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真面目に合同で章(スプリング&ソフィア編)13 赤く染まる月4

ガイアスの世界


人物紹介


名前 インセント


推定年齢60歳以上(はっきりとした年齢は分かっていない)


レベル99+


戦闘職 最上級戦闘職 剣聖


習得済み職業


 習得順 剣を扱う戦闘職全ては習得済み

     初級魔法使い

     

     その他色々

装備


 武器 何処にでもある剣


 頭  無


 胴 何処にでもあるアーマープレート(魔法付与済み)


 腕 何処にでもある手甲(魔法付与済み)


 足 何処にでもある足甲(魔法付与済み)


 アクセサリー 剣聖の証



  ガイアスの世に今まで僅か数十人しか辿りつけた者は居ないと言われる剣の道を極めた最上級戦闘職 剣聖。現在では数人しかいないと言われている剣聖の一人がインセントである。

  突如としてヒトクイに現れたインセントの素性は分かっていることが多く謎に包まれている。だがヒトクイ統一前の時代、現ヒトクイの王であるヒラキと出会ってからの事は、ヒトクイの者ならば誰もがしていることである。

 ヒラキの右腕として混乱にの中にあったヒトクイを統一した立役者の一人。ヒラキに次いでインセントは人気のある英雄の一人である。

 ヒトクイ統一後、インセントの消息は分からなくなっていた。なぜヒトクイを離れたのか近しい者でもごくわずかな者しかその事情は知らないようだ。

 ときよりガイアス各地で鬼神の如き力を持つ旅人が村や町を救ったという話があるがそのうちの何個はインセントだと言われている。

 剣の腕だけではなく戦闘全般における指導力に長けておりガイアス各地ではインセントから指導を受けた者達がいるようだ。

 ただし本人曰く弟子をとった覚えは無く後にも先にも弟子は一人しかいないと語っていたようだ。

 


 真面目に合同で章(スプリング&ソフィア編)13 赤く染まる月4




剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス




 今までの騒ぎが嘘のように静まり返るガウルド城へと続く大きな道。そこには活動死体ゾンビ化した魔物の気配も、それと戦っていたはずの冒険者や戦闘職、ヒトクイの兵達の姿すら見当たらない。そこにいるのは、ガウルド城へ向かっていた剣聖インセントと突如として姿を現した少女剣士だけであった。


「……どうやら、お嬢ちゃんは今回のこの騒動と関わりがある訳じゃなさそうだな」


 町を襲撃した活動死体ゾンビ化した魔物と今目の前にいる少女剣士は全くの別件である事を直ぐに悟るインセントは独り言のように呟いた。


「……騒動……知らない……知らない、私は強い奴と戦いたいだけ……」


「はぁ……」


どう見ても様子がおかしい少女。到底話が通じる相手では無い少女にため息を吐くインセント。


「……狂戦士バーサーカーか……たく、こんな時に力に呑まれるとは……」


「戦え……戦えッ!」


少女とは思えない血走った目を見開きそう吠えた少女は、そのままインセントの合意も無く飛び出すと腰に差していた剣を鞘から抜く。


「……とは言え、狂戦士バーサーカーに堕ちるだけの力を持つ訳だし……度胸のあるいい飛び込みだ……だが残念だが狂戦士バーサーカーじゃ褒められたもんじゃない」


常人とは思えない、熟練の戦闘職や冒険者でも中々拝めない素早くいい動きを見せる少女を褒めるインセント。だがすぐに狂戦士バーサーカーでは無かったらと付け加えヒラリと少女の突撃をかわす。


「なるほどその動き、元は盗賊かお嬢ちゃん、いい師に指導してもらったんだな……」


突撃が空振りに終わった少女の後ろ姿を平然と眺めるインセントは、少女の動きから少女が盗賊である事、そしてその動きを教えただろう師の指導が良かったことを感じ取る。


「……強い……強いよ……!」


背をインセントに向けながら快感を得たように体を震わせる少女は、頬を少し赤く染めながらゆっくりとインセントに視線を向ける。


「はぁ……いや、分かるけどよ、まだ年端もいかないお嬢ちゃんがそんな性癖に目覚めちゃいかんでしょ……」


戦いに快感を覚える少女の姿に、何ともやるせない表情になるインセントは再びため息を吐いた。


「……こりゃ人生の先輩として少し指導が必要だな」


だが少女はインセントの言葉など聞かずに次の攻撃に入ろうと剣を構える。


「……いいか、一度だけみせてやる……そんな何の意味も無い力に頼る事がどれだけ無意味かってことを」


今まで笑顔、少女の前では呆れ顔だったインセントの表情が真剣なものへと変わる。すると周囲の空気が一気に張りつめた。


「……」


突然張りつめた空気に少女はその感性から危険を察知する。今まで戦え戦えと叫んでいたのにも関わらず少女は警戒しているのか途端に静かになった。


「ほう……感じ取るか……」


周囲を警戒しはじめた少女の様子にそう言葉を漏らすインセント。

 少女は得体の知れない気配が自分の周囲を囲んでいることに気付きその気配の正体を目で確認しようとする。すると何も無いはずの場所から突然丸い光が出現する。その数30。

 少女を見つめるように漂う丸い光は、何の前触れも無く次々にその丸い形から姿を変えていく。


「……剣……!」


血走る少女の目に映るそれは、大小様々な剣だった。

 持ち手の居ない剣達は空中で漂いながらその剣先を少女に向ける。


「どうだ凄いだろ……」


鼻を鳴らし自慢するように少女に話しかけるインセント。


「……」


周囲の空気が変わった理由、自分を圧迫するような気配の正体はこれだったのかと少女は静かに納得すると口元をニヤリと吊り上げた。


「剣聖ッ!」


 静から動。静かだった少女は自分が置かれた状況を歓喜するように激しく目の前のインセントの戦闘職を叫ぶと地面を踏み抜き先程と同じように、いや先程よりも更に早い速度でその場から飛び出しインセントに向かっていく。

 周囲に漂う剣達には目もくれず、狙うはその主であるインセントのみというように少女は、自身の体に似合わない大きな手甲ガントレットを光らせる。


「……嫌な輝きかたするなそれ……ああ、なるほど……それがお嬢ちゃんが狂戦士バーサーカーになった源か……」


言葉は漂々と、だがその表情は鋭いインセントは一歩後ろに下がる。するとインセントに攻撃を仕掛けようと飛び出した少女の下の地面からせり出すように何かが出現する。


「ゴフゥ!」


 突然下からせりだした何かが腹部に入りその衝撃で体中の酸素が口から漏れだす少女は、まるで串刺しになったように体がくの字に曲がったまま身動きが取れない。

 驚異的な動きで向かってきた少女を一撃で捉えたそれは、壁や柱のようにもみえる。しかしその正体は人が振う大きさでは到底無い剣、特大剣だった。

 剣先や刃を潰れているのか少女の腹部を貫いた形跡も出血も見られない。だが剣先や刃が潰されていたとしてもそれだけの質量の物が突然地面からせり出し腹部を直撃すれば十分に威力はある。

 少女は特大剣の丸まった剣先の上でくの字に曲がったまま気絶していた。



「……警戒させるつもりがあの中で飛び込んでくるとはな……」


 役目を果たしたというようにインセントの目の前から消えていく30本の剣。インセントは剣達が完全に消えた事を確認すると気を失った少女に視線を向けた。


「……元々にいい腕を持っている……うまく成長すればあの小僧といい勝負が出来そうだな……」


 ゆっくりと姿を消していく特大剣から少女を肩で担いだインセントは、数年前突然自分の前から姿を消した少年の姿を少女に重ねる。


「……それにしてもこの手甲ガントレット……何とも懐かしく嫌な気配を感じさせる……」


インセントの肩からだらりと垂れる少女の腕。その腕に装備された小手ガントレットが放っていた光が放つ気配に身に覚えがあったインセントは少し顔をしかめながらも懐かしむ表情を浮かべる。


「……さて、これからどうしたものか……このお嬢ちゃんを担ぎながら城に入るのは……不味いよな」


意識を取り戻しまた暴れられてもたまらないと思うインセントは少女を担いでいない方の手で自分の頭を摩る。


「おい待てッ!」


「んッ?」


 城に行かなければならないインセントが気を失っている少女をどうするべきか頭を捻っている時だった。殺気を孕んだ声が自分の背後に浴びせられインセントは、特に警戒することなく声がしたほうに振り向いた。


「ソフィアを……ッ! あっ……あんたは……」


「……おお、久しいなスプリング……このお嬢ちゃんお前の知り合いか?」


それはすでに剣聖になった男と剣聖を夢見る男の邂逅であった。



― ガウルド城 城内 ―



 活動死体ゾンビ化した魔物との戦闘が終息し事後処理に追われるヒトクイ兵達の指示が飛び交い負傷した兵のうめき声が響く中、ヒトクイの王ヒラキはそれが王の物であることがすぐに分かる特別な装飾が施された剣を肩に担ぎ周囲を見渡していた。


「……この体たらく……本当に申し訳ありません」

 

 そんなヒラキの横でヒトクイ兵の将軍にしてヒラキの右腕と言われるザッパ=イーヨルンは情けなさと悔しさを滲ませた表情で頭を深く下げた。


「いや、この惨事を起こしたのは奴らの力を侮っていた私に原因がある……動ける者は直ぐに町へ向かわせ現在戦っている冒険者や戦闘職の加勢をしろ……物資は惜しむな」


「……ハッ!」


 一切ザッパに落ち度は無いと言い切ったヒラキの言葉に、ザッパは更に情けなさと悔しさを滲ませながらも返事をした。


「……本当にお前の所為では無い……全ては私の考えの甘さが引き起こしたことだ……ザッパこれからも頼りにしている」


 その返事から滲みだす悔しさを感じ取りすくい上げたヒラキは、今一度お前の所為ではないと自分を追い込みつつあったザッパを励ました。


「……はい……それでは、私は動ける者を集めすぐに町へ向かいます」


「うむ、頼んぞ」


 肩を落とし自信を失ったように見えるザッパの背中を見送りながらヒラキは再び周囲を見渡す。


「……負傷者は多いが、何とか死亡者は出さなかったか……町の状況もそうあって欲しいが……」


それが叶わないと分かっているヒラキの表情は悔しさに滲む。

 ガウルドの町を襲撃しその足をガウルド城まで延ばした魔物達に城にいたヒトクイの兵達は惑いを抱いていた。魔物達が城に攻め入るなど考えていなかったからだ。

 相手が人間や獣人ならば町への襲撃後、城に攻め入ることは大いに考えられる状況である。しかし今回は意思の疎通が取れない魔物。欲望に忠実な魔物が城に対し真っ直ぐ襲撃してくるなど考えられなかった。だがヒトクイの兵達が城へ襲撃してきた魔物達に戸惑ったのはそれだけでは無かった。

 それは魔物の活動死体ゾンビ化、そしてその数にあった。ガウルド城を襲撃してきた活動死体ゾンビ化した魔物の数は、ざっと数えただけでも千体は超えていた。

 訓練はしていたもののヒトクイ統一以降、目立った大規模戦闘を経験していないヒトクイの兵達。突然目の前に現れた千体もの魔物はヒトクイの兵達を躊躇させるには十分だった。そしてその千体全てが活動死体ゾンビ化していたことが躊躇させていたヒトクイの兵達に拍車をかけたのである。

 戦場跡地や、廃墟と化した町ならばまだしも、ヒトクイで一番栄えている町ガウルドで活動死体ゾンビなどでは本来出会うことが無い存在である。しかも活動死体ゾンビ化した魔物となれば人型に比べ凶暴で強い事で知られておりヒトクイの兵達の心を弱気にさせていく。活動死体ゾンビの危険性を十分に知っているヒトクイの兵達は、その数も相まって完全に動きが鈍っていた。

 しかし兵は国を守る存在。数が多かろうと活動死体ゾンビ化した魔物だろうと国や町を守るのは兵としての使命。攻め込む存在に対して怯むなどあってはならないことである。そんな兵達の不甲斐なさに育成や編成に携わっていた将軍ザッパは責任を感じていたのだった。

 しかしそう国を築いたのはヒトクイの王ヒラキである。統一前の戦乱の二の舞にならぬよう、表面上武力を抑え防衛力のみの強化を指示した結果であった。


「……インベルラからも連絡が無い……まさかとは思うが……」


 今回の襲撃の原因である『闇』の存在の討伐を聖撃パラディン隊の隊長インベルラに命じたヒラキ。だが現在もまだそのインベルラからは何の連絡も無いことに不安を抱く。


「ふふふ……どうたんだい? そんな不安そうな顔をして」


「……」


突然背後から聞こえる少年の声。少年の声のはずなのに薄気味悪いその声に、ヒラキの表情は厳しいものになる。ヒラキは自分の不安が的中したと、背後に感じる禍々しい気配にゆっくりと振り返った。


「やあ……偽りの王……」


「……スビア……」



― ガウルド 旧戦場跡地 ―



「……手応えがねぇ……」


 渾身の力を込めた鋭い爪による聖狼セイントウルフの爪突きは確実に少年の体を持つ闇の存在、闇歩者ダークウォーカーを貫いていた。しかし爪突きを放った本人であるガイルズは、手応えを感じないと口にした。


「……ど、どういうことだ?」


 ガイルズの爪突きによって闇歩者ダークウォーカーが確かに朽ちていった姿を目撃していたもう一人の聖狼セイントウルフインベルラは、ガイルズの言葉に不安そうに首を傾げた。


「……死んでねぇってことだよ、あいつは今も自分の気配を消して何処かにいるってことだ……」


明らかに不機嫌な表情を浮かべるガイルズは、話しかけてきたインベルラにそう告げると聖狼セイントウルフから人間へと姿を戻した。


「……あの一撃を喰って、生きているだと……」


「ああ……しかも一切傷は負っていないだろうな……ん?」


対峙した『闇』の存在、が無傷のままこの場を去った事を口にしたガイルズは、インベルラに視線を向ける。


「……ところでお前……誰だ?」


 闇歩者ダークウォーカーの首を狩ることだけを考え全く周囲を気にすることが無かったガイルズは、自分と会話をする騎士の姿をした女性に首を傾げた。


「なッ! 一緒に闇の存在と戦った聖狼セイントウルフだ!」


「一緒に戦った? そんな記憶、俺には無いが」


「なっ! ……ぐぬぬぬ、確かにそうだが……」


ガイルズの言う通り、インベルラはただ二人の戦いを見ていただけだった。


「……そうか、お前も聖狼セイントウルフなのか」


視界の片隅でウロウロしていた人狼の姿を記憶していたガイルズは、それが目の前の騎士だと気付きうんうんと頭を振った。


「……なぁ? だったらなんでお前の防具ははじけ飛んでいないんだ? 俺はあの姿になるたびに防具を買い変えなきゃならないんだよ」


ガイルズの記憶にある人狼、インベルラの聖狼セイントウルフ姿は防具を身に着けていた。そして今人の姿をしているインベルラもサイズは違うが同じデザインの防具を身に着けていることに疑問を持つガイルズ。


「これはだな……有名な鍛冶師によって……んッ!」


そう言いかけてインベルラの言葉が途切れる。


「どうした?」


突然話す事を止め俯いたインベルラを不思議そうに見つめるガイルズ。


「……き……ろ」


「ああ?」


声が小さく何を言っているのか聞こえないガイルズはしっかりとインベルラの話を聞こうと近づく。


「ち、近づくな! 素っ裸で私に近寄るなぁああああ!」


顔面を真っ赤にして慌てふためくインベルラは、そう叫びながらガイルズから一目散で離れていく。


「素っ裸? ……ああ、そうだ素っ裸だったな俺……」


聖狼セイントウルフの姿から人間の姿に戻ったガイルズは自分が素っ裸である事をすっかり忘れていたことに気付いた。


「おーい! しかた無いだろ、聖狼セイントウルフになると防具も中の服も吹き飛んじまうだから!」


遠くに離れ木の陰から様子を伺うインベルラに声をかけるガイルズ。


「な、なら大事な所を隠す努力ぐらいしろッ!」


インベルラが言う通り、自分が素っ裸であることに気付いて尚、ガイルズは全く気にすることなく仁王立ちで旧戦死者墓地に立っていた。


「大事な所? ここか?」


そう言ってガイルズは自分の鍛え上げられた胸筋を手で隠した。


「馬鹿がッ! お前の大事な所はそこじゃないだろ!」


顔を真っ赤にして顔を背けながらインベルラは隠す場所が違うと大声で指摘する。


「それじゃ何処だよ、教えてくれよ?」


ナニを隠すか理解している上でわざと言っているしか思えない口調でガイルズは堂々と己の体をインベルラに晒す。


「は、はぁああああ? お前絶対わざとやってるだろ! あっ!……い、いいから下を隠してくれ!」


ガイルズの態度に一瞬頭に血が上るインベルラ。その反動で思わず背けていた顔をガイルズに向けてしまう。目に入ったガイルズの体に再び赤面したインベルラは手で顔を覆いながらもその指の隙間からチラチラとのぞき見しながら必至に下半身を隠してくれと訴える


「へいへい……ええと……」


周囲を見渡しながらガイルズはそれが何だったのかも分からないほどにボロボロになった布を拾うとそれを腰に巻き付けた。


「……これでいいか?」


腰に布を巻き付けたガイルズは手で顔を覆うインベルラに声をかける。


「……そ、そうか……ま、まったく……こんな状況でなければお前は即刻逮捕だぞ……」


まだほんのり顔を赤く染めながらインベルラは腰に布を巻いたガイルズを確認する。


「逮捕? あんたこの国の関係者かなにかか?」


「ああ、私は……ヒトクイの騎士だ……」


自分が聖撃パラディン隊であることは公表できないため、詳しいことを省いて自分の素性を口にするインベルラ。


「ふーん……」


ガイルズは興味無さそうに相槌を打つと地面に転がっていた自分の得物、特大剣を拾う。


「お前は、ガイルズだな……」


身元確認なのかインベルラは目の前の男、ガイルズがガイルズ本人であるか聞いた。


「ああ、そうだけど……」


特大剣を軽々と片手で担ぐガイルズはインベルラの質問に素っ気なく答える。


「そうか……ならば今からお前をガウルド城に連行する」


「はあ? 何でだ?」


インベルラの連行という言葉に顔をしかめるガイルズ。


「それは当然だろう、あの力を持っている者をフラフラと自由させておける訳が無い、これからお前はヒトクイの監視下に置く」


「……冗談だろ? ……ふざけるなよ女騎士……」


インベルラの言葉によって今まで漂々としていたガイルズの雰囲気が一気に鋭くなる。


「な、なんだ! 反抗する気か?」


 ガイルズの雰囲気の代わりように一瞬たじろぐインベルラ。しかしインベルラも国を守る騎士の一人。本来の業務とは違うが、ヒトクイの騎士としての誇りを穢すまいと鋭い眼光を自分に向けるガイルズに対峙する。


「……俺はな……この力を得たせいで色々と酷い目にあったんだ、あんたみたいにその力のお蔭でチヤホヤされるような人生はおくってねぇんだよ……」


そう言うと肩に担いでいた特大剣をインベルラに向けるガイルズ。


「監視? 上等だ……俺の自由を奪おうとするなら、例え同族でも容赦しねぇぞ……」


静かに殺意をインベルラに向けるガイルズ。


「……お前だけが苦労したと思うな! この力の所為で色々と辛い経験をしてきたのは私も同じだ! だからこそ言っている……私の下に来い……そうすればお前は自分の力に怯えずにこれからの人生を生きることが出来る!」


自分と同じ力を持つガイルズ。そのガイルズがどういった人生をおくってきたか容易に想像が付くインベルラは、自分の下へ来いとガイルズに言った。


「はははッ! 馬鹿かお前……誰かに首輪を付けられたらそれこそ犬と変わらないだろう……俺は犬じゃない……誰の指図も受けねぇよ……」


インベルラの言葉を笑い飛ばすとガイルズ。誰の下に付く気も無いと国の監視下に置かれることを拒んだ。


「それとお前、この力を怖がっているのか?」


「……それは、そうだろう……人からみればあの姿は化物だ……」


それは力を得てから言われ続けてきた言葉。インベルラは自分の姿が変わってしまうこの力に心の何処かで怯えている自分がいることを理解していた。


「だが、それはお前も同じだろう! 周りから化物と言われ自分を化物と自覚しなければならなかったあの恐怖をお前も理解しているだろう!」


だがそれはガイルズとて同じこと。じぶんと同じ道を歩んできたガイルズならば自分の気持ちを理解してくれると思ったインベルラは、自分の想いをぶつける。


「ふん、知らねぇーなそんな恐怖、俺は自分に立てついてきた奴は全て自分の力でねじ伏せた」


「なっ!」


全く自分と同じ境遇にも関わらず、恐怖は一切無いと言い切るガイルズ。


「なるほど……お前はその化物になった自分を受け入れられていないのか、それなら納得だ」


「納得?」


ガイルズは何を納得したのかと首を傾げるインベルラ。


「やっぱりお前は狼じゃねぇ……この力に怯えているようなら、お前は犬だ……」


ガイルズはインベルラにそう言うと向けていた特大剣を担ぎ直し旧戦死者墓地の出入り口に向かって歩き出した。


「待てガイルズ!」


「……怯えるだけのお前は、その力を使って戦う価値も無い……大人しく自分の主に尻尾でも振ってろ」


インベルラの制止を聞かずそのまま出入り口へと足を進めるガイルズ。その後ろ姿を見つめながら呼び止めることが出来ないままインベルラは悔しそうに唇をかみしめるのであった。



― ガウルド 城に続く道 ―



 活動死体ゾンビ達の襲撃が嘘のように異常なまでに静まり返ったガウルド城へ続く大きな道。その真ん中でスプリングは意識を失っているソフィアを担いでいるインセントに明らかな敵意を向けていた。


「……何であんたがここにいる?」


「何で? ……そりゃこっちの台詞だスプリング、俺の下を飛び出して各地の戦場を飛び回っていた馬鹿弟子が、なぜ戦争をしないヒトクイに居る?」


スプリングの質問に対して質問で返すインセント。


「弟子じゃない! ……質問しているのはこっちだ……あんたは何をしにここにいる?」


漂々と笑みを浮かべるインセントとは反するように鋭い目つきでスプリングは自分の質問に答えろとインセントに再度質問の答えを強要する。その言葉には敵意と何かを疑っているような雰囲気が混じっていた。


「……ここは俺の古巣だ、立ち寄って何が悪い」


ガウルド城に行くという目的があったが、スプリングには関係無いとその事は伝えずに古巣に立ち寄っただけと説明するインセント。


「……本当にそれだけか?」


インセントの言葉に納得できず疑いを強めるスプリング。


「ああ、そうだ」


自分に向けられた明らかな敵意と疑いの言葉と眼差しにスプリングが何か疑っている勘付いたインセント。だがインセント自身、スプリングに疑いや敵意を向けられるような事は身に覚えが無ない。その為インセントははっきりと返事をかえす他無かった。


「……わかった……もう一つ質問だ……なんであんたがソフィアを担いでいる?」


「質問の多い奴だな……普通次は俺が質問する番だろうに」


スプリングのその態度に何かを焦っているようにも見えるガイルズは笑みを挟む。


「五月蠅い……余計な話をする気は無い、今は質問だけに答えろ」


 スプリングとインセントの間には一目で分かる程の温度差がある。インセントはなぜスプリングがここまで自分に疑いや敵意をみせるのか一向に分からずお手上げ状態であった。


「……いやな、突然、このお嬢ちゃんに襲われてな……ああ、でも大丈夫、重い一発を入れて意識を失っているだけでお嬢ちゃんに怪我は無い、ついでに言うと俺も無傷だ」


しかし疑いや敵意を向けられていることを理解してもインセントの態度は変わらず漂々としている。


「あんたの事は心配していない」


今まで睨みつけるようにインセントを見つめていたスプリングは、少し表情を緩め、意識を失いインセントに担がれたソフィアを見つめる。


「なんだ、このお嬢ちゃん、お前のコレか?」


僅かに緩んだスプリングの表情を見逃すはずがないインセントは、これでもかという程に卑猥な表情を浮かべながら小指を立てる。


「……あんたには関係ない」


「なんだよスプリング、昔はこういう話をするとワタワタ慌てたのに、つまらない大人になっちまったな~」


自分が想像したリアクションにならないスプリングを残念がるインセント。


「ん? なんだ?」


久々の再会にはしゃぐインセントとは対照的に疑いと敵意以外の感情が全く見て取れないスプリングは、インセントに近づくと手を出した。


「ソフィアを渡せ」


ただ一言。肩に担いでいるソフィアを渡せとインセントに言うスプリング。


「ああ、そうかそうか、悪い悪い」


そう言いながらガイルズは担いでいたソフィアをスプリングに渡した。


「お嬢ちゃんに力の制御の仕方教えておけよ我弟子よ」


「だから弟子じゃない……」


弟子という言葉を過剰に嫌がるスプリング。


「まあ、丁度良かった、お嬢ちゃんをどうしようか困っていた所だったんだ、助かるぞ、我弟子よ」


 スプリングがソフィアを抱き抱えた事を確認したインセントはそう言うとスプリングの背中をスキンシップの意味を込めて叩こうとする。だがそれを嫌がったスプリングは戦闘の時のような動きでスキンシップを拒絶する。


「だから弟子じゃないと言っている……一時期あんたに憧れた自分を今では恥じているよ」


頑なに自分は弟子では無いと言い張るスプリングは、インセントに憧れを抱いていた昔の自分を恥じていると心の中にあった思いを吐露する。


「あらあら……」


強烈に拒絶されたというのに全く顔色が変わらないインセント。


「ソフィアを止めてくれたことには感謝する……それじゃ俺は行く」


ソフィアを止めてくれたインセントに一応の礼を述べたスプリングは、すぐにこの場を立ち去りたいのか背を向けると自分が来た道を戻ろうと歩き出した。


「……スプリング……まだ復讐の為に強さを求めているのか?」


 何でも無いインセントの質問。しかしこの瞬間、インセントの気配が引き締まった事を感じたスプリングは緊張からか僅かに肩を揺らす。


「……ああ……そうだ……」


短くそう返すスプリングの表情は緊張で染まっていた。


「……そうか……死ぬなよ」


少し間を置いてそう口にしたインセントの言葉はいつもの漂々とした物に戻っていた。


「……ああ」


緊張から解放されたスプリングは、インセントに感づかれないように息を吐くと再び短く返事を返しその場を後にした。


「……そうか……まだ復讐の為に強さを求めるか……そのままでは行き詰るぞ……」


自分から離れていく弟子に届かない助言をするインセントは、視線を城に向ける。


「さて……用事をすませるかな……」


 インセントが自分の古巣であるヒトクイのガウルドに戻ってきたのは、ただ古い思い出を思いかえすわけでも自分がいた頃よりも遥かに立派になったガウルド城を見物しにきた訳でも無い。ガウルド城に住む旧友に会いに来たのだ。ヒトクイを統一し王となったヒラキにあう為に。




『主殿』


 インセントから離れ来た道を戻るスプリングに向けどこからともなく聞こえる声。その声はインセントに出会ってから様子がおかしいスプリングに疑問を感じた自我を持つ伝説の武器ポーンであった。


『もしかしてあのご老人は……主殿が追っている……』


自分なりに考察したうえでインセントという男がスプリングにとつてどういう男なのか口にしようとするポーン。


「まだ分からない」


だがポーンが言い終わる前にスプリングはポーンが抱いた疑問に答えた。


「……あれは、深い夜だった……月の光も届かない薄暗い部屋の中で起こったことで、俺もはっきりとその男の顔を見た訳じゃないから……正直な所断定はできない……だが……母さんに向かって繰り出されたあの攻撃は、剣聖であるインセントに酷似していた」


 スプリングがインセントに抱いた疑いと敵意。それはインセントが自分の両親を殺したのではないかという所からくるものであった。


「あれは確かに、剣聖であるインセントが持つ技だった……何も無い所から剣を作りだす……その刃で母さんは死んだ……」


初めてポーンに語る自分の過去。スプリングは当時の記憶を仇である男の顔以外はっきりと覚えていた。


「俺はあいつが剣聖だったなんて一緒に旅をしている時は知らなかった……その事を知った時、俺はあいつの下から飛び出したんだ」


もしかしたらインセントは自分の仇なのではないかと思った瞬間、スプリングはインセントの下にはいられなくなった。


「それは恐怖からだった……もしかしたら自分も殺されるのではないか……自分の仇かもしれない男を前にして俺は逃げたんだ……次に会う時は逃げないそう心に誓った……でも駄目だった」


 目の前にインセントを捕らえた瞬間、スプリングは当時の記憶が蘇り、幼い頃の自分にもどったかのように体が強張ることを感じた。それがあの時感じた恐怖と同じ物であると理解した時、早くこの場から去りたいと願っていた。


『……』


「……だがこのまま逃げるのは駄目だ、あの恐怖に打ち勝つには、インセントよりも強力な力を得なきゃならない」


『……』


 恐怖に打ち勝つ為、復讐を遂げる為に力を欲するスプリングの言葉にポーンは言葉を発することは無かった。

 



― ガウルド城 内部 ―



「いいよ、大声出しても……ただ出した瞬間、君を慕っているここにいる全ての家畜は死へと誘うけどね……」


「何を馬鹿なことを……お前程度、私だけで十分だ」


背後を獲られても尚、表情一つ変えず冷静にスビアを挑発するヒラキ。


「ふふふ、それはどうかな……活動死体ゾンビ化した魔物相手に随分苦戦していたみたいだけど……以前の君だったら千や二千、瞬殺だったろうに……やっぱりあれかな? ……家畜を喰わなくなった……いや、それどころか仲良くするようになったからかな……ね? どう思う夕歩者ハーフウォーカー?」


「その名で呼ばれるのも随分、久しぶりだ……闇歩者ダークウォーカー……いやスビア=スネック……」


「ふふ……それじゃ僕もこう呼ぼう……レーニ姉ちゃん……」



ヒトクイの兵達が忙しなく事後処理を行う中、ヒラキは自分の背後に潜む闇と静かな戦いが始まる。


「場所を変えるぞ、付いてこい」


背後のスビアにそう告げたヒラキは、静かに誰に気付かれることも無くその場を離れていく。ヒラキにとってそれは目の前の兵達にも国に住む人々にも誰にも知られてはいけない戦いの始まりであった。


ガイアスの世界


ガウルドの被害状況


 冒険者や戦闘職の奮闘、そしてインセントの介入によって町自体の被害は大きいもの、死亡者は多くないようだ。

 しかし今回の騒動でヒトクイ兵が危機に陥ったガウルドの町へ駆けつけられなかったという状況は問題として挙げられ防御体勢の見直しがされることになるだろう。


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