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合間で章6 動き出す者達

ガイアスの世界


 ガガール港の女性達


 現ムハード王が王になる前、ガガール港が港として機能をしっかりとはたしていた頃、ガガール港を盛り上げていたのは男達では無く女性達だった。

 ムハードの町の女性達とは毛色が異なるガガール港の女性達は兎に角威勢がよく下手をすれば男達よりもその腕っ節は強い。噂ではガガールの女性達の先祖は海賊であったと言われているが真相ははっきりとしていない。

 彼女達の中だけに広がる独特な掟があるらしくそれを守らない者はガガール港の女では無いらしい。



 合間で章6




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




― ヒトクイ 西側地方 ―



 春が過ぎ夏に向け少しずつ気温が上がり始めたヒトクイの西側地方。まだ人の手があまり入っていないその場所は、豊かな自然が広がっていており魔物が多く生息する危険地帯でもあった。


「……」


 そんなヒトクイ西側地方にある森の中、静かに佇む一頭の狼の姿があった。その狼は全身の毛が白銀で覆われて他の狼とは明らかに違う異質な雰囲気を醸し出している。何より本来四足歩行で行動する狼とは違い、この白銀の狼はまるで人間のように後ろ脚だけで立っていた。


「……」


 二本の足で立つ狼、それを人は人狼と呼ぶ。獣人種に属する人狼は基本、異種族との関わりを持たず山や森で小さな群れを作っていることが多い。会話の形態は人狼たちだけに通じるもので他の種族では理解できない言語を話すという。

 しかしそんな人狼の特徴を抑えつつもやはりヒトクイ西側地方の森に佇んでいる白銀の人狼は何処か他の人狼とは違う雰囲気があった。

 そんな白銀の人狼は海を見つめながらピンと両耳を立たせ何かを感じ取っている。


「……海を越えた先か……」


人狼の言語では無くはっきりと人語を口にした白銀の人狼は、まるで何かが見えているというようにじっと海の先を見つめ続ける。


《ウゥゥゥゥゥぅ》


白銀の人狼の周囲に鳴り響く低い唸り声。それは白銀の人狼が進んできた獣道から響いてくる。しかしその唸り声が全く気にならないのか白銀の人狼は海を見つめ続けていた。


《《《《ウゥゥゥゥゥゥゥ!》》》》


 再び獣道から響く低い唸り声。先程とは違い複数に増えた唸り声はまるで共鳴するように次第に大きくなり明らかに攻撃的な意思を感じさせる。それはこの地域に生息する魔物の唸り声であった。自分達の縄張りに侵入した存在を排除する際に発せられる警告。

 だがそれでも白銀の人狼は我関せずといった様子で海を見続けている。

 

《《《《ウォォォオオオオ!》》》》


堰を切ったように痺れを切らした二匹の魔物が獣道から白銀の人狼に襲いかかる。


「うるせぇよ」


しかしそれでも視線を海から外さない白銀の人狼は襲いかかってきた二匹の魔物を大木のような腕で地面に叩きつける。叩きつけられた魔物達は地面にめり込んだまま絶命するとその体は灰になり海風に舞い上げられ太陽が昇り始めたヒトクイ西側の空に舞っていく。


「……ああ、悪い……お前らとは桁違いな力を感じたからそっちに意識が集中しちまった」


 そう言いながらやっと視線を海から外した白銀の人狼はその視線を獣道へと向ける。そこには何処か様子のおかしい魔物達の姿があった。体の所々が腐っており眼球が飛び出しているものもいる。その様子は到底生きているようには、生物には見えない。白銀の人狼の前に姿を現したのは活動死体ゾンビ化した魔物の群れであった。


「もう用事は済んだから相手してやるよ絞りカス共」


活動死体ゾンビ化した魔物の数は優に百を超える。だが普通の人間ならば絶望するその光景に対して白銀の人狼はまるで準備運動をするようなノリであった。

 活動死体ゾンビとは一部の『闇』の存在が持つ能力のよって作りだされる死体兵のことで『闇』の位からすれば底辺に位置する存在である。一部の『闇』の力を持つ存在が僅かな力で生み出すことが出来るその活動死体ゾンビは白銀の人狼が言う搾りカスという例えにピッタリな存在であった。

だが絞りカスといっても活動死体ゾンビは人間にとっては非常に厄介な存在である。単体であればそれほど脅威ではない活動死体ゾンビがその真価を発揮するのは集団になった時だ。活動死体ゾンビは自分達の仲間を際限なく増やす習性を持ち普通の生物が噛みつかれたり食われたりすればたちまち活動死体の仲間入りを果たす。その集団力は町の一つや二つ簡単に壊滅させられるほどである。

 そして更に言えば今白銀の人狼の前に存在する活動死体ゾンビが魔物であるということだ。

 人間が活動死体ゾンビ化した場合、例外はあるが普通は知能が失われ生前の身体能力は失われる。その為動きが遅くなり単調な行動しかとれず読みやすい。単体であればそれほど脅威では無い理由はそこにあった。

 しかし活動死体ゾンビ化したのが魔物であれば話は別である。活動死体ゾンビ化した魔物の身体能力は人間のように失われることは無いのだ。生前の身体能力を持ったまま活動死体ゾンビとなった魔物は、例え単体であっても人間には脅威な存在なのである。

しかしそんな活動死体ゾンビ化した魔物の群れを前に白銀の人狼の様子に焦りは一切無い。その姿からは余裕すら伺える。

だがそれは当然であった。活動死体ゾンビ化した魔物達の前に立つ白銀の人狼は、ただの人狼では無い。白銀の人狼の正体、それは数百年前に起った『闇』の存在との戦争を勝利に導いた聖狼セイントウルフと呼ばれる『闇』を屠る為に作られた兵器だからだ。

一部の『闇』の存在が持つ能力の搾りかすで作られた活動死体ゾンビなど、聖狼セイントウルフにとっては赤子の手を捻るように簡単な相手である。


「さあ害獣駆除の時間だ」


それは一瞬だった。地面を踏み抜いた聖狼セイントウルフは次の瞬間には百を超える活動死体ゾンビの群れの中に飛び込んでいた。その動きに付いていけた活動死体ゾンビ化した魔物はおらず群れの中心に突然現れた聖狼セイントウルフに対して反応が遅れる。その遅れが致命傷になる。群れの中心に現れた聖狼セイントウルフは作戦も道筋も無く攻撃を開始する。まるで嵐のように活動死体ゾンビ化した魔物達を巻き込んでいく。その嵐に巻き込まれればもう逃げる術は無く次々と灰へと化していく活動死体ゾンビ化した魔物達。

 


「……たりねぇな」


聖と名のつく存在でありながら、その行動も言動も飢えた獣と変わらない聖狼セイントウルフは嵐に巻き込まれなかった活動死体ゾンビ化した魔物達をその視界に捉える。      

その視線の前に活動死体ゾンビ化した魔物達は失われているはずの本能が蘇ったように怯え始める。だが怯える活動死体ゾンビ化した魔物達を聖狼セイントウルフは見逃したりしない。

その力は『闇』をねじ切る為、その爪は『闇』を切り裂く為、その牙は『闇』をかみ砕く為、存在理由が『闇』を屠る為にある聖狼セイントウルフは例え絞りカスといえども『闇』を見逃さない。逃げ出そうとする活動死体ゾンビ化した魔物達に聖狼セイントウルフの異常な狂気が襲いかかるのだった。


数分後、ヒトクイ西側に位置するその場所は爽やかな朝を迎える。


「さあ、帰るか」


聖狼セイントウルフはそう言うと太陽を背に緑生い茂るその場所を後にする。獣道に居たはずの百を超える活動死体ゾンビ化した魔物の姿は塵一つ残らっていなかった。




― ヒトクイ ガウルド ガウルド城 地下 ―




静けさが漂うガウルド城の地下。そこにポツリと立つ背の高い女性は、禍々しい色をした石を見つめていた。


「またここか……いい加減そいつをどうにかしろ」


チャリチャリと鎧が擦れる音を響かせながら姿を現した初老の男は、呆れた表情で背の高い女性が持つ石を指差した。


「……」


だが話しかけてくる初老の男の言葉に一切反応を示さない背の高い女性。


「それはあくまで封印だろう、奴を消滅させたわけじゃない、いずれ封印を解いてまた暴れるぞ」


石の中に封印された存在を危険視する初老の男。しかし背の高い女性はまるで聞こえていないというようにやはり初老の男の言葉には一切反応せず石を見続けている。


「はぁ……俺の勘だが大きな何かがこれから起こる……今のお前の立場からすればその石だけに構っている場合じゃないぞ」


勘と言うわりに何かが起ることを断定する初老の男。その表情は今までの呆れた表情から一変、真剣なものへと変わった。


「……この国を捨てたお前の勘など私は信じない……あの時お前が居てくれればあるいは……」


初めて口を開く背の高い女性は石を見つめながらヒトクイの王の名を呟く。


「……あの時、俺がいれば……フンッ……俺が居た所で何も変わりはしなかったさ」


背の高い女性が言うあの時に対して、初老の男は、自分が居たとしても何も変わらなかったとそう呟くと過去を振り返るような眼差しで暗い地下の天井を見上げた。


「……あの人はお前を慕っていた……」


「慕っていた? 煙たがっていたの間違いじゃないのか?」


背の高い女性の言葉をふざけた調子で茶化す初老の男。


「……自分の背中に立つのはお前しかいないと言っていた」


背の高い女性は今まで石を見つめていたその視線を自分の背後に立つ初老の男に向ける。恨むようなだが悲しむようなそんな複雑な視線で初老の男を見つめる背の高い女性。


「ふん、そりゃ俺を過大評価しすぎだ……あんな化物背なんか俺が守る必要も無かっただろう」


背の高い女性は知っている。どんな時でも初老の男は自分が慕う人物の隣に立ち、支えていたことを。自分が慕う人物が常に初老の男を頼りにしていたことを。


「くぅ」


だから許せなかった。突然理由も告げず国を捨て旅立っていった初老の男が。


「兎に角だ、さっさとその石を処分するなり復活出来ないようにするなり対処しろ」


思い出話をしに来た訳じゃないと言いたげに強引に話を戻す初老の男。


「……国を捨てた……いや、あの人を捨てたお前の話を聞く気は無い……」


だが背の高い女性は初老の男の助言を否定する。既にこの国とは何の関係も無い初老の指図は受けないそんな意地が彼女の言葉からは感じられる。


「はぁ、そうかい……お前も変わらず頑固だな……それじゃしょうがない俺は勝手にやらせてもらう」


お互いに引かない会話は平行線をたどる。初老の男は諦めたように背の高い女性に背を向け地下を昇る為の階段へと歩き出した。


「ああ、そうだ」


だがすぐに歩みを止めた初老の男は思いだしたようにもう一度背の高い女性に振り向く。


「一つ古い友人として忠告しておく、狼と道化師ピエロには気を付けろ」


「……」


初老の男の忠告にただ黙っている背の高い女性。


「まあ、お前なら分かっているか……」


自分の忠告が無駄であることに気付いた初老の男はそう言うと再び背を向け地下から昇る階段へ歩みを進め地下を後にした。


「古い友人……そう私は嫉妬していたんだあの時も、そして今も……」


初老の男が去った後、自分の心に渦巻く感情が何であるかを口にした背の高い女性は八つ当たりするように地下室の壁を叩いた。




― 海 ―




大陸も島も当たらない広い海の上を軽く人一人を飲み込むことが出来る怪鳥がその大きな翼を羽ばたかせながら飛んでいる。その怪鳥の背には一切感情が見えない表情をした少年の姿があった。


『坊ちゃん』


「……何?」


少年は、それが日常だというように自分を坊ちゃんと呼ぶ声に返事する。その声は少年が持つ分厚い本から発せられていた。


『どうもガイアスはこれから騒がしくなりそうです、下手をすれば坊ちゃんの目的に支障がでるかもしれない』


何かを予感させる分厚い本の言葉。しかし少年の表情は眉一つ動かない。


「騒がしくなっていることは何となく分かる……でも関係ない」


『それはどうして?』


少年の言葉に疑問を持つ分厚い本は、何故かと尋ねた。


「簡単さ、この世界がどうなろうと僕には関係ないからさ……」


ガイアスが騒がしくなるというのに他人事のように少年は答えた。


『ふふ、確かに……坊ちゃんには関係の無いことなのかもしれませんね、無駄な質問失礼しました』


だが他人事のように答えた少年の言葉にあっさりと納得する分厚い本。そればかりか少年の答えに対して分厚い本は何処か楽しそうでもあった。



後書き


 どうもお久しぶりです山田二郎です。


ええ……そのなんと言いましょうか、兎に角まずは謝りたいという気持ちで一杯です、はい、ごめんなさい(汗

 新たな話を書いて内容を掘り下げたり分厚くするというような魂胆で書き始めたムハード編ではありましたが、まさかまさかの序盤での息切れ……ええもう苦しく苦しくて仕方がありませんでした。

 全くイメージと異なった方向へといってしまいそもそも収集がつかなかったこのお話が更に収集つかなくなった状態です。もう何度投げ出そうと思ったか……。

 全く納得いかない仕上がり(仕上がってもいない)状態ではありますが、とりあえず一旦ムハード編は終了し再びヒトクイに舞台を移します。ええもうトンズラです。


 とまあ多少の冗談は置いといて、ここまで読んでくれた方々には感謝しかありません。まだまだ修正編集は続きますが、どうかお時間がありましたら引き続き生暖かい目でお付い頂けるとありがたいです。


それでは!


2019年9月6日(金)  某モンスターを狩る新作の発売日だなと思いながら……


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