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真面目で章(スプリング編)14 実力差

ガイアスの世界


 『剣聖』にすら感じとらせないポーンの気配


ガイアスで最強の一人と言われるインセントにすら悟られることが無かったポーンの気配。

 まあ、自我を持つと言っても結局は武器、物なので元々に気配が存在しないのが事実。

しかしある一定内の人々は物であるはずのポーンの気配を感じ取ることが出来る。それは……一流と言われる武器鍛冶師だ。

 鍛冶師は何百何千という武器や防具を製作する中で、物の気配すら感じ取れるようになると言われている。しかし普通の人には全く理解されず変人扱いされることが殆どだと言われている。




 真面目で章(スプリング編)14 実力差




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 一度ガウルドの外から帰還したスプリングとソフィアが、僅か数分足らずで再び外へ出て行くその姿に、先程と同じく門を警備している門番は不思議そうに首を傾げていた。


「……外に出たということは……」


自分達の前を歩くインセントの背を睨みつけながらスプリングは外に出た理由と問う。


「……ああ、そういうことだ、スプリングと嬢ちゃんの今の実力を確かめたい」


スプリングが考えていることと一緒だと言わんばかりにガウルドの外に出た理由を口にするインセントは、スプリング達に顔を向ける。


「な、何でそんなことを?」


 相手はガイアスで最強の戦闘職の一つとも言われる『剣聖』。今の自分達では到底相手にならないことを理解しているソフィアは、なぜわざわざ勝敗が分かり切った戦いをしなければならないのか首を傾げた。


「そりゃ気になるからだな、伝説の武器を手にした弟子と俺にとっちゃ孫弟子にあたる嬢ちゃんの実力を確かめたくなる……こりゃ師匠としての性ってやつだ」


納得できない表情のソフィアに自分の行動理由を説明するインセントは、初老とは思えない幼さのある笑みを浮かべる。


「……」


 師匠として数年間スプリングと行動を共にしていたインセントは、スプリングの性格を熟知している。今では自分に対して当たりが厳しい難しい性格になってはいるが、当時は子犬のようにずっと後を追ってきて可愛い奴であったとスプリングが若かった頃を思い出すインセント。だが戦いとなればその可愛らしさは影を潜め、貪欲に戦いを楽しんでいる節がスプリングにはあった。

 年齢と共に表面的な性格に変化があったとしてもその人間の内に秘めている柱のようなものは変わらいと思っているインセントは、当然スプリングがこの話に乗ってくるものだと思っていた。

 しかしスプリングの反応はインセントが想像していたものとは違っていた。


「……ん? どうしたスプリング ……浮かない表情をして?」


想像とは違ったスプリングの反応に怪訝な表情を浮かべるインセント。


「あ……ああ……」


 インセントの言葉に歯切れ悪く返事するスプリング。だがスプリングが歯切れ悪く返事するのも当然であった。なぜならスプリングは伝説の武器ポーンの所有者でありながら、未だ一回もポーンを扱ったことが無かったからだ。

 なぜスプリングがポーンを扱えないのか、その理由は簡単である。スプリングの実力がポーンを扱うに値しないからだ。簡単に言えば今のスプリングの技量では伝説の武器ポーンの性能を十分に発揮できないのだ。

 伝説の武器本人から技量不足、自分を扱える段階には無いとはっきりそう言われているスプリングは当然インセントの言葉に困惑するしかなかった。


「……まさか、伝説の武器を扱える技量に達していないなんてことはないよな、スプリング……」


先程から様子がおかしいスプリングに対してインセントは答えを言い当てるような質問を投げる。


「そ、それは……」


肩をビクつかせ言葉を詰まらせるスプリング。


『未だ私を扱う技量に主殿は達してはいない』


「なっ!」


突然割って入るように口を出したポーンはスプリングの現状を暴露する。その突然の暴露に驚くスプリング。


「やっぱりそうか……手に入れた伝説の武器に目がくらんでホイホイと拳士に転職するような奴の技量が高い訳ないよな」


今まで子供のような笑みを浮かべていたインセントの表情が一瞬にして失望に変わる。


「……所詮お前の『剣聖』に対しての想いはその程度だったという訳だな」


失望を抱くインセントの冷たい視線がスプリングを貫く。


「……」


インセントの言葉に何も言い返さないスプリング。


「……どうなんだスプリング、お前の想いはその程度だったのか?」


冷たい視線でスプリングに『剣聖』の想いをもう一度問い質すインセント。


『インセント殿、それは違う』


まるでスプリングの想いを代弁するかのようにインセントの言葉を否定するポーン。


「……違う? ……外野は黙っていてもらおうか、これは俺と馬鹿弟子の話だ」


ポーンが口を挟んできたことに明らかな不快感を見せるインセント。


『いや、主殿の名誉の為に口を挟ませていただく』


「名誉だと? フン!」


今のスプリングに名誉などと言えるようなものがあるとは思えないインセントはポーンの言葉を鼻で笑った。


『主殿は毎日、『剣聖』のことを想い鍛錬を続けている、私の所為で強制的に転職させられても尚、諦めること無く『剣聖』を想い続けている』


鼻で笑われてもポーンはスプリングの『剣聖』への想いとその名誉を守る為にインセントに対して言葉を続ける。


『そして私は『剣聖』になる為に常に努力を惜しまない主殿の姿に運命を感じ自分の主になってくれることを願ったのだ』


「なるほど……一つ聞き逃しちゃいけない言葉があったが、それはまあ今は置いておくとして、そちらの言い分は分かった……ならその想い見せて貰おうか」


そう言うとインセントは一瞬にして一本の剣を作りだすとその剣の刃をスプリングに向けた。


「……それと嬢ちゃん」


「えッ! 私?」


今まで全くと言っていいほど蚊帳の外にいたソフィアは、突然矛先が自分に向き慌てるように声をあげた。


「今回の俺の目的は、嬢ちゃんの経過観察だ……折角だから嬢ちゃんもスプリングと一緒に相手をしてやる、かかってこい」


「えええ!」


突然の誘いに更に慌てるソフィア。


「いやいや、嬢ちゃんの存在は負抜けになった今の馬鹿弟子には必要なんだよ、どうかこの通りだ負抜けの馬鹿弟子を助けると思って一緒に戦ってくれはしないか」


「そ、そんな……」


インセントの言葉を信じられないとスプリングに視線を向けるソフィア。


「……悪い…ソフィア…力を貸してくれるか」


何処か怯えたような、何処か申し訳なさそうな、それはスプリングらしからぬ言葉であった。


「……」


旧戦死者墓地の時と同等かそれ以上に余裕の無い表情から発せられるスプリングの言葉に慌てていたはずの自分の心が一瞬にして冷静になるのを感じるソフィア。


「……分かった」


今までスプリングに頼ることはあっても頼られることは無かったソフィアは頼られたという事実に嬉しさを感じ頷いた。だがソフィアは嬉しさのあまりスプリングから僅かに発せられた感情の欠片を見落としていた。


「……ありがとう……」


ソフィアの同意に礼を口にしたスプリングは、ポーンでは無い自分の技量に合った打撃用手甲バトルガントレットを身に着けた両腕で拳士の構えをとる。


《主殿……》


心配そうな声でスプリングに話しかけるポーン。しかしその声が届かないのかスプリングは目の前のインセントに視線を向ける。

 スプリングの戦闘態勢の姿を見たソフィアは自分の腰に差した細身の剣の柄に右手を這わせた。鞘から抜くことはしない抜剣術の構えをとると目の前のインセントに視線を向ける。


「ふふふ……スプリング、やっぱりお前は優等生だな、しっかり基礎は抑えてやがる」


過去数年の間、共に行動していたスプリングの性格を熟知しているインセントは、お手本通り、教科書通りと言える基礎をしっかり積んでいるスプリングの構えを優等生と表現した。


「……それとは逆に、嬢ちゃんその構えは本気か?」


優等生なスプリングの構えに対して、明らかに剣士としては異質な構えをとるソフィア。その姿に少し驚いたような表情を浮かべるインセント。しかしその言葉の中にソフィアを馬鹿にしたような感情は一切乗っておらず、寧ろ期待しているような感情が伺える。


「行くぞ!」


ガウルドのこの時期特有の重くジトジトとした風が一瞬止む。その一瞬に新たな風を送り込むようにしてスプリングは叫ぶとそのままインセントへ向け飛び出していく。


「チィ!」


 戦いを始める前の一瞬の間。それを楽しむ癖があるインセントは間髪入れずに飛び込んでくるスプリングに舌打ちを打つ。

 過去数年の間、一緒に行動を共にしたインセントがスプリングの性格を熟知しているならば、スプリングがインセントの性格を熟知していても何らおかしなことでは無い。

 魔物を相手にした時は別として、対人間となれば必ず戦闘の直前で間を作る癖があることを覚えていたスプリングはその間を与えず飛び出したのだ。

 勿論何の理由も無くスプリングは飛び出した訳では無い。圧倒的力量差があるインセントに対し僅かでも勝つ確率を上げる為にはインセントのペースに巻き込まれない無い必要があった。そしてそのペースを崩す必要があったのだ。

 それともう一つ、これはソフィアの時と同じ理由であるが、拳士は武器を持つ相手に比べ極端にリーチが短い。そのリーチを埋める為の速攻であった。


「おぉぉぉおおらぁぁああああああ!」


叫ぶことによって余計な力を抜き、拳に必要最大限の力を込めて放つスプリング。


「少しは知恵をつけたようだが!」


しかし相手は『剣聖』。僅かにペースが乱れた所でそこに大きな隙が出来るはずも無い。突撃による力を乗せたスプリングの鋭い拳を僅か一歩で躱す。


「くぅ!」


本当に当たるなどとは思ってはいなかったスプリング。しかし実際に躱されると思った以上に悔しさが込み上げ表情を歪ませる。

 しかし表情を歪ませるだけの余裕など与えはしないと言わんばかりにスプリングの頭上に振り落とされる一振りの剣。その速度はソフィアの放った抜剣術とは次元が違う。既にスプリングが避けるのは不可能であった。


「はぁあああああ!」


だがその刹那。ソフィアの気合の入った声がガウルドの草原に響き渡る。今までスプリングの後ろに居たと思っていたソフィアはいつの間にか距離を詰め二人の間合いに入り込みその細身の刃を抜いていたのだ。

 スプリングの頭上に振り下ろされたインセントの剣は、ソフィアの抜剣術によって放たれた刃によって弾かれた。


「おおお!」


ただ上段から振り下ろしただけのインセントの一撃を何とか弾いたソフィア。その姿にインセントは歓喜の声を上げる。


「うぅぅぅ」


しかしソフィアはその反動で手がしびれたのか苦悶の表情を浮かべる。だが事体はもっと深刻であった。たった一度、たった一度刃を交えただけでソフィアの細身の剣は砕け散ったのだ。


「退けソフィア!」


武器を一瞬にして失ったソフィアに退けと指示を出すスプリング。素直にスプリングの指示に従うソフィアはインセントの間合いから距離をとる。


「嬢ちゃん、その歳で抜刀術をそこまで練り上げたのは素晴らしいな、こんな馬鹿弟子よりもよほど『剣聖』として才能があるんじゃないか?」


距離をふる二人を追撃する様子の無いインセントは、素直にソフィアの抜刀術を褒めた。


「くぅ!」


インセントの素直にソフィアを褒める言葉は、スプリングにとっては挑発の言葉となる。スプリングはインセントから距離をとりながら怒りと嫉妬が入り混じったような複雑な表情を浮かべる。


「ふふ、しかし持っている剣がそれじゃ宝の持ち腐れってやつだな……よし、今回は特別に俺が貸してやる」


そう言うとインセントは左腕をスプリングとソフィアがいる方へ向けた。するとインセントが扱っている剣とは形も長さも違う剣が突然形を現した。


「これは、サムライが扱う剣、刀だ、これでもう一度抜刀術を使ってみるといい」


インセントは手に持つ刀をソフィアに向け投げた。


「え、ええ!」


放られた刀を手にしていいのか分からないソフィアは自分に向かってくる刀を見ながらオロオロとした表情でスプリングを見つめる。


「借りとけ」


明らかに気に喰わないという表情を浮かべつつもインセントが言っていることが正しいと分かっているスプリングは放られた刀を受け取るようソフィアに指示を出した。


「う、うん」


頷いたソフィアは吸い込まれるようにして自分の胸元に向かってくる刀を受け止めるとすぐさまその刀を腰に差し再び抜刀術の構えをとる。


「うん、やはり刀だと形になるなスプリング」


「……」


 刀を持ち抜刀術の構えをとったソフィアの姿に納得したような表情を浮かべるインセントは、スプリングに同意を求める。しかしインセントの言葉に一切反応を示さないスプリング。いや、示さないのではなく示す余裕が無いのだ。

 少しでも隙を見せれば、何処からともなく剣が飛んでくる、それが『剣聖』。インセントから離れはしたが、それはあくまでインセントが手に持つ剣の間合いから離れたというだけで『剣聖』が持つ間合いから逃れた訳では無い。

 正確な射程は分からないが今スプリングが立つ距離、そしてソフィアが立つ距離ならば軽々と剣を放てくる、それが『剣聖』インセント。いつどこから飛んでくるとも分からないインセントの一撃に警戒、いやそんなかっこつけた言葉では無く、インセントの一撃に恐怖するスプリング。


「スプリング……これからどうするの?」


インセントから借り受けた刀を手にしてそのまま抜刀術の構えとるソフィアは、次はどう動くのかとスプリングに聞いた。


「……どう……するか……」


最も成功率の高かった初動による奇襲が失敗に終わったことによって既に敗北が濃厚となったこの状況においてスプリングは考える。しかし圧倒的力を持つ『剣聖』を前にやはり敗北以外の考えが思いつかないスプリング。


「ねぇスプリング……このまま睨み合っていても埒が明かないよ……私前に出ていい?」


「は、はぁ? ……やめとけ、今前に出れば体中穴だらけになるぞ」


『剣聖』の容赦ない攻撃手段を知っているスプリングは、前にでると言いだしたソフィアを慌てて止める。


「うん、でもここでこうしても穴だらけになるかもしれないよ……なら前に出ようよ」


「お前……」


背後にいたはずのソフィアがいつの間にか横に立っている。その横顔を見たスプリングはその表情に目を見開いていた。


「行かないなら私いくよ!」


笑っていた。圧倒的力の差がある相手を前にソフィアは笑っていたのだ。スプリングに言葉を残しインセントとの距離を詰めるために前に出るソフィア。


「おお、やっぱりか……慎重で臆病なスプリングはこの状況で前には中々出てこない、それに反してお嬢ちゃんは、大胆で豪胆な所があると思っていた」


この状況になることを想像していたような口ぶりでインセントは前に出てきたソフィアに視線を合わせる。


「……ふふふ……滲み出てきているな……あの夜の気配が……」


「……」


互いに見つめ合うインセントとソフィア。その対峙はまるであの夜の続きのような光景であった。

 


ガイアスの世界


剣聖が作りだす剣


 基本『剣聖』が作りだす剣はその殆どが複製で本物に比べると少々能力が劣る。更には自分が見て触れて手に馴染む程に使用しないと複製できないというルールもある。

 従い大半の『剣聖』になった者達の最初の行動はガイアス中を周り、あらゆる剣を手にし己の手に馴染ませることから始まるという。例外を除きこの剣外遊をしないと『剣聖』の中では本当の『剣聖』とは認められないと言われているとかなんとか。

 まあ『剣聖』に辿りつく程の剣好きならば何の苦も無い外遊ではあると言える。

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