真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)27 救う選択
ガイアスの世界
『絶対悪』
現在分かっていることは、笑男がその『絶対悪』という存在であるということだけで他の情報は一切不明である。
ただウルディネは『絶対悪』という存在を知っているようだ。
真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)27 救う選択
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
元々に日光を嫌ったような作りになっているムハード城には窓は存在せず光源と言えば視界を確保できる最低限の蝋燭の光しかない。蝋燭の火が一つでも消えれば、一気にその空間には暗闇が広がっていく。
その蝋燭の火が中央廊下での戦闘によって引き起こされた衝撃で全て消えてしまい現在ムハード城の中全ては暗闇に支配されていた。
「離して! 私はアキさんの所に戻る!」
まるで巨木のように枝分かれしたムハード城の廊下の一つでブリザラは自分を担ぐピーランの背で暴れながら声を張りあげていた。
「この暗闇の中、どうやってあいつの下に戻るって言うんだ」
視界が全く効かない現在の状況でアキの下に戻るのは自殺行為に等しいにも関わらずそれでも戻ろうとするブリザラを冷静になだめるピーラン。
「大丈夫! キングが居るから!」
視界不能な暗闇であろうとキングがいれば問題無いとピーランの問に答えるブリザラ。
『王よ、それは許可出来ない……あんな禍々しい場所へ王を再び連れていくことは出来ない』
しかしブリザラの背に担がれている特大盾、自我を持つ伝説の盾キングはブリザラの言葉を拒否する。
「何で! このままじゃアキさんが!」
『もう手遅れだ……小僧は黒竜に呑まれた……もうあの時のような奇跡は二度と起こらない』
キングが言う奇跡とは、サイデリーでアキが黒竜に肉体を奪われた時の話で、この時は、運よくアキは自分の肉体を奪い返すことが出来た。しかしムハードに上陸して以来、黒竜が欲する負の感情が急速にアキに蓄積されているのは目にも明らかで、次に黒竜に呑まれればもう二度とアキが己の肉体を取り戻すことは不可能だとキングは考えていた。
「それでも……」
「本当にいい加減にしろブリザラ!」
不可能だと言われても尚、アキを助ける意思が揺るがないブリザラに怒鳴るピーラン。
「お前があいつにどういった感情を抱いているか、それは勝手だ……だけど少しは私やキングの事も考えてくれ……お前があいつの下に戻ってもしも何かあれば私やキングはどうすればいい!」
ブリザラがアキの身を心配しているように、サイデリーの王に仕える者として、友人として自分やキングがとれだけブリザラの事を心配しているのかを理解してくれとブリザラに訴えるピーラン。
「ピーラン……」
ピーランの言葉にようやく状況を理解したのかブリザラは暴れることをやめ静かに俯いた。
『……分かってくれたか』
胸をなで下ろすような声で静かになったブリザラに話しかけるキング。
「心配かけてごめんなさい……」
二人の気持ちを理解し謝るブリザラ。
「……一つ教えて……アキさんはどうするの?」
静かにはなったが未だアキを救いたい気持ちを失った訳では無いブリザラは、消え入るような声でキングに問いかけた。
『……元に戻る可能性が無い訳じゃない……小僧と共にいるクイーンが最後の壁だ……』
アキが元に戻る可能性、その鍵は同族である自我を持つ伝説の防具クイーンであると告げるキング。
『……だが……その可能性は……細い糸の上を歩くように極めて低い……』
ブリザラに安易な希望を抱かせないようそう付け加えるキング。前回の反省を踏まえクイーンは、現状出来うるだけの黒竜によるアキへ精神支配の対策は施しているはずとキングは考えている。しかしそれ以上にアキという存在は負の感情を取り込みやすい体質である。その対策がうまく機能するのか、キングには判断が出来ない所であった。
「……そんな……」
キングの言葉に落胆するブリザラ。
『今はクイーンを信じるしかない……我々は兎に角この城から脱出することを考えよう』
今は分からないことよりも確実に出来ることをする、キングはブリザラとピーランにムハード城からの脱出を再度提案した。
「ブリザラ、気持ちは分かるけど……今はキングに従おう……それに時間は無さそうだからな……」
外から聞こえる雨音と雷鳴以外、静寂が広がるムハード城。だがその静寂は異様でしかなく、これから何かが起る前触れにしか感じられないピーランは、既にゆっくりとしている時間は無いと考えていた。
「……」
ブリザラは納得はしていない。そんな雰囲気が体温を通して自分の背に伝わってくるのが分かるピーラン。だが先程よりは冷静に状況を考えることができるようになったと判断したピーランは腰を落とした。
「ほら、もう自分で歩け」
「……」
ピーランの言葉に従うようにブリザラはピーランの背から降りる。
「さて、それじゃキング……道案内を頼めるか?」
先程ブリザラが言っていたこと、キングならばこの暗闇でも問題ないという言葉を覚えていたピーランは、キングに道案内を託す。
『ああ、分かった……とりあえず今は真っ直ぐ進んでくれ」
「分かった」
キングの指示に頷いたピーランは、横に立つブリザラの手を握ると周囲を警戒するように見渡した。
ピーランは職業柄、暗闇での行動を得意としている。通常、暗闇に入って数十秒もすれば目がなれ周囲を見渡せるようになる。だがそんな暗闇に慣れているはずの自分の目が全く機能していないことに違和感を抱くピーランは、今自分達の前に広がる暗闇はただの暗闇では無いという可能性が頭を過っていた。
『待て!』
歩き出して数十秒経った頃、キングが突然ピーランとブリザラを止めた。
「どうした?」
常に警戒態勢にあるピーランはキングの言葉にナイフを構える。
『……生命反応……人の気配を感じる……』
「敵か?」
ピーラン達が今いるのは敵地。人の気配があるということは敵である可能性が高い。ピーランは自分の背後にブリザラを隠すと警戒を更に強めた。
『いや……その気配に禍々しいものや敵意は感じられない……後二十歩行った先にある階段を下りた所から感じる……どうする?』
現状ならばその気配を無視して城の外へ出ることを優先するのが得策ではある。だが港の男達からムハード城に捕らえられた女性達の話を聞いていたキングは、その可能性を疑いブリザラとピーランにどうするか尋ねた。
「行く!」
キングの問に即答するブリザラ。
「……」
無言。
「……わ、分かったよ私も賛成するよ」
即答したブリザラはその後一切言葉を発しない。暗闇で一切表情は分からなかったが、ブリザラはピーランを見つめていた。それが手に取るように分かったピーランはブリザラの無言の圧力にに押し負けたというように頷いた。
「1、2、3……」
キングが言った歩数通りにブリザラは自分の歩数を数え歩き始めた。
「ちょ、ま、待て」
手を引っ張られるピーラン。今度は自分が手を引かれる立場になったピーランは暗闇の中、何とも言えぬ表情でブリザラの後を付いていく。
「20! ここで合ってるキング?」
『ああ、問題無い、ここからは階段だ気をつけろ』
暗闇で全く視界が通じない状況で階段を下るのは、常人ならばかなりの勇気が必要になる。そんな中ブリザラは臆することなくその見えない階段の一段目へ足をのばす。
「お、おい……本当に気を付けろよ……」
手を引かれているピーランは、自分のタイミングで階段を下りることが出来ず踏み外したら危ないと考え一度手を離そうと考えた。だが強く自分の手を握るブリザラの手からは不安や恐怖が感じられる。アキの問題に加えこの暗闇ではまだ少女と言えるブリザラの胸中は穏やかでは無いのは当然だ。そんなブリザラの感情を少しでも和らげられればと考えたピーランは、危険だと分かりつつもその手を離すことは出来なかった。
「……何か先が明るくなってきた……」
数分ぶりの光に声をあげるブリザラ。どうやら正面廊下の戦闘によって発生した衝撃は地下にまでは及んでいなかったようで、階段を下りるブリザラ達の前には蝋燭の火が灯った部屋が現れた。
「ここは……」
蝋燭の火によって視界が広がったブリザラはその部屋の内部を見渡す。
「……!」
ブリザラの手が更に強くピーランの手を握る。
「これは……」
ピーランもそれ以上言葉が出ないのか、目の前にした光景に言葉を失った。
ブリザラとピーランの目の前には、数十人もの女性達が折り重なるようにして倒れた光景が広がっていた。
「そんな……キング、生きている人は!」
どうみてもその光景の中で生きている者はいない。だがそれでもブリザラは祈るようにキングに生存者がいるかと尋ねた。
『……部屋の中心に一つ……』
部屋の中心に生存者がいることを確認したキングの言葉を聞いたブリザラはピーランの手を振りほどきその場所へと向かう。
『だが……これは!』
生存者の気配に何かを感じたキング。
『ま、待て王近づくな!』
「……!」
部屋の中心には少年が立っていた。よく見ればその少年から逃げるように女性達は部屋で倒れている。
「……」
部屋に入ったブリザラに対して少年は何も反応を示さない。ただその場に立ち、暗い天井を見つめているだけだった。
「あなたは……」
ブリザラは睨みつけるように見覚えのある少年の顔を見つめる。
「ブリザラ離れろ!」
ブリザラを自分の背後に押しのけ前に出るピーラン。
「こいつは……」
ブリザラ達の目の前に立つ少年、その正体は先程まで正面廊下にいたはずのムハード王であった。
― ムハード城 入口 ―
「それでどうするんだこれから?」
ムハード城に入ろうとしていた港の男の一人が、少女を抱き抱えたトンドルに声をかける。
「……どうするって……嬢ちゃんが意識を失っちまったからな……」
自分の腕の中で意識を失う少女を見ながらトンドルは男の言葉にどうするべきか悩んでいた。
トンドルの腕の中で意識を失っている少女は、この場までトンドル達を導いてきた存在であった。少女の言葉によって士気を保ってきたトンドル達にとって少女を失った今の状態は危うく、下手に動くことが出来ないのはその場にい者達は誰でも理解している。だが少女が意識を失う前に残した言葉がトンドル達には引っかかっていた。
「お兄ちゃんって……サイデリー王と一緒に居た黒い全身防具を纏っていた男のことだよな」
「あんな凄そうな装備している奴に助けが必要か?」
「ああ……一人でこの国の兵力とやりあえる力があるって話だぞ」
男達の中でアキの印象はあまり良くない。それに加え少女自身がアキにはこの国を崩壊させることができる程の力を持っているという発言をしており自分達の助けが必要かと言う疑問を抱く男達が多かった。
「……それよりも今は女達を助けにいくのが先決じゃないか?」
ムハード城が混乱している今、自分達はその混乱に乗じて妻や娘を助けるのが先決だと男の一人が意見を口にした。
「そうだ、今は女房を助けたい!」
「俺は娘二人を!」
男達の意見は少女の言葉を無視してでも自分達の妻や娘を救いだす方に大きく傾いていた。
「トンドルその嬢ちゃんには悪いが、これは好機だ……女達を助けに行こう」
男はそう言うとじっと意識を失った少女を見つめるトンドルの肩に手を置く。
「……悪いが俺は嬢ちゃんの願いを叶えに行く……お前らは女達の下に行ってくれ」
「トンドル!」
自殺行為に等しい言葉を口にするトンドルに男達は驚きの表情を浮かべる。
「確かに女房や娘たちを助けたい気持ちは俺にもある、だが……嬢ちゃんは俺達を救ってくれたんだ……その恩を返さなきゃならねぇ……だからお前らは女達の下に行ってくれ、嬢ちゃんの願いは俺が背負う」
そう言うとトンドルは少女を背負い立ち上がる。
「トンドル……」
「何だ、どう言われても俺は嬢ちゃんの願いを叶えに行くぞ」
自分を止めようとしているのだろうと思ったトンドルは自分に話しかけてきた男にそう断りを入れる。
「違う、俺も一緒にいく、俺もお前と想いは同じだからな」
そう言いいながらトンドルに不敵な笑みを浮かべる男。その男は隔離施設で少女を肩に乗せていた男だった。
「そうか、悪いな、助かるよ」
不敵には不敵を、トンドルは不敵な笑みを浮かべる男に不敵な笑みを仕返しそう言った。
「そ、それじゃ俺も……」
「俺も……」
トンドルは港の男を纏める存在。そんなトンドルの言葉に心を打たれた男達数人が自分もついて行くと声を上げ始める。
「いや、女達を助けるには人手がいる、俺とリンパ以外は女達の助けに向かってくれ」
城に捕らえられた女性の数は、今この場にいる男達よりも多い。それを助ける為には一人でも人手が多い方がいいと考えたトンドルは一緒に行くと声を上げた男達に頭を下げた。
「俺の女房と娘を頼む」
自分の腕の中で意識を失っている恩人の願いを叶えにいく。妻や娘に罪悪感を抱きつつも、譲れない意地があるトンドルは、男達に自分の妻や娘のことを頼んだ。
「ああ、絶対に助け出してやる! だから死ぬなよ!」
男達はトンドルにそう言うと、ムハード城の中へと入っていった。
「それじゃ俺達も行こうか」
唯一、トンドルと行動を共にすることになったリンパはトンドルから意識を失った少女を受け取ると、その広い背中に少女を背負った。
「振り落とさないように紐でガッチリ結んでおく、だからお前は安心して少女の願いを叶えてやれ」
親指を立てニヤリと笑みを浮かべるリンパ。
「ああ、本当に頼りになる相棒だお前は!」
軽くリンパの肩を叩いたトンドルは、そう言うと城の中へと入って行くのであった。
ガイアスの世界
ピーランの夜目
暗闇の行動が得意とされる戦闘職、忍。その目は暗闇に順応する速度が高く、早い者ならば数秒で周囲を見渡せるという。
ピーランも忍として夜目の能力は当然持っている。だが順応度は平均的な忍と同じ程度な模様。