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真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)20 恐怖に支配された国

サイデリー王国戦争法令


この法令はサイデリーの国の盾士が守らなければならない物で、それを破れば盾士の戦闘職をはく奪されることになる。

 内容は他国への侵攻をしない、他国からの侵攻をさせないからはじまり、盾士としての心構えや戦い方、他国へ出向いた時の行動の仕方などが書かれており法令というよりは、盾士の説明書としての意味合いが強い。

 第一条から第十条まであるが内容的には普段から盾士としての訓練を真面目にこなしていれば特に違反することの無い内容ばかりである。

 ただ第三条だけは特殊な内容になっている。その内容とは王の命が狙われた場合の盾士の制約が全て解除されるというものである。この第三条が発動すれば王や盾士は他国で武力を行使できるということになる。だがこの条件を発動する為には王の了解が必要になってくる。しかしこの法令が誕生してから現在に至るまで一度も第三条が発動したことは無い。




 真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)20 恐怖に支配された国




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




― アキとブリザラがムハードに上陸する数日前 ―



砂漠の大地にポツリと現れるその町は、日中灼熱の太陽が強烈な輝きを見せるというのに夜のように暗く活気が無い。そしてまるで死人のようなその町の中心に位置する場所には、町の雰囲気を具現化し象徴するような城が存在する。

 その城の名はムハード城。砂漠の大地ムハード大陸と同じ名を持つ国ムハードを象徴とする建造物である。だが現在その城を見てムハードの象徴だと思う者など誰もいない。その歪で不気味な光景に見た者は誰しもが悪趣味だと顔を引きつらせるのだ。  

 その理由は城の周囲を囲むようにしてそびえる数十もの突起にあった。槍のように鋭く尖った突起は城の防衛の為でもただの芸術的価値も見られずその用途は不明。

 いや、それが正しい使い方なのかは分からないが一応用途はある。そしてムハード城の主の目からすれば城の周囲にそびえる突起は、芸術的価値を持っているのかもしれない。

 ムハード城の主が囲むようにしてそびえ立つ数十もの突起をどう使用としているのか、それは人間をその突起に突き刺すというものであった。そうムハード城の周囲にそびえる突起には、人が突き刺さっているのである。

 当然串刺しになっている人間に息は無く生きている者はいない。良く見れば腐り始めているものや既に白骨化を始めているものもある。突起の付け根には腐り果てて落下した人間の躯が大量に転がり、当然異臭を放っている。だがそんな状態にあっても誰もその躯を処理しようとする者はいない。迂闊に触れてムハード城の主、ムハード王の怒りに触れるのが怖いからだ。

 なぜそんな事をするのか、それは罪人の処刑と見せしめである。だがそれは表向きで本当はムハード王の趣味、性癖に他ならなかった。

 ムハード王は人の命が消える瞬間を大好物としている。それは到底人間では理解できないような感覚で理解される物では無い。だがこの国を治めるムハード王の行動は国の人々からすれば絶対であり逆らうことなど出来ない。

 毎日増えていく串刺しの躯に次は自分の番では無いかと人々は毎日恐怖に煽られているのである。

  だがここ数年、毎日の習慣である串刺の場にムハード王は姿を現していない。人が生きたまま串刺しになりその瞬間の断末魔を誰よりも愛し待ち望んでいたムハード王は、突然人々の前に姿を現さなくなったのだ。

 それは国の人々に僅かな希望を与えた。病で体を患ったのではや、他大陸の国に目をつけられ自分の命が狙われるを恐れ公の場に姿を現すことを嫌ったのではなど、様々な噂が水面下で広がった。だが数年経った現在も状況は変わっていない。いや正確に言えば状況は悪い方向へと動いていた。串刺しになる者達はムハード王が姿を現さなくなってから確実に増加していたからだ。

 ムハード王が姿を現していた頃は串刺しになる者は一日一人か二人だった。だがムハード王が姿を現さなくなってからは、毎日十人近くの者達が鋭い突起の餌食になっていた。

 姿を現さなくなってから状況が更に悪化したという現実は、もしかしてと思っていた国の人々を更なる絶望へと落とし更なる恐怖を広げる結果となった。


 その外観だけでも不気味で悪趣味なムハード城。だがその内部は更に悪趣味で混沌としていた。常に死と隣り合わせにあるようなそんな感覚すら感じる場内には、腐臭とは全く異なる異様な臭いが充満している。その臭いは女性にだけ作用する媚薬が含まれており城内のある一部からは常に女性達の快楽に溺れた声が響き渡っている。

 そして城内にある全ての廊下の壁には外で串刺しになっている躯とは違い腐ることも白骨化もしない特殊な加工を施された躯達の置物がズラリと並んでいた。

 腐る事も白骨化することも無い躯の表情は、どれも今にもその口から恨みや苦しみを発しそうな苦悶の表情に歪んでいた。死の瞬間を切り取った表情のままその廊下に飾られているのである。

 そんな悪趣味極まりない廊下を右へ左へと曲がるとその先にムハード王が体を休める寝室が現れるのだ。

 到底正常な感情を保てないその廊下を平然と歩く一人の男は迷うことなく王の寝室の前に立つとノックも声もかけず無礼にもその扉をあけ中へと入っていった。

 扉を開け中に入るとそこに待つのは深い暗闇。目が暗がりに慣れればというレベルでは無く一切視界が届かない深い暗闇がそこにはある。当然蝋燭の一つもなく灯りを灯す手段は無い。

 光そのものを拒絶しているような王の寝室に入った男は、すぐさま膝をつき頭を下げた。


「お久しぶりです、ムハード王」


視覚が一切機能しない暗闇が広がる部屋で男は平然とそう言うと自分の目の前、数メートル先にムハード国の王が居ることを確認する。それは男が王の寝室を頻繁に行き来しているという証明であった。だがそれとは別に男は、暗闇という状況に異常な程の耐性を持っているようであった。

 まるでその暗闇が暗闇ではないかのように、男は平然と王の寝室に広がる暗闇に溶け込んでいるようであった。


「……」


微かに暗闇の部屋に響く呼吸音。


「……どうやら息災のようですね」


暗闇で呼吸音しか確認できる情報が無いのにも関わらず男は目の前にいるだろうムハード王に対して息災と口にした。だがお世辞にもムハード王の呼吸音は健康なものでは無く到底息災とは言えない。


「……ッ!」


男の言葉に弱々しかったムハード王の呼吸が突然乱れ出した。


「……今回も質の良い商品をお持ちしました、ご利用していただければ幸いです……ああ、心配なさらずお金はいりません、質のいいものではありますがまだ実験段階、色々と不満な点をお聞かせくださるだけでけっこうです……」


だが男はムハード王の乱れた呼吸など一切構わず自分が持ってきた商品の話を語をつらつらと語る。その口調は商品を押し売りする悪質な商人のようであった。


「……ッ!」


望まない物を拒否するように更に呼吸の乱れが強くなるムハード王。


「ああ、お気に召してくださいましたか?」


どこをどう聞けばムハード王の乱れた呼吸をそう捉えることが出来るのか、男は暗闇でニタリと笑みを浮かべると床に付いていた膝を上げムハード王が寝ているだろうベッドの方向へ迷いなく歩き出す。やはり男にとってこの暗闇は暗闇では無いようだ。


「……ッ!」


近づいてくる男を拒絶するようにムハード王の呼吸には必至さが含まれ更に乱れが強くなる。


「何々、早くこの商品を使ってみたい、ははは……そう焦らなくても、この商品は既に王の物ですよ」


だがそれでも男はムハード王の乱れた呼吸を一切構う事無く、ベッドの脇で足を止めると懐から何かを取り出した。


「……ッ!」


寝室に広がる暗闇を塗りつぶす程の更なる暗闇を発する何かを手に持つ男。それが何であるのかを理解しているようであるムハード王は、悲鳴にならない悲鳴を寝室に響き渡らせる。


「さあ、ご消耗ください」


暗闇で表情は伺えないがきっと必至の形相で拒絶しているだろうムハード王に向け男はその暗闇を発する何かを押し付けた。


「ガッごここ五子ここ五個!」


すると何かを詰まらせたようなムハード王の声が暗闇の寝室に響く。


「……さあ、今回のはいかがですか? これできっとあなたが望む更なる『闇』へと近づくはずですよ」


ムハード王に押し付けられた暗闇の何かは寝室に広がる暗闇を侵食るように飲み込むように広がって行くのであった。




 


― ムハード城内 入り口に近い廊下 ―



「……そうか、俺は死んで無かったのか……」


 城内に入り真っ直ぐ続く廊下の途中で目覚め一番自分の顔を覗くブリザラとピーランを見つめながらそう呟いたのは、ブリザラを人質にとろうとしてあっさりキングに気絶させられたムハード兵の兵隊長、サカキであった。サカキが呟いた言葉には何処か残念そうな気配が漂っておりその言葉を耳にしたブリザラは首を傾げる。


「……残念だったな、死んで無くて。お前にはこの国の事で色々と聞きたいことがある、だから生かした」


首を傾げるブリザラの横でサカキの顔を覗きこんでいたピーランは冷たい視線を向けながらそう口にした。


「嘘つけ……ここにいる俺の部下は皆死んでいないぞ……」


自分を見つめるブリザラとピーランから視線を逸らし周囲を見渡すサカキ。その視線の先には自分と同じくロープで拘束された自分の部下達の姿があった。皆息はしているようでその様子を見たサカキはピーランの言葉が嘘であると言い当てる。


「はは……流石サイデリー甘いな」


サイデリーの事情を知っているのか、自分の部下達に息がある事を知ったサカキはブリザラに視線を戻して乾いた笑いを一つ上げる。


「……」


どう反応していいのか分からずブリザラはただ戸惑った表情をサカキに向ける。



「……それで……聞きたいことはなんだ?」


 戸惑ったブリザラの表情に満足したのか、サカキはピーランに視線を向けるとそう口にした。その表情は自分の生死を握られ観念したというよりは、どこか投げやりな態度であった。


「いい心がけだ……ならば一から十まで話してもらおうか……」


 ブリザラを馬鹿にされた事に少し苛立っていたが、正直サカキが言ったことは正論であるとも思うピーラン。苛立ちを押し込めブリザラの前では一切見せないだろう更に冷たい表情でサカキにそう告げる。


「一から十までか……俺が話せることは何でも話すぞ」


どこかふざけたような様子で冷たい表情を向けるピーランにそう答えるサカキ。


「……お前の真意だ」


「真意? ……真意か……はは、そんなものありはしない……あるとすれば他愛無いことだ……疲れた……疲れたんだよ……今の生活に……」


 ピーランの言葉に乾いた笑いを浮かべたサカキはそう言うとロープで体を縛られた上半身を起こし廊下の壁に背を預けた。


「疲れた? ……この国の王と同じく町の人々を苦しめていたお前がそれをいうのか?」


王と共に私腹を肥やしていた男が今の生活に疲れたなどありえないと思うピーラン。そんなふざけた答えは聞いていないというように抑揚無くその事をサカキに指摘する。


「……だよな……そう思うよな……」


先程まで何十人もの部下を従えていた兵隊長とは思えない軽い口調。これがこの男の地かと思いつつ、サカキが口にする次の言葉を待つピーラン。


「……確かに、俺はこのムハードの人間を苦しめていた側の人間だ……そこは否定しない」


自分が今まで行ってきた町の人々への仕打ちをはっきりと認めるサカキ。


「何が言いたい?」


だが何か含みのあるサカキの言葉にピーランはその含みの正体を話せと促した。


「……あんた達は、化物を殺すことが出来る人間か?」


「化物?」


今までの話と何の脈略も無いサカキの問に首を傾げるピーラン。


「化物だよ……この国に救う邪悪な化物を退治する力があんた達にはあるのかと聞いている」


だがサカキからすればその問は真面目なものだったらしく若干語気が強まる。


「……それはわかりません……ですがその化物がこの国の人々を苦しめているだとしたら、私は全力でお力になりたいと思っています」


真面目な問に真剣に向き合おうとするブリザラは、サカキに対してそう答えを返した。


「ははッ……流石大国の王様が言うことは一味違うな……だが……甘いな、甘すぎる。そんな甘ったれた感覚じゃあの化物は殺せない……」


「おい、さっきから何の話をしている、私達は化物退治をしに来たわけじゃない、お前からこの国や王の情報が聞きたいんだ」


話が妙な方向へとずれていると感じたピーランは、話を主軸に戻そうと少し圧を乗せた言葉でサカキを問い詰めた。


「だからその話をしているだろう、結局あんたらがしようとしていることは、この国に巣くう、王という皮を被った化物の退治だ」


「化物?」


 人間でも化物と呼ばれる存在はいる。人間離れした者や、人間では考えつかない行動、悪行をした者を物の例えで化物と呼ぶ事がある。港の男達の話や町の状況、城の周囲にそびえる突起に突き刺さった躯などを考えれば、確かにムハードの王が化物と呼ばれてもおかしくは無い。だが何処かサカキが口にするそれはそう言った趣旨とは違っているように感じたブリザラとピーラン。


「そう……言葉通りだ……ムハードの王は人間じゃない、人間の知性を持った化物だ」


「!」「!」


サカキが口にした真実に目を見開くブリザラとピーラン。


「……そうじゃ無きゃあんな悪趣味な物を城の廊下に並べたりしないだろう」


そう言いながら顎で廊下に並べられた人間の躯を示すサカキ。


「……ッ!」


今までブリザラは廊下の壁にズラリと並んだ躯をはっきりと見ないようにしていた。はっきりと見てしまえば恨み辛みの籠った苦しそうな声が聞こえてくるのではないかと思ったからだ。だがサカキの顎の動きに誘導されるようにブリザラは廊下に並べられた躯達に視線を向けてしまう。

 一体の躯に視線を向けた瞬間、その躯の苦しみに満ちた表情がブリザラの心を抉り取るように何か訴えてくる。


『目を閉じて耳を塞げ!』


躯を見つめたまま絶句し硬直してしまったブリザラに即座に声をかけるキング。しかし何かに囚われたように反応を示さないブリザラ。それを見かねたピーランが無理矢理ブリザラの視線を遮り両手で耳を塞いだ。


「……はは、そんな調子じゃあの化物は殺させないぞ……ここに並べられた躯の全ては、あの魔物の恐怖を増幅する為の装置みたいなもんだ……心が弱ければすぐに恐怖に取り込まれる……あの化物は人の心の隙間に入り込み人を恐怖に陥れるのが得意だからな」


視界を遮られ耳を塞がれたブリザラの姿を見ながら乾いた笑いを上げるサカキ。


「……この国は恐怖で支配されている、町の人間も港の男達も国の兵でさえも……そしてあの化物の恐怖に一度でも触れれば俺のようにあの化物には逆らえなくなる……」


「……自分がこの国で行った数々の罪は全てその恐怖の所為だと言いたいのか?」


「ああ……あの化物の姿を見ていないあんたらには伝わりにくいかもしれないが、あの化物の恐怖は耐えがたく抗うことが出来ない、一度触れれば最後、死んでも続くかもしれないという恐怖が心を支配する……それがこの国に救う魔物の正体と言ってもいい……」


サカキはその恐怖を思いだしているのか体を震わせていた。


「さぁ……サイデリー王……この国の王を討つ為の大義名分は俺が用意した、後は国に戻り自国の兵をこの国に向かわせこの国の王、いやあの化物を殺してみせろッ!」


恐怖が入り混じった表情でそう叫ぶサカキの言葉には早く自分達をこの恐怖から解き放ってくれというような懇願が混じっていた。


「……」


だが絶句したまま放心するブリザラにサカキの言葉は届かない。


「あぐぅ……ああああああああああ!」


するとその直後、突然苦しみだしたサカキは体を跳ね上げながら穴という穴から血を噴き出しこと切れた。力無く床へと倒れ込むサカキの体。


「死んだのか?」


目の前で起こった突然の状況に困惑するピーラン。

 するとサカキの体から噴き出した血の色が赤黒く変化していく。


『危険だ離れろ!』


キングの言葉にブリザラを抱き寄せ倒れたサカキから離れるピーラン。

 するとサカキから流れ出た赤黒い体液は、まるで意思を持つよう脈を打ち動きだすとまるで蛇のように躯が並べられた廊下の先へと進み消えていった。


「……何だあれ……」


目の前を過ぎ去った赤黒い何かに首を傾げるピーラン。


『……あれは……『闇』だ……』


キングはサカキから流れ出した赤黒い物体が『闇』であると告げる。


「……『闇』……」


状況をうまく理解できないピーランは、キングの言葉を繰り返すことしか出来ない。


『これは想像以上に不味いことになった……』


全てを理解したようにそう呟くキングの声には一切の余裕が見られない。


「あんたがそう言うってことは相当なんだね……」


正直何が何だか理解できていないピーランだったがここまで狼狽えるキングの声色に事が危険な状況である事だけは理解出来た。自分の理解を超えた状況が起こっていることに動揺しながらもピーランは、恐怖に呑まれ意識を失ってしまったブリザラを守るように強く抱きかかえるのだった。



― ムハード城 隔離施設 ―



 外の熱が否応なく狭い部屋の中に充満する。狭い部屋に押し込められた男達の熱も加わりその暑さは上昇し更にその男達の体臭が強くなり不快感が増す。窓も無い部屋に心もとない蝋燭の灯りが一つ二つ。身動きをとるのも一苦労なぐらいにすし詰め状態にされた港の男達は、静かにこれから待つ自分の運命を考えていた。その表情は一様に暗い。

 隔離施設とは、罪を犯した者達が集められる場所だった。だがそこに送られたが最後絶対に生きては帰れないと言われ、送られれば死刑宣告をされたと言ってもいい。人々にとってその場所は恐怖の対象の一つに数えられる場所であった。


「ムムム……この男臭さに辛気臭さ……私には耐えられんぞッ!」


暗く俯く男達の汗臭さとうだるような暑さに我慢の限界と声を荒げる少女。その声は男達共々隔離施設に放り込まれたウルディネのものであった。


「何を皆暗い顔をしている! 海の男ならどうにかしてここから逃げ出そうという気概を見せんか!」


今回隔離施設に集められたのは、多少歳はとっているものの町の者に比べれば、強靭すぎる程の肉体を持つ海の男達である。ウルディネはなぜそんな屈強な男達が何も行動を起こさず黙り込んでいるのかと怒りを露わにした。


「お嬢ちゃん……ここに集められたらもう終わりなんだよ」


少女の言葉にすでに諦めているというように力無くそう答える一人の男。その男は港にある寂れた酒場でブリザラと話していた男達のリーダーであった。


「そんなもん、やってみなければ分からないだろう!」


「やってみなければって……じゃどうすればいいんだ」


そう言いながら港の男達がすし詰めにされている部屋を見渡す男達のリーダー。港の男達が集められた部屋の壁は、見ただけで頑強なことが分かる。何か壊す道具があればどうにかなるかもしれないが、港の男達はムハード兵に連行される時、武器になりそうなものは全てとりあげられているのでそれは不可能。唯一の出入り口も分厚い鉄扉で素手でどうにかできるような代物では無い。


「……うむむむ、私の力が本調子ならばこんな建物吹き飛ばせるんだが……」


水の精霊の力を借りることでその力を発揮する上位精霊ウルディネは、周囲に水の気配が感じられない今自分の力を最大限に発揮することが出来ない。


「ははは、おかしなことを言うな嬢ちゃん……だが無理なものは無理だ……大人しくその時を待とう」


そう言う男達のリーダーはウルディネの頭を撫でた。


「ぐぬぬぬ……アキよ何をしている、すぐさま暴れて私達を救いにこんか……」


男達のリーダーに頭を撫でられながらウルディネはこの場にはいないアキの事を思いそしてそれを口にするのであった。



― ムハード城 内部 ―



「ガハッ!」


躯が並んだ廊下には数人のムハード兵が倒れていた。そしてまた一人その廊下に倒れこむムハード兵。


『マスター……まずはブリザラやウルディネを助けるのが先では……』


ムハード兵を廊下に転がした張本人であるアキは自分が纏う自我を持つ伝説の防具クイーンの言葉には一切答えず何処までも続くのではないかと思える程長い躯が並ぶ廊下を進む。


『マスター!』


一切返事しないアキに対して語気を強めるクイーン。


「五月蠅い、黙っていろ……この先に強い力を感じる……それを潰してからでも問題無いはずだ」


だが一切聞く耳を持たないと言った感じでアキは強い力を感じる方向へとその足を進める。


『駄目ですマスター、この先にある『闇』の力は危険です、まずは皆と合流してからでないと』


キングと同様、この城に漂う力の正体に気付いていたクイーンは、再度アキを止めにかかる。


「……」


だがやはりアキはその言葉を聞かず前へと『闇』の力が収束する場所へと進んでいく。


『マスター! このままでは再び黒竜ダークドラゴンの力に呑まれます! 止めてください!』


 必至なクイーンの説得はそれでもアキに届かない。自分の体内に宿る黒竜ダークドラゴンの力がこの廊下の先に待つ『闇』の力に引き寄せられている事を感じるアキは、その流れに抗う事をせずただ引き寄せられるままその足を前へ前へと突き動かすのであった。




ガイアスの世界


 ムハード隔離施設。


 簡単に言えば収容所で罪を犯した者達を隔離するのを目的とする場所であった。しかし現在のムハードでは罪を起こしていなくても王の一声でその場所に送られることがある。

 そして隔離施設に入った者は絶対に帰ってこないことから、ムハードの人々からは死刑場と呼ばれ恐怖の対象の一つとして恐れられている。



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