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真面目で章1 (アキ編) 破壊と恐怖をばら撒く狂戦士

ガイアスの世界6


闇の森


 奇妙な形に成長した木々が太陽の光を遮り、常に夜のような場所であり『ムウラガ』大陸の中でもことさら危険な場所と言われている。

 凶悪な魔物達が己の力をかけ縄張り争いを続けている場所でもある。闇の森の最奥にはダンジョンがりそこを根城としているのは、現『闇の森』の支配者『黒竜ダークドラゴン』だという。

 太陽の光を常に遮断しているはずなのだが、そんな環境なのにも関わらず草花は大きく育ち続けている。これらは『闇の森』特有の草花で、陰気な空気と魔物達の死骸を養分に育つためとされている。



 真面目で章 1 (アキ編) 破壊と恐怖をばら撒く狂戦士




剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス。




 何処までも薄暗い『ムウラガ』にある森。その更に奥に続くのは一切の光を通さないと言われる『闇』が充満する『闇の森』。周囲には巨大な木々が連なりまるで今にも動きそうなほど不気味であった。

 そんな巨大な木々の影から『闇の森』唯一の光とも言える謎の発光体が無数に点在している。それはまるで夜空に輝く星のようにロマンチックな光景にも見えなくも無い。だが当然森に星がある訳が無い。その正体は『闇の森』に生息する魔物達の目であった。

 『闇』に溶け込むようにして浮かぶ魔物達の目は殺気立ちある一点を凝視している。その視線の先には『闇の森』の更に奥にあるダンジョンの最下層で『黒竜ダークドラゴン』の爪によってその命を落としたはずの戦闘職『上位弓士ハイアーチャー』アキの姿があった。


「腕試し……だと?」


自分の姿を気にしながら頭に響く謎の声の言葉に首を傾げるアキ。

 

『はい、腕試しです』


謎の声の言葉に首を傾げるアキは自分を中心に全方位から向けられた魔物達の殺気を一通り見渡し苦笑いを浮かべるアキ。


「……どう見ても腕試しとか言ってる状況じゃないと思うんだが……」


 『ムウラガ』に生息する魔物は他の大陸の魔物に比べ巨大で強力な力を持っている。その上、今アキがいる場所は『闇の森』。『闇』の影響を受けた魔物達は更にその力を高め凶暴になっている。どう考えても絶体絶命という状況に思ったよりも冷静を保っているアキは自分の心の状況を不思議に思った。


『大丈夫、今のマスターならば問題ありません』


「今の? マスター? ……とりあえず言っている意味が分からん、そもそもお前は何者……何だ?」


自分の頭に響く謎の声が発する全ての言葉に疑問しか抱かないアキはとりあえず何者なのかと尋ねた。


『あれ? 確かマスターは先程、私が何者であるかは後回しにして今は自分の置かれた状況を切り抜けるのが先と言いませんでしたっけ?』


「一々細かい事を……」


謎の声の細かい指摘に苦い表情になるアキ。


『ふふふ……やはり私の事がきになりますか?』


「チィ……黙れ……クソ調子が狂うな」


謎の声の言葉に舌打ちを打つアキ。しかしそれに反して強力な魔物達が今か今かと自分を狙っているというのに、アキの心は冷静で落ち着いていた。


『調子が狂うと言っておきながら、私には凄く落ち着いているように見えますが?』


「俺が知りたいくらいだ、少し前まで逃げながら戦うのが精一杯だった魔物達を前に今は気持ち悪い程、心が落ち着いている……一体何が俺に起こった? お前は俺に何をした?」


 目覚めた瞬間から感じていた違和感。『黒竜ダークドラゴン』に殺されたという状況に陥っておきながらアキの心は何も無かったかのように落ち着いていた。アキは自分の頭に響く謎の声がその違和感の理由を知っていると感じ謎の声にその正体が何であるのかを問い詰める。


「それに俺はこんな趣味の悪い全身防具フルアーマー身に覚えがないぞ」


 ダンジョンで『黒竜ダークドラゴン』に敗れるまでアキが身に着けていた装備一式がなぜか『闇の森』に溶け込むような漆黒の全身防具フルアーマーに変わっている事に気付いたアキは重ねて自分の頭に響く謎の声に聞いた。


『むむむ、失礼ですね、確かに色は趣味が悪いと思いますが全身防具フルアーマー自体は美しい造形をしているではないですか』


趣味が悪いといつの間にか身に纏っていた全身防具フルアーマーの文句を言うアキに対してムキになる謎の声。


「……やっぱりこれもお前の仕業なんだな……なんで俺にこんな物を纏わせた『上位弓士ハイアーチャー』の俺には動きづらくてたまったもんじゃない」


 上位弓士ハイアーチャーは相手を優位な位置から狙撃する為の素早い位置取りや、相手の攻撃を避けその隙に矢を放つなど、常に軽快な動きが要求される。それ故にその重さから身動きが制限される全身防具フルアーマー上位弓士ハイアーチャーにとって選択してはならない装備であった。


『それはどうでしょう……』


不敵に笑みを浮かべたようなそんな口調で謎の声はアキに対して呟く。


「……」


謎の声の言い方に何か引っかかるなと思いつつもアキは周囲から伝わる殺気に警戒する。


「……ちぃ……お前が早く説明しないから聞く暇が無くなった」


そうアキが呟いた瞬間、魔物達は一斉にアキに襲いかかってきた。


「くぅ、避けられるか!」


自分の動きが全身防具フルアーマーの影響で鈍くなっている事を理解しながら回避行動をとるアキ。


「……な、軽い?」


 しかし回避動作をとったアキは驚きの声を漏らした。その動きはまるで全身防具フルアーマーを纏っていないように軽く飛び込んできた魔物達の攻撃を何の苦もなく避けたからであった。重量のある全身防具フルアーマーを纏っていながらその重量を感じさせない動きに困惑しつつも魔物達の攻撃を避ける事ができる事が分かったアキは、次々に迫ってくる魔物達の攻撃を避け続ける。


「いや……体が軽くなっただけじゃない……なんでだ魔物の動きがはっきりと見える……」


自分の視力に驚きの声を漏らすアキ。それもそのはずで物心ついた時からアキの視力は良く無かった。それは上位弓士ハイアーチャーとしては致命的であったのだがアキにはそれを補う道具アイテムがあった。その道具アイテムとはアキがかけていた眼鏡でありそれは眼鏡は単なる眼鏡では無く『魔道具マジックアイテム』と言われる代物であった。

 『魔道具マジックアイテム』とは魔法使いなどが作る道具アイテム、もしくはダンジョンや遺跡などで発見される道具アイテムの事である。『魔道具マジックアイテム』のその殆どが所有者の能力を向上させたりする代物であり冒険者や戦闘職が必ず一つは身に着けている物である。

 魔法使いなどが作る『魔道具マジックアイテム』は使用者の安全が考慮された物が多い。その反面その効果は僅かであるが、製作者である魔法使いの能力によってもその効果は上下する。

 魔法使いが作る物とは違いダンジョンや遺跡などで発見された『魔道具マジックアイテム』は強力な効果が得られる反面、使用者の安全が全く考慮されていない物が多く危険な物が多い。だがその効果は絶大であり危険と引き換えにその効果を得ようとする冒険者や戦闘職達は後を絶たないという。

 アキが持つ『魔道具マジックアイテム』はその能力から遺跡やダンジョンから発見された物である可能性が高いのだがアキがその能力の効果を使ってその身に悪い影響が起こった事が無い事から、名高い魔法使いなどが作った『魔道具マジックアイテム』である可能性も捨てきれない。

 その魔道具マジックアイテムをアキは物心ついた時から所有していた訳だが、アキ自身それを何処で手に入れたのか、もしくは誰に貰ったのか記憶に無い。気付いた時には常に肌身離さずアキはその『魔道具マジックアイテム』『見通し良き眼鏡』を所持していたのであった。『見通し良き眼鏡』のお蔭で現在『上位弓士ハイアーチャー』という戦闘職でやっていけていると言っても過言では無いアキであったのだが、今アキは『見通し良き眼鏡』をかけていない。アキの頭にはまるでアキの為に作られたのかと思う程サイズがピッタリ合った漆黒のヘルムがかぶされているからであった。従いアキの目は現在裸眼のはずであった。しかし現在のアキの目は『見通し良き眼鏡』をかけている時以上に全ての物や動きをはっきりと捉える事が出来ている。

 太い腕をぶん回す魔物の攻撃を軽やかに回避するアキ。


『ふふふ』


異常な程の動き、そして異常な程に良くなった自分の目に戸惑うアキの様子に謎の声は小さく笑い声をあげる。


「……とりあえず、お前の話を聞きながら避ける余裕はありそうだ」

 

魔物達の攻撃を一度二度と避けるうちにアキは現在の自分の能力ならば、謎の声と会話しながらでも余裕であると悟った。


『そのようですね……それではマスターがお望みの通り、私の自己紹介をしましよう……私は『ジョブブレイカー』と申します』


次々と迫ってくる魔物の攻撃を回避するアキとは反してゆっくりと謎の声は『ジョブブレイカー』と名乗った。


「うお……ま、まて……よっ……な、……ああ? 名前が聞き取れないもう一度頼む……」


魔物達の攻撃を寸分たがわぬ精度で避けるアキは、謎の声の名前を聞き取る事ができず『ジョブブレイカー』と名乗った謎の声に対してもう一度名前を尋ねた。


『この世界の人々は私の名前を聞き取るのが難しい事を失念していました、ならば私の事はクイーンとお呼びください』


『ジョブブレイカー』改めクイーンは魔物の攻撃を避け続けるアキにそう告げた。


「……クイーン?」


今度はクイーンの名前を聞き取れたアキは、クイーンの名前を復唱する。


『所でマスター……何故避けるばかりで攻撃をしないのですか?』


先程から魔物に対して一切攻撃しないアキに疑問を持ったクイーンは、率直にアキにその理由を聞いた。


「なぜ攻撃しないのかって、魔物相手に素手で戦えってか?」


『ああ、なるほど……ですがマスター、私を舐めないでください、この程度の魔物、今のマスターなら素手でも倒せますよ』


「はぁ?」


クイーンが何を言っているかよくわからないアキは魔物の攻撃を避けながら器用に首を傾げる。


『まあまあ、騙されたと思って魔物と素手で戦ってみてくださいマスター』


言われるがまま拳を握り構えるアキ。


「おい、これ失敗したら冗談じゃすまないからな!」


そう叫びながらアキは自分に迫りくる魔物の眉間に対して拳を放った。


『冗談では無いのは魔物のほうですね』


魔物の眉間にアキの拳が入った瞬間、魔物の頭は一瞬にして跡形も無く吹き飛んでいた。


「はぁあああああ?」


落ち着いていたはずのアキは今起こった状況に困惑の声を上げた。

 今の一撃によって周囲の魔物達はアキへの攻撃を止め警戒するようにアキの周囲をグルグルと動き始めた。


「どういうことだ、拳で魔物の頭を吹き飛ばすって……俺は拳闘士になった覚えは無いぞ?」


拳のみの戦闘は一通り覚えていたアキ。しかしそれはあくまで人間相手の護身用であり、魔物相手のものでは無い。それを理解しているアキは自分の力に驚きの声をあげる。


『マスターは『黒竜ダークドラゴン』との戦闘でその命を一度落としました』


「な! ……やっぱり俺は死んでいたのか」


警戒していた魔物の一匹がアキの隙を見て攻撃をしかける。それを肘で吹き飛ばしながらアキは自分がやはり死んでいた事を理解する。


『ですが私はグチャグチャになったマスターの体に『纏われる』事によってその体を治療しマスターを蘇生する事に成功しました』



『纏われる』、アキはクイーンのその言葉に自分の体に纏っている身に覚えの無い漆黒の『全身防具フルアーマー』を見つめる。


「もしかして……お前は……俺が纏っているこの『全身防具フルアーマー』なのか?」


そんな訳が無いと思いつつも有り得ない事を口にするアキ。


『正解ですマスター、私はガイアスで伝説の防具と呼ばれる存在です』


「なっ!」


 すでにただの雑魚と化している『ムウラガ』の魔物を屠りさけながらアキは、どこかに自分の姿を見られる場所は無いかと周囲を見渡す。するとそこには黒く濁っているように見える小さな池があった。小さな池を見つけたアキはその池に向かって走り出した。走り出した途端尋常ではないその速度に焦るアキはその速度を殺す事が出来ず池の中に飛び込んでいった。


「ぶっはッ!」


落ちた池からすぐさま顔を出すアキ。偶然にもその池の頭上には巨大な木々の枝が伸びておらず、夜空を照らす月の光が微かに池に降り注いでいた。


「こ、これは……」


月明かりを背にアキは池の水に映る自分の姿を見つめた。そこにはアキが対峙した『黒竜ダークドラゴン』の頭を模した造形のアキの顔を全て覆っているフルフェイス形のヘルムがあった。


「……こ、これが伝説の防具だと?」


どう見ても伝説の防具には見えないその姿にアキはフルフェイス型ヘルムの奥で顔を引きつらせた。


「呪いの防具だろ……これ」


どう見ても呪われた姿にしか見えないアキは、素直に思った事を口にする。禍々しい気配すら感じるアキが纏った全身防具フルアーマーはまさしく呪われた防具のようであった。


『……そう……これが呪いの……って違います! 見た目は呪われた防具に見えるかもしれませんが私はちゃんとした伝説の防具です!』


意思を持ち人間と会話する防具が伝説の防具なのか、そもそも伝説の防具という代物をみた事が無いアキにとってクイーンの言葉が正しいのかアキには分からない。


『禍々しい色になってしまったのは、私の力が発動しある存在の力を取り入れてしまった為です! 本来の私の色は、情熱のように燃え上がる赤い色なんです!』


現在の姿は本来の姿では無いと力説するクイーン。しかしアキにとってクイーンの元の色が赤だろうが青だろうがどうでもいい情報であった。だが先程までの人を見定めているような雰囲気よりも今のように砕けた感じの方が話しやすいと思うアキ。


「……それがお前の素か……」


『……えっ!』


アキの言葉に明らかに動揺した声を漏らすクイーン。人間では無い伝説の防具という代物、存在が本性を剥きだしにするという状況はおかしな事であるが、アキは今明らかに動揺しているクイーンが本性なのだと確信する。


『ナ、ナニヲオッシャッテイルノカ……』


「片言になっているぞ」


『……』


アキに突っ込まれ口を閉ざすクイーン。アキはフルフェイス型ヘルムの奥で口元を二ヤつかせる池から陸へと上がる。


「とりあえず何となくお前の事は理解した……それでお前が使った能力というのはどんな能力なんだ?」


グチャグチャになったアキの体を治癒する程の能力を持っているクイーン。他の能力にも期待が出来ると思ったアキは、自分の下へ追いついた魔物達を見ながらクイーンの能力について尋ねた。


『女性の事を容易く理解したと思ったら大間違いですよ』


「お前女なのか?」


伝説の防具に性別があるとはと驚きの表情を浮かべるアキ。


『むむむ……私を何だと思っていたんですか?』


もう取り繕う気も無いのか、クイーンはアキに対して本性を剥きだしにして怒鳴りつける。頭に響く甲高い声にアキの表情は曇った。


「……うるさいよ! はぁ……伝説の防具だろ?」


『むむむ……』


 アキの答えが間違っていない事に言葉が出ないクイーン。しかしクイーンが聞きたかったのはそう言う事では無い事は当然アキも理解している。これはあくまでクイーンに対してのアキの小さな嫌がらせのようなものであった。


『マスター……女性にはいくつもの顔が存在します……気を付けてくださいね』


本性むき出しだったクイーンの声が突然アキを脅すように低く響く。


「伝説の防具には顔もあるのか、驚きだな」


クイーンの脅しに全く動じないアキは更に嫌がらせを続ける。


『はぁ……分かりました……もういいです、マスターが気になっている私の能力についてお話します』


もうどういっても取り合ってくれないと思ったクイーンは、ため息を吐くと諦めたように能力の事について語る事を宣言した。


『まず私はマスターの所有物になりました、これはマスターが他の人に私を譲渡しようとしても不可能なのでご理解ください』


「……やっぱり呪いだな……」


他人にクイーンを譲る事が出来ないと聞きアキは、露骨に嫌そうな表情を浮かべながら襲いかかってきた魔物の腹部に拳を放つ。拳を腹部に喰った魔物は血しぶきを上げながら肉塊になり吹き飛んで行く。


『……さて私の能力についてですが、私の能力は大きく分けて二つ、その一つは今マスターが実感しているようにマスターの身体能力の大幅な向上です』


「なるほど、な!」


太い腕を持った魔物の大振りな横薙ぎをしゃがんで交したアキは立ち上がった勢いをそのまま拳に乗せて魔物の顎に放つ。すると魔物の頭頂部からは噴水のように勢いよく血しぶきがあがる。


『現在マスターに襲いかかっている魔物達を軽く殲滅できるだけの力がある事は私が保証します』


「……そうか、それは有難い!」


クイーンという伝説の防具はまさしく自分が欲していた絶対的力を与えてくれる物なのだと理解するアキは左右から同時に攻撃してきた魔物の頭を鷲掴みにするとその頭を握り潰した。


『そして、私の二つ目の能力ですが、それは相手、もしくは魔物を吸収する事によって相手、もしくは魔物の特性を己の能力とする力です』


「何!」


にわかには信じられないクイーンの能力に驚きの声をあげるアキ。もしそれが本当だとすれば、最強だと言われている人物や魔物を吸収すれば手っ取り早く最強の力を手に入れる事ができるからであった。


『ただしこの能力には代償が伴います』


「代償……」


簡単にこの能力をクイーンに釘を刺されたような感覚になるアキ。


『マスターが払う代償……それはマスターの戦闘職です』


「え?」


とてつもなく重要な事を今さらっと言わなかったかとアキの表情は引きつった。


「おい、今何て言った……」


聞き間違いであってほしい、そんなアキの気持ちが言葉となって現れる。


『はいマスターが払う代償は戦闘職です、マスターの戦闘職で得た能力を代償にする事によって人物、もしくは魔物の持つ特性を己の物とする事ができます』


事実を事実として何の感情の介入も無くさらりと言葉にするクイーン。


「中々の博打な能力だなそれ……」


『確かにどの戦闘職を代償として支払うか選ぶ事は出来ませんので、ギャンブル的要素はあります、ですが、マスターした戦闘職よりも遥かに強い能力が手に入ると思えば、悪い事ではないと思います、事実、今マスターは一つ戦闘職を代償にして『黒竜ダークドラゴン』の特性、能力を手に入れていますからね』


「おおおおおい! 今何て言った! すでに俺の戦闘職が代償として払われたって言わなかったか!」


『はい、マスターの言う通りです、現在マスターは『黒竜ダークドラゴンの特性、能力を用いて襲いかかる魔物達を殲滅しています』


再びとんでも無い事実をサラリと口にしたクイーンに対して動揺を隠せないアキ。


『ど、どの戦闘職が代償として使われたんだ! お前……弓士アーチャーとか上位弓士ハイアーチャーとかじゃないだろうな!」


弓士アーチャー上位弓士ハイアーチャーの二職は一番思い入れのある戦闘職でありアキはその二職のどちらかがクイーンの持つ能力の代償として使われていないか慌てて聞いた。


『それは……転職場でご確認ください』


「なんじゃそれはぁぁぁぁ」


しかしクイーンから返ってきた答えは、知りたければ転職場で確認しろというものであった。

 悲鳴にも近い怒鳴り声を上げながら、波のように押し寄せる魔物達を拳で吹き飛ばすアキ。怒りとも悲しみとも感じられる力が乗ったアキの拳は容赦なく波のように襲いかかってくる魔物達を叩き潰し粉砕し吹き飛ばしていった。

 周囲には魔物の臓物や肉片が飛び散り、漆黒の伝説の防具クイーンを纏ったアキ自身をも真っ赤に染めていた。


『戦闘職を一つ代償にして、お釣りが沢山来るほど強力な能力を手に入れたと私は思いますが』


周囲に飛び散った魔物達の肉塊を眺めるアキに対してクイーンは、代償で得た能力はとても大きいと落ち込んでいるアキを励ました。


「これが……『黒竜ダークドラゴン』の力……」


 人としての力を遥かに超えた力にアキの体は震え出した。それが恐怖からくるものなのか、それとも絶対的な力を手に入れた事からくるものなのかそれはアキにしか分からない。

 しかしアキは『黒竜ダークドラゴン』という破壊的な力を手に入れた事を実感する。今の戦闘でアキは一瞬たりとも本気を出していなかったからだ。


「……はは、凄いなお前……」


実感はしたもののまだ信じられないという感情の方が勝っているのかアキの笑い声は笑うといにはあまりに乾いたものであった。


『どうやらお気に召してくださったようですね……』


そんなアキの様子を感じながらクイーンは自分を受け入れたアキに満足そうに答える。


『ただ、マスター一つ注意してもらいたい事があります』


「なんだ?」


茫然と感激の間をウロウロとする感情を抑えながらアキは、真面目な声で話しかけてくるクイーンの言葉に耳を向ける。


『私が吸収した『黒竜(ダークドラゴン』なんですが……その……他に確認されている『黒竜ダークドラゴン』よりも強力な個体です……私もその力を全て把握できていません……』


「……?」


『はっきり言って吸収した『黒竜ダークドラゴン』は得体がしれません……くれぐれも『黒竜ダークドラゴン』の力に呑み込まれないよう注意してください』


 クイーンは真面目な口調で『黒竜ダークドラゴンの力には注意するようにとアキに警告した。最後の言葉が引っかかるアキ。


― ソウダ、我ノ力ヲ容易ク扱エルト思ウナ人間…… ―


その瞬間、アキの頭にクイーンとは違う別の存在の声が響く。


「くぅ……」


その声はアキがダンジョンで意識を失う寸前に聞いた、禍々しい気配を纏った声と同じものであった。その声が頭に響いた瞬間、今まで息切れ一つしなかったアキが膝をつき荒い息をたて始める。


『マスターどうしました!』


突然膝をつき荒く息をしはじめたアキに、声をかけるクイーン。


「だ、大丈夫だ……」


幾多の魔物を圧倒的な力で屠った者と同一人物とは思えないぐらい弱々しい声でアキはクイーンに大丈夫だと声をかけ地面についていた膝を上げ立ち上がる。


(『黒竜ダークドラゴン』か)


クイーンとは違う別の存在の声が『黒竜ダークドラゴン』のものであると確信するアキ。


― フフフ……人間ヨ……力ガ欲シケレバ足掻イテミセヨ…… コノ力デ破壊ノ限リヲ尽シテミセヨ……フフフ、アッハハハハ!―


アキの頭に響く不気味な『黒竜ダークドラゴン』の笑い声。それが呼び水のようにアキの心に黒い影を落としていく。何もかもを破壊したいという欲求が急激に高まるアキの心。


「ぐぅぅぅぅぅ……」


呻くような声を上げるアキは再び膝をつくと苦しむように自分の体を抱くように両腕を体に回す。


『……まさか! 『黒竜ダークドラゴンですか!』


黒竜ダークドラゴン』がすでにアキに対して干渉を始めた事に気付くクイーン。


『駄目です、気持ちを強くもってください! 少しでも隙を見せれば『黒竜ダークドラゴン』に意識を乗っ取られてしまいます!』


破滅へと導く『黒竜ダークドラゴン』の言葉が頭に響くアキにクイーンの言葉は届かない。しかし苦しみながらもアキは力に呑まれるなというクイーンの言葉を理解した。

 しかし理解はしたものの今のアキにそれに抗うだけの気持ちや力は無い。


「くぅぅううう……!」


必それでも僅かに残る理性で何とか襲いかかってくる『黒竜ダークドラゴン』の破壊衝動を抑えようとするアキ。しかしその破壊衝動を後押しするかのようにどこからともなく魔物達が現れアキに襲いかかってくる。アキははっきりとしなくなった視界と今にも取り込まれそうな自我を必至で保ちながら魔物達の攻撃を避け、その魔物の腹をいつの間にか爪のように変化していた手で切り裂く。いると綺麗に両断された魔物から血しぶきがあがる。魔物が垂れ流す血しぶきを浴びたアキは、自分の体に何かが蠢く鼓動のようなものを体に感じた。

 血に飢えた獣のように浴びた血を何かが吸い上げていく感覚。自分の視界が真っ赤に染まっていく。湧き上がる感情が理性を凌駕する。


《ウガアァァァァァァ嗚呼ァアアアアアアアア!!》


『闇の森』だけにとどまらずその咆哮は『ムウラガ』中に響き渡る。人の声帯では絶対に発する事が出来ない咆哮はアキの周囲にいた魔物達の体を硬直させ動きを奪う。そしてその咆哮を合図にアキの意識は失われ、そこには人では無い何かが姿を現した。


《……グガゥゥゥゥゥ》


低く喉を鳴らすように唸りながら両腕をダランと垂らし猫背になるアキであった者。首を左右に揺らし、咆哮によって動く事すら禁じられた魔物達を品定めするかのようにアキであった者は獲物へと変わった魔物達を見つめる。魔物達は自分と目の前にいる者の力量を本能で悟り逃げ出そうとするが咆哮によって体の自由が奪われうまく逃げられない。それでも逃げ出すだけの胆力を持っていた魔物達はすぐさまその場から逃げ出していく。しかし逃がしはしないと言いたげにアキであった者は、強力な脚力で逃げ出した魔物達との距離を一瞬で縮めていく。


《ぐぅがががが嗚呼!》


まるで楽しんでいるかのように咆哮するアキであった者は逃げだした魔物達を追いこすとその瞬間、その場の魔物達は原形をとどめられない程に弾け飛んでいく。アキであった者が魔物達を追い越す瞬間、手甲に隠されていた鋭い爪を使い魔物達の体を切り刻んでいたのであった。


《ウゥゴァオオオオオオオオオ!》


自分が切り刻まれた事に気付かないままはじけ飛んでいく魔物達を見ながらアキであった者は歓喜の咆哮をあげる。雨のように降り注ぐ血しぶきを浴びながらアキであった者は次の得物を『闇』に染まった眼で見つめるのであった。


 魔物達にとって凄惨とも言える時間がどれほど経過した時であろうか、滅多に太陽の光が拝めない『闇の森』に僅かではあるが温かい太陽の光が一筋降りそそいだ。

 その光の先には巨木に背を預け魔物の血で赤黒く染まった漆黒の全身防具フルアーマーを纏ったアキの姿があった。周囲には肉隗と化した何十、何百もの魔物の死体が転がり、むせ返るほどの血の匂いが漂っている。到底落ち着ける場所では無いその場所で『黒竜ダークドラゴン』の破壊衝動に心を支配されたアキは、全ての力を使い果たし疲れ果てたというように深い眠りについていた。


『……これほどとは……』


嵐が去った後のように、広がる酷い光景を見つめながらクイーンは、自分が吸収した『黒竜ダークドラゴン』の力を実感し恐れた。


『……狂戦士パーサーカー……』


ポツリと戦いに狂う戦士の名称を口にしたクイーン。アキの戦い方はまるで狂戦士バーサーカーのように凄まじく例え相手が魔物であったとしても凄惨なものであった。

 この力がもし人間に向けられればとクイーンは想像しすぐに想像を掻き消す。それが偶然であったのかそれとも必然であったのかは分からない。だがダンジョンにいた得体の知れない力を持った『黒竜ダークドラゴン』を吸収してしまったその時からアキはあまりにも強大で無慈悲な枷を担がせてしまった事に責任を感じるクイーン。

 これから始まるであろう過酷なアキの運命に伝説の防具は本当に存在しているのかも分からない自分の心を痛めるのであった。


登場人物 5改


 アキ=フェイレス


年齢20歳


レベル54


職業 黒竜騎士ダークドラゴンナイト(自我有)


   狂戦士バーサーカー(自我無)レベル ???


 今までマスターした職業


 ファイター 剣士 弓使い


犠牲にした職業


 ファイター


武器  黒竜騎士ダークドラゴンナイト  素手&弓(場合により剣も)


    狂戦士バーサーカー状態の場合 黒竜ダークドラゴンの爪(毒無)


 頭  黒竜ダークドラゴンヘルム (戦闘時、非戦闘時で収納可能)(伝説の防具 クイーン)


 体全体 全身防具フルアーマー(伝説の防具 クイーン)


 アクセサリー 割れた遠見の眼鏡


 伝説の防具と黒竜ダークドラゴンの力を手に入れたアキは、戦闘状態になると黒竜ダークドラゴンの破壊衝動がアキの心を支配していく。黒竜ダークドラゴンの意思に打ち負けた時、狂戦士バーサーカー状態になってしまう。

 


登場人物? 6


 伝説の防具クイーン(ジョブブレイカー)全身防具フルアーマー型の鎧であるため本来ならば動きを制限されるのだが、その制限がほとんどなく、まるで服を着ているような感覚だという。肌で感じることが出来る感覚を全身防具フルアーマーを着た状態で感じることができるため、五感が遮られるという心配もない。

 特殊な能力を何個も隠し持っており、その一つが所有者の職業を一つ代償にすることによって対峙した相手、もしくは魔物の特性、能力を得られるというもの。

 魔物などをクイーンに取り込みその魔物の特性を引き継ぐという力である。現在クイーンは黒竜ダークドラゴンに宿しており元々のクイーンの能力に加え更に上昇している。。

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