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真面目で章(スプリング編)13 不真面目な初老『剣聖』

ガイアスの世界


インセントの素性


 その見た目は人間であるが、幾つも人間離れした所があり純粋な人間種ではないことが伺える。しかしその素性は全て謎に包まれており、インセントが゛ういう幼少時代を送ってきたなどは分かっておらず知る者も近しい者だけと言われている。

 インセントの名がガイアスに広まりだしたのはヒトクイが統一される寸前のことで統一を成し遂げたヒラキの右腕としてその名を広めた。後にヒトクイを出て『剣聖』となりガイアス各所で彼の噂が色々と広まることになるが、それも突如として消息が消えている。

 



 真面目で章(スプリング編)13 不真面目な初老『剣聖』




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス





 「……そ、ソフィアです……」


目の前に立つ高身長の男、『剣聖』インセントの質問に少し戸惑ったような表情を浮かべながらもソフィアは自分の名を告げた。


「……ソフィア……ねぇ……」


初老を超えているというのに一切の衰えが感じられない肉体、いや未だ発展し続ける戦闘鍛え抜かれた肉体を持つインセントは、ソフィアの答えにニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべる。


「ソフィアちゃん……か……うーん元盗賊てとこかな……しかも中々筋のいい人間に戦闘技術を教わっていたみたいだな」


「えッ!」


インセントの言葉に目を見開くソフィア。


「あんたはそうやっていつも人を見透かそうとする、悪い癖だぞインセント!」


驚くソフィアの間に割って入ったスプリングはインセントを睨みつけた。


「ひぃー真面目で怖いなー、俺はそんな優等生に育てた覚えは無いけどなスプリング君」


睨みつけ威圧するスプリングに対し言葉だけは怯えている素振りをみせるインセント。しかしそが単なる悪ふざけであることを示すように言葉に乗っている感情には一切の怯えは無い。むしろ平然、いや端的にふざけているようにしか聞こえない。


「……あんたのそんな姿を反面教師にしたんだ」


 唯我独尊、傍若無人を絵にかいたような存在であるインセントを反面教師にしたと嫌味を言うスプリング。


「反面教師? 『剣聖』として人格者でもある俺の何処を反面教師にしたって言うんだ?」


しかしスプリングの嫌味が通じないのか、それとも本当に分かっていないのかそう言い名がインセントは首を傾げた。


「……そういう所だよ」


一切着地しないインセントのフワフワした会話に苛立ちが募り始めるスプリング。


「なぁスプリング、師匠である俺からのアドバイスだ、もっと気楽に過ごせ……そんなんじゃ……『剣聖』に何てなれないぞ」


現役の『剣聖』の教え。しかしそれ真実なのか疑いたくなるようにインセントの言葉は軽い。しかしその言葉的確にスプリングの苛立ちを増幅させる。


「この……!」


インセントの軽い言動がスプリングの琴線に触れる。普段怒りにまかせ手を出すことは早々無いスプリングは自分に対しての挑発とも思えるインセント言葉に反応するように拳を放っていた。


「おっと!」


「くぅ!」


放たれたスプリングの拳を軽々と躱すインセント。


「フフ……お前が目指していたのは『剣聖』じゃ無くて『拳聖』だったか?」


スプリングの放った拳を見つめながらインセントは、剣を扱う者にとっての最終到達点では無く拳を扱う者の最終到達点の戦闘職、『拳聖』の名を口にする。


「違う! これは!」


今度は殴るという強い意思を持ってスプリングは目の前のインセントに拳を放つ。


「『剣聖』だとしても『拳聖』であったとしても、お前の攻撃は軽い……最初の一発のほがまだ見所があったな」


再び放たれたスプリングの拳を最初よりも鮮やかに軽々と躱してみせるインセントは躱した拳の感想をそう表現した。


「……!」


無意識に放った最初の一発、と攻撃の意思を乗せて放った二発目の方が簡単に躱されたことにショックを受けるスプリングは言葉も出ないのかそのまま黙りこんだ。


「はぁ……相変わらず凹むのだけは一級品だなお前は、一発二発躱されたくだらいで凹んでじゃねぇよ……」


見るからに落ち込むスプリングの姿に頭を掻きながら困った表情を浮かべるインセント。


「……まあ、でも静かになってくれたは好都合、今日はお前を相手しに来たんじゃないからな……用があるのは嬢ちゃんのほうだ……」


 弟子の落ち込んだ姿などどうでもいいとインセントはその視線をスプリングを心配そうに見つめるソフィアに向ける。


「わ、私に用……ですか?」


突然矛先が再び自分に向いたソフィアは『剣聖』であるインセントから直々の用と聞き全く思い当たる節が無いのか首を傾げた。


「……ああ、やっぱりあの日の事は覚えてないみたいだな……まあそれは別にどうでもいい」


そう言いながらソフィアに近づくインセント。


「……」


 高身長にして恐ろしい程に鍛え上げられた肉体、それだけでも十分だがそこに『剣聖』という確実な実力が加わることによってインセントから放たれる圧は凄まじいものになる。まるで分厚い鉄板が迫ってくるようにソフィアはインセントという存在に圧迫されていく。

 圧を放つ本人からすれば僅かなものであってもそれを受ける者の力量によっては、その圧は生きた心地がしないまるで水中にいるかのような不自由感と圧迫感に襲われる。当然ソフィアもインセントを前にそんな息苦しさを感じていた。


「……うん、やっぱりあの夜とは違うみたいだな……」


 魔物が襲撃した夜、インセントが見た闇夜で目を輝かせ戦いに餓えたソフィアと今のソフィアは違うことを認識する。

 あの日のソフィアと今のソフィアが別物であることを理解したインセントは、僅かばかりソフィアに向けて放っていた圧を解いた。


「は、はぁ……」


 圧からの解放、突然の解放に地面に倒れそうになるソフィア。しかしソフィアにも意地というものがある。力の抜けた両足にどうにか力を籠めその場に留まるソフィアは、インセントを見上げた。


「……嬢ちゃん……一つだけ忠告しておく……今、あんたの中に芽吹いているもの……それは偽りだ、出来る限り早く処理することをオススメする」


「……芽吹いているもの?」


インセントの言葉に全く見当がつかないソフィア。


「何訳の分からないことを言っている!」


ソフィアに対し口にしたインセントの言葉にショックから立ち直ったスプリングが詰め寄る。


「はぁ……立ち直るのは早くなったな……だが一発二発躱されただけで落ち込んでいるような奴に説明するか」


詰め寄ったスプリングを煙たがるインセント。


「くぅ……何だと!」


「ああ、五月蠅い、今はお前の相手じゃなく嬢ちゃんの相手をしているんだ」


そういうとインセントはその大きな手でスプリングの頭を掴む。


「がぁぐぅぅぅ!」


その大きな手から繰り出される握力はスプリングの頭部に軽々と激痛を走らせる。


「いい加減、人の話を聞かないと少し痛い目に合うぞ」


陽気な言い方ではあったがインセントはその言葉に僅かばかりの圧をかける。


「くぅぅぅぅぅぅ!」


インセントの圧を感じるスプリング。しかし痛みからなのか、それとも圧を物ともしない反抗心からなのか、その目は臆することなくインセントを見つめている。


「……」


そんな反抗的な視線を見つめるインセント。


「や、止めてください!」


見つめ合うスプリングとインセントの間を割って入るようにソフィアの叫びが響く。


「ん?」


「スプリングを離してください」


先程まで圧に耐えるので精一杯であったソフィアから突如として鋭い圧が放たれていることに気付くインセント。


「スプリングを離してください」


「や、やめろ……お前じゃ無理だ!」


インセントに頭を掴まれ激痛が走る中、スプリングはソフィアの行動を制止する。


「ん?……抜刀術か、面白い……」


右足を少し前に出し腰を低く落とした体勢で剣の柄に手を添え自分を睨みつけるソフィアの姿に口角を吊り上げるインセント。


「……わかった」


スプリングの頭を掴んでいた手を離すインセント。


「くぅぅ……」


インセントが手を離した瞬間、頭に残る痛みに耐えながらすぐさまスプリングは距離をとるように離れた。


「ふむ、もしかしたら嬢ちゃんの方が『剣聖』に向いているかもなスプリング……」


距離をとったスプリングに対し、未だ抜剣術の構えを解かないソフィアの姿にインセントはそう告げる。


「なっ! 何ッ! ……」


 それが明らかな挑発だと本来であれば理解できるはずなのだが相手がインセントであることで冷静な判断が出来ないでいるスプリング。


「……だってそうだろ、お前は俺の行動を何一つ止めることが出来なかったが、嬢ちゃんは俺の行動をその立ち振る舞いで止めた」


「そ、そんなのお前のさじ加減だろ!」


未だ痛みが続く頭を支えなかせらスプリングはインセントに対して叫ぶ。


「いやいや、それが例えさじ加減であったとしても俺の行動を止めたという事実は変わらないだろ」


「なっ! くぅ……」


インセントの言葉にスプリングは言葉を失ったように黙りこんだ。


「嬢ちゃん、俺の行動を止めたご褒美だ、さっき俺が言った事の真意を教えてやる」


 何の気まぐれかインセントは先程ソフィアに対して自分が言った言葉の真意を教えると言うとおもむろに指をソフィアに向けた。その指の先にはソフィアが身に着けている何処にでもあるような何の変哲も無い手甲ガントレットがあった。


「……!」


ソフィアの手甲ガントレットを指刺すインセントに驚きの表情を浮かべるスプリング。


「あ、あのこれが何か……」


指差されたし自分の手甲ガントレットをインセントに向けるソフィア。


「ふむ、嬢ちゃんはそいつが何だか知らないのか……そいつはな……」


『ちょっと待っていただきたい』


 インセントがソフィアの手甲ガントレットの話をしようとした瞬間、ポーンの声がそれを遮った。


「ん? ……誰だ?」


ポーンの声にその主を見つけようとインセントは周囲を見渡す。しかし周囲には自分に話かけている様子の人物は見当たらず怪訝な顔を浮かべるインセント。


『……突然の事で申し訳ない、だが黙っていることが出来なかった……インセント殿……その先はどうか口をつぐんでいただきたい』


「ん? 俺に気配を感じさせないなんて中々やる……しかし人に物を頼む時の態度とは思えないな……」


姿は見えず気配まで感じさせないポーンに対し挑発で答えるインセント。


『……これは失礼した……主殿、頼めるか』


「ポーン、いいのか?」


本来一目に触れる事を嫌うポーンのその行動に戸惑い確認するスプリング。


『ああ、問題無い』


頷くポーンの声を聞いたスプリングは、怪訝そうに自分を見つめるインセントの前に腰に吊るしてある打撃用手甲バトルガントレットを向けた。


『お初にお目にかかる……私は伝説の武器、名をポーンという』


いつも以上に真面目に、改まった物言いで自分の存在をインセントに説明するポーン。


「……」


流石のインセントもこれには言葉が出ず口を半開きにして驚きの表情を浮かべる。


『これで私の願いを訊いてもらえるだろうかインセント殿?』


インセントが示した態度というものをしっかり現したポーンは、もう一度自分の願いを告げる。


「……なるほど、そりゃ人影も気配も無い訳だ……自我を持つ伝説の武器だもんな」


驚いた表情を浮かべていたインセントは半開きであった口を閉じるとすぐに口角を吊り上げる。驚いていた割にあっさりとポーンという存在を受け入れた様子であった。


「いやいや参った……まさか俺の弟子が伝説の武器、しかも一級品の所有者になっているとはな」


ニヤニヤした表情で自分にポーンを向けるスプリングの顔を見つめるインセント。


「わかった、とりあえずこの二人にその手甲ガントレットの話をするのはよそう……だが少々俺にも気になることが出来た、付き合え二人とも」


そう言うとインセントはスプリングとソフィアが通ってきたガウルドの出入り口の一つである門へ向かって歩き出した。


『何をする気だ、インセント殿!』


歩き出したインセントに対してポーンは行動の意味を聞いた。


「……口をつぐむとは言った……だがこれじゃ弟子や嬢ちゃんに対して不公平だろ……だからヒントぐらいだしてやろうと思ってな」


『……』


インセントの言葉に思うことがあるのかポーンはそれ以上口を挟むことはせず黙りこんだ。


「スプリング……」


勝手に話を進め門へと向かっていくインセントの背中を見つめながら、自分はどうしたらいいのかとその視線をスプリングに向けるソフィア。


「……くぅ……行くぞ」


インセントに従うのは癪だと言わんばかりに不機嫌な様子ではあるが、事の真意を掴む為にその背を追うスプリングはソフィアの不安そうな視線を察することもできず門を抜けるインセントだけを見つめその足を進めていく。


「……スプリング……」


完全に冷静を失ったスプリングを前に言い現せられない不安が心を支配していくソフィア。しかし今のソフィアに心の不安を取り除く術は無く、状況に流されるままスプリングの後を追うしか選択肢は無かった。





ガイアスの世界


インセントと伝説の武器


『剣聖』として剣と名の付く武器にはこれまで色々と触れてきたインセント。しかし彼でも触れたことが無い剣がある。それがいわゆる伝説の武器とされる中にある剣であった。

 『剣聖』である以上、伝説の武器、伝説の剣と称される物の一つや二つ本来は所有していてもおかしくないのだが、何の因果かこれまで彼の手に渡ることは無かった。

 そのため未だインセントは伝説の武器、伝説の剣を一本も所持していない『剣聖』なのである。

ただ伝説の剣を所持していなくともその能力が劣る訳では無く、現在存在する『剣聖』の中でインセントの実力は間違いなく頂点である。

 ポーンという存在を知った瞬間、一瞬驚きはしたが直ぐにその存在を受け入れた様子からすると、全容は知らずともある程度、自我を持つ伝説の武器についての知識はあるのかもしれない。


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