラの王としての資質を実感する。
『さて王よ、王の横に立つと約束はしたが、私は盾だ、その役目を果たさなければ自分の存在理由が失われてしまう、王よ私の存在理由が失われない為にも私を手にとり持ってみてもらえないか?」
自分の存在理由を証明する為、手に持ってくれと不安そうな表情を浮かべるブリザラに頼むキング。ブリザラは涙を拭いながらコクリと頷くと、恐る恐る両手でキングに触れる。
『さあ、持ち上げてみてくれ』
「うん」
まだ13という年齢の少女に特大盾を持ちあげろと無理難題を言うキング。
「うぅぅぅぅん、うぅぅぅぅん……」
当然ブリザラが持ちあげようとした所でキングは持ち上がらない。そもそもただの盾では無く、ブリザラの体を覆ってしまう程の特大盾であるキングは、成人女性でも持ちあげる事は出来ず大の男であっても例え持ち上げられたとしても盾として利用するには難しい程の重量を持っていた。
しかしそれでもブリザラはキングを持ち上げようと必死で踏ん張る。キングを持ちあげようとするブリザラの今の姿をガリデウスがみたらは発狂するかもしれない程にブリザラははしたない姿をしていた。だがそんなはしたない恰好で力んでもやはりキングはピクリとも動かない。
『……うむ、やはりそうか、王よ……残念だが今の王の力では私の事を持ちあげることは出来ないようだ』
大の男でもしっかりと持ち上げる事が出来ないキングを13歳の少女が持ちあげられるはずがない。当然キングもそれは理解していた。
「えぇぇぇぇ!」
キングに抗議するようなブリザラの声が宝物庫に響き渡る。
『残念だが今はその時では無い、その時が来たら時もう一度私を手にしてくれないか?』
キングはただ悪戯にブリザラに自分を持ちあげろと言った訳では無い。それにはブリザラの筋力がどうこうという話では無く違う意味が隠されていた。
「……その時って何時?」
ブリザラはその時が何時なのか真顔でキングに聞いた。
『さあ、それは私にも分からない……』
それはキングにも分からない。しかし願うならばブリザラが自分を扱うような状況にはなって欲しくは無いと思うキング。
キングの所有者であるブリザラがキングを扱う事が出来るようになった時、大小程度はあるがブリザラが戦いに巻き込まれる事を意味しているからだ。できるならば自分はこの暗い宝物庫で埃をかぶっている方がブリザラにとっては良いのだとキングは重ねて思う。
「うーん……分かった! 絶対キングを迎えにくるから! 待っていて!」
キングの想いを知る由も無いブリザラは両手で握り拳を作りながらキングを扱えるようになる事を宣言する。
『ああ、待っている』
このまま何事も無く平和であってほしいと願いながらキングは気合の入ったブリザラの言葉に答えるのであった。
《彼の遺言通りに私は王の話し相手になれればいいのだ……》
キングはブリザラが去り静寂が戻った後の宝物庫で旧友と交した約束を思いだしていた。そして自我を持った伝説の盾は、自分が目覚めた理由を考える。
《これがただの何の変哲も無い出会いであってほしいが……そうは……ならないのだろう》
遠くない未来でブリザラと再会することになるのであろうと予測したキングは、再度これがただの変哲も無い出会いであってほしいと願うのであった。
それは宝物庫でキングとブリザラが出会ってから次の日のことであった。静寂が漂う宝物庫に鉄の扉が開く音が響く。
「キング! 遊びに来たよ! 光を灯して!」
駆け寄ってくる足音と同時にブリザラの声が静寂であった宝物庫に響く。
『ど、どうした王よ、まだ約束の時ではないはずだが?』
遠くない未来に再び出会う事は分かっていたが、まさか出会って次の日にブリザラがやってくるとは思わなかったキングは、何事かと慌てるように己の体、特大盾を光らせた。その光を辿りながらキングの元へと駆け寄ってくるブリザラ。
「へへへ、いつキングを扱えるようになってもいいようにこれから毎日キングの所にくるからね!」
その無邪気な笑顔はまだ幼さの残る少女、何千何万の国民を見守る王とは誰も思わない。ブリザラの行動に呆れながらも笑いがこみ上げてくるキング。
「ねぇお話しよう?」
ブリザラは小首をかしげながら目の前の伝説の盾キングに対して無邪気に微笑むのであった。
「おはよう……キング」
『ああ、おはよう王よ』
真っ暗な宝物庫にブリザラの声が響く。するとブリザラの声を合図に宝物庫が明るくなる。周囲が明るくなった宝物庫の最奥には柔らかい光を放つキングの姿があった。
ブリザラとキングが出会ってから二年、宝物庫はブリザラが過ごしやすいようテーブルや椅子が置かれていた。ブリザラは椅子を手に持つとキングの隣に移動して椅子を置き座る。
まだ幼さは残るものの、少女から女性の階段を駆け上がるブリザラの容姿は美女と言っていい程に美しくなっていた。
「聞いてよキング、またガリデウスが……」
しかしその美しい容姿から発せられる言葉はまだ少女のようで、小言が多いガリデウスの愚痴を話そうとするブリザラ。しかし何処かいつもと様子が違うキングに言葉を止めるブリザラ。
「……どうしたのキング?」
ブリザラとキングの間に殆ど隠し事は無い。二年という歳月でブリザラとキングは強い絆を築き、ブリザラは一見変化の無い特大盾、キングの表情を読み取れるまでになっていた。そのキングの表情が強張っている事に気付いたブリザラは、心配そうに声をかける。
『……王よ……とうとうこの日が来てしまった……この日がこない事を願っていたのだが……』
低いキングの声が重々しく宝物庫に響く。その声にブリザラはその日が来た事を理解した。
「そうか、私やっとキングを正式に扱えるようになったんだね」
『……王よ……今まで言わなかったが、王が私を扱うということは……』
「うん、この二年で何となく理解した……キングはただ人の言葉が喋れる盾じゃ無い事は……」
宝物庫で出会ってから二年、キングとブリザラは他愛無い話から真面目な話まで色々な話をし続けた。その結果ブリザラはキングという存在がガイアスという世界の中で異端である事を何となく理解していた。
『そうか』
ブリザラの言葉に驚く訳でも無く納得するに返事を返すキング。
「例え……戦いに巻き込まれたとしても私はキングと一緒に居られればそれだけで嬉しい」
『……』
盾とは決して鑑賞される為でも無ければ宝物庫で埃を被っているものでは無い。その本質は戦いの場にこそある。ブリザラがキングを手にするという事はブリザラの意思に関係無く戦いに巻き込まれる可能性があるという事。だがブリザラはそれでもいいとキングに触れる。
「もう私にとってキングは大切な友達だもの、もしキングに抗えない運命があるなら、私も友達として一緒にその運命に足を踏み入れるよ」
『王……』
キングは自分に触れるブリザラの手から緊張を感じ取る。それも当然だ。言ってもブリザラはまだ15歳。大人への階段を着実に上り始めたと言ってもまだ少女の面影を残す女の子だ。これから先、戦いが待っているかもしれないという恐怖をすんなり受け入れる事が出来るはずも無い。だがキングは自分に触れたブリザラを止めない。ブリザラの手や表情から緊張以上に自分達に待っている戦いへの覚悟を感じたからだ。
「行くよ」
『ああ』
ブリザラの掛け声に合わせるように返事をするキング。すると次の瞬間、キングは宙に浮いた。自分を覆い隠す程に巨大な盾をブリザラはその細い両腕で軽々と持ち上げていた。
「やった! やったよキング持ち上がったよ! しかも凄く軽いよ!」
キングを持ちあげる事が出来たという事実がブリザラの不安や恐怖を吹き飛ばす。二年前からこの日を夢見ていたブリザラはその夢が現実になった事を噛みしめながらキングを高らかに掲げる。
『ああ、よくやったぞ王』
複雑な心境ではあるものの、キングは自分を真っ直ぐに受け入れここまで喜ぶブリザラに労いの言葉をかける。
「やった! これでこれからは色々な景色を一緒にみる事ができるね!」
この二年、ブリザラにとってキングとの会話は楽しいものばかりであった。だが我儘を言えば宝物庫から出られないのが唯一不満であったブリザラはその喜びのあまりキングを持ったままグルグルと回りだす。
『お、王よ、危ないからやめなさい』
幼い子供のようにはしゃぐブリザラをまるで優しい父親のように叱りつけるキング。三半規管の無いキングは目が回る事は無かったが、いつ自分が周囲にある棚にぶつかるか冷や冷やするからだ。
「大丈夫!」
ピタリと回転する事を止めたブリザラは満面の笑みを浮かべる。
「……あのね……キング、ありがとう」
『どうした急に?』
突然の感謝の言葉に戸惑うキング。
「……お父様が亡くなってさびしくて辛かったあの頃からずっと私を支えてくれてありがとう」
二年前、父親の死をきっかけに心に大きな穴が開いていたブリザラ。その穴を埋め常に支えてきたのは、宮殿にいる大人達では無くキングであった。
『何を言っている……私が王を支えるのはこれからが本番だ、私は王が死ぬまでずっと横に並び続けると自分の心に誓ったからな』
初めての出会いから二年。ブリザラは伝説の盾キングの正式な所有者となった瞬間であった。
― 幼き王が誕生する少し前 ―
サイデリー王国、氷の宮殿地下へと足を踏み入れる男。体調が優れないのか男の顔色は凄く悪い。しかし何が男を駆り立てるのか、体調が悪いにも関わらずしっかりとした足取りで地下へ続く階段を下りていく。階段を下ると男の前には宝物庫の扉が姿を現す。その扉に手をかけた男は躊躇することなくその扉を開く。
男の前には吸い込まれそうな程の暗闇が広がる。しかし男は暗闇へ歩き出す事をせず何かを待つように扉の前で佇む。すると男の視線の先にポツリと光が浮かぶ。その光は広がり一瞬にして暗闇であった宝物庫を明るく照らす。
弱々しくニヤリと口元を綻ばせた男は迷うことなく発せられる光の下へと足を進めていく。
『……久しいな……王よ息災か?』
どこからともなく聞こえてくる声。だが男はそれに驚く素振りは見せず更に歩みを進め、光の発生源である特大盾に立った。
「ああ、久しいなキング……息災? それは皮肉か?」
長年の旧友に再会した時のように親しい笑顔を浮かべ自分の前に置かれた特大盾をキングと呼び軽口を叩く男。しかしその笑みに力は無くその言葉には自虐が籠っているようにも聞こえる。
『王になって以来、顔を見せなかったお前が今日はどうしたのだ?』
久々に対面した男のやつれた表情にキングは男が何をしにこの場にやってきたのかおおよそ見当がついた。だがあえて目の前の男の口からこの場にやってきた理由を聞こうと、男の容態に気付かないフリをした。
「ふふふ、気付いている癖に人が悪いなお前は……」
『残念ながら私は自我を持ってはいるが人では無い』
「ふっ、頭が堅いな……キング……」
キングの言葉に弱々しく笑みを浮かべる男。
「どうやら私は近い内に死ぬようだ……その前に、最後にお前に会っておきたくてな」
自分の運命をすでに受け入れたというような口調で最後にキングに会いたかったと口にする男。
「……それと一つお前に頼みがある」
『頼み?……』
自分の命が僅かだというのに笑みを浮かべていたはずの男が真剣な表情でキングを見つめる。男のその表情にそちらが本題かとキングは身構えた。
「……娘の事だ……」
『ブリザラ……だったか?』
「ん? ……なんで娘の名を知っている!」
宝物庫から出る事が出来ないはずのキングがなぜ娘の名を知っているのかと驚きの声を上げる男の表情は病を患う顔から一瞬にして父親の表情へと変わる。
「お前……もしかしてブリザラを狙っているのか!」
『お、おい、あまり興奮するな』
病を患い死が近いというのに何処にそんな力があるのかというぐらいに男は興奮しながらキングを怒鳴りつけた。興奮した男の様子に思わずキングは心配の声をかける。
「はぁはぁ、すまない、取り乱した……娘の事となるとどうもな……」
我に返った男は両手で自分の顔を覆う。その姿を見ながら子供であった頃の男の事を知っているキングは時がしっかりと流れている事、目の前の一国の王が人の親になっていた事を実感する。
『私は周囲の状況を確認する力がある……お前の娘もあった事は無いが大体のことは理解しているつもりだ』
キングの言葉は嘘であった。大体では無く下手をすれば父親である男よりも理解している。しかしそれを口にすれば再び男が興奮しかねないとキングは嘘をついた。
「そ、そうか……重ねてすまない……」
「ふふふ……そうか……お前が父親か……』
子供であった頃の男を知っているキングにとってそれは考え深いものであった。
「……はぁ……どうやら少し甘やかしすぎたようでな……」
『ああ、少しじゃなく盛大に甘やかしていたな……』
キングの言葉に咳をして誤魔化す男。
「……これはあの子の親としての贔屓目では無く『サイデリー』の王としの直観だが、あの子は『サイデリー』の歴代の王の誰よりも王の資質を持っていると私は思っている……だが……あの子には今まで何一つ王としての教育をしてこなかった……私が死んだ後、あの子はこの国になる……だがきっと何も出来ない自分に歯がゆさや苛立ちを抱くだろう……周囲の大人達を自分の敵のように感じるかもしれない……だから頼むキング、もしあの子がこの場所に来る事があったら、あの子の味方であってくれ」
自分が居なくなった後の娘の心配をする男は、自分の代わりにブリザラを見守ってやってくれと頼み込んだ。
『……なるほど、お前の代わりに父親をやれというのだな……』
「そうだ……頼む」
キングに頭を下げる男。一国の王が頭を下げる。それは滅多に無い事であり有り得ない事である。しかし『サイデリー』の王は違う。国の為、そこに生きる人々の為ならば王というプライドなど軽く捨てさり頭を下げるのだ。それは初代『サイデリー』の王も同じであり、つくづくこの男に流れる血は濃いものだと思うキング。
『王の頼みしかと引き受けた』
男の頼みに同意したキングは、つくづく自分は『サイデリー』の王達の事が気に入っているのだと思うのであった。
数カ月後、男は家臣達や自分の娘に看取られながら息を引きとった。『サイデリー』王国、国王アイザラ=デイルの死は、国中の人々を悲しみに包み込んだ。
男の死から数日後、娘であるブリザラが王へと即位することが決定、その玉座へと腰を下ろす事になった。
そして男の想像通りブリザラは悲しみや不満を心に抱きながら父の面影を道標にしてキングが保管されている宝物庫に足を踏み入れるのであった。
登場人物? 7
伝説の盾 キング (ジョブアイズ)
氷と雪が一年の大半を占めるガイアスにある大陸の一つ『フルード』。その『フルード』大陸でもっとも巨大な国、『サイデリー』王国の中心部、氷の宮殿地下には宝物庫がある。その宝物庫の中で保管されていたのが伝説の盾キング。
どういう経緯で『サイデリー』王国の氷の宮殿にある宝物庫に保管されたのかは分かっていないが、初代から歴代の『サイデリー』王と関わりがあるらしい。
先代の王、ブリザラの父からの頼みでブリザラを支える事を任された。しかしブリザラにはキングを扱う資質があり、キングはブリザラを自分の所有者と認めることになった。
その能力はまだ明らかになっていないが、他の伝説の武具達よりもその知識量は膨大であるらしく、ガイアスの事は殆ど分かっているようだ。
盾であるが故に殆ど攻撃に対しての力は無いようだが、防御に関しては右に出る者はいないらしい。