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合間で章4 高鳴り

ガイアスの世界


 登場人物  


名前 インベルラ=ジュライダー


年齢 28


 レベル 68


職業 聖剣士(パラディン)


今までにマスターした職業


剣士  聖職者プリースト 上位聖職者ハイプリースト 


装備


 武器 闇絶剣ダークブレイカー(『聖』の加護を受けた剣)


 防具 聖撃隊専用 全身防具(フルアーマー)(インベルラ特注仕様)


 頭 上に同じ (上に同じ)


 靴 上に同じ (上に同じ)


アクセサリー 穢れ払いの腕輪 契約の首輪


曲がったことが大嫌いと言った典型的な騎士。

 その表情は凛とし瞬き一つするだけでそこが聖域のような錯覚に陥るとも言われるほど清く美しい顔立ちをしている。だがそれはあくまで黙っていればの話。

 口を開けば男勝りな力強い言葉が飛び交い、男顔負けに荒事に飛び込んでいく行動をする姉御肌気質を持つ。

 聖撃パラディン部隊の隊長を務めるインベルラはそのギャップから、同じ部隊の信頼、もとい人気も高い。

 任務が無い時はガウルドの上位聖職者ハイプリーストとして教会で人々の為に尽くしている。ただ、正確が男勝りである為に、度々上位聖職者ハイプリーストに反した行動をとろうとする為に、教会の同僚たちはその都度ひやひやさせられているようだ。

 聖撃パラディン隊で彼女が纏う全身防具フルアーマーは、部下達の仕様とは少し異なった所がある。

 それは彼女が本来の力を発揮した時に彼女を守る為、彼女の力を思う存分発揮する為にガイアス一と言われる鍛冶師にヒトクイの王が頼んだ特注の逸品であるらしい。

 ヒトクイの王と彼女の関係は色々とあるらしいのだが詳しく知る者は殆ど要らなく、インベルラも王との関係は誰にも話していないようだ。


合間で章4 高鳴り




剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス



 ― ガウルド 旧戦死者墓地入口 ―



「……戦場の問題児ガイルズッ!」


 突然旧戦死者墓地に現れ『闇』の力を放つ少年に飛び込んでいく巨大な体躯の男の不名誉な通り名の一つを口にするインベルラ。


「おらあああああああああ!」


旧戦死者墓地が揺れるのではないかという叫びを上げながら、『闇』を放つ少年に向けインベルラの身長よりも大きな特大剣を軽々と振り下ろすガイルズ。


「……様式美というやつか」


 人間ならば振り下ろされたが最後、切り裂かれるのではなく押し潰される特大剣をその細腕一本で防いでみせた『闇』を放つ少年は涼しげな顔でそうガイルズに話しかける。


「チィ……」


攻撃を防がれ舌打ちを打ちながらもその表情はどこか楽しげであるガイルズは、『闇』を放つ少年と会話を交すことはせずすぐさま特大剣をもう一度振りかぶり打ち下ろした。


「様式美なんていらない……僕は早くお前に犬になってもらいたんだけどね」


「……犬?」


 二人の会話を遠目から静観していたインベルラは、その発達した耳で二人の会話、『闇』を放つ少年の一方的な会話に興味を持った。


(……犬とは何だ……)


まさか『闇』の存在達が聖狼セイントウルフの事をそう呼んでいるなどと知りもしないインベルラは、ガイルズがなぜ犬と呼ばれているのかなぜ犬になるのかと疑問の表情を浮かべ首を傾げた。


(あのガイルズが熊や虎になるというのなら、まだ分からなくもないが……)


ガイルズの大きな体にそんな連想をするインベルラ。その次の瞬間、インベルラは突如として自分がよく知る力がだが自分の物では力が旧戦死者墓地に漂っていることに気付いた。


「まさかッ!」


何かを感じたインベルラの視線は先程よりもしっかりとガイルズに向ける。いや正確に言えばそのガイルズから発せられている力に視線を向けていた。


「小出しにするなよ……焦らしてくれるな犬」


ガイルズから発せられる力、それは紛れもなく『闇』の存在を消滅させることが出来る力、『聖』の力であった。しかも人間が持つ貧弱なものでは無い。ガイルズから発せられている『聖』の力はそれこそインベルラが持つ聖狼セイントウルフに匹敵する力の量、いやそれ以上のものであった。


「なぜ、ただの人間のはずのお前が!」


「あれ? あのお姉さんとは知り合いじゃないのか?」


ガイルズから発せられる強大な『聖』の力を前にそう叫ぶインベルラ。その様子をガイルズの攻撃を防ぎ躱し捌きなが見ていた『闇』を放つ少年は不思議そうに首を傾げた。


「ああ? 同族だと?」


そこでようやく『闇』を放つ少年と会話を交すガイルズ。その視線はインベルラに向けられた。


「……ああ、本当だ……」


何とも間抜けな物言いで自分の同族がいる事を認識したガイルズ。


「……お前も僕の頭がどうこうとはこれじゃ言えないね」


ヤレヤレとそんな感じでため息を吐く『闇』を放つ少年は、そう言いながら休むことなく打ち下ろされ続ける特大剣を絶妙なタイミングで弾いた。


「ッ! だが……それがどうした!」


 普通の人間が持つことが出来ない重量の特大剣が宙を舞うことなど早々お目にかかれない光景、一瞬宙を舞う自分の得物に視線を向けたガイルズだったが、そんな事はどうでもいいと言わんばかりにすぐに視線を戻し得物を失いガラ空きとなった両手を強く握り拳を作り、そのまま『闇』を放つ少年に殴りかかる。


「だから、違うよ、それじゃない……早く犬になってよ」


自分が望む行動をとってくれないガイルズに更に呆れる『闇』を放つ少年は、まるで丸太が突っ込んでくるようなガイルズの拳を軽くいなしそれに合わせてその細腕でガイルズの顔面に拳を入れた。


「ガッハっ!」


殴られた衝撃でガイルズの頭が上下に跳ね上がりそのまま後方へと吹っ飛んでいく。


「……様式美も、焦らしも僕には必要無いって言っているだろう、いい加減その姿を現してよ駄犬……」


吹っ飛び墓石に体を打ち付けるガイルズの姿を見ながら『闇』を放つ少年の言葉には僅かな苛立ちを見せる。


「……これが……闇歩者ダークウォーカーの力……」


 この場で始めた知った言葉を口にするインベルラ。そこに立つ少年が『闇』であることは、インベルラにも理解は出来る。しかし今までにインベルラが対峙してきた『闇』とは明らかに違う。今までに対峙してきたものとは全くの別と言って過言では無い程に、少年から発せられる『闇』は異質なのだ。その異質こそが、少年スビアがただの『闇』では無く、夜歩者ナイトウォーカーでも無い証拠、闇歩者ダークウォーカーであるという証明であった。

 

 赤く染まった月の影響で『闇』の力を増したスビア。元々不気味であった旧戦死者墓地はスビアの『闇』の力によってさらにその不気味な雰囲気を増していく。しかしそんな旧戦死者墓地に響く突然の爆発音。砕けた墓石の破片が宙を舞う中、それは『闇』を切り裂くかのようにインベルラの目の前を走り抜ける。

 

「あッ!」


インベルラが思わず声をあげる程にその銀色に輝く光は、美しく、そして力強さを持っていた。


「来たか……」


目の前に迫る銀色の光を前に、目を細め暗い笑みを浮かべるスビア。

 銀色に輝く光の正体、それは聖狼セイントウルフの証でもある銀色の毛を纏う人狼の姿となったガイルズの姿であった。

 インベルラは、自分の前を横切ったガイルズの姿に、目を見開き驚きの表情を浮かべる。


「これが……同族……なのか?」


 自身が聖狼セイントウルフになった姿などこれまで一度も見たことが無く更に同族に出会ったことが無いインベルラは、その特徴が人狼ということと銀色の毛並を持っていることぐらいしか知らない。自分の目の前を通り過ぎたガイルズの姿が聖狼セイントウルフなのかインベルラはまだ信じられないといった様子であった。だが確かにガイルズから感じる力は自分から発せられているものと同じものであると感じるインベルラ。


(……なんだ……この心の高鳴りは)


 聖狼セイントウルフとなったガイルズがインベルラの目の前を通り過ぎた時間は、一秒にも満たない。だがたったそれだけの時間でインベルラの胸は激しく高鳴る。その胸の高鳴りが何であるのかインベルラは理解でき無い。だがそれに近い高鳴りならば感じたことがあるとスビアに向かっていくガイルズの背を見つめながらインベルラは自分の今までの人生を走馬燈のように思いだしていた。


 

 インベルラがこのガイアスにせ生を受けて28年。その内の約半分は彼女にとっては辛い日々でしか無かった。

 幼い頃、自分の力が制御できずその体を銀色の毛で纏わせ、人間とは言えない姿となった彼女は周囲の者達から化物と恐れられ忌み嫌われていた。



なぜ自分は周りの子供達と違うのだろう。


なぜ自分の体には銀色の毛が生え人間では無くなってしまうのだろう。


なぜ分と同じ姿になれる者がいないのだろう。



周囲と自分との違いにインベルラは、毎日のようにその小さな胸を痛めていた。

 だがそんな娘の悲しみをそっと優しく包み込む母も、自分の娘を周囲の鋭い視線から守ってくれる父も幼いインベルラに居ない。幼い娘を残しインベルラの両親はすでに冥府へと旅立っていった。流行り病であった。

 薬さえ飲めば直る程度の病であったが、その薬を買うことが出来ないほどに貧しかったインベルラの両親は、インベルラに病を移さないようにするのが精一杯で、まずは父親が冥府へと旅立っていった。

 インベルラの母親は自分の娘に病がうつらないようにとなるべくインベルラを遠ざけたのだが、その努力も空しく母親が死ぬ数日前、本人にもその流行り病が発症したことが分かった。

 インベルラの母親は唐突に絶望の淵に追いやられたような表情を浮かべた。だがすぐに何処か安堵した表情になった。だがまるでその安堵を嫌うかのように母親は何かを覚悟したような表情を浮かべると少し離れた所に立っていたインベルラを呼び優しく抱きしめた。

 当時は分からなかったが、インベルラが母親の年齢を超えた年、ふとその表情の移り変わりの意味を理解した。

 まず母親は自分と同じ病にかかった娘を見て、もうこの子は助からない、自分達の所為でこの子は死ぬのだと絶望したのだ。そしてこれから病による苦しみをあじわうくらいならば、今ここで自分が娘を殺し一緒に死ねばいいのではないかという結論に達した母親は、苦しみと悩みから解消され安堵の表情を浮かべたのだ。

 だがインベルラの母親はそれでも尚、母親としての正気を保っていたのであろう、自身が持つ微かな望みに賭けることを決心して覚悟を決めたような表情を幼いインベルラに向けたのだ。

 その僅かな望みがどうやってインベルラの両親の下にやってきたのか、それは両親が冥府に旅立った今、インベルラが知ることは出来ない。だがその僅かな望みは、例えその後インベルラに過酷な運命が待っていようとも生きていて欲しいという母親の愛情、そして言葉を変えるならばエゴであった。

 優しく幼いインベルラを抱きしめた母親はその手でインベルラの首にある物を取り付けた。そして、ごめんねと言いながらインベルラの母は涙を流していた。

 それから幼いインベルラは激しい熱と嘔吐に見舞われた。だが母親が息を引き取った日、インベルラの体はまるで母親の死と引き換えるように病は消え健康になっていた。

 インベルラの母が彼女の首にとり付けた物、それはお世辞にも宝石とは言えない灰色の石が一つ付けられた首輪であった。

 その首輪の正体が何であるのかをインベルラが知ったのは、両親を失い自分一人で生きていかなくなったインベルラが、自分の身に起った状況を理解できるようになり、自分は化物なのだと割り切ることができるような年齢に達した頃であった。

 だがそんなインベルラに突然救いの手が差し伸ばされた。それはインベルラからすれば、奇跡のような瞬間であったのかも知れない。もしこの出会いがなれば彼女は、その力の本来の使い方を知らずに、暴力と残虐の世界に身を投じていたのかもしれない。彼女の前に姿を現した男、それはヒトクイの町や村の視察に訪れていた、ヒトクイを統一しその国の王になった男、ヒラキであった。

 人狼に姿を変えたインベルラに出会ったヒラキに焦りや動揺は一切無く、ただひたすらに優しい表情で、お前は『闇』を駆逐する為の存在、『聖狼セイントウルフ』という力を持つ存在なのだと、けっして化物では無いのだと牙を向けるインベルラに手を差し出したのだ。

 インベルラはその時、初めて自分の中にある強大な力を制御することが出来た。そして差し出されたヒラキの手に少し躊躇しながら触れたのである。

 ヒラキの手から感じる温もりは何処までも優しく、そして力強かった。おかしな話だがヒラキの手に母親を感じたインベルラはそのままヒラキに身を委ねていった。

 両親を失い孤独となった身に広がるヒラキの優しさはそれだけでインベルラの閉じた心を開かせたのだった。

 ヒラキの優しさに心を開いたインベルラはこの人の為に何かをしたいと思った。その想いに答えるようにヒラキは彼女を、ヒトクイの中心都市ガウルドにある自分が住む居城に招き入れた。

 自分にとって場違いな場所に最初戸惑ったようにオロオロするしか無かったインベルラ。そんなインベルラにヒラキは、今日からここがお前の家だ、ここで鍛え学びその力をこの国の為に使っておくれと、その大きな手でボサボサのインベルラの黒髪に優しく触れたのだった。その手の温もりにインベルラは胸の高鳴りを抱いたのであった。



 一秒にも満たない時の中、自身のこれまでの人生を振り返ったインベルラは、今自分の胸の高鳴りが初めてヒラキと出会った時の胸の高鳴りと似ていることに気付いた。

 しかしその高鳴りが何であるのかを理解できないインベルラは困惑する。自分を救った王に抱いた胸の高鳴りと方や戦場で問題児と危険視されている者に抱く胸の高鳴りがなぜ似ているのかと。

 だがインベルラの銀色の目は聖狼セイントウルフの姿になったガイルズから目が離せない。彼ならば、あの強大な『闇』の力を持つ存在を討ち滅ぼしてくれるのではないかという期待が高鳴る鼓動を更に強めるからだ。

 聖狼セイントウルフとなったガイルズの鋭い爪がスビアの体を貫いたのは、インベルラがガイルズに期待を抱いてから一秒も経たない頃であった。



ガイアスの世界


インベルラの母親が持っていた首輪。


宝石とは言えない、どちらかと言えば鉱石のようなものが一つ付いた首輪。この首輪をなぜインベルラの母親が持っていたのかは分からない。だがこの首輪が肉体を聖狼セイントウルフへと作り替える物であることは確かなようで、同じようなデザインの首輪をガイルズもしている。

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