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真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)16 力への誘惑

ガイアスの世界


ムハード海域


 灼熱の大陸ムハードが近いムハード海域は、温暖な気候であり海中には数多くの生物や魔物が生息している。

 その為船旅をする上では魔物の襲撃が多い海域の一つである。しかし海域に生息する魔物は多く襲撃も多いが中型サイズの魔物ばかりでそれなりの人数の冒険者や戦闘職が船の護衛に付いていればそこまで危険では無い。


 真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)16 力への誘惑




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス



 日が昇ると太陽から降り注ぐ熱で気温が上昇し肌に痛みすら感じる環境になるが、日が落ちれば日が昇っていた時が嘘のように凍える極寒の地に変わる大陸ムハード。

 人類が生活するのにはどちらの環境も過酷ではあるが、それでも人類はムハードに根を下ろして国を作った。

 だがその過酷な環境の為か、どの国も貧困に陥り隣国との戦が絶えない状況にあった。奪い奪われを続け誕生と滅亡を繰り返すムハードの国々は、現在もっとも戦争の多い大陸と呼ばれている。

 そんな戦乱と混乱が日常となった砂漠の大陸ムハードへと近づく一隻の船が近づいていた。その船の正体はフルード大陸にあるサイデリー王国の盾の紋章が刻まれた船であった。しかし現在そのサイデリー王国の船は危機に直面していた。


《ギャアアアウウウウ!》


 蛇のような長い胴体を持つ巨大生物は海面に大きな水しぶきを上げながら周囲を震わせるような咆哮を放ちその長い胴体をムハードへと向かっていたサイデリー製の船に絡めてくる。巨大生物の締め付けにより船体を軋ませるサイデリー製の船。


「ちょっと待て! なんでこの海域にコイツがいる」


 その光景をサイデリー製の船の操舵室から見ていた漆黒の全身防具フルアーマーを纏った男は驚きの表情を浮かべそう叫んだ。


「ムハード近海に生息しているなんて話聞いたことが無いぞ」


ムハードの海域は常に温暖でありそこに生息する生物や魔物の数は多い。だが男が目にした巨大生物は本来、ムハードの海域には生息していない魔物であった。

 だが船体に巻き付かされ危機的状況であるのは火を見るよりも明らかであるにも関わらず、男の表情に焦りは見られず危機に陥っているというよりは突然姿を現した巨大生物にただ驚いているというような様子であった。


『……マスター、このままでは船が沈没します、海竜シードラゴンを引きはがしましょう!』


そんな男に対して女性の声が飛ぶ。だが不思議な事にその声の持ち主の姿は男の周囲にも操舵室の外にも無い。


「クイーンお前ッ!」


姿の無い声に反応した男の表情は驚きから一変、声の主の名を叫ぶととても機嫌の悪いものになった。


『再び沈黙していたことは謝ります、ですがそれよりも今はあの海竜シードラゴンの排除をお願いします』


船を絞め潰そうとしている巨大生物の名を口にした女性は、男に対してただちに排除することを提案した。


「チィ……謝るんだったら最初からするなよな!」


不満を残しつつ女性にそう答えた男は、自分がいた操舵室から飛び出すと船体に絡みつく巨大な海竜シードラゴンと対峙する。


《ギャアウウウウウ!》


操舵室から姿を現した男に気付いた海竜シードラゴンは、威嚇するように咆哮をあげる。元々足場の悪い船の上。それに加え現在は海竜シードラゴンが絡みつき激しい揺れが断続的に続いているというのに男は平然とその場に立ち続け海竜シードラゴンの顔に視線を向けると鋭い眼光で睨みつけた。


「ギャーギャーうるせぇ!」


首が痛くなる程の大きさである海竜シードラゴンの咆哮。耳を塞いでも一時的な聴覚障害を起こしそうな音圧であるが、男はこれまた平然とした態度で海竜シードラゴンを怒鳴りつける。その迫力は海竜シードラゴンにも引けを取らない。


「一発で終わらす!」


苛立った表情で男はそう言うと海竜シードラゴンに左腕を向けた。


『マスター! 雪原でのこともあります、その力は極力使わないでください!』


「五月蠅い! 相手がデカい相手だしかたないだろう!」


男には船に絡みつけるほど巨大な海竜シードラゴンを一発で仕留める術があるのか女性の制止を振り切りまるで弓を放つような構えをとった。


『うぅぅ……分かりました、ですが絶対に船には当てないでくださいね、かすっただけでもこの船は沈みます!』


男の言う方法しか今は切り抜ける手段がないと悟った女性は、納得はしていないが、男が今からする事を条件付きで許した。


「ああ! なるべくそうならないよう努力する!」


『なるべくではなく絶対にそうならないようにしてください!」


男の返答に焦る女性。


「行くぞ……力を貸しやがれ」


男が発した声は女性に向けられたものでは無く自分に言い聞かせているようであった。


《フフフ、力ヲ望ムカ人間……》


言葉に反応するように突然深い沼のような声が男の頭に響く。すると海竜シードラゴンに向ていた男の左腕に纏っていた全身防具フルアーマー手甲ガントレットが弓の形へと変化した。その弓を見て男の表情は暗い笑みを浮かべる。


『マスター! この船にはブリザラ達が乗っているんです、それを忘れないでください!』


「ッ! ……チィ、分かってるよ!」


暗い笑みを浮かべていた男は、女性の声で我に返ったというように口元の笑みを消し去ると鋭い眼光で再び海竜シードラゴンを睨みつけた。

 ここまでの騒ぎになっているというのに、男以外船の上には人の気配が無い。なぜ他の乗員が姿を現さないのかは分からないが、女性が言うようにサイデリー製の船には男以外の乗員がいるのは確かであった。


「あああああ面倒臭い!」


 弓へと形を変えた自分の左腕を見つめる男であったが色々考えるのが面倒になったのか、そう叫ぶと普通の弓の弦を引く動作をとる。しかしその弓には矢を放つ為の弦も無ければ対象を射抜く為の矢も無い。しかし見えない弦を男が右手で引いた瞬間、低く不気味な音を立てながら弓から黒い光を放つ矢が現れた。

 男は力を溜めるように見えない弦を更に引き絞る。すると黒い光を放つ矢もそれに反応して力が圧縮されるように黒い光の輝きは増していく。


『マスター! それ以上引き絞っては駄目です!』


見えない弦を引き絞る男を止める女性。


「ここまでか!」


女性の言葉で弦を引き絞るのを止めた男は、そのまま黒い光を放つ矢の先を標的である海竜シードラゴンの眉間に定めた。


「喰らえぇぇぇぇぇぇッ!」


叫んだ男は見えない弦から指を離す。すると黒い光を放つ矢が一直線に海竜シードラゴンの眉間に目がけ放たれた。


《ギャウ!》


咆哮とは言えない短い叫びを放った海竜シードラゴン。黒い光を放つ矢は、目にも止まらぬ速度で海竜シードラゴンの頭部に突き刺さる。顔をフラフラとさせる海竜シードラゴン

 すると一瞬の静寂の後に訪れたは黒い光を放つ矢を中心とした爆発であった。爆風によって激しい揺れに襲われる船。爆発によって舞い上がる海水や飛散した海竜シードラゴンの頭部の肉片や血液が船の上に雨のように降り注いでいく。

 海竜シードラゴンの血液によって船体の三分の一が真っ赤に染まる船。当然、それに巻き込まれた男も例外なくべったりと海竜シードラゴンの肉片や血がこびりついていた。 


「俺は船に乗ると運が落ちる星の下にでもいるのか?」


顔にもべったりとついた海竜シードラゴンの血液を手で拭いながら男は恨み節を零す。



『……どうやら、船に被害はないようです』


海竜シードラゴンを倒し危機が去った船の被害がないか一通り確認した女性は、安堵の声と共にその状況を男に報告した。


「はぁ……そんなことはどうでもいい……クイーン俺はお前に、いやお前達に言っておきたいことがある」


そう言いながら男は、自分が纏う全身防具フルアーマーに視線を落とした。


『……ええ、聞きましょう』


男の言葉に申し訳なさそうにそう答えるクイーン。その声は、男が纏っている漆黒の全身防具フルアーマーから聞こえてきた。


 男が纏う全身防具フルアーマーはただの全身防具フルアーマーでは無くその正体は、伝説と名の付くとても珍しい分類の防具であった。

 しかし男が纏っている全身防具フルアーマーが珍しいとされるのは伝説という部分では無い。伝説と名の付く武具は確かに珍しい代物であるのだが、男が纏っている全身防具フルアーマーはそれ以上に珍しく異質であったからだ。

 男が所有するその防具には自我があった。その防具、いや彼女は防具でありながら人間のような知性のある自我を持っているのだ。自我を持つ伝説の防具クイーン。これが彼女の名でありその正体であった。

 そしてそのクイーンの所有者である男の名は、アキ=フェイレス。強大な力を追い求め旅をしていた元傭兵であった。



― ムハード近海 船内 ―



 海竜シードラゴンとの戦闘によって激しい揺れが何度も続いたというのに船内は静寂に包まれていた。旅客船とまではいかないがサイデリー製であるその船はそれなりの大きさである。普通少なくとも数十人の人間が必ず乗員しているはずのその船には人の気配が全くないのだ。

 それに加え海竜シードラゴンの襲撃である。船員や護衛役の冒険者や戦闘職が大騒ぎしていてもおかしくないのだがアキのように船の上に姿を現す者は他にはいなかった。

 そんな不気味なほどに静寂に包まれた船内を海水と海竜シードラゴンの肉片や血液でドロドロになった姿で歩くアキは、船内で一番広い部屋へと入っていった。


「……さて……それじゃお話をしようか、クイーン……そして盾野郎」


部屋に入って早々、苛立った表情で自分の体に纏っているクイーンともう一人、その部屋にいるだろう人物に話しかけた。


『とりあえずまずは汚れを落としては……』


「そんなことは後でいい!」


体に纏わりつく海竜シードラゴンの肉片や血液をまずは洗い落としてはと提案するクイーンの言葉を遮ったアキは視線を部屋の隅に向ける。


『騒がしいぞ、まだ王は眠っているというのに』


騒がしいと注意する低い男の声がアキの視線の先から聞こえてくる。だがアキの視線の先には低い男の声の持ち主には到底思えない少女の姿があった。

 位置的には少女が低い男の声を発しているように思えるが、当然少女の口から低い男の声が発せられる訳も無くなによりその少女は自分の半分はある大盾を枕に気持ち良さそうな表情で眠っていた。


「あれだけ船が揺れてギャーギャー騒がしかったのに一切動じず眠り続けているそのオウサマの神経を疑うな」


呆れた様子で少女をオウサマと呼ぶアキは少女の寝顔に視線を向けた。


『だから騒ぐな小僧、王も疲れているのだ』


少女を王と呼ぶ低い男の声は騒がしいアキを再度注意する。


「うるさせぇな盾野郎、俺はお前に一言いいに来たんだ!」


『今まで黙っていたが私は盾野郎では無い、キングだ小僧!』


アキの態度に苛立ったのか騒ぐなと注意していた自分の声が騒がしくなっていることに気付かない盾野郎ことキング。

 アキは眠る少女と会話していたのではなくその少女が枕にしていた大盾と会話をしていたのだった。

その大盾、いや彼もクイーンと同様に自我を持つ伝説の武具、盾であった。そしてその所有者は現在キングを枕にして気持ち良さそうに夢の世界に旅立っている少女である。彼女の正体はフルード大陸にあるサイデリー王国の王ブリザラ=デイルであった。


「そこで気持ち良さそうに眠っているオウサマが疲れている? だったら俺の疲れはどうなる?」


一国の王に対して無礼千万な呆れ顔を向けつつキングに対して愚痴を垂れるアキ。


『マスターの肉体的疲れは完全に私が補助しているので問題ありませんが……』


「クイーン、俺はそういう事を言いたいんじゃない、もっと精神的な話だ……なぜ船が襲われているのに、俺以外の奴が加勢に来ない……て、違う! そんな話をしたいんじゃねぇ! 俺はお前ら二人に言いたい事があるんだよ!」


『ほう、小僧が我々に聞きたい事、一体なんだ?』


今まであまり友好的とは言えず、会話をすれば常に喧嘩になるような間柄のアキとキング。そんなアキが自分に聞きたいことがあると言い、興味を持つキング。


「……奴が近くにいたんだろう?」


『……』『……』


アキの問に答えないキングとクイーン。


「……だからお前らは沈黙していたんだろう、なぜ俺に奴がいることを伝えない? そうすれば俺が……」


『……あの力で焼き払うか?』


アキが何を言いたいのか分かったキングは先回りするようにアキの言葉の続きを口にした。


「……ああ、そうだ……俺が黒竜ダークドラゴンの力で奴らを倒したさ!」


キングの言葉に頷くアキ。


『はぁ……お前は私達の話を聞いていたのか?』


アキの言葉に呆れたようなため息を吐くキング。


「なに?」


『奴の力がどれほどかはお前にも教えたはずだ、今の奴は、我々の力を合わせたとしても敵わない程の力を持つ存在だ、そんな相手にまだ我々の力を限界まで発揮できていないお前や王が対抗できる訳が無い』


自我を持つ伝説の武具の所有者達の力では奴を倒すことは出来ないと断言するキング。


「……お前達の力を発揮できていない俺じゃ奴を倒せない? 忘れてないか俺には黒竜ダークドラゴンの力がある……」


 船を襲った海竜シードラゴンを一撃で倒した力、これはクイーンが元々に持つ能力とは全くの別物である。その力はガイアスで最強の強さを持つと言われる魔物の一体、黒竜ダークドラゴンの力であった。


「この力があれば、お前達の力を最大限に引き出せなくともお前達の同族ビショップとかいう古本を軽く消し炭に出来る!」


 ビショップとはキングやクイーンと同じく自我を持つ伝説の本と呼ばれる存在のことで、二人とは深い因縁がり敵対関係にあった。

 だが宿敵であるはずのビショップに対してキングとクイーンの行動は消極的でまるで逃げているようであった。その理由は圧倒的力の差にあった。

 現在クイーンとキングの所有者であるアキとブリザラの力ではビショップには到底敵わないからであった。

 しかし不幸にもビショップの所有者である少年ユウトはアキが持つ黒竜ダークドラゴンに興味を持ちその反応を探っていた。そしてビショップは黒竜ダークドラゴンとクイーンに何らかの関係がある事に気付いていた。その為キングとクイーンは己の反応を極力抑え見つからないようにしていたのだった。


『愚かだな』


アキの主張を愚かだと言い放つキング。


「何が愚かななんだ、事実お前だって黒竜ダークドラゴンの力は目にしているだろう」


キングの言葉に食ってかかるアキ。


『確かに……お前が使う黒竜ダークドラゴンの力は私も目にしている、その威力が計り知れないのも分かっている……だがな小僧、大きな力には代償が伴うものだ』


「代償……?」


言葉の意味は理解出来るが、今まで黒竜ダークドラゴンの力を使う上で代償など考えたことも無かったアキは首を傾げた。


『その顔、自覚していないようだな……』


「……代償って……」


そう呟きながら黒竜ダークドラゴンの力を手に入れてからの事を思いだすアキ。だがそれでもアキに思い当たる節は無い。


『……それはお前の心に潜む負の感情、怒りや憎しみだ……』


「……怒りや憎しみ……? だったら何の問題もないじゃないか、俺の怒りや憎しみを喰って力が増すなら俺には何の問題も無い」


 力が無ければ力ある者に搾取され続けるという場所で幼少の頃を過ごしたアキにとって絶対的な力とはどんなものよりも明白な正義であった。そしてその正義を突き動かす原動力が幼少の頃に味わった怒りや憎しみ。それが代償になるというのなら、この二つの感情を湯水の如く湧き上がらせることができる自分にとっては好都合であると考えるアキ。


『勘違いするな小僧……代償とは奪われるだけでは無い……』


「はぁ?」


キングが何を言っているのか分からないアキ。


黒竜ダークドラゴンが小僧に求める代償、それは負の感情の蓄積だ……お前の精神を怒りや憎しみで全て満たす事を黒竜ダークドラゴンはお前への代償としている』


「は、はぁ?」


キングにそう説明されても分からないというように首を傾げるアキ。


『まだ分からないか……黒竜ダークドラゴンの力を使えば使うほどお前の精神は負の感情で染め上げられていく、それは汚染と言ってもいい……そうなればやがてお前の精神は消え去り破壊と殺戮を楽しむ存在と成り果てる……それを人は色々な呼び方で呼ぶが……近いのは魔王だ』


「破壊と殺戮を望む……魔王……」


キングにそう言われようやくアキは事の重大さを理解した。


「だ、だが……俺は今までだってちゃんと理性を保ってきた!」


だがそれでも圧倒的な力に魅了されつつあるアキは、黒竜ダークドラゴンの力を自分は制御してきたとキングに訴える。


『……理性をだと? ならサイデリーの雪原であの最上級盾士と戦った時、お前は理性を保てていたというのか? クイーンやウルディネ、そして王の呼びかけによってやっと意識を取り戻したお前のあれが理性を保っていたというのか?』


船で旅立つ前、アキが黒竜ダークドラゴンの力に呑まれ暴れた事を指摘するキング。


「そ、それは……」


当時の事ははっきりと覚えていない。しかし必至で自分を呼び続けたクイーンやウルディネやブリザラ、そしてある少女の声は覚えている。皆必至で自分が帰ってくる事を望みその温かい感情に触れたような感覚も覚えている。

 しかしそれと同時にアキにの中ではあの甘美で圧倒的な力の感覚が蠢いていたのだ。


『……今はクイーンの力やウルディネ、そして王の呼びかけによって何とか人間としての理性を取り戻せる段階にある……だがこのままいけばいずれお前は、黒竜ダークドラゴンの『闇』に呑まれ彼女達の呼びかけに耳を貸さなくなる……そうなればお前の事を思って呼びかけた彼女達をその手で殺すことになるぞ……』


「……」


黒竜ダークドラゴンの手に堕ちれば、ブリザラ達を殺すことになる。そう頭の中で思いながらアキはブリザラの寝顔を見つめる。


『理解したか小僧、お前が持つ力は確かに強力だがあまりにも危険なのだ、だからこそお前自身がクイーンの所有者として成長する必要がある』


『マスター……私は……絶対に使うなとは言えません、その危険な力が必要になる時があると思います……ですが出来るなら使用しない事を私は望みます』


キングとは違い、完全に黒竜ダークドラゴンの力を否定はしないクイーン。だがその望みはキングと同じであった。


「……」


俯くアキ。その表情は伺えないが自分が手にした力の重みを実感しているようであった。


『だが大丈夫だ小僧』


落ち込んでいる様子のアキを見ながらそう呟くキング。


『私とクイーンが黒竜ダークドラゴンの力など必要無い程にお前を強くしてやる……いやそうなってもらわなければ困る』


そう言って落ち込むアキを励ますキング。


「……ああ……頼む……」


アキは短くキングに返事を返した。だが既に遅かった。アキの心に渦巻いていたのは、反省でも改心でも無い。


(……俺は……この力を物にしてやる……)


そこにあったのは危険だと分かっていても甘美で圧倒的な力の味。力に魅了されてしまった者の深い欲望であった。


≪サア……力ヲ欲シロ……人間ヨ……≫


怒りと憎しみを糧として力を欲するのだと呪いのような声が、いや力に魅了されてしまった者にとっては甘美な囁きがアキの頭に響き続けるのであった。



ガイアスの世界


海竜シードラゴン


 名前にドラゴンと付いているが、正確にはドラゴンでは無く親戚のような魔物。その見た目はドラゴンと言うよりは龍といったほうがいいが、ガイアスの人々にはその違いがよく分からない。

 海に生息する魔物である海竜シードラゴンの体は大きく船に巻きつける程である。それ故に船が襲われることも多く船乗りにとっては天敵である。

 海竜シードラゴンが生息すする地域はムウラガであるが時々フルードやヒトクイのほうでも目撃される。

 だがムハード海域では今まで目撃例が無い為に、アキ達が乗る船を襲った海竜シードラゴンがなぜそこにいたのかは不明である。


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