真面目で章(ユウト編)2 樹海
ガイアスの世界
異世界
ガイアスの一部の者は、ガイアスの世界とは違う別の世界があることを知っている。それは精神世界であったり、そのもっと先である死後の世界であったりするのだが、それとはまた違うガイアスとは理の違う世界の存在のことを言っている。
だが存在が確認されているだけで、直接行った者や見た者は存在していないと言われている。
ガイアスの遺跡や歴史を研究している者の話によれば、別の世界がガイアスの古い時代に大きな影響を与えたのではないかという仮説を立てる者もいるが、それは定かでは無い。
だが明らかにガイアスにある遺跡の中には、現在のガイアスではありえない物があり現時点では否定も肯定も出来ない状態である。
真面目で章(ユウト編)2 樹海
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
驚く程に急速な発展を遂げる小さな島国ヒトクイ。現在では島国でありながら大陸国の中で最大の国と言われているフルード大陸のサイデリー王国に次ぐ大国としてヒトクイは注目されている程であった。
しかし急速な発展を遂げているのはヒトクイの首都であるガウルドとその周辺にある町のみで殆どの部分は未だ旧時代の町や村などが沢山存在しており未だ手つかず自然が残る場所も多い。
ヒトクイの中心に位置する巨大な山の麓に広がる樹海もそんな手つかずな自然が残る人の場所の一つであった。
― ヒトクイ 竜山麓樹海 ―
悠然とそびえる巨大な山を眼前一杯に見ることができる樹海に降り立つ一羽の巨大な怪鳥。樹海に生息する魔物達は突然の来訪者に警戒を強め様子を伺っていた。
そんな怪鳥の背から飛び降りる人影。
「長旅ありがとう」
怪鳥から飛び降りた人影は少年であった。まだあどけない表情を残しつつも無表情な少年はこの樹海に送り届けてくれた怪鳥に労いの言葉をかけた。
《グゥルルル……》
怪鳥はその巨大な頭を少年へこすりつけてくる。例外はあるものの本来魔物である怪鳥が人になつくことは無く触れ合うことすら嫌う。しかし自ら少年へ触れていく怪鳥のその行動は、どう見ても少年になつき甘えているように見える。
小動物でもなければお世辞にも可愛いとは言えない怪鳥にまるで心を許しているかのように普段無表情である少年の表情が僅かに緩む。
『坊ちゃん、どうしてここに降り立ったのですか?』
どこからともなく聞こえる声は表情が緩む少年の不意をつくように何処かわざとらしくなぜこの場に降り立ったのか尋ねた。
「白々しいな、分かっているくせに」
柔らかく緩んでいた表情を元の無表情に戻すと少年は、わざと臭い質問をしてきた姿なき声の主に無感情に答えた。
『はいはい、分かっていますとも』
この樹海に降り立った理由を知ったうえであえて質問した姿なき声の主は、少年の平坦な対応に何処か楽しそうであった。
「……ビショップ、とりあえずこの場所がどういう所か聞きたい」
少年は姿なき声の主の名を口にするとこの場所がどんな所であるのか説明を求めると手に持っていた分厚い本に視線を落とした。
『分かりました説明します』
少年が視線を落とした分厚い本が勝手に開くと白紙のページが捲られていく。その分厚い本からビショップの声は発せられているようだった。
『ここはヒトクイのへそと呼ばれる位置にある竜山と呼ばれる山を中心に広がる樹海、竜樹海と呼ばれている所です』
ビショップが説明を始めると、その説明と連動するように白紙であった本のページには現在少年達がいる場所の詳細が詳しく記されていく。
「それで?」
分厚い本のページに記された文字を読みながらビショップに更に説明を求める少年。
『坊ちゃんの予想通り、この樹海には高度な知識を持つ竜が生息しているようです』
「もう名前からしてあからさまだな……なんの捻りも無い……竜山とか竜樹海とか……ネーミングセンスを疑うよ」
自分の予想が的中した以前に少年はこの場に付けられた名が露骨すぎることに悪態をついた。
少年がなぜこの樹海にやってきたのか、それは少年がある存在を追い求めているからであった。その存在とは竜。
元々はムハードと呼ばれる砂漠の大陸に向かっていた竜の気配を追っていた少年。しかしその道中でビショップが見せたガイアスの世界地図に描かれていたヒトクイという島国に何かを感じ取った少年は、ムハードに向かっていた竜の追跡を止めてヒトクイへとやってきたのだった。
『それにしてもよくこの島国に竜がいることが分かりましたね』
ビショップはこのガイアスという世界のことなら何でも知っている。それは彼が膨大な知識を保有する本本、手にすればガイアスを手に入れることができると巷で噂される伝説の本であるからだ。だが巷で噂をする者達もまさか伝説の本に自我がありペラペラとよく喋るとは思ってもいないだろう。
そんな少年よりも感情豊かに喋るビショップは当然、この島国に竜が生息していることも知っていた。だがあえて少年にはこの島国に竜が生息していることを伝えていなかった。
『いや坊ちゃんが持つ力は恐ろしい』
あえて少年に情報を伝えなかった理由、それはビシッョプが少年が持つある力を見定めているからであった。
「……それにしても僕が知っている山にそっくりだ」
無感情無表情の少年は降り立った樹海から見える山を見つめながらそう言うと自分の記憶の中にある山を重ねた。細かい部分は異なる所はあるものの最も特徴的な雪化粧ように頂上が白く染まっている所などは瓜二つと言える程にそっくりであった。
「ということは……今僕達が居るこの樹海は自殺の名所なのかもしれないね」
突然変なことを言いだす少年。だが少年は意味も無く変なことを言った訳では無い。少年の頭の中にある記憶、その中にはこのガイアスとは異なる世界の景色が映し出されていた。その景色は今少年が立つ樹海と酷似した場所でありそこは自殺の名所と呼ばれていた。
『自殺の名所……なるほど確かにそうかもしれませんね』
まるで惑わすように生い茂る木々は迷い込んだら抜け出せない迷路のように入り組んでいる。死を望む者にとっては確かに相応しい場所であるように思えると少年の言葉に納得するビシッョプ。
『さて、それでこれからどうしますか坊ちゃん?』
自分に記されたこの樹海の説明を読んでいる少年にこれからどうするか尋ねるビショップ。
「竜を探すよ」
当然というように少年はビシッョプから視線を外すと再び木々が生い茂る樹海を見渡した。
「今の所、気配は無い……」
周囲から感じるのは魔物達の気配だけ。その魔物達は少年が怪鳥から降り立った時からに常に様子を伺っていた。だが様子を伺うだけで襲って来る気配は無い。なぜ魔物達は少年を襲わないのかそれにはそ秘密があった。
少年はガイアスで生を受けた人間では無い。彼はガイアスとは違う世界から転移してきた異邦人、異世界者と呼ばれる存在であった。
その証拠の一つに彼の服装が挙げられる。ただの布であり防御力は皆無ながら、明らかにその服に使われている技術は、今のガイアスでは再現することが不可能なものであった。
次に少年の名がこのガイアスの住人で無いことを証明している。少年の名はアキヤ=マユウト。
その名だけならばガイアスの人々でも聞き取ることも発音することもできるが、苗字に関しては聞き取ることも発音することも出来ないのだ。それがガイアスとは異なる世界から彼がやってきたもう一つの証拠であった。
ガイアスとは異なる世界からやってきた者、やってきたのではないかと思われる者は少ないがユウトの他にも存在していたようで、その者達は軒並み強大な力を持ちガイアスの人の歴史の中で偉業を成し遂げたと言われている。
そしてユウトもまたその例に漏れる事無くあらゆることに置いて強者でいられる不正と呼ばれる能力を所持している。
その不正による効果なのだろう、樹海に生息する魔物達はその本能からユウトが危険な存在であることを察知し襲うことも近づくこともしない。
そんな魔物達の気配を感じながら一通り周囲を見渡したユウトは怪鳥にその場に留まるよう指示を出すとまるで進むことを拒む迷路のような樹海の奥へと足を踏み入れていく。
「さて……どこにいるかな」
周囲を見渡し樹海を進みながら竜を探すユウト。しかし数十分歩いても竜の姿形は愚か気配すら感じない。最も不正の力を使えばすぐさま竜を発見することもしくはおびき出すこと可能であるのだが、ユウトは探すという行為を楽しみたいのか不正を使う様子は無い。そんなユウトの性格を知っているビショップもユウトの行動に口を挟むこと無かった。
《……何用だ、時空を超えし人の子よ》
突然強力な気配を纏った声が樹海に響く。すると今まで静かであった樹海に鳥たちの悲鳴のような鳴き声が響き渡る。まるで何かから逃げるようにして鳥たちは樹海から飛び去っていく。それだけでは無い。ユウトの様子を伺っていた魔物達の気配が忽然と姿を消していく。慌てたように樹海から去って行く鳥や魔物達の様子に無感情、無表情であるユウトの顔がニヤけた。
《答えよ、時空を超えし人の子よ》
ユウトの存在がガイアスにとって異質である事を理解しているのか、樹海に響き渡るその声は時空を超えし人の子とユウトを呼ぶ。
「この樹海に住んでいるという竜に会いに来ただけだよ」
相手は一声で樹海の雰囲気を変貌させてしまう存在。それにも関わらずユウトは臆することなく樹海に響き渡る声に自分の目的を話した。
《我に会いに来た……ほう、それは我が竜帝と知っての事か?》
自らを竜帝と名乗る声は自分を知ってこの場に来たのかとユウトに尋ねた。
「竜帝……いや全く……」
人類から見れば竜も魔物の一種に分類される。下手をすれば蜥蜴の変異種程度にしか思っていない者もいる。そんな者達による勝手な想像と安易な名付けによって竜と名が付く魔物はガイアスには多い。しかしそれは人類の浅はかな思い込みでしかない。
本来、竜は魔物と混同されるような次元の存在では無い。その一息で町や村は一瞬で消し飛ばし空高く舞えば嵐を巻き起こし周囲に多大な被害をもたらす圧倒的な力を持った存在。それに加え人間など相手にならない程の知能を持ち合わせている竜とは人類よりも遥かに進化した高位存在なのである。
《……》
もしや時空を超えガイアスにやってきたこの人の子ならば、竜という存在が崇高で畏怖すべき相手だということを理解しているのではないかと淡い期待を抱いていた竜帝。だがやはり時空を超えた所で人の子は人の子、その本質は変わらなかったと竜帝が抱いていた淡い期待は、脆くも崩れ去りそれは失望へと変わる。
《……それで我に会ってどうする?》
竜王の失望に満ちた声が樹海に広がる。すると樹海はユウトに対して竜王が抱く失望を感じ取ったのかまるで慰めるように震え動く。自分の気配を敏感に察知しその場からすぐに逃げ出した小動物や魔物、そして動くことが出来ずただその場に立ち続け畏敬の念を放つことしか出来ない樹海に生える木々達の方がわよほど自分という存在をしっかりと認識していると思う竜帝。
「戦いたい」
ユウトは自信満々な表情で竜帝に宣戦布告する。
《我と戦いたいだと……》
ユウトのその言葉に呆れる竜帝。
《愚かだ……愚か過ぎる……例え時空を超えようとも人の子は人の子、我から見れば羽虫程度でしかないお前では戦にもならん》
呆れを通り越し哀れみすら感じる竜帝は、自分と戦いたいと言うユウトを否定する。
「なるほど……よく分かったよ」
《うん? やけに物分かりがいいな時空を超えし人の子よ》
「……物分かり? 何を勘違いしている、僕が理解したのはこの世界の竜の価値だ」
『価値だと?』
「この世界の竜は目障りに周囲を飛び回る羽虫に対して何の対処もしない腰抜け……いやいや心優しい蜥蜴なんだなってね……そんな竜と戦う価値なんて無いなと思ったんだよ」
『何だと……』
ユウトの言葉が明らかに怒りを煽る挑発であることは竜帝も理解している。
《フフフ……面白い……そこまで言うのならお前の願い叶えてやろうではないか》
だが理解していても竜帝にも矜持というものがある。例えユウトが竜に対して誤った知識を持っているとしても蜥蜴と混同されるのは流石の竜帝でも我慢がならない。
《後悔するなよ、羽虫……フフフフ》
地の底が揺れ動くような低い笑い声をあげる竜帝。
「おお、引っかかった」
比喩では無く本当に揺れ出す樹海の地面にユウトは目を輝かせた。
《ウォオオオオオオオオオオオオ!》
上空にある雲を一瞬にしてかき消す咆哮と共に更に揺れが大きくなる樹海。
「ッ!」
激しい揺れの中、ユウトの視線は樹海からみえる山に向けられていた。流石のユウトもその光景には驚きの表情を浮かべる。
「山が……動いた」
そう樹海から見える山、竜山が動いたのだ。動き出した山は更に強い揺れを引き起こしまるで天変地異が起こったように樹海の地面に亀裂が発生する。その亀裂は大きな口のように樹海に生える木々を飲み込みながら更に大きくなっていく。
ユウトの前にできた亀裂は特に大きく爆発したように大量の土砂を撒き散らしていた。
「……」
噴き出す土砂と共に何が姿を現す。その影に釘づけになるユウト。
《我こそはこの樹海を加護する竜帝が一種……土鎧竜
ユウトの前に出来た巨大な亀裂から現れた影、それは土鎧竜の巨大な顔であった。
激しい揺れと共にその姿を現した土鎧竜。その姿は例えるならば亀。山を背負った亀のようであった。
「はははッ! 山を背負う竜なんてデカ過ぎだろ!」
高さ三千メートルを超える竜山を背負う土鎧竜。そのあまりにも巨大な姿に普通ならば恐怖を抱き世界の終焉を想像してもおかしくは無い。しかしユウトは土鎧竜の姿に目を輝かせ興奮したように歓喜を含んだ笑い声を上げていた。
『……まさか感情が希薄な坊ちゃんの感情をここまで揺れ動かすとは……』
基本、無感情無表情であるユウトがここまで感情を昂らせたことに驚きを通り越し動揺するビショップ。
《さあ、時空を超えし人の子よ……我に……》
小城程ある巨大な瞳をユウトに向けた土鎧竜の言葉が不意に止まる。
《……お前は……我のこの姿を前になぜそんな表情をする……》
土鎧竜の瞳に映るユウトはまるで憧れの存在を見つけたというように満面の笑みを浮かべていた。
「……感動しているんだよ、あんたに会えて」
土鎧竜のその姿は、無感情無表情なユウトの心を動かすに足りる衝撃と感動があった。その気持ちを素直に伝えるユウト。
《感動だと?》
ユウトの思考が理解できない土鎧竜。
「うん、僕は探していたんだ、あんたみたいな凄い竜を……」
小城程の大きさがある土鎧竜の瞳に見つめられながらユウトはそう呟くと穢れを知らない純真無垢な笑みを浮かべるのであった。
ガイアスの世界
登場人物
名前 アキヤマ=ユウト(秋山優斗)
年齢 14
レベル 不明
職業 不明(最強げーまー)
今までにマスターした職業
不明
装備
武器 伝説の本ビショップ 〈ジョブミラー〉
防具 異世界の服
頭 無
靴 異世界の靴
アクセサリー 無
ガイアスの世界とは理の違う世界からやってきた少年ユウト。その表情は常に無表情、感情の起伏も殆ど無い。しかし竜が絡むとその表情に変化が起こったり感情に変化が起きたりする。
ユウトは竜に対して強い執着があるようだ。
当面の目的はガイアスに生息する竜に出会い戦うことである。
ユウトが持つ不正はガイアスの理を捻じ曲げる力をもっているようだ。それ故にガイアスでの常識が全く通じないようである。
その不正の力によって、もう一つの不正と言ってもいい自我を持つ伝説の本ビショップが持つ能力すらほぼ自由に扱うことが出来るというまさに異世界転移の主人公と言える存在である。




