真面目に合同で章 (スプリング&ソフィア編) 8 幻の防具屋
ガイアスの世界
日々平穏の創設者
打撃用手甲
拳を主体として戦う戦闘職が扱う武器る防具にもなる為、軽装が主な拳士などに好まれる武器である。
真面目に合同で章(スプリング&ソフィア編)8 幻の防具屋
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス
「……と、ところで……俺達貧乏戦闘職が防具を買うなら何処だと思う?」
右を見ても左をみても人で溢れる商業区。時間によっては歩くことすら困難なその場所で自分の横を歩くソフィアにぎこちない質問するスプリングの姿があった。宿泊していた安宿から町に出た二人は現在、商業区の一角にある冒険者や戦闘職が集まる旅支度通りと呼ばれる場所にいた。
旅支度通りとは、言葉の通り旅の支度のために必要な品が揃った店が並ぶ場所で、冒険へと出発する冒険者や戦闘職が装備や道具などを調達し整える場所である。
「……」
丁度混雑し始めた時間帯に旅支度通りへと入ったスプリングは人にぶつからないように器用に避けながら先程から俯き黙ったままのソフィアの顔色を伺っていた。二人の様子は安宿から今に至るまでにずっとこんな感じでぎこちない雰囲気が続いていた。その二人がぎこちなくなってしまった理由は、安宿でスプリングが発した言葉にあった。
正当防衛とはいえ獣人を殺してしまったというその罪の意識から酷く落ち込んでしまったソフィアを少しでも励まそうと思ったスプリングは、互いに別の戦闘職へ転職したということもあり防具を新調する為に防具屋に一緒に行かないかとソフィアを誘ったのだ。
本来冒険者や戦闘職ならば、仲間を誘い防具屋に行くという行動は、ごくごく当たり前の行動であり何らおかしい点は無い。だがそれは互いが相手に対して仲間以上の感情を持ち合わせていないことが前提である。
もし二人の間の関係が仲間では無く別の何かであるならば、防具屋に一緒に行かないかという言葉には別の意味が生まれてくるからだ。
そしてまさに現在、スプリングとソフィアの間には確実に仲間という言葉を超えた感情が芽生えつつあった。
更にはガウルドの冒険者や戦闘職の間で流行っているとあるものが、スプリングとソフィアの何とも言えない関係性に拍車をかけてしまった。
何も考えずにソフィアに防具屋へ一緒に行こうと誘ったスプリングは、言葉を言い終えた後で、自分がとんでも無い事を口走ってしまったと自分が口にした言葉に赤面しその状況に耐えきれず思わず安宿を飛び出してしまう。
そしてスプリングから防具屋への誘いを受けたソフィアもスプリングと同様に冒険者や戦闘職の間で流行しているものを思い出し顔を真っ赤に染めてしまった。それ以降、合流はしたものの二人はまともに顔も合わせられず会話もろくにできない状況になっていた。
なぜ防具屋へ一緒に行こうという言葉が二人を赤面させたのか、それは現在ガウルドの冒険者や戦闘職の間で同業者である異性をデートに誘う時に使う言葉として流行っていたからだ。別段防具屋である必要は無く武器屋でも道具屋でも構わないのだが、兎に角現在のガウルドでは冒険者や戦闘職が異性をデートに誘う際、このような決まり文句を告げて相手を誘うのが流行っているのである。
戦闘職では無い者からしたらおかしな流行りではあるのだが、冒険者や戦闘職からすれば同業者である異性をデートに誘うのにこれほど適した言葉はないのである。
そしてなにより相手も同業者であるがためにそう言った場所であれば自ずと会話が弾むのは必然なのである。
その為か今ガウルドの旅支度通りは冒険者や戦闘職のデートスポットと化しており、スプリング達がすれ違う人々の約半数は冒険者や戦闘職同士のカップルであった。スプリング達とすれ違うカップル達は腕を繋ぎながら、旅支度通りに並ぶ店に置かれた商品を見ながらキャキャウフフと話を弾ませ盛り上がっている。
そんな中ただ純粋にお互いの転職に伴い必要になった防具を買いに行こうとソフィアを誘ったスプリングは何とも居たたまれない気分にさいなまれていた。それは隣で俯くソフィアも同じでスプリングの誘いを受け付いてきてしまったことで更にお互いの事を意識してしまう状況を生み出していた。
「……あ、あの……ソフィア……そのべ、別に変な意味で捉えるなよ……俺は、ただ防具を新調したくてだな……」
自分はそう言った気持ちで防具屋に誘った訳では無いとしどろもどろになりながら言い訳をするスプリング。
「わ、分かってるわよ……そんな……」
「ん、ん? な、何だソフィア?」
明らかに気が動転しているスプリングはソフィアが何を言ったのか聞き取れず思わず耳を近づけた。
「んんんんん!!」
突然近づいてくるスプリングの顔に目を見開き声にならない悲鳴を上げたソフィアは、そのまま両手でスプリングを突き飛ばす。
「ああああああ、悪い!……」
突き飛ばされたスプリングはよろけながら自分の軽率な行動を詫びる。
「は、早く……日々平穏に行こうよ!……」
顔はスプリングに向けているもののその視線は斜め下にあるソフィアは、今度ははっきりとスプリングに聞こえる声で自分達が目指している目的地を告げた。ただその顔は真っ赤に染まり今にも何処かに飛び出してしまいそうな程ソワソワと落ち着きが無い。
そんなソフィアの様子にスプリングもまた何故だか目を泳がせてしまう。
「そ、そうだ……俺達貧乏戦闘職を助けてくれるのは日々平穏! 今からそこに行こうと思います」
なぜだか最後の言葉が敬語になるスプリングはそう言うと、まるで体が凍ってしまったというようにカチコチとぎこちなく動き出した。それに続くソフィアはスプリングの背中を見つめ再び褐色の肌を赤く染めるのであった。
防具屋、日々平穏とは高性能な完全オーダーメイド品から、お金の無い冒険者や戦闘職に向けた高品質でありながらもリーズナブルな金額で購入することが出来る品まで取りそろえた、ガイアス一の防具屋である。その店舗数はガイアス一だけあり、各国に一店舗は必ずあると言われている程に多い。
そして防具屋であるにも関わらず今では武器にまで手を伸ばしておりそちらの評判も高く冒険者や戦闘職には無くてはならない存在となっている。
そんな誰でも知っている防具屋、日々平穏の店の前に立つスプリングとソフィアは店の外観に驚いた表情を浮かべていた。
「ね、ねぇ……本当にここがあの有名な日々平穏なの?」
世界各地に店舗を持つ日々平穏。世界中の冒険者や戦闘職の約半数以上が何かしら日々平穏製の防具や武器を持つ時代。それに比例するように日々平穏の店舗も大きく立派な建物なはずとソフィアは思っていた。しかし実際はどうだ。ソフィアが目にした日々平穏の店構えは年期の入った建物であり、お世辞にも立派とは言えない。周囲にある他の店舗のほうが立派であるのは目に見るよりも明らかであった。
「あれ? ……おかしいな、前来た時はもっとこうドーンとデカかったはずなんだが……」
以前にも来たことがあるスプリングは、その時とは明らかに違う店の外観に首を傾げた。
「ん? 珍しいなお客さんかニャ?」
そんな二人の背後から突然独特の語尾を持つ声が響く。その独特な語尾を持つ声がする方へ自然とスプリングとソフィアの視線を向けられた。
そこには全身を茶色と白い毛並が覆い、人間の物では無い耳をだらしなく下げた猫型獣人の姿があった。
「あ……なんだニャー、流行りかこつけてのデートかニャー、残念だけどこの店にカップル用装備なんてものは無いから帰ったほうがいいニャ」
スプリングを見てその横にいるソフィア見た猫型獣人は旅支度通りでデートをするカップルだと思いここにはカップルが望むような物は無いと一蹴すると一つため息を吐きスプリング達が茫然と見ていた建物の中へ入っていこうとする。
「か……私達は……」
「ちょ、ちょっと待て、……ここは防具屋、日々平穏だよな……?」
猫型獣人が自分達の事をカップルだと勘違いしている事に気付いたソフィアは即座に否定しようと声を上げたのだが、同じタイミングで猫型獣人に質問をしたスプリングの声に阻まれてしまった。
「ん? ……何も分からずここまでやって来たのかニャ……珍しいニャ……」
スプリングの言葉に興味を持った猫型獣人は建物に入ろうとした足を止め柔らかそうな肉球の付いた手で顔を一拭きするとそう答えた。
「はぁ?」
猫型獣人が口にした言葉の意味が分からずスプリングは思わず疑問に満ちた声をあげる。
「そうニャ、ここは紛れもなく日々平穏、一号店ニャ……」
「なっ!」
「ど、どうしたのスプリング?」
猫型獣人の言葉に驚きの声を上げるスプリング。その様子にソフィアは首を傾げた。
「……ど、どうしたって、お前、俺達あの幻の日々平穏一号店の前にいるんだよ!」
「幻ってニャ……」
「い、いや……あのって言われても私全く分からないんだけど……」
全世界に展開する日々平穏には、ある種の都市伝説とも言える噂がある。それは幻の一号店という噂だ。その場所は何処にあるのかも分からず、例え見つけ出したとしても選ばれた者にしか入店の許可が下りないという。
入店することができれば日々平穏の防具以上に高性能な防具に出会うことができると言われている。そしてその幻の一号店には、日々平穏の創設者がいると言われ、入店した者を気にいれば直々にその腕を振るい更に超高性能な防具を作成してくれるというものであった。
従い、高性能な防具に出会う為、はたまたガイアス一でありながら未だに謎に包まれた日々平穏の創設者に出会い世界に一つしかない自分だけの超高性能防具を製作してもらう為に幻の一号店を血眼で探す冒険者や戦闘職は多い。
「ああ……何か……色々と話が大きくなっているニャ……」
スプリングの熱の入った日々平穏の都市伝説の説明を猫型獣人は何とも微妙な表情で聞いていた。
何の因果か今は魔法使いや拳士ではあるスプリングも元は『剣聖』を目指す上位剣士。当然日々平穏の噂を知らない訳が無かった。
他の者達と同様にいずれは幻の日々平穏一号店を探し出しその創設者に剣聖となった自分に相応しい防具を作成してもらいたいと思っていたスプリングは目を輝かせる。戦闘職ならば誰もが憧れるその場所を前に、興奮しない者などいないというようにスプリングは興奮しながら熱の籠った幻の一号店の説明を茫話について行けず然とするソフィアや全く話を聞いていないような表情の猫獣人に伝えるのであった。
「……そ、それが……ここって訳?」
目を輝かせ幻の一号店の解説するスプリングの圧に押され顔を引きつらせながらソフィアは何とか言葉を口にすると、もう一度幻の一号店と言われる自分の目の前にある建物を見つめる。だがやはりどう見てもソフィアにはその建物が幻と言われる店には思えずただのボロ屋にしか見えない。
「まあ、どうであれここは確かに一号店ニャ、だがさっきも言ったが昨今流行っているカップル装備は無いから他を……」
「創設者に会わせてくれ!」
「私達はカップルじゃない!」
右左から全く違う言葉が猫型獣人の両耳を貫く。
「……えーと、まず何で創設者に会いたいのかニャ? それと……お二人がカップルじゃないことは分かったニャ……」
器用にスプリングとソフィアの言葉を聞き分けた猫型獣人は、困った表情を浮かべつつも律儀に両方の言葉に返答した。
「……分かってくれればいいの」
ゴチャゴチャしたものの自分達がカップルでは無いことを理解してくれた猫獣人に満足するソフィア。
「あんなにはっきりとカップルでは無いと否定されると、なんだか拳士君の事が少し不憫に……」
「……俺が創設者になぜ会いたいのか……ふふふ、愚問だな……だが教えてやる、それはいずれ剣聖となる俺のために防具を作ってもらう為だ!」
はっきりと剣士の女性に自分達がカップルでは無いと否定され、さぞかし横にいる拳士の男はへこんでいるに違いないと思った猫型獣人だったが、その当の本人はへこむ所か体から炎が出るのではという程に暑苦しい熱量で、自分が日々平穏の創設者に会いたい理由を熱弁していた。
「……な、なるほどニャ……これまた凄く馬鹿……あ、いや、自信を持っているのニャ……」
正直ついて行けないその熱量にスプリングのことを馬鹿だと思い始めた猫型獣人は、思わず心に思っていたことが口にでてしまい慌てて言葉を言い直した。
「だから頼む、日々平穏の創設者に会わせてくれないか!」
日々平穏の創設者に対する想いを熱弁したスプリングはそう言うと猫型獣人に向かって深く頭を下げた。
「ん? うーん……まあ、とりあえず店の中に入るニャ……」
そう言うと猫型獣人はまるでその場所が自分の所有する建物であるようにスプリングとソフィアを招き入れた。
「……何これ!……」
「おおお!」
建物の中に入ったスプリングとソフィアは自分達の目の前に広がる光景に圧倒され驚きの声を上げた。二人を驚かせたのは乱雑に置かれた防具の数々であった。ボロ屋であっても一応は防具屋なのだから、店内に防具が置かれているのは当然、しかしその数が他の防具屋に比べ桁違いに多かったのだ。乱雑に置かれた防具がまるで壁であるかのように本来の壁を埋め尽くしそして天井にまで積まれている。しかも驚くことにその一つ一つが素人目にも分かる程に高性能で高価な品ばかりであった。
「ああ、ここにある物は全て失敗作ニャ、気に入った物があれば勝手に持っていくニャ」
猫型獣人はまるで自分が製作した防具だと言わんばかりに乱雑に置かれた防具を失敗作と言い切り、安売りしていた薬草を友人に譲るような感覚で、スプリング達に防具を持ち帰ってもいいと伝えた。
「ほ、本当に!」
目の前の猫型獣人が防具をどうこうできる権利を持っているのかなどは一切考えずソフィアはただ猫獣人の言葉を真っ直ぐに捉え声を弾ませ心の底から嬉しがった。
「ああ本当ニャ、ここにあっても邪魔なだけだからニャ」
そう言うと猫型獣人は防具で作られたような通路を進んで行く。
「……おい、後にしろよ、今はあの猫型獣人に創設者の話を聞かなきゃいけないんだからな」
「ええ、だってお宝よ、しかもタダでくれるって……」
目を金のように光らせそう言うソフィアを強引に引っ張り防具から引き剥がしたスプリングは、自分の庭というように迷いなく進んで行く猫獣人の後をソフィアを引きずりながら追った。
外観の見た目よりも広い店内は防具の壁によって遮られさながらダンジョンのような雰囲気を醸し出し今にも防具の壁の隙間から魔物が飛び出してくるのではと思えてしまう程だ。しかし色々とおかしい点はあるものの今スプリング達がいる場所は正真正銘防具屋であり魔物が飛び出してくることは無い。
そんなダンジョンじみた幻の日々平穏一号店の内部で迷子にならないよう猫型獣人の後を追うスプリングとソフィアは、気付くと赤く燃えているようにも見える部屋に辿り付いた。
「ここは……」
「鍛冶場?」
そう口にするスプリングとソフィアの視線の先に映るのは、防具を作る為の機材などが乱雑に置かれた空間。そこは紛れもなく鍛冶師達がその腕を振るい日夜己の作品とも言える防具や武器を生み出す鍛冶場であった。そして鍛冶場には欠かせない炉がこの部屋において強烈な印象を与える。
部屋の真ん中に設置された炉は他の武器や防具を扱う店とは桁違いに大きいからだ。その炉で燃える炎はやはり大きくそして力強い。その炎は気のせいか思う存分燃えられると嬉しがっているようにも二人には思えた。
「そうニャ、ここで防具……最近だと武器も作っているニャ」
猫型獣人は何故か自慢げにそう言うと鍛冶場に置いてあった椅子に座った。
「……その口ぶりだと、あんたも鍛冶師なのか?」
薄々猫型獣人が鍛冶師なのではと気付いていたスプリング。しかし猫型獣人が鍛冶師をしているなんて話を今まで聞いた事が無いスプリングは自分でそう言っておいて半信半疑であった。
「そうニャ、私は鍛冶師ニャ」
当たり前だろうというように猫型獣人はスプリングに胸を張る。
「そ、そうか……」
だがそれでもスプリングは猫型獣人が鍛冶師であるということを信じられないでいた。
個人に得意不得意があるように、種族によっても出来ることと出来ないことはある。例えば人間は体の強度や筋力でいえば人類で最も低い位置にある種族ではある。だが知恵と手先の器用さは他の種族に比べ高い。単純な手先の器用さだけで言えばドワーフには敵わないが、何かを考え作りだすという状況ならばドワーフにも負けないのが人間だ。それを証明するように現在のガイアスでは人間が考え作りだした道具が設備などが溢れるようにある。
人間という人種はその貧弱な肉体を知恵と手先の器用さで補う事で他の種族達と対等な立場、関係を作り上げていったのだ。
逆にドワーフを除く他の種族、特に獣人系の種族は生まれながらにして強靭な肉体を持ってはいるが、ことさら物作りに関しては不得手である者達が多い。
そんな種族の得意不得意を知っているからこそスプリングは、猫型獣人が鍛冶師であることが信じられなかった。
「……こういっちゃなんだがあんたがあそこにある防具達を作ったとは思えない……あんたは創設者の弟子か何か? 防具達は、日々平穏の創設者が作った物なのか?」
例え目の前にいる猫型獣人の手先が器用であったとしてもやはり種族の壁というものがある。それは現在に至るまで獣人の中から有名な鍛冶師が現れていないことからも明らかだと思うスプリングは猫型獣人は日々平穏の弟子か何かだと思い、悪いと思いながらも素直な感想を口にして今見てきた物は創業者が作ったものなのかと聞いた。
「ん? …弟子? 何を訳の分からない事を…まあ、でもニャ、確かにあそこにある防具達は日々平穏の創設者が作った物で間違いないニャ」
スプリングの言葉に若干疑問を抱きながらも素直に頷く猫型獣人。
「そうか……それで、会わせてくれるのか創設者に?」
店内に招き入れたということは、創設者に会わせてくれるということだと信じたいスプリングは創設者の弟子であろう猫型獣人に会わせてくるのかと聞いた。
「会わせるも何も……さっきから君が求めている日々平穏の創業者は目の前にいるではないかニャ」
「目の前に?」
猫型獣人が行っていることが今一理解できず首を傾げるスプリング。
「この私が日々平穏の創設者ニャ」
「……なるほどあんたが創設者……あんたが創設者ぁ!」
猫型獣人の口から飛び出した言葉に今日一番の驚きを見せるスプリング。
「そうニャ……拳士君が言ったように確かに獣人種は手先が不器用だし何かを考え物を作ることも不得意ニャ……でもそんなもの才能と努力を兼ね備える私にとっては関係無いことニャ」
「はぁあああああああ?」
世界にその名を轟かせる有名防具店の創設者が今自分の目の前にいる猫型獣人であるという衝撃がスプリングを咆哮させる。
「う、五月蠅いニャ……」
スプリングの咆哮に垂れた両耳を手で塞ぐ猫型獣人。
「う、嘘だろ……」
咆哮を終え、それでも事実を受け入れられないスプリングは放心したように猫型獣人を見つめた。
「ぬふふ、そんな事よりも私の質問にも答えてくれないかニャ拳士君……」
日々平穏の隠された真実を話したのだからこちらの質問にも答えてくれというように日々平穏の創設者である猫型獣人、ロンキ=シュルイドは己の欲望を現したかのような笑みを浮かべるのであった。
ガイアスの世界
日々平穏の創設者
ガイアス中にある国々に店舗を持つ日々平穏。人気、性能共にガイアス一と言われる日々平穏製の防具は世界各地で売れに売れその名を知らない冒険者や戦闘職はいないと言われている。
だが以外にもそこまで有名でありながら日々平穏という防具屋を開いた創設者について知る者は少ない。
噂では極度の人嫌いであるや表に顔を出せない程に酷い火傷の後があるなどと噂されているがどれも噂の域を超えず本当の所は分かっていない。
日々平穏で働く鍛冶師や従業員、店長さえも創業者のことについて詳しくは知らないらしい。




