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真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)18 言葉の重み

ガイアスの世界


ムハード大陸


 灼熱と極寒が入り混じる大陸と呼ばれるムハードは、大陸の半分が砂漠で覆われている。よって陽が昇ると気温が上昇し陽が落ちると気温が下がるという極端な顔を持つ大陸である。それ故に大陸の人間でない者は体調を崩しやすい。

 面積はフルードの半分程である。

  大陸の半分、砂漠側は海に面しているがもう半分は船が停泊することが出来ない断崖絶壁となっている。その為ムハード大陸に船で上陸する場合はかならず砂漠側の海に面した方向から向かわないと上陸が出来ないと言われている。



 真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)18 言葉の重み




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス



― ムハード大陸 ムハード国領土ガガール港 酒場 ―



 ムハード大陸沿岸にある敵国を全て滅ぼし四つの港を手にしたムハード国は、そのうち三つの港を壊滅させた。その理由は外への玄関口を一つにすることで、出入りを一本化する事が目的であったからだ。

もし四つの港全てを所持したままであれば、厳重な監視をつけても必ずそこから綻びが生まれ、ムハード王にとって招かれざる客が現れる可能性が高くなるからだ。その招かれざる客とは他大陸にある力であった。

 現状ムハード国がムハード大陸にある敵国に戦争で勝ち続けている理由、それは敵国と他大陸の交流を絶ちムハード国だけが他大陸の力を独占できるからであった。

 その敵国と他大陸の交流を絶った方法が、ムハード大陸沿岸にある港のある国を滅ぼすことであった。港がある敵国を滅しその領土を自国の物にすることによって敵国が他大陸との交流を阻むことに成功したのである。

 だが四つの港を維持し続ければ、必ず監視の目を掻い潜り他大陸の人間と交流を図ろうとする敵国が現れる。他大陸との交流を独占することによっておおきな力を得ているムハード国にとってそれだけは絶対に阻止しなければならないことであった。

 そのため現在唯一の港であるガガールだけを残し他の港を消滅させたムハード国は、他大陸との交流を独占できる形を作り上げたのだった。

 そしてその大事なムハードの玄関口であるガガール港には敵国に襲撃を受けても問題が無いように異常なまでの厳重な警備が敷かれていた。それだけでは無く厳重な警備はガガール港で働く人間達にも向けられている状態であった。

 だからこそ予定にはない船がガガール港に停泊したことも既にムハード国の兵達には気付かれていた。

他の大陸には無い特徴的な防具を身にまとった兵達は、つい先ほど停泊した船から現れた者達の動向を伺うべくガガール港唯一の酒場の周囲で気配を消し待機していた。


「どうしましょうか?」


 ムハード兵達の中で兵隊長らしき男に小声で声をかける一人のムハード兵。


「……中の状況が知りたい、一人潜入させろ」


「ハッ!」


兵隊長の言葉に敬礼し返事をしたムハード兵は素早くその場から離れていく。


「……さて……鬼がでるか蛇がでるか……」


明らかに突如現れた客人を危険視するムハード国の兵隊長は、そう呟きながら静かに客人が入っていった寂れた酒場を見つめるのであった。



 ガガール港唯一の酒場、その中では港の男達による現在のムハード国の状況がブリザラに説明されていた。

 港の男達の話によれば、依然から王族と貴族たちによる国の人々への圧政はあったようだが、今よりはまだましであったようだ。それがより酷くなったのはここ十年、新たな王が誕生してからだという。

 現ムハード王は、ムハードの王座に付くと早々に軍事強化を第一に掲げ人々から搾取していた税の金額を一気に引き上げた。前ムハード王の時ですら貧しかった人々は、一気に税の金額が引き上げられたことに反発したが、現ムハード王は反発した者達を見せしめに殺し歯向かえば同じようになるぞと人々を脅した。既に国と戦う力すら残っていなかった人々はその脅しに従うしか無く現在に至るという。


「……」


 港の男達が話すムハード国の現状に王という同じ立場でありながら国が違えばここまで酷い事ができるのかとブリザラは言葉を失っていた。


「……それだけじゃねぇ若い男連中の殆どは、食い物を餌に国の兵士として戦争に駆り出される……確かに戦争に勝つだけの力を持った国だが、それでも死人は出る……ここにいる者達の殆どは、戦争で息子を失った連中ばかりだ……」


 ブリザラが座るテーブルの前に座った男はそう言いながら悔しそうな表情を浮かべ息子の形見らしきペンダントを握りしめた。その男の言葉に後ろに立つ男達は同じような表情を浮かべ頷く。どうやらブリザラと同じテーブルに腰を下ろす男は港の男達のリーダーであるようだった。


「……」


港の男達の怒りや悔しさを直に感じるブリザラの表情は悲しみに染まる。


「……だが酷い目にあっているのは若い男達だけじゃねぇ……女達もだ……この国の若い女達は、ムハード城に殆ど捕らえられ、毎日のように王のクソ野郎や貴族連中の慰み者にされている……」


更にこの国の酷い状況を訴えるようとこの国の若い女性達の置かれた状況をブリザラに説明する港の男達のリーダー。


「ッ!」


港の男達のリーダーの言葉に、今日一番の驚きと悲しみを含んだ複雑な表情を浮かべるブリザラ。


「……そのぐらいにしとけ……高い壁の中でぬくぬくと今まで過ごしてきたオウサマにそこら辺の話はちょっと早すぎる」


溜まりに溜まった怒りや悲しみをブリザラに吐き出すリーダーの男を止めるアキ。しかしその言葉に熱はなく本気で止めようという気配は無い。どちらかと言えばブリザラに対して皮肉を言っているようにも聞こえる。


 確かにブリザラは、フルード大陸にある頑強な壁に守られたサイデリー王国で今まで何不自由なく育ってきた。だがブリザラもただの少女として育ってきた訳では無い。サイデリーという国を背負う一国の王としての教養は受けてきた。

 その中には、サイデリーのように平和では無い国、戦争状態であったり飢餓に苦しんでいたり、それこそムハードのように王が人々を苦しめるなど様々な状況化に置かれた国があることは学び知っていた。だが自分の知識が机の上での物でしかないことをブリザラは今日この港に辿りついて実感していた。


「ア、アキさん……ありがとうございます……ですが、話を聞きたいと言ったのは私です……皆さん……お話を続けてください……」


例えそれが皮肉であっとしても知識としてしかこの現状を知らなかった今の自分では、何も言い返せないと思ったブリザラは、アキに礼を言うと港の男達のリーダーに話を続けるよう促した。


「……あ、ああ悪い……だが知って欲しかったんだ、この国の現状を……もう俺達は限界が近い今の王には耐えられないんだ! ……だから……どうか王様の力を貸しちゃくれないかッ!」


 目の前の人物が王である前にまだ幼さを残した少女である事を忘れていたリーダーの男は、配慮が足りなかったと詫びの言葉を口にした上で、この国で虐げられている人々を助けてくれないかとサイデリーの王であるブリザラに告げた。


「ふーん、なるほど……それがお前らの本音って訳か……」


ブリザラに対してリーダーの男が発した願いに冷たく反応するアキ。その視線には嫌悪が混ざっていた。


「さて……オウサマ……あんたはこいつらにこう言われて何て返事をするんだ?」


アキの言葉はまるでブリザラを、いやサイデリーの王を試しているようであった。そしてアキはすでにブリザラが何と答えを出すのか分かっていた。


「……それは……この人達を助けたいです!」


それははっきりとした言葉であった。一国の王として、なにより一人の人間としてブリザラは、純粋にムハードの人々を救いたいと心の底から願った。


 ブリザラがその言葉を発した瞬間、今まで静まり返っていた酒場が息を吹き返したように賑やかになる。今まで希望を失い死んだ魚のような目をしていた男達は希望を取り戻したように笑みを浮かべ歓喜の声を上げた。

 歓喜に沸く男達。だが一人だけ違う笑みを浮かべ身を隠すように酒場から出ていく男の姿があった。


「……」


そんな不審な男の行動にいち早く気付いている者がいた。不審な男を視界に捉えていたのは船酔いがまだ治らず青ざめた表情をしていたブリザラの専属のメイド兼護衛であるピーランであった。

 ピーランはブリザラが座る席のすぐ後ろに立っていたが、すぐさま自分の気配を殺すと誰に気付かれることも無く男の後を追うのであった。


「ほ、本当に俺達を助けてくれるのか?」


ブリザラの目の前に座っていた港の男達のリーダーは、目を輝かせながら嘘では無いなとブリザラに確認をとる。


「は、は……」


「はぁ……」


ブリザラが港の男達のリーダーの言葉に頷こうとした瞬間、その場の者達の耳に入るようなわざと臭いため息を突然吐くアキ。そのアキの様子にリーダーの男やその後ろで騒いでいた男達が怪訝な表情を浮かべた。


「オウサマ……それはサイデリーがムハードと戦争をするってことでいいのか?」


アキのその言葉でて騒がしかった酒場が再び静まり返る。


「え、戦争? いいえ……これはあくまで……私個人の……」


想像もしていなかったアキの言葉に少し驚いた表情を浮かべたブリザラは、それを否定しようとする。


「おかしいな……この男はお前をサイデリーの王と認めて助けを願ったはずだぞ?」


だが否定しようとしたブリザラの言葉を遮りアキは今この場で生じている矛盾を口にした。


「王が発する一言の重み……そしてサイデリーがどういう国か、勿論オオサマなら理解しているよな?」


静かではあるが何処までも深い嫌悪を纏ったアキの言葉がブリザラに刺さる。


「……そ、それは……」


アキが何を言いたいのか、そして自分が今どんな立場でありどれだけ重要な言葉を口走ったか理解したブリザラの表情はみるみるうちに青くなっていく。


「……お前はこの男達に自分の身分を明かした……その時点でブリザラという少女の存在は消える……今ここにいるのはサイデリーの王だ……」


アキの言葉が重しのようにブリザラの肩に圧し掛かる。


「お前は自分の立場を忘れ一個人の感情でこいつらを助けると言った……だがこいつらはお前の言葉をサイデリーの王のものとして受け取っている……それを自覚しているのか? お前が口走った言葉はサイデリーの理念を破ってこれから戦争をすると言っているようなものなんだぞ……」


アキの言葉は、鋭利な刃物のようにブリザラの心に次々と刺さって行く。そうブリザラはサイデリーの王として軽々しく言ってはいけない言葉を口にしたのだ。

 サイデリーには他国の侵略を許さず他国に侵略しないという建国から今まで守られてきた理念がある。それは例えどんな理由があろうと今まで破られたことは無い。もしブリザラがこのままアキに止められることなく港の男達のリーダーと話を続けていれば、何百年と続いたサイデリーの理念が破られることになっていたかもしれない。その事に気付いたブリザラの表情は固まっていた。

 もしもブリザラが自分の素性を口にしなければ、その身分を隠すことでまだこの国を救える可能性はいくらでも残っていた。それこそ伝説の武具を所有している者が二人もいるのだ、国の一つや二つ救うのは容易いことであろう。

 だがブリザラは迂闊にも自分がサイデリーの王である事を目の前の男達に話してしまった。そして男達は彼女がサイデリーの王だと知ってしまった。その時点でブリザラは船で旅をしてきたただ少女では無くサイデリーの王という立場になってしまう。そうなればブリザラの発言の一つ一つがサイデリーの王としての言葉ととられてしまうことになるのだ。


「……ッ!」


自分が取り返しのつかない行動をとってしまったことに今更に後悔するブリザラ。


「……お前の言葉一つで敵味方に関わらず何十何百もの人間が死ぬ事ことになる……自分の立場を自覚しろ」


強い口調でそうブリザラに言い放ったアキは呆れるようにため息をもう一度吐くと近くにあった椅子に腰かけた。


「わ、悪い、そうだよな……あんたが俺達を救うと言えば、当然ムハードとサイデリーが戦争状態になっちまう……ああ、今の事は全て忘れてくれ、俺達も聞かなかったことにする」


自分達も自覚が足りなかったと目を泳がせながら港の男達のリーダーは今の話は無かったことにしてくれとブリザラに頭を下げた。

 そのやり取りを見ていた港の男達は一瞬見えた希望がすぐさま幻であった事に落胆する。


「……いいえ……謝らなければならないのは私です……自分の立場を自覚せず軽はずみな言動を……皆さんに安易な希望を与えてしまいました……」


たった一言で望んでもいない戦争に発展しかねないほどの影響力を持っている自分の立場に恐怖を覚えながら男達に頭を下げるブリザラ。



「い、いいんだ……頭をあげてくれ……これは結局俺達がどうにかしなきゃいけない問題だったんだ……あんたのその気持ちだけで十分だ……」


気持ちだけでは腹も膨れなければ怒りも悲しみも収まらない。それはこの場にいる誰もが理解していることである。だが彼らにも人間としてのプライドがある。自分達の軽はずみな願いで何の関係も無い国を巻き込みたくないという気持ちが、彼らを強がらせた。


「あーあ、やっと気付いたか、そうだ、これはお前達の問題だ、今まであのクソみたいな王の言いなりになって何もしてこなかった結果だ……」


今度はそう言って落胆する港の男達に食ってかかるアキ。


「アキさん!」


落胆する港の男達に対して食ってかかるアキに怒りを露わにするブリザラ。


「……どうせお前らは今まで自分達で何とかしようなんて少しも考えたこと無いんだろう? だからこの世間知らずなオウサマみたいに正義の味方気取りで助けようとする奴が現れるのをなにもせずに待っていたんだろ?」


しかしブリザラの言葉に全く言葉を止める気配の無いアキは、俯く男達に更にキツイ言葉を浴びせる。


「アキさん!」


「一つ言っておくぞ……正義の味方は弱い者の味方なんかじゃない……正義は強い者の味方なんだ……力があるからこそ正義を振りかざせる、戦いに勝った者こそが正義なんだよ!」


 感情を昂らせるアキは、何かを吐き出すようにそう言い放った。その脳裏には幼い頃の自分が映し出されていた。

 強い力を持った者に虐げられた過去、幼少時代のアキの前に正義の味方は一度も現れなかった。いや正確には一度だけ正義の味方は現れた。だがその正義の味方は、気付けば何も言わず自分の前から姿を消していた。どれだけ叫んでも、どれだけ望んでもその正義の味方は再び現れることは無かった。

 やがてアキは永遠に続くのではないかという打ち下ろされる鞭の音と鈍った痛覚の中で気付いた。嗚呼、自分を助けに来てくれた者は、圧倒的な力に勝てず屈したのだと。

 その時からアキの正義に対する価値観は固まった。力ある者こそが正義。物理的なことでも、生まれによって決まる立場でもなんでもいい、全てはそれらに含まれる力が重要なのだと。そしてこの考えを引き金にアキは絶対的力を欲するようになった。


 アキの放った言葉に誰もが言葉を失っていた時だった。


「動くなッ!」


突然大勢のムハードの兵が酒場に突入してきた。


「この酒場で国家転覆を目論む集会が行われているという通報を聞きつけやってきた、お前達をムハード城に連行する!」


ムハードの兵隊長らしき男がそう叫ぶと瞬時に回りにいた兵達が男達を捉えていく。騒然となる酒場。港の男達は抵抗しようとする。だが武器を持たない港の男達に兵達は容赦なく剣や槍を振いすぐさま取り押さえられてしまった。

 そしてムハードの兵達の手は、当然その場にいたブリザラやアキにも回ろうとする。


「大人しくしろ!」


兵の一人がブリザラの手を掴む。


「アキさん!」


どうしていいか分からずブリザラはアキの名を叫ぶ。しかしアキはブリザラの呼ぶ声に一切反応を示さず兵に言われるがまま抵抗することなく酒場から連れ去られていった。


「アキさん……」


酒場から出ていくアキの後ろ姿を見つめることしか出来ないブリザラ。


「やめろ離さんか! この!」


暴れるウルディネを軽々と押さえつける兵はブリザラの前に立つ隊長に視線を向けた。


「この子供はどうしますか?」


取り押さえたウルディネをどうするか指示を仰ぐ兵。


「……その子供は男達と一緒に連行しろ」


ブリザラから視線を外すことなくそう言うムハードの兵隊長。


「この者はどうしますか?」


続いてブリザラの手を掴んだ兵が兵隊長に指示を仰ぐ。


「そこのお方は王の下へ丁重にお連れしろ」


ブリザラの素性を理解しているのか、ウルディネの時とは違い丁寧な口調でそう兵に指示を出す兵隊長。


「「ハッ!」」


指示を受けた兵の一人はウルディネを担ぎ酒場の外へ。そしてブリザラの手を掴んでいた兵は、ゆっくりとブリザラの腕から手を離すとその手をブリザラの腰のあたりに置き酒場を出るように促した。


「……」


ブリザラは戸惑いを隠せない表情のまま兵に促され酒場を出ていた。


「……」


テーブルや椅子が散乱する静まり返った酒場に一人残された兵隊長の男は、何故か苛立ったように表情を曇らせると足元に転がっていた椅子を蹴り上げるのであった。


ガイアスの世界


 ガガール港


 現在ムハード大陸唯一の港であるガガールは、ムハード国が他大陸との交流を独占する為の港である。ムハード大陸にある他国は一切この港を利用することができず他大陸へ渡ることも出来ない。

 独占されたガガールを奪おうと何度か敵国からの襲撃を受けたが、ムハードの軍事力の前に全て敵国の襲撃は失敗に終わっている。

 しかしガガールは幾度もの敵国の襲撃によって滅茶苦茶な状態になっており、船を停泊させる以外の機能は失っていると言っていい。

 

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