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真面目で章(ソフィア編)3 偽物

ガイアスの世界


インセント以外の『剣聖』


 当然インセント以外にも『剣聖』は存在する。しかしその戦闘職柄、新たな剣を求め放浪する者が多く一か所に留まることが殆ど無い。そのため生死不明な者が多く正確な人数が分からない。

 インセントのように大量の剣を精製して戦うタイプの『剣聖』がスタンダードではあるが、中には一本の剣だけを使い続けるような特殊なタイプの『剣聖』もいるようだ。

 基本的に『剣聖』は剣マニアであり変わり者が多いと言われていたり言われていなかったりするようだ。





 真面目で章(ソフィア編)3 偽物




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 間違い無くガイアスの人間の中で最強の一人に数えられるだろうインセント。戦闘職の最高峰、『剣聖』としてその名をガイアスに轟かせるインセントは『剣聖』が持つ能力の一つである武器精製によって作りだした刀をソフィアに投げ渡した。

『剣聖』が作りだした刀を投げ渡されたソフィアはその瞬間、体中に雷が走ったような衝撃を感じた。

 インセントが作りだした刀を手にした瞬間、ソフィアはその刀がまるで自分専用に作られた物のように感じたからだ。

 手にした刀はしっくりとソフィアの手に馴染み自分の手の延長のようにさえ感じてしまう。そしてまだ一度も鞘から抜いていないにも関わらず、その刀が恐ろしい程の切れ味を持っていることを理解してしまうソフィア。

 更には刀自身が持つ性能が自分の中に眠る潜在的な力を引きだそうとしているのを感じるソフィア。


「……フフフ……」


 肩を震わせ笑うソフィア。だがそれは少女の笑みとは違う、狂気めいた笑み。吊り上がった口は暴力的でいて心底喜びに満ちている。インセントから刀を手にしたのを引き金に、ソフィアの中には形を潜めていた攻撃的な感情が増幅していく。


「……そう、俺は嬢ちゃんのソレを見たかったんだ……」


そうなることが分かっていたというようにインセントは、対峙するソフィアの表情を見ながらあの夜のことを思い出していた。強さに餓え狂気に満ちたあの夜のソフィアのことを。


「……」


刀を手にしたソフィアはすぐさま抜刀術の構えをとる。しかし先程までの静かな構えとは違いチンチンと甲高い音を鳴らし始めるソフィア。その音の正体はソフィアが手にした刀の鍔と鞘がぶつかりあう音であった。


「そ、ソフィア……」


まるで早く刀を抜きその切れ味を確かめたいというように落ち着きが無いソフィア。先程その身でソフィアの抜刀術を味わったスプリングは明らかにその時とは様子が違うソフィアに声をかけた。しかしソフィアは一切の反応を示さず対峙するインセントを見つめ続ける。


「……分かるぜ嬢ちゃん、新しい得物を手にしたら試したくなるよな」


はやる気持ちを抑えられないソフィアの姿に理解を示すインセントは武器精製によって何処にでもあるような長剣ロングソードを作りだすとそれを肩で担ぐ。


「ふぅーふぅー」


我慢の限界というように荒い息を上げるソフィアは、今にも飛びかかりそうな表情でインセントに狂気の笑みを向ける。


「お、おいインセント! 一体ソフィアに何をした?」


訳が分からず一人取り残されたようなスプリングは、明らかにソフィアの異変を誘導しただろうインセントに説明を求めた。


「……女の背に隠れるようなヘタレは引っ込んでろ……今は俺と嬢ちゃんの時間だ」


「なにッ!」


インセントの口から放たれる安っぽい挑発に前に出ようとするスプリング。しかしソフィアの前に出ようとした瞬間、スプリングは背筋が凍るような寒気を感じた。


「駄目……スプリングは邪魔しないで」


寒気の正体はソフィアだった。ソフィアとスプリングの間には今、見えない一本の線が引かれていた。その線を超えれば例えスプリングであってもと警告するようにソフィアの鋭い殺気がスプリングの一歩を阻んだのだ。


「ッ……!」


ソフィアのその声を聞いた瞬間、スプリングの脳裏にはあの夜の光景が蘇る。そこでようやくスプリングは気付いた。あの夜、人間の天敵であるはずの夜歩者ナイトウォーカーを圧倒する戦いを見せた少女が再び自分の目の前に姿を現したのだと。


「……お試しだ、まず俺から仕掛けてやる」


 様子が変わったソフィアの力を見定める為か、インセントはお試しと称して初手の攻撃を宣言するインセント。


「そいじゃ行くぞ」


肩を上げその反動を利用して長剣ロングソードをソフィアに目がけ振り下ろすインセント。長身のインセントから繰り出された長剣ロングソードの一撃は、長剣ロングソードであるにも関わらず大剣や特大剣のように風を切り裂く轟音を響かせソフィアに迫る。


「アハッ!」


跳ねたような短い笑い声を上げたソフィアは、長剣ロングソードの一撃とは思えないその攻撃に合わせ腰に差した刀を一瞬で抜いた。

 その瞬間、金属同士がぶつかり合う鈍い音がガウルドの草原に響き渡る。するとその衝撃に耐えられなかったのか二人の周囲に生えていた草花が一瞬にして散って行く。


「……ふむ、合格だ、よく俺の振り下ろしを防いでみせた」


インセントが振り下ろした長剣ロングソードはソフィアが抜き放った刀によって止められていた。


「止めた……」


インセントが振り下ろした長剣ロングソードによる一撃を見事に防ぎきったソフィア。その光景が信じられないというように一歩後退するスプリング。これがただの剣士相手ならばスプリングもさほど驚きはしない。今のソフィアの実力があればただの剣士の一撃を受け切ることは十分に可能であることは理解しているからだ。だが今ソフィアが対峙している相手はただの剣士では無く剣の道を極めたと言っていい『剣聖』なのだ。本気では無いにしろ『剣聖』が放つ一撃は物理的な意味でも精神的な意味でも重いのだ。スプリングですらしっかりと防げるようになるまで数カ月を費やしたというのに、それを初めてで防ぎったという事実はスプリングを驚愕させた。


「……強い……強い……アッハッ! もっと、もっと!」


本気ではないとは言え『剣聖』の一撃は重く防ぎきったとしてもそれだけで体力をそがれてもおかしくは無い。それにも関わらずソフィアはまるでその一撃を楽しんだというように狂気に満ちた満面の笑みを浮かべながら長剣ロングソードを手に持つ刀で弾くと深くインセントの懐に踏み込んだ。


「ほほう……」


深く懐に踏み込まれたインセントはそこから更に一撃を繰り出そうとするソフィアの姿に笑みを浮かべる。

 次の瞬間、再びガウルドの草原に響く金属同士がぶつかり合う鈍い音。


「初めて俺の一撃を受け切った時、お前は反撃する余裕は無かったよな」


過去にスプリングとした訓練した時の事を思いだしそうスプリングに声をかけながら弾かれたはずの長剣ロングソードでソフィアの深い踏み込みによる一撃を防いでいた。


「あああああああ!」


攻撃を防がれたというのに喜びに満ちた奇声を発するソフィアは、そこから畳みかけるように刀でインセントに連続で斬りかかる。しかし右から左から無軌道に叩き込まれるソフィアの攻撃を長剣ロングソードで全て受け切るインセント。


「えへへへ……強い……強い!」


全ての攻撃をいなされたソフィアは一旦距離をとりながら、喜びに打ち震える。


「……ふふふ、そんなに楽しいか嬢ちゃん?」


どう見ても正常では無いソフィアの姿に楽しいかと話しかけるインセントは、手に持っていた長剣ロングソードを突然消し去った。


「……」


すると今まで狂気に満ちた満面の笑みを浮かべていたソフィアの顔が曇る。もう終わりなのかとまだ続けたいという意思が曇った表情には現れていた。


「そんなに落胆するなよ」


そう言いながらインセントは消えた長剣ロングソードの代わりといわんばかりに今度はその手に大剣を作りだした。


「ア八ッ! やった!」


大剣を手にしたインセントの姿に曇っていた表情が狂気に満ちた笑みに戻るソフィア。


「次はこれだ、この重さ受け切れるか?」


先程まで手にしていた長剣ロングソードとはその使用用途が明らかに違う大剣。相手を切り裂くでも無く突きさすでもなく相手を押し潰すことを目的とした大剣は、一撃でも喰えばその重量によって肉は愚か骨まで軽々と押し潰す。そんな相手を押し潰すことに特化した重量のある大剣を軽々と片手で持つインセントはそう言いながら距離をとったソフィアに詰め寄る。


「……!」


大剣の影響で重量が増したというのに、その重さを感じさせないインセントの動きに一瞬目を丸くするソフィア。そこから容赦なく振り下ろされる大剣に対して丸くなっていたソフィアの目は喜びに変わる。


「うああああああああ!」


どう考えても細い刀身の刀と大剣では重量に差がある。それにも関わらずソフィアは振り下ろされる大剣に対して刀の刃を交わらせに行った。当然このまま両者の刃が交われば大剣の圧倒的な重量によって細い刀身である刀が砕けるのは確実であった。しかしそうならないのが刀の持つ凄さである。

 戦場で戦う傭兵はその見た目から強度に不信感がある刀を使おうとはしない。長期戦になった場合に得物が折れればそれは死に直結することになるからだ。そのため傭兵の過半数は明らかに強度が高いと思われている剣を愛用する者が多い。しかし傭兵たちの過半数は刀の本当の性能を知らないのだ。

 確かに実力が無い者が持つ刀は折れやすいし実力の無い鍛冶師が打った刀も当然折れやすい。だが刀の能力を十分に引き出すことが出来る実力を持った者か刀の能力を十分に引き出すことが出来る実力ある鍛冶師が打った刀のどちらか状況が揃った時、刀は化ける。

 どれだけ堅い防具も一太刀で切り裂く切れ味、どれだけ敵を切り裂いても刃こぼれ一つない強度、刀は恐ろしい武器へと化けるのだ。


 大剣と刀がぶつかり合った瞬間、三度ガウルドの草原に金属同士がぶつかり合う鈍い音が響き渡る。だが今回はそれだけにとどまらず金属同士が擦れるような音が続いて響く。

 インセントが振り下ろした大剣を一度刀で受けたソフィアは、刀の刃を大剣に刃に滑らせることによって自分に圧し掛かる重量を分散させていたのだ。だがそれは大剣の重量から逃れる為の動きでは無かった。

 大剣の刃を滑るソフィアの刀の軌道はインセントを倒す為の攻撃に転じていたのだ。不快に感じる甲高い音を上げながらソフィアが持つ刀はインセントの首を狙う。


「ガハハ!」


 新米とは思えないソフィアの動きに思わず豪快な笑いを漏らすインセント。しかし表情は笑っていてもその手はしっかりと迫りくる刀の刃に対して対応する。完全に振り下ろした大剣を強引に自分の下へ引き寄せたインセントは迫りくる刀の軌道を強引に捻じ曲げたのだ。


「ガッハハ、まだ甘い!」


自分の体に引き寄せた大剣を盾にするように構えたインセントはそのままソフィアに突進する。


「ぐふぅ!」


大剣の重量とインセント自身の体重が乗った突進は刀で防げるようなものでは無くソフィアはその突進を間ともに受け弾かれるように宙を舞った。


「ソフィア!」


まるで木の葉のように舞い上がったソフィアを見上げるスプリング。


「……ふふ……ふふふふ」


 インセントの突進をもろに受けたはずのソフィアは、笑いながら自分の意思で宙を舞っていた。それは盗賊時代に身に着けた身軽さによるものなのだろう、着地の衝撃を和らげる為に体を二回転三回転、時には捻りを入れながら静かに地面に着地するソフィア。無傷とは言えないが、インセントの突進を受けて尚、笑うだけの余裕を持つソフィアの姿に驚きの表情を浮かべるスプリング。


「まさか……突進の瞬間に後ろへ飛んで衝撃を和らげたのか……」


 本来ならば良くて全身骨折、悪ければ即死、それほどまでにインセントの突進は強力なものであった。それを受けて尚、まだ戦う意思をその表情に宿すソフィアは、突然インセントが放った突進に対して咄嗟の判断で後方へ高く飛ぶことによって本来体にかかる衝撃を最小限に和らげることに成功していたのだ。 しかしそんな芸当、例え何かしらの影響で身体能力が高まっていたとしても、そう易々とできることでは無い。それは間違いなく盗賊の時に得た経験と、ソフィア自身が元々に持つ戦闘才能バトルセンスの賜物であることを痛感するスプリング。ソフィアはインセントとの戦いの中で恐ろしいほどの速度で成長しているのだ。


「まだやれる……まだ戦える!」


即死もあり得るほどの攻撃を自分に放ったインセントに対し、まだ物足りないと戦う事を懇願するソフィア。


「……いいぜ……と言いたい所だが、残念……お前の宿主の体はもう限界だ……」


「限界?」


インセントの言葉を理解できないというようにソフィアは首を傾げる。その瞬間、ソフィアは地面に崩れ落ちた。


「ふぅ……想像よりも嬢ちゃんの体力があって冷や冷やしたぜ……」


「私は……まだ……戦える」


突然崩れ落ちたソフィアは、力の入らなくなった体に無理矢理力を入れ立ち上がろうとする。だが限界に達した四肢が痙攣を始め立ち上がることが出来ない。


「残念だったな、偽物レプリカ……お前の望みは叶えられないぞ」


「私は……私は……まだ……」


痙攣した手をインセントに伸ばすソフィアはそう言いかけ意識を失った。


「……人間の意思を支配しちまう程の強い自我……偽物レプリカでもさすが古代兵器ロストウェポンって所か……」


意識を失ったソフィアが腕に身に着けている手甲ガントレットを見ながらそう呟くインセント。


「……古代兵器ロストウェポン?……」


聞きなれない言葉を口にするインセントに思わず聞き返すスプリング。


「……なぁ、あんたもこの偽物レプリカのように最終的にはスプリングの肉体を奪うことが目的なのか……ポーン?」


そう言いながらスプリングの腰に吊るされたポーンに視線を向けたインセントの周囲の空気はまるで針のように鋭く鋭利なものへと変わる。


「……いや、古代兵器ロストウェポン、ジョブマスター……」


『……』


ガイアスの人間では聞き取れず発音することが出来ないはずのポーンの真名。それを口にするインセントは、今の今まで一切見せることの無かった敵意をポーンに向けるのであった。



ガイアスの世界


偽物レプリカ


 ソフィアが腕に身に着けていた手甲ガントレットをそう称したインセント。どうやらポーンと関係があるようだが現在の所は不明。

 なぜインセントが偽物レプリカを知っていたのか、それも不明である。


 

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