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 はじめましてで章 2 闇のダンジョン

ガイアスの世界


 ムウラガ大陸


自然が多く過しやすい気候の大地を持つムウラガ大陸。だが過しやすいが故に人間以外の魔物の生息率も高く、過ごしやすいというのは気候だけで、人間にとっては厳しい大陸である。

 周囲には凶悪な魔物が沢山生息しているため、常に危険と隣り合わせであり、人間が住める場所は数えられるほどしかない。

 辛うじて人間が住める場所から離れると、そこは多彩な魔物達に溢れており、常に生死が付きまとう危険な場所が広がる。たが経験を積み自分の技術を高めようとする冒険者や戦闘職達、魔物から取れる希少な部位を狙っている商人などには人気な大陸でもある。


  

  

 はじめましてで章 2 闇のダンジョン



 剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス。



「何? 『ムウラガ』に行きたいだと?」


 揺れる船内で舵をとる船長の声に冒険者や戦闘職の者達の視線が一人の青年に集中する。一斉に注目を浴びた青年は口を開くことは無かったが、船長の問にコクリと頷いた。


「坊主……確かに今この船は『ムウラガ』の近くを通過しているが、『ムウラガ』にはいかないぞ」


「……」


坊主と呼ばれた青年は船長の言葉に固まる。


「残念だがこの船は『ムウラガ』遠征用の船じゃない……今度は間違えないように気お付けろよ、坊主」


固まる青年を見て鼻で笑いながら話は終わりだと視線を海へと戻す船長。その背中を茫然と見つめていた青年は、何かを思いつめたように歩き出すと船の外へと出ていこうと扉のある場所へ向かい歩き出した。


「おい、『ムウラガ』に行きたいって本当なのか?」


「止めておけ、命が幾つあっても足らないぞ」


「平和なご時世であんな場所に行きたいって変な奴だなお前」


青年と船長のやり取りを聞いていた冒険者や戦闘職達は馬鹿にしたような口調で青年に声をかける。しかし青年は一切誰の問にも答えず船外へ向かう扉の前に立った。


「あんな所行ったって今のご時世殆ど意味ないのにな」


「そうそう、今は平和な時代だ、気楽に小銭をかせげりゃ問題ない」


「命を張って力を手に入れても、その力を使う場所がないんじゃな」


時代の所為なのか、それとも彼らの性格から来るものなのかそれは分からないが、彼らの言葉に冒険者や戦闘職としてのやる気が感じられない。そんな彼らの言葉を耳にした青年は拳を強く握ると、乱暴に扉を開け船外へと出ていった。


「若いねぇ……」


「まさかとは思うがあの坊主、『ムウラガ』に行くために海に飛び込んだりしないよな」


「ガッハハハ! ないない、有り得ないね、そんな事……」


怒りを露わにしながら船外へと出ていった青年を笑う冒険者や戦闘職達。しかし次の瞬間、何かが海に落ちる音が響く。


「……お、おい……ま、まさか……」


「あ、は、ははは……」


「……き、気のせいだろ……」


海に何かが落ちた音を聞いた冒険者や戦闘職達は、その音が自分達の想像とは違う何かだと思い込み互いの顔を見合いながら顔を引きつらせるのであった。



 その森はガイアスにある『ムウラガ』という大陸にあった。広大なその森は『ムウラガ』の三分の一を占めている。大きいのは森の規模だけでなく、そこに生える木々や草花も異常な程巨大であった。特に木々は巨大で太陽の光を殆ど通さず、昼夜関係なく森を薄暗くしていた。

 そして巨大なのは草花や木々だけでは無い。『ムウラガ』という大陸に生息している魔物達も他の大陸の魔物に比べ巨大であった。

 その理由ははっきりと分かっていない。ただ一つ分かっているのは『ムウラガ』という独自の環境が何らかの影響を魔物達に与えているということだけであった。そして『ムウラガ』が魔物達へ与えた影響はただ巨大化させただけでは無く、強力な力と凶暴性を高めていた。それと同時に強力な力と凶暴性を高めた魔物達は自分達の縄張りを広げる為、他の種族の魔物と争う。それが更に『ムウラガ』の魔物達の能力を高めていく結果になっているのであった。

 そんな『ムウラガ』に人間の入る余地など殆ど無く人間が生きるには過酷な大陸なのであった。しかしだからと言って『ムウラガ』に人間が存在しない訳では無い。

 数は少ないが『ムウラガ』の各地数ヵ所には何故か魔物達が余り近づかない場所がある。その理由が何であるのかは不明であるが、水のある場所や海の近くにある場所にはなぜか魔物が寄り付かない。『ムウラガ』で生きる人間達は、安全地帯である水場のある場所に小さな集落を作り細々と生きていた。しかしそもそも強力な魔物が生息している『ムウラガ』になぜ人間が住んでいるのか、詳しく知っている者はいない。

 結論として人間にとって『ムウラガ』という大陸は謎な部分が多い場所である。だからこそ『ムウラガ』に足を踏み入れる冒険者や戦闘職の者は多かった。

 比較的平和と言っていい現在のガイアスでは、『ムウラガ』に向かう者も減ったが、世界が混沌とした時代であった頃は、一年で数百から数千の冒険者や戦闘職達が『ムウラガ』へと向かったと言われている。

 その目的は『ムウラガ』の謎を解明したいという学者や商人からの『ムウラガ』の魔物から手に入る珍しい素材の依頼だったりまだ一切手を付けられていない遺跡やダンジョンの探索だったりする。

 だが冒険者や戦闘職にとってはそれはおまけであり本当の目的は、強力な魔物達の討伐にあった。己の腕を磨きたい冒険者や戦闘職の者達は修練の地と称して競い合うようにして強力な魔物達が生息している『ムウラガ』へその足を伸ばしていたのである。

 当然『ムウラガ』の魔物と渡り合える腕が無ければ単なる自殺行為である為、向かう者達はそれなりの熟練者ばかりであった。しかしそんな熟練者たちであっても無事に『ムウラガ』から戻ってくる者は少なく年間でかなりの数の犠牲者が出ていた。

 そんな『ムウラガ』には絶対に足を踏み入れてはいけないと言われている場所があった。腕に自信のある熟練者達であっても絶対に足を踏み入れない場所、それは薄暗い森の更に奥、僅かな光すら届かない場所にあった。

 光が届かないことから冒険者や戦闘職の者達からその場所は『闇の森』と呼ばれていた。『闇の森』の『闇』はその場の雰囲気や比喩などでは無く本当に『闇』が充満した場所であり足を踏み入れた者はすぐに『闇』の気配を感じるという。

『闇の森』に生息する魔物達は充満する『闇』の力の影響で更に力を強め凶暴になり侵入した者を容赦なく襲う。そこには骨一つ残らないと言われている。ではなぜ『闇の森』には『闇』が充満しているのか。 その元凶は定かでは無いが、学者達の見解によれば元々はただの森であったその場所に『闇』の力を持つ何かが住みついたのではないか、もしくはその何かが死を迎えその亡骸から『闇』が垂れ流されているのではないかというものであった。しかし実際にそれを見た者はおらず真相は未だ分かっていない。ただ決して足を踏み入れてはならない、それだけが事実として残っていた。


 『ムウラガ』海域を通過していく船から海へと飛び降りた青年は、波に飲まれ揉まれながらも自分が目的としていた場所、『ムウラガ』へとたどり着いていた。

 小さな島国で強制的に魔法使いに転職させられてしまった何処かの誰かに似た顔立ちをしている青年。しかしその目は魔法使いに強制的に転職させられた青年よりも鋭く野性的である反面、その鋭い目には似つかわしくない知的な雰囲気を持つ眼鏡をかけていた。

 青年が今いる場所、それは熟練者であっても絶対に足を踏み入れないと言われる『ムウラガ』にある森の奥、『闇の森』であった。しかも青年はその更に奥にあった不気味な気配を纏ったダンジョンの中、最下層にいた。

 『ムウラガ』に上陸した青年はその足で森を突き進んだ。襲って来る魔物を蹴散らし寝ず食わず三日三晩歩き戦い続けた青年は気付けば『闇の森』に足を踏み入れその先でダンジョンの入口を見つけると迷うことなくダンジョンに足を踏み入れた。『ムウラガ』の森や『闇の森』で出現した魔物以上に強力な力を持ったダンジョンの魔物達をボロボロになりながらも倒し奥へと進んで行く青年。その青年の前には今までの魔物達よりも圧倒的な力を持った魔物が姿を現した。


「……くそ……」


 その魔物を前に苦悶に表情を歪める青年。しかし苦悶に歪んでいるものの、青年の表情に後悔の色は一切無い。それが普通、それが当たり前というように青年は自分に立ちふさがる脅威を前にして自分の力を高める相手に出会えた喜びからかその口元を吊り上げた。

 青年が持つ武器は弓。目の前にいる魔物を見据え、魔物との距離をとる青年は野性的、感情的な瞳で魔物を見据えると弓を構え、矢をセットする。青年が攻撃意思を持っている事を感じた魔物は、無感情な瞳で青年をギョロリと見据え長い首を揺らしながら離れていた青年との距離を縮める為に歩き出した。その魔物が歩くつどダンジョンが揺れる。その巨体から一見ただ暴れるだけしか能の無い魔物に見えるが青年はその魔物から異質な気配が流れ出ているのを感じていた。その気配は『ムウラガ』に生息するどの魔物よりも重々しく不気味でいてそして何故か気高く感じられる。

 その魔物の正体は、魔物の頂点に君臨する種族の一つ『ドラゴン』であった。だが青年の前に存在する『ドラゴン』は単なる『ドラゴン』では無い。人間の間で異端の力と言われ人間に災悪をもたらすとされる『闇』の力を持つ最強の『ドラゴン』であった。そして『ムウラガ』の森の一部を『闇の森』へ変貌させた存在でもあった。

 なぜそんな災悪をもたらす存在がダンジョンの中にいるのか、そんな疑問を考える余裕も無い青年は、『闇のダンジョン』の通路を埋め尽くす『黒竜ダークドラゴン』の巨体を見渡しながら黒竜ダークドラゴン』のどの部位に狙いを絞ればいいか悩んでいた。

 ダンジョンの通路を埋め尽くす程の巨体、矢を放てば絶対に命中はする。しかし相手は魔物の頂点の一つに君臨する『黒竜ダークドラゴン』たかが人間一人の矢でどうにかなる相手では無い。マジマジと見つめなくとも分かる強固な『黒竜ダークドラゴン』の鱗は、矢を放ったとしても刺さる事は愚か傷一つ付けられずに矢が砕け散る可能性はかなり高い。 自分が持つどの攻撃手段も通用しないを理解する青年は、矢をセットした弓を引きながらどこか弱点は無いかと再度『黒竜ダークドラゴン』の体を見渡す。


「……月並みだが、柔らかいと言ったら!」


青年が手から矢を離すと甲高い音と共に放たれた矢は一直線に『黒竜ダークドラゴン』の目に向かって飛んでいく。だが次の瞬間、その矢は届くこと無く堅い鱗に覆われた『黒竜ダークドラゴン』の翼によって弾かれダンジョンの壁に突き刺さった。『黒竜ダークドラゴンが己の翼を少し動かしただけで強力な突風が発生し青年を襲う。


「くぅ……」


黒竜ダークドラゴンの片翼から発せられた強力な突風に体が吹き飛びそうになる青年。吹き飛ばされないように青年は下半身に力を入れ踏ん張った。


《ギィシャアアアアアア嗚呼!》


突風に耐える青年に威嚇するように『黒竜ダークドラゴン』は咆哮を放つ。けたたましく耳を劈く咆哮は、容赦なく青年の鼓膜を攻撃する。すかさず耳を手で塞ぐ青年。しかし確実に『黒竜ダークドラゴン』の咆哮と突風は青年の体力を削られていく。耐えられなくなった青年の体は次の瞬間フワリと浮くと恐ろしい速度で吹き飛んで行った。


「グハッ!」


ダンジョンの壁に亀裂が入るほどの衝撃。その衝撃をまともに背中に喰らった青年は、その衝撃で肺に蓄積されていた空気を全て吐き出してしまう。


≪グルルルゥゥゥゥ……≫


舌をチロチロと出し喉を鳴らしながら『黒竜ダークドラゴン』は倒れ息が出来ない青年に近寄っていく。


「はぁ……うぅぅ……」


黒竜ダークドラゴン』が自分に向かって来るのをただ見ている事しか出来ない青年。ゆっくりとだが確実に青年の下に向かって歩いてくる『黒竜ダークドラゴン』は『ドラゴン』が得意とするブレスを吐くわけでもその鋭い牙で喰らいつく訳でも無く、その手にある爪を振り上げていた。

青年は振り上げられた『黒竜ダークドラゴン』の手から覗く爪を見上げる。一触れしただけで終わる。それはその爪を見れば誰でも容易に想像がつく。


「……遊んでいるのか……」


振り下ろされようとする『黒竜ダークドラゴン』の爪を見つめながら青年は、なぜ『黒竜ダークドラゴン』はこの状況でわざわざ確実に自分を殺す事ができるはずの手段を択ばず逃げられる可能性のある爪という攻撃手段をとったのか疑問に思いそして答えに行きついた。それは『黒竜ダークドラゴン』が青年を使い『遊んでいるから』であった。

 『黒竜ダークドラゴン』は魔物である。しかし魔物でありながら『黒竜ダークドラゴン』には『遊ぶ』という行為を理解できるだけの知能があった。しかしそれは常識的に考えて非常に厄介な事であった。  

 魔物は例外はあるものの基本本能だけで行動する。従い強力な力を持っていてもどこか単調な部分がありその行動は読みやすい事が多い。それは他の魔物よりも多少知能がある『ドラゴン』であっても同じで青年の前に立つ『黒竜ダークドラゴン』のように『遊ぶ』を理解する程の知能は無い。それは明らかに異質であった。『黒竜ダークドラゴンの異質を再確認にした青年の額からは嫌な汗がつたう。


≪グゥアアアアアア!≫


まるで楽しんでいるような咆哮をあげながらそれを合図にするかのように『黒竜ダークドラゴン』は青年に向けて鋭い爪を振り下ろす。


「人間舐めるなよ!」


自分に激を飛ばすようにすでに限界を超えている力を振り絞り青年は自分の体を起こすと振り下ろされた『黒竜ダークドラゴンの爪を横っ飛びして回避する。回避した後の事など考えず形振り構わず回避した青年は転がりながら『黒竜ダークドラゴン』から距離をとると再び弓を構えた。

 彼の名は『アキ=フェイレス』。彼の弓は100メートルや200メートル離れた的を軽く射抜く程の実力を持つ上位弓士ハイアーチャー

 しかし例え人間の中では実力を持っていたとしても『黒竜ダークドラゴン』の前でアキの力は無力でしかない。アキが弓を構えた瞬間、振り下ろされた方では無いもう一つの『黒竜ダークドラゴン』の爪が目の前に広がっていた。


「……人間てのは……無力だな……」


一瞬笑みを浮かべるアキであったがすぐにその表情は怒りに満ちた表情へと変わる。


「だがな俺は、お前みたいな圧倒的な力を手に入れる為にここまで来たんだ!」


そう言いながらアキは迫りくる『黒竜ダークドラゴン』の爪に向けて構えていた弓から矢を放った。それが無駄な行為と分かっていたとしても。

 アキは力を求めていた。それも生半可な力では無く誰にも負けない圧倒的な力を。そんな圧倒的な力を持った存在が目の前にいる。自分もその力がそんな圧倒的な力が欲しい。あっさりと爪に弾かれる矢を見ながらアキはそう願い目を閉じた。

 次の瞬間、撫でるようにして『黒竜ダークドラゴン』の爪はアキの体引き裂いた。


「ゴフゥ……」


何もかも全てを持っていかれるような感触。アキの体はまるで枯葉が宙に舞うように打ち上げられるとそのままダンジョンの天井に打ち付けられ弾かれるようにして地面に落ちた。


「がはぅ……」


吐血するアキ。『黒竜ダークドラゴン』の爪痕は深く、体中から大量の血が噴き出し、腹部からは内臓がはみ出していた。

黒竜ダークドラゴンにとっては撫でるような攻撃であってもアキにとってそれは致命傷。血液が体から流れ出ていくのに比例して自分の体から力が抜けていく事を感じるアキは混濁する意識の中、『黒竜ダークドラゴン』がダンジョンの地面を揺らしながら迫ってくるのを理解し死を覚悟する。今にも消えそうな意識の中で自分の生涯を振り返るように記憶が蘇っていく。消え入りそうな意識の中でこれが走馬灯かと今までの記憶が頭の中をぐるぐるとまわりゆっくりと頬をつり上げた。


「……ろ、ろくな……人生じゃなかったな……」


 アキには家族と呼べるものがいなかった。物心ついた頃には父も母も家族と呼べる者はおらず、燃え盛る村の光景を茫然と見つめていた。その村が自分の故郷だったのかそれすら曖昧なアキの次の記憶は、死と隣合わせの生活をおくる日々だった。

 周囲にいた大人はすべて幼いアキからはすべてを奪い、利用する。辛くも運よく命だけはとられることの無かったアキは、そんな日々に耐えながら大人を軽蔑しそして憎んだ。そんな状況から逃れるようにアキもまたそんな汚い大人達を騙し利用した。

 だがその反面、自分は決して大手を振って人前で歩けるような人生ではない事をはしっかりと理解しているアキ。だから自分はろくな死に方はしないと覚悟を決めていた。


「くそ……死に……死にたくない……」


だが死が迫り自分の覚悟が瓦礫のように崩れ落ちていく事を感じるアキは呟くように死にたくないと漏らす。ろくでも無い子供時代であったが、それでも必至に生きたアキの状況が好転し始めたのは青年の入口に立った頃であった。自分に戦う才能がある事が分かったからだ。

 戦う力があれば何もかもを掴む事が出来る。アキはそう信じ強さを手に入れる為戦い続けそして上位弓士ハイアーチャーにまで駆け上がった。


「まだだ……俺はまだ強く……なれる……」


今できる精一杯の力で力なく握り拳を作るアキ。しかしそんな事など知った事では無い『黒竜ダークドラゴン』は生暖かい息をアキの顔に吹きかけながら大きな口をあけた。


 ―― 力ヲ望カ……力ヲ欲スルカ……ナラバ呪ノ道ヲ突キ進ムカ人ヨ…… —―


もう意識があるのか無いのかも分からないアキの耳に響く暗く重い幻聴。


「欲しい……お前のような……圧倒的な……力が」


それが誰の声なのかも分かっていないアキ。だがそれでも力を望む。圧倒的な力を。


 ―― ソレコソガ……人ノ業、人ノ欲望……ナラバ声二ダセ生キタイト —―


その言葉に従うようにゆっくりと力無く口を開くアキ。


「し……死にたくない……い、生きたい……」


その瞬間アキの耳に新たな幻聴が響く。


「声帯認識を確認、マスター認証完了……スキル適合完了、周囲360度スキャン……スキャン完了、起動開始」


重く暗い幻聴とは違い、新たな幻聴は軽く明るいものであった。だがアキには新たな幻聴が何を喋っているのか聞き取れない。薄れゆく意識の中でアキは眩い光を見た。


「……綺麗……だ……」


倒れているアキを包み込むようにして突然赤い光がダンジョンを照らす。


―— ナ、ナニ……我ガ力ガ吸イ込マレル ――


赤い光に吸い込まれていく『黒竜ダークドラゴン』。膨れ上がるように大きくなる赤い光は『闇のダンジョン』を包み込んでいくのであった。




『マスター、目を覚ましてください』


アキの頭に幻聴が響く。その幻聴に導かれるようにアキはゆっくりと目をあける。だが目をあけたはずなのに視界が狭い。


「な……なんだコレ?」


アキはゆっくりと体を起こすと自分の頭に触れる。


「ん?」



 頭に何かを被らされている事に気付くアキ。それだけでは無く自分の体中に違和感がある。体を動かすたびに金属が擦れる音もがする。狭い視界の中で自分の両腕を確認しようと動かし視界に入れる。そこには黒い腕が二つ見えた。


「黒い……黒い手甲?」


『ようやくお目覚めですかマスター?』


それが幻聴では無い事に気付くアキは思わず周囲を見渡す。


「だ、誰だ?」


 周囲には人の気配は無い。そもそもダンジョンの中にいたはずなのになぜ外にいるのか分からずアキは混乱し始めた。


『……マスター少し落ち着いてもらいたいのですが』


明らかに混乱しているアキを見かねた謎の声は落ち着くよう諭した。


「な、何なんだ、俺の頭の中に響いてくる……」


周囲には誰も居ない。直接頭の中に声が響いている事に気付いたアキは、自分の頭に響く声に向かって叫ぶ。


『マスター落ち着いて周囲の状況を確認してください』


「黙れ! お前は一体……ん?」


途中で言葉を止めたアキはその場が『闇』が充満する『闇の森』である事に気付いた。重い空気が流れる『闇の森』からは本能のまま殺気を垂れ流す魔物の気配が数えきれない程感じられた。


『やっと冷静になってくれましたね、マスター』


「ああ、お前が何者なのかはとりあえずこれを切り抜けてからだ……」


至る所から感じ取る殺気に戦闘態勢に入るアキ。


『ふふふ、これは……丁度いい腕試しになりそうですね……マスター』


アキの頭に響く謎の声は楽しそうに声を弾ませるのであった。



登場人物 5


 アキ=フェイレス


年齢20歳


レベル54


職業 上位弓士ハイアーチャー レベル 89


 今までマスターした職業


 ファイター 剣士 弓士


武器 なぎ払う弓


 頭 必中のフード


 胴 雷神の胸当て


 腕 先読みの腕輪


 足 天馬の蹄靴


 アクセサリー 見通し良き眼鏡

 

 物心ついた時には一人であったであったアキは、幼いころは生きていくために殺し以外の犯罪はなんでもやっていたという。だがそんな自分の環境から脱するため、傭兵になる。戦いの才能が自分にある事を確信したアキは、めきめきと腕を上げ、上位弓士ハイアーチャーという上位戦闘職につくことになる。

 

 

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