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真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)25 魔王の種子

ガイアスの世界


ムハードに降る雨


 砂漠の大地であるムハードは、その気候から雨が降らない。雨が降ると天から恵みと大騒ぎして祭りを開くほどだ。だが現在のムハードはどの国も大小なり争いを抱えている為、祭りをする余裕が無い。

 雨に関してムハード大陸ではとある伝説が言い伝えが残っているが、戦争が激化している今、そんな伝説を想う余裕は人々の心には無い。

 



真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)25 魔王の種子




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




― ムハード城  ―




 ムハード大陸に突如として振り出した雨が止む気配は無く激しい風と共にその雨音を激しくさせ曇天から無軌道に落ちる雷は、強烈な音を鳴り響かせ砂漠の大陸のあちこちにその爆音を振りまいていた。

 しかし大陸全体が記録的な嵐に見舞われているというのにムハード城内で響いた絶叫は、そんな記録的な嵐によって振り続ける雨や曇天から鳴り響く雷、嵐のように吹き荒れる風の音を一瞬でもかき消したのだ。雷鳴響く豪雨の嵐の音すらかき消す程の絶叫は当然、城外にも響きわたっていた。


「「「「……!」」」」


内部の状況が分からず咆哮や絶叫が響く魔窟となったムハード城の内部へと足を踏み入れようとしていたトンドル達は、突然響き渡った先程の死者の怨嗟のような咆哮とは違う絶叫に耳を塞いだ。先程響き渡った咆哮とは性質が違うとはいえ、鼓膜を破壊するのではないかという純粋な音量、そしてその絶叫に含まれた効果を危惧したからだ。

 一緒に行動を共にしているウルディネの話によれば、城内に度々響き渡った咆哮には人間の精神を崩壊させる効果があるという。今響き渡った絶叫は、先程のものとは明らかに違うが、発生源は魔窟となったムハード城内。そこから発せられたものには当然何等かの効果が付与されていたとしてもおかしくないからだ。だがそもそもムハード城内から発せられた咆哮や絶叫に付与された効果は耳を塞いだぐらいで防げるのか定かでは無い。それでも他に対処の術がないトンドル達には耳をふさぐぐらいしか成す術は無い。


「……?」


 絶叫が止みしばらく経っても自分の体に異変が起こらないことを感じたトンドルは、不気味なムハード城内部を入口から見つめながら耳を塞いでいた手を恐る恐る離した。


「大丈夫……なのか?」


 周囲で同じく耳を塞いでいた港の男達と視線を合わせ皆の生存を確認するトンドルは、その視線を自分の横に立っていたウルディネに向ける。


「……」


そこに居た少女には先程までの人間とは思えない程凛とした雰囲気は無く、目の前の状況に対して見た目相応に不安を抱くただ少女のようなウルディネの姿があった。


「……な、なあ嬢ちゃん?」


あまりにも先程まで様子が違うウルディネに少し動揺しながらもトンドルは心配そうに声をかける。


「……」


だがウルディネから返事がかえってこない。自分達と同様にあの馬鹿デカい絶叫の影響で鼓膜をやられたかと一瞬トンドルは考えはしたが、強力な力を持つウルディネが自分達のようにあの絶叫を防ぎきれなかったとは考えにくい。もし音が聞きずらくなっているとしても周囲の男達は身振り手振りで騒いでいるため嫌でもその光景が目に入ってくるはずだ。だがウルディネは一切の反応をみせずただムハード城の内部を見つめ続けているだけだった。


「嬢ちゃんしっかりしろ!」


事体が好転した訳では無くむしろ悪化したことをウルディネの表情から読み取るトンドルは、心ここにあらずといった状態のウルディネの肩を揺らし再度話しかける。


「……お兄……ちゃんが……」


「はぁ?」


ウルディネの口元から発せられるか弱い声。鼓膜をやられはっきりと聞き取れないトンドルは何と口にしたのかと耳を近づけた。


「……お兄ちゃんが!」


「……」


 鼓膜をやられているトンドルの耳にウルディネの言葉がはっきりと聞こえるはずもない。だが僅かに聞こえたその声にトンドルは目を見開き驚きの表情を浮かべる。

 心ここにあらずという言葉がまさに現在のウルディネの状況に当てはまっているようだった。ウルディネから発せられた声、はっきりと聞き取れはしないが、その声はトンドル達が知らない少女の声であったからだ。


「ど、どうしたんだ嬢ちゃん!」


何かの間違いだと再び肩を揺らしウルディネに話しかけるトンドル。すると暗い表情のままウルディネの視線はトンドルに向けられる。


「た、助けて! お兄ちゃんを助けて!」


 慌てる様子でお兄ちゃんを助けてトンドルに訴えるウルディネ。その様子はやはりその見た目相応で先程のウルディネとは違う。そして徐々にはっきりと音が聞き取れるようになってきたトンドルは耳に入ってきたその幼い声に今自分の前ににいる人物がウルディネでは無いことを確信した。


「……お、お嬢ちゃん……名前は……」


信じられないという表情で、目の前のウルディネの名を聞くトンドル。


「……名前? ……テイチ……私の名前なんていいから、早くお兄ちゃんを助けて!」


その名はムウラガでアキと出会ったことによってその運命が大きく変わった少女の名であった。




― ムハード城内 正面廊下 ―




「……いやはや」


 しばらく続いた静寂、それを打ち破ったのは外の雨音や雷鳴、風の音でも無く笑男スマイリーマンの何とも腑抜けた口癖の一つであった。笑男スマイリーマンはその名の通り何とも嘘くさい笑みを崩すこと無く緊張感の無い態度で対峙する禍々しいドラゴンの兜を被った黒竜ダークドラゴンを見据えなる。

 笑男スマイリーマンと対峙する黒竜ダークドラゴンは絶叫以降、静かにその場に佇んで動きを見せない。そんな黒竜ダークドラゴン笑男スマイリーマンは首を傾げる。


「……あらら……大人しくなりましたね……」


絶叫から一変、一切動かず黙りこんだ黒竜ダークドラゴンのその様子に更に首を傾げる笑男スマイリーマン


「ふむふむ……今のあなたはどちらなのですか?」


黒竜ダークドラゴンの身に起きた変化、絶叫以前とは明らかに違う気配に笑男スマイリーマンはまるで今自分の前に立つ存在が黒竜ダークドラゴンでは無いと言いたいかのようにそう尋ねた。


「……どっちでもいいだろ」


 バキンと鉄が割れる音と共に頭部を覆っていた禍々しいドラゴンの兜の目元にひびが入りそこから覗く鋭い視線。笑男スマイリーマンに向けられたその鋭い視線にははっきりと分かる深い怒りが籠っている。それに反して冷静なその口調は言葉の内容と全く不釣り合いなほどに淡々としてるのだがそれでも怒りという明確な感情が内包されていた。


「……いやいや、それでは困ります……」


既に答えを理解しているといった様子である笑男スマイリーマンは、黒竜ダークドラゴンの答えに顔を横に振った。


「答えははっきりとしてくれなきゃ、なにせ私は、アキ=フェイレス……あなたを求めていたのだから」


やはり黒竜ダークドラゴンの身に何が起こったのかはっきりと理解していた笑男スマイリーマンは対峙する黒竜ダークドラゴンが乗っ取ったはずの肉体の本来の持ち主、アキの名を口にした。

 そう笑男スマイリーマンの前に立つ存在は、黒竜ダークドラゴンに肉体を乗っ取られたはずのアキであった。


「求めていた? 俺はお前に用は無い……いや、用はあるな……お前を殺すという用が……」


そう言いながらアキは黒竜ダークドラゴンと同じように振り上げた右腕を横に薙ぐ。すると『闇』を内包した鋭い風が笑男スマイリーマンに向かって放たれる。だが笑男スマイリーマンは笑みを浮かべたままアキの放った攻撃を何の苦も無く躱した。


「ッ!」


躱したはずだった。しかし次の瞬間、笑男スマイリーマンの右腕は破裂するように吹き飛んでいた。その衝撃からか笑男スマイリーマンは初めてその表情に変化を起こした。


「……あらら……これは凄い」


だがその表情の変化は一瞬ですぐさま元の胡散臭い笑みに戻る。


「私に攻撃を当てた者なんて……ましてや人間なんてどれぐらいぶりですかね……」


右腕を失ったにも関わらずその声に一切の焦りは無くむしろ喜びが滲み出る笑男スマイリーマン


「ですが……たかが腕一本失っただけ、失ったならば復元すればいい」


そう言うとその言葉通りに失ったはずの右腕を失う前と寸分違わぬ状態、衣服の袖にいたるまでしっかりと復元する笑男スマイリーマン


「……いやいや、さすがにここまで早くあなたが黒竜ダークドラゴンの支配から抜け出すとは思いませんでした……これも私が色々と仕込んだ努力の賜物でしょうか」


驚いたと言いつつもアキが黒竜ダークドラゴンの支配を打ち破ったのは自分の功績だとさりげなくだがはっきりと言う笑男スマイリーマン


「で・す・が・まだ足りない……あなたは自分が内包するその力の存在をもっと深く理解し学ばなければならない……どうです? 知りたくありませんか、伝説の防具が持つ力でもなく黒竜ダークドラゴンの支配を退くことができるあなたが持つその力の正体を?」


 笑男スマイリーマン黒竜ダークドラゴンでも無く、自我を持つ伝説の防具の力でも無いアキ自身がその身に内包した力の正体を知りたくないかと問う。


「……お前の話なんてどうでもいい、即座に俺の前から消えろ」


そう言うとアキは少し姿勢を低くするとそのまま笑男スマイリーマンに向かって飛び込んでいく。それは一瞬のことであり目にも止まらぬ速さで笑男スマイリーマンに距離を詰めたアキは、再び右腕を振りかぶり横に薙いだ。その薙ぎ払った腕からは先程よりも更に『闇』が凝縮された鋭い風が放たれ笑男スマイリーマンを襲う。至近距離から放たれたアキの攻撃を笑男スマイリーマンは恐ろしい反応速度で躱したはずだったが、やはり先程と同様に躱したはずにも関わらず今度は右足が吹き飛ばされた。


「あらら、やはり翼の生えた蜥蜴とは訳が違いますね」


 右足を失い残った左足一本で床を蹴り器用に距離をとる笑男スマイリーマン。しかしそんな状態でありながらもその顔が歪むことは無い。だがアキの攻撃はこれでは終わらない。ピョンピョンと片足で跳ねる笑男スマイリーマンに対して既にアキは二撃目を放っていた。


「あらら」


アキの放った追撃は容赦なく笑男スマイリーマンの左腕、左足を喰らう。気付けば笑男スマイリーマンは四肢全てを失い今まで何の罪も無く死んでいっただろう国の人々の血を吸いあげてきたムハード城の床に倒れ込んだ。だが四肢を失っても尚、仮面のような作られた笑みは僅かも変化しない。


「……聞く耳を持ってくれませんか? うーん……それでは話を変えましょう、なぜあなたは私を殺したいのです?」


状況だけ見れば四肢を失い明らかに劣勢である笑男スマイリーマン。だが劣勢であるにも関わらずやはりその表情は一点の曇りも無い胡散臭い笑顔のままアキに問いかける。


「……」


だがアキは笑男スマイリーマンの問いかけに答えない。


「……話してくださらない……では仕方がありません、無口なあなたの為に私がお話いたしましょう……あなたは少女の為に私を殺そうとしている……違いますか?」


笑男スマイリーマンが口にした少女とは、ウルディネが宿る肉体の本来の持ち主であるテイチのことを差していた。

 なぜテイチの為にアキが笑男スマイリーマンを追っていたのか、そして殺そうとしていたのか、それはテイチの故郷である村を焼いた張本人が笑男スマイリーマンだったからだ。

 笑男スマイリーマンは、盗賊の下っ端に成りすまし他の盗賊達を影から操り利用価値の無いムウラガの名も無い村の一つを襲わせた張本人であった。


「ですが私は分からない……その日初めて出会った赤の他人である少女の為に、普通そこまでしますか?」


 その日初めて出会ったテイチが自分の村とかけがえのない両親を失った事を知ったアキは、その張本人であった笑男スマイリーマンの手がかりを求めムウラガから旅立つことを決めた。だが普通初めて出会ったばかりの少女の為にそこまでの行動をとることが出来るのかと疑問を抱く笑男スマイリーマン


「ッ……」


笑男スマイリーマンの言葉に明らかに動きが鈍るアキ。


「……いやいや、確かに故郷を焼かれ両親を失った少女に普通の感覚を持つ者なら同情するでしょう」


最も普通とは縁遠いだろう笑男スマイリーマンは自分がテイチの故郷を焼き両親を殺した張本人であるということを棚に上げまるで自分は常識の範疇で生きているといわんばかりに普通の感覚という言葉をひけらかした。


「お前ッ!」


今まで冷静であったアキの口調に一瞬にして火が入る。笑男スマイリーマンの言葉によって静かに研ぎ澄ましていた怒りを爆発させたアキは、右腕の手甲ガントレットを鋭い刃に変化させるとそのまま笑男スマイリーマンの胸に突き刺した。


「……当然、あなたも人としての善良な心は持っている」


だが突き刺したはずの笑男スマイリーマンは平然と話を続ける。


「でも、それにも限度がある……普通ならばその日にあったばかりの少女の為に村を焼き両親を殺した者の後を追おうなどとは思わない」


「だまれッ!」


止まらない笑男スマイリーマンの言葉を遮ろうと二度、三度と胸部をつき刺すアキ。


「……少女の命を助けられなかったという負い目があった、そしてその負い目を共有する上位精霊の存在がいたというのは、あなたの行動を後押しした要因かもしれない……」


 アキにとってテイチとは贖罪の存在であった。その時すでに少女一人を守れるだけの力は十分に持っていたアキ。にも関わらずアキはテイチを守ることが出来なかった。その結果、テイチは魔物に襲われ死んだのだ。それは圧倒的な力を手にしたことによる気の緩みからくるものであったとアキは自覚していた。

 そしてテイチに対して贖罪の心を抱いているのはアキだけでは無い。本来ならば魔物が入らないよう強力な結界を張っていたはずのウルディネもアキという珍しい存在と出会ったことによってその結界を解いてしまった。それが原因となりテイチがいる場所へ魔物を呼び込んでしまったのだ。


「だが……それはあなたが本当に私を追った理由では無い」


「何?」


スマイリーマンのその言葉に胸部に突き刺していた刃を止めるアキ。


「……あなたは……伝説の防具の力を手に入れ、『闇』の力を持つ黒竜ダークドラゴンの力を手に入れても尚、まだ力に飢えていた……そんな力に飢えていたあなたは、私に出会った瞬間に感じたはずです……私が発している導く力を……」


「導く力?」


思わず笑男スマイリーマンの言葉を聞き返すアキ。


「そう……導く力……私にはあなたのような種子を持つ者を導く力がある、そして導かれた者は『彼ら』となる!」


僅かに開いたアキの隙を逃さない笑男スマイリーマンは体中に穴をあけられながらも平然とそうまくし立てた。


「……あなた達には……いや……あなたにはその素質がある……あなたは……」


そう言いながらいつの間にか復元させた両腕でアキの顔に触れる笑男スマイリーマン


「魔王の種子を……持っているのだから……」


囁きかけるようにアキにそう告げる笑男スマイリーマンの表情は、まるでようやく運命の人に出会った少年のような嬉しさを纏っているようだった。




ガイアスの世界


魔王の種子


 魔王の種子とは魔王になりえる才を持った者の事。『闇』の力を持つ者の中に存在していることが多いがそもそも宿ること事体が珍しい。そして更に人間に魔王の種子が宿ることは極めて稀。

 そして例え魔王の種子を宿していたとしても人為的な処置を施さなければ種子から芽が生えることは無い。自然にその条件が揃うことは稀でガイアスで誕生した魔王のその殆どは何者かの手によって仕組まれたものであると言われている。

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