真面目に合同で章(スプリング&ソフィア編)10 赤く染まる月 1
ガイアスの世界
ガウルドに昇る赤く染まった月
普段白い光を放つ月。だが周期は定かではないが時よりその白い光が赤く染まることがある。その月はまるで血のようで人々に不吉で不気味な印象を与える。
だがそれは人々の印象にだけに留まらず実際に不吉な事が起こる前兆であるようだ。
真面目に合同で章 (スプリング&ソフィア編)10 赤く染まる月 1
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス
その日、空に昇った月は血が滲んだ色のように真っ赤に染まってガウルドの頭上に昇った。その不吉な色をした月は、ただその時を待つように沈黙を続けガウルドの町を赤く照らす。普段よりも明るくだが不気味な夜空に昇った月にガウルドの人々は頭上に昇った真っ赤な月を見つめ言い知れぬ不安をその胸に抱くのであった。
― ガウルド城内 王室テラス ―
ヒトクイの中心都市ガウルド。その中心に高くそびえる城ガウルド城の王室にあるテラスから、赤く染まった月を見つめる男の横顔があった。
端正な顔立ちは、既に初老を超えているとは思えない程に若々しく、だが奥底から沸き立つ威厳は、一国の王という存在をしっかりと感じさせる。
赤く染まった月を切なく見つめる男の名はヒラキ。戦乱の中ヒトクイを統一した中心人物であり、現在はヒトクイを統べる王である。
「……『闇霧』が……増したか……」
ヒラキは赤く染まる月を見上げながらそう呟くと自分の後ろで膝をつく女性に顔を向けた。
「……奴の行動に警戒しろインベルラ」
「……王の命ずるままに……」
ヒラキにインベルラと呼ばれた純白の全身防具を纏った女性騎士は、下げていた頭を上げそう言うと頷きすぐさま立ち上がる。
「必ずこの状況に応じて奴は何かを仕掛けてくるはずだ……塵一つ残さず……消滅させろ……」
赤く染まった月を背に静かにだが腹の底にズシリと重さを感じる声でインベルラに命令を下す王ヒラキ。
「ハッ!」
ヒラキの命令に短く返事をしたインベルラはその場から消えるように姿を消した。
「……同族……殺し……か……」
体をざわつかせる『闇霧』の感覚を胸に、ヒラキは再び真っ赤に染まった月を眺め何処か切なそうに呟くのであった。
― 同時刻 盗賊の住処ギンドレッド 闇王国アジト ―
朝も昼も夜も関係なく、虚ろな闇の中にある町ギンドレッド。脛に傷がある者やならず者の集まりであった集団は何時からか盗賊団と名乗りそして今や盗賊団というには名ばかりの規模と戦力になったギンドレッドの支配者、闇王国。そのアジトの建物の中にある広い空間の中心に男女の影があった。
「準備は整ったみたいだねギル?」
「うん、準備は出来てるよスビア」
盗賊団のアジトの中心で交される美少年、美女の二人のその様子は、何も事情を知らない者ならば姉弟ように思え感じで微笑ましくすら見えるかもしれない。だが、姉弟のように見える二人がいる場所はギンドレッド。脛に傷がある者やならず者、荒くれ者が集まる町なのだ。その町を支配する盗賊団、闇王国のアジトに一般人の姉弟がいる訳が無い。
そんな二人から漂う気配はまるで夜の湖の底よりも暗くギンドレッドに馴染んでいるのである。そうスビアとギルは闇王国が支配する地下都市、ギンドレッドの住人なのだ。それ所かスビアは闇王国の団長でありギルはその団長の側近なのだ、その身から漂う気配は骨の髄からギンドレッドに染まっている、いや、その逆でギンドレッドという町が彼らスビアとギルの気配に染まったと言っていい。その証拠に気付けば今まで二人しかいなかった空間に続々と集まってくる闇帝国の団員達。ただ荒くれ者達であるはずの彼らは気味が悪い程に大人しかった。
「……皆『闇』に染まったみたいだね……」
いつもなら騒がしい彼らは誰一人として言葉を発することなく、まるで生気を抜かれたような青白い表情で虚ろにスビアとギルを見つめている。
「……我々はこれからこの穴倉を捨て地上に侵攻する、目指すはガウルドの支配だ……さあ行け! 『闇』の眷属となった家畜共!」
少年とは思えない冷徹な声で叫ぶスビア。すると生気を失った闇帝国の団員達は言葉にならない叫びをあげアジトの出口へと向かい歩きはじめた。
「ギル……後は任せたよ」
ゾロゾロとアジトから出ていく団員達の背中を見送りながらスビアは隣に立つギルにそう告げる。
「え? スビアはどうするの?」
その端正でクールにも思える表情からは到底想像できない甘えた声を発するギル。
「ちょっと用事があってね、大丈夫すぐに合流するから」
そう言ったスビアはギルの頭を撫でた。頭を撫でられ子供のような笑みを浮かべるギル。
「……今日は僕らにとって宴だ、僕の合流を待たずに思う存分その力を吐き出してくるといい」
頭を撫でられ笑みを浮かべていたかと思えば、スビアの言葉によってギルの表情は暗いものへと変わった。その見た目に反してその精神はまだ幼く、スビアの前でたけコロコロと表情を変えるギルは、寂しいという表情をスビアに向けていた。
「やっぱりスビアがいないと寂しい!」
そう言いながら返った女性はその容姿とは不釣り合いな甘ったれた言葉を発しながら自分の胸にスビアの顔を挟んだ。
「まったく甘えん坊だなギルは……」
ギルの胸の狭間に顔を沈めていたスビアはゆっくりとその谷間から顔を離すと再びギルの頭を撫でる。
「ギル、お前も感じるだろう? 赤く滲む月の高鳴りを……どこからともなく溢れだそうとする僕らの根源を……今日は僕らにとってとても大事な日となる……ギル……溢れだそうとする力を僕に見せておくれ……」
「……うん……」
そう朗々と語る少年の言葉に、自分の胸の奥に確かにあるざわつきを感じていたギルは、まだ少し寂しさが残った表情で頷いた。
「大丈夫……ちゃんとやれるさ……さあ行っておいで」
寂しさと不安が入り混じる幼い表情を浮かべたギルにやさしくそう言いニコリと笑うスビア。
「う……うん……行ってくる……」
スビアの言葉に後押しされるようにギルは団員達がゾロゾロと出ていくアジトの出口を見つめ自分も出口へと向かい歩き出した。
「そうだ進め、僕達が進んだ道の先にこの世界の破滅が待っているんだ」
生気を失った団員達と共にアジトを出ていくギルの背中を見つめながらスビアはそう呟くと出口とは逆方向へと視線を向けた。
「……さあ、決着をつけようじゃないか……半端者……」
広い空間に一人取り残されたスビアは、闇帝国を示す髑髏が描かれた旗を見つめはっきりと誰かに向けた言葉を口にすると少年とは思えない暗く邪悪な笑い声を上げるのであった。
― 数十分後 ガウルド 安宿前 ―
本来この時期、夜になった春のガウルドの町には少し肌寒い風が吹くはずであった。しかし真っ赤に染まった月が昇ったこの日、ガウルドの町には肌寒さとは違う何か不安を煽るようなそんな風が漂っていた。
そしてその不安を運ぶ風は確実に町の人々の心に広がっていた。まだ赤き月がガウルドの頭上に昇って数十分しか経っておらず夜は始まったばかりだというのに、町に人の気配が無い。まるで誰も居なくなってしまったかのように錯覚すら覚えてしまうようにガウルドは異様な静けさに包まれていた。
『……主殿……私の勘違いならばいいのだが……何か感じないか』
その異様な雰囲気は伝説の武器であるポーンにも感じ取れ、すかさず自分の所有者であるスプリングにその異変を伝えようと声をかけた。
「ああ……俺も感じている……何か嫌な感じだ……」
ポーンと同様に町の異様な雰囲気を感じ取ったスプリングは、落ち着かないという表情を浮かべながら自分も同じ感覚を抱いていることを告げた。
「……何か……空気が重い……」
スプリングの背後に立つソフィアもスプリングやポーンと同様に町の異変を感じ、その感覚を空気が重いと表現する。
「はぁ……正直今日は疲れたからもう宿で眠りたかったんだがな……」
ガウルドに漂う異様な空気が今日一日色々とあって疲れている自分をまだ休ませてはくれなさそうだと感じたスプリングは、ゆっくりと両拳を握った。
「……そうみたいだね……今の内にコレ渡しておく」
スプリングが両拳を握り戦闘態勢に入ったのを見たソフィアは、腰に隠し持っていたとある物をスプリングに投げ渡した。
「鉄拳……」
ソフィアがスプリングに投げ渡したのは、打撃用手甲と同様に拳を扱う戦闘職が愛用するとされる武器であった。
「たく、やけに静かにしているなと思ったら、俺が変態鍛冶師と話している間にこんな物くすねていたのか……」
変態鍛冶師とは、今から数十分前までスプリングとソフィアが色々と話を聞いていた日々平穏の創設者、ロンキの事であった。スプリングが所持する自我を持つ伝説の武器に凄い執着を持ったロンキはその行動、言動が常識を逸脱していた為にスプリングとソフィアの間では変態鍛冶師という認識で固まっていた。当然一番の被害を被ったポーン自身もロンキの事は変態鍛冶師だと思っているが猫型獣人であるロンキのその見た目から毛玉と呼んでいた。
「人聞きの悪いこと言わないでよ、盗んだんじゃないわよ、あの鍛冶師が好きな物持って行っていいって言っていたじゃない」
剣士になってもその手癖の悪さは治っていないのかと呆れるスプリングに盗んだのではないと言い張るソフィア。
ソフィアが言うように確かにロンキは二人を店に招き入れてすぐに店の中に転がる防具を好きに持っていっていいと言っていた。それをソフィアは忠実に実行していただけだ。
「それにしても何で自分のじゃなくて俺のを持ってくるかな」
そう言いながらスプリングは鉄拳を両手にはめた。
「そ、それは……その……あ、あんたがポーンを装備出来ないからでしょ!」
「ふーん、そんなもんか……」
『全くここまで来てまでそれか……本当に馬鹿がつく程に鈍感だな主殿は……』
今日一日で色々とあったというのにそれでも尚、ソフィアの奥底にある気持ちにも自分自身の心の奥底にある気持ちにも今一気付いていいないスプリングの鈍感さに呆れるポーン。
「まあ、兎に角ありがとなソフィア……これで戦える」
スプリングははっきりと戦えると口にする。その言葉を合図にするように今まで人気の無かった安宿前に今までどこにいたのかと思える数のガラの悪い顔をした男達が集まっていた。
「……ん?」
自分達の前に姿を現した男達に首を傾げるスプリング。確かに今の状態自体、異常な状態ではあるのだが、スプリングはそれ以上の異常を感じとっていたからだ。だが蓋を開けてみれば相手は人間、拍子抜けもいい所というのがスプリングの正直な感想だった。
「ねぇ……なんか様子が変じゃない?」
だが本当の異変に最初に気付いたのはソフィアであった。
「あ? 何がだ?」
「何か、この人達、皆顔に元気が無いっていうか……」
ソフィアの言葉を聞きジリジリと迫って来るガラの悪い男達の一人を凝視するスプリング。
『主殿、これは主殿が思っているよりも状況が悪いかもしれない』
次に本当の異変に気付いたポーンは凝視したまま首を傾げるスプリングにそう告げる。
「……確かにソフィアが言うように元気が無いようにみえる……おお!」
スプリングが話している最中に容赦なく襲いかかるガラの悪い者達の一人。
「ゴフゥ!」
突然の攻撃に思わず声を上げたスプリングではあったが、冷静にガラの悪い男の攻撃を避けると一発腹部に素早く拳を放った。
「おい……何の挨拶も無しに襲いかかってくるなんて、お前らそれ相応の覚悟はあるんだろうな?」
地面に倒れた一人を足で踏みつけながら周囲で攻撃の意思を露わにしているガラの悪い者達に視線を広げるスプリング。
「「「オオオオオオ!」」」
それは突然だった。一切のズレ無くガラの悪い男達はまるで共鳴するように叫ぶとスプリング達に襲いかかったのだ。
「ソフィア! お前は攻撃を防ぐことだけ考えろ!」
右から襲ってきた男の攻撃を避けそれに続くように左から襲ってきた男の顔面に鉄拳をはめた拳を打ち込むスプリングは、まだ獣人を殺めたことで心に傷が残っているソフィアを思い防御に集中しろと指示を飛ばした。
「だ、だけど!」
そうスプリングは言うが相手は軽く数十。どう考えても今のスプリングでは相手にするのは難しい数にソフィアは反論する。
「相手を殺す覚悟が無い奴は邪魔なんだよ!」
スプリングの言葉は今のソフィアにとってかなりキツイ言葉であった。しかし事実ソフィアは襲いかかる男達を前に手が震え未だ腰に差した細身の剣を抜くことも出来ないでいた。
「早く剣を抜け、自分の身を守ることだけ考えろ!」
ソフィアに襲いかかる男達数人を素早く殴り飛ばしながらスプリングは茫然と立ったままのソフィアを怒鳴りつけた。
「あ……う、うん……」
慌てるように腰に差した細身の剣を鞘から抜こうとするソフィア。だが手の震えでしっかりと鞘から細身の剣を抜くことが出来ない。
『主殿ッ!』
ポーンの叫びに素早く反応したスプリングはソフィアの背後に迫る男に体当たりする。
「スプリング!」
「冷静になれ! お前は自分を守ることだけに集中しろ!」
再度そう怒鳴るスプリングは直ぐに立ち上がると地面に倒れた男の顔面と腹に一発ずつ拳を入れた。
「う、うん」
スプリングの言葉に大きく深呼吸をしたソフィアは、今度はしっかりと細身の剣の柄を掴み鞘から細身の剣を抜いた。
「よしそれでいい、絶対に俺から離れるなよ」
そう言ってソフィアの背後に回るスプリングはまだ拳士になりたてだというのに、既に数多くの経験を積んだ者のように構えをとった。
『主殿、気付いているか?』
次に襲って来る男の動きを目で追いながらスプリングはポーンの言葉に耳を傾ける。
「ああ、こいつら倒れてもすぐに立ち上がってくる」
拳士としての経験が浅いとはいえ確実に相手の意識を削りとる攻撃をしてきたスプリング。しかし目の前に立つ男はスプリングが腹部に一撃をお見舞いし踏みつけた男であった。
『どう考えてもこの者達は何等かの操作を受けている』
「操作?」
ポーンの言葉に戦いながら疑問を持つスプリング。
「意識を操ったりする魔法や魔法道具は規制が厳しいはずだろ? ……そもそもこんな大人数の意識を操る魔法や魔法道具があるのか?」
現在ガイアスでは人の意識を操る魔法や魔法道具は厳しく規制されている。その理由は明らかで人の意識を操ることでガイアスという世界に混乱を招く恐れがあるからだ。
だがそれはあくまで表側の規制である。外道職と呼ばれる道から外れた戦闘職の者達や裏側の世界で生きる者達にその理屈は通じない。それはスプリングも重々理解してはいた。目の前にいる者達は雰囲気からして表で生活する者では無い。盗賊、スプリングはその言葉を思い浮かべ、以前ポーンを奪おうとしていた盗賊集団の事を思いだした。
「まさか……」
いや正確に言えばその盗賊団の後ろに立つ者達の事を。
「クゥ……!」
一瞬にしてスプリングの体に緊張が走る。
『多分私が考えていることは主殿が考えている事と同じだ……彼らならば、この者達の意識を操り異常な頑強さを持たせることも可能だろう』
自分と同じ答えにスプリングが行きついたと判断したポーンは、スプリングにそう告げた。
「……夜歩者」
数百年前にあったとされる人類と『闇』の力を持つ者達の戦い。その『闇』の力を持つ者の名が夜歩者であった。
その名を口にしたスプリングの表情は明らかに強張ったものになった。旧戦死者墓地でスプリングが命の狭間をさまよう原因となったのがこの夜歩者であった。
「あら、まさかこんな所でまた会うとは偶然ですね人間」
男達に囲まれた自分達の頭上に響く声にスプリング反応し視線を建物の上へと向ける。
「この声はッ!」
その声はスプリングにとって忘れたくても忘れられない声であった。
「あ、ああ……」
それはソフィアも同様で建物の屋根に立つその姿に声を震わせる。
建物の屋根の上に立っていた者とは、スプリングを背後から剣で突き刺し命の危機に陥れ、ソフィアを恐怖のどん底に叩き落とした存在、夜歩者であった。
「また会えるとは嬉しいぜ」
こめかみから嫌な汗を流しながらスプリングは無理に笑みを浮かべそう屋根の上に立つ夜歩者に声をかけた。
「あなた、死んでなかったのですね……」
赤く染まった月を背に鋭く冷たい視線でスプリングを見下ろす夜歩者は口元を歪め冷笑する。
「ああ、俺も驚いているよ!」
あれだけの傷を負い、ソフィアから話を聞いたうえで自分が生きていることが奇跡であると思うスプリングは、素直に自分が今生きていることに驚いていると感想を口にする。
「そうですか、なぜあなたが死んでいないのか興味はありますが、申し訳ありません今私はあなた方の相手をしている暇は無いのです……それではさようなら」
そのさようならという言葉がただの別れの挨拶では無くもう二度と会う事が無いという意味で口にした(ナイトウォーカー)はその場から立ち去ろうと自分が向かうべき方向に視線を向けた。
「はぁあああああああ!」
だが夜歩者が立ち去ろうとした瞬間、斬撃が夜歩者の頬をかすめた。
「ソフィア!」
いつの間にか夜歩者が立つ屋根に飛び乗っていたソフィアに叫ぶスプリング。ソフィアは夜歩者を切りつけていた。
「あんたの相手は私よ!」
渾身の不意打ちをかわされたソフィアは細身の剣を夜歩者に向けそう叫ぶ。
「あら、あの時はただ泣いていることしか出来なかったあなたが私の相手をするというのですか?」
旧戦死者墓地でただ茫然と、ただ泣いていることしか出来なかったソフィアのことを覚えていた夜歩者は目の前に立ち剣を向けるソフィアに少し驚いた表情を浮かべた。
「ソフィア! 防御に徹しろって……」
「大丈夫スプリング! こいつは人間でもなければ獣人でも無い、化物よ!」
旧戦死者墓地で繰り広げられた到底人間技では無い戦いを頭の片隅で思いだすソフィアは今目の前に立つ夜歩者は、人間でも無ければ獣人でも無い自分に恐怖を植え付けたただの化物であった。だからこそ戦えるとソフィアはよく理解できない理屈をスプリングにぶつける。
「化物……ふん、いいでしょう、その言葉口にした事を後悔させてあげましょう」
ソフィアの言葉を聞き、気が変わったのか夜歩者は腰に差していた剣を鞘から引き抜くとソフィアにその剣先を向ける。
「後悔するのはあんたのほうよ化物!」
まるで纏わりつく恐怖を振り払うようにそう叫んだソフィアは、夜歩者に強く握った細身の剣を突きだすのであった。
ガイアスの世界
『闇霧』
人などが魔法を使う時などに消費する精神力。『闇』の存在にとってその精神力が『闇霧』に当たる。
『闇霧』はガイアスの大気中に含まれる一つの生分である。だが通常はごく少量しか含まれておらずなんら影響はない。
だがこの『闇霧』、突然量が増えることがある。それが月が赤く染まった時である。
なぜ月が赤く染まることによって大気中の『闇霧』の量が増大するのかは分かっていないが、これによって『闇』の存在は一時的に本来持つ力以上の能力を得ることができる。彼らにとって月が赤く染まった時とは、己の力が高まる時なのである。




