真面目に合同で章 (スプリング&ソフィア編)7 高鳴りは突然に
ガイアスの世界
ガイアスでの人の殺害について
当然普通の者ならば罪に問われ裁きを受けることになる。
だが戦闘職の場合少し異なってくる。
戦闘職とは常に何かと戦うことを想定された職業であり、その相手が魔物だけとは限らない。時として人を相手にして戦うことも当然ありえることである。その為、戦争や野党に襲われたため、相手が賞金首であり生死を問わない場合などはっきりとしたがあればその事で罪に問われることは無い。
当然何の理由なく戦闘職としての力を行使して人を殺害した場合、普通の者が人を殺害した場合よりも重い罪を貸される。
ただ、各大陸や国によってその判定は様々で、戦闘職の何の理由も無い殺害行為を事実上黙認している国もあるという話だ。
真面目に合同で章 (スプリング&ソフィア編)7 高鳴りは突然に
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス
「朝か……」
当然のように夜の暗がりをその光で塗りつぶしながら空に昇る太陽。大地はその光によって朝を迎える。だが太陽が昇ったとしてもその恩恵を余り受けない場所も当然ある。
その一つである旧戦死者墓地に大の字に倒れていた人狼は縦横無尽に生えた気味の悪い木の枝から僅かに零れる太陽の光を見つめながらそうポツリと朝になった事を口にした。
「いててて……」
やけに人間味のある表情で痛みを口にした人狼は、大の字に倒れていた上半身を起こすと自分の両手を閉じたり開いたりして手の感触を確認にした。
「……おし、くっついた……痺れも無いな……」
両手がしっかりと反応することを確認している人狼は、数時間前に道化師のような振る舞いをする自称武器防具屋の笑男とここ、旧戦死者墓地で戦っていた。
人狼が狙う本来の目的でも無く、ましてや武器防具を扱う商人だったはずの笑男。
だがその笑男から見過ごすことの出来ない気配、臭いを感じ取った人狼は、不気味な笑みを浮かべる武器防具を扱う商人を本能で敵と認識し突発的な戦いを挑んだのだ。
だが結果は戦いと呼ぶにはあまりにも一方的な展開であった。まるで玩具にされるが如く人狼は成すすべなく敗北した。その敗北の代償として四肢を切断され身動きを封じられた。しかもその状態にまでしておいて笑男は人狼を殺さず姿を消したのである。その結果、命を見逃された人狼は己の意地を傷つけられる形となった。
笑男の正体は『闇』の力を持つ何かだった。『闇』とは違う気配も混じっており純粋な『闇』では無いことを人狼は理解していたが人狼としての、聖狼としての本能が目の前の存在を敵だと認識したのだ。
『闇』の存在に対して、本来絶対強者であるはずの聖狼は、自分の敗北を噛みしめるようにしっかりと繋がり動くようになった両腕、両手から視線を流し自分の下半身へと移した。
「……こっちも……問題、無いな」
両足を軽くジタバタさせ腕と同様に完全に脚が繋がった事を確認した聖狼はその両足で旧戦死者墓地の地面にしっかり足を踏みつけ立ち上がった。
「……ああ、参った……惨敗だな……」
首に手を当てコキコキと小気味よい音を鳴らす聖狼は気だるそうな声で自分がまた『闇』の存在に敗北した事を口にする。
「……とりあえず、元に戻るか……」
自分の敗北を口にすることでその事実を受け止めた聖狼は、そう言うと鋭い牙が並ぶ裂けた口から息を吐き始めた。
すると全身から白い煙が昇りはじめ見る見るうちに全身を覆う銀色の毛が抜け落ち始める。前に突き出していた鼻は低くなり、裂けていた口も傷がら治るように閉じていく。狼であったその顔は気付けば人の顔へと変化していた。人狼特有の筋肉質の体も縮み、人の鍛え上げられた体へと変化していく。そうして姿を現したのは上半身裸のガイルズであった。
旧戦死者墓地で遭遇した夜歩者の上位存在である闇歩者との戦いに敗れて以来、スプリングやソフィアの前から姿を消したガイルズは再び闇歩者に戦いを挑むためにこの場所、旧戦死者墓地へと戻ってきた。だがそこには別の『闇』の力を持った存在の姿があった。闇歩者とは違う別の圧倒的な力の前に完全なる敗北をしたガイルズは再び旧戦死者墓地の土を噛むことになった。
だがそんな敗北した今のガイルズの表情に悔しさは見られない。いやガイルズの心の中に確かに悔しさはあった。だがそれ以上に自分の力が通用しない圧倒的な力を持った強敵に出会ったという嬉しさが悔しさを勝りその表情に歓喜をもたらしていた。
「はぁ……とはいえ……あいつは『闇』の存在だ……そう嬉しがってもいられねぇんだよな……」
ガイルズは、自分の体に定められてしまった宿命を思い出しボサボサの頭を掻きながら緩んだ表情を整える。
聖狼とは、『闇』を駆逐する為に特化した存在である。その本能は『闇』を滅ぼす為に強く反応する。その本能には抗えず強敵に出会えたという感情を素直に嬉しがることが出来ないのだ。
だが本来のガイルズは、強敵を欲する戦闘狂なのである。強敵を前に狂った程に嬉しがりたいのは、人間としの戦闘狂としての性、感情であった。
今のガイルズは強敵に出会えたという歓喜に染まる戦闘狂としての感情と『闇』を駆逐しなければならないという聖狼としての使命、本能が心の中でせめぎ合っている状態であった。
今の生き方をするようになってから奔放に自由に生きてきたガイルズではあったが、『闇』に関しては聖狼の本能には抗えず自由にはなれない。
だがそれでもガイルズは抗い続ける。流石と言うべきなのか、戦闘に対する欲が恐ろしいまでに深いガイルズは植え付けられ刷り込まれ抗えないはずの聖狼の本能にギリギリの所で戦闘狂としての自分の感情をねじ込み、高鳴る鼓動をどうにか自由にすることが出来ていねというのが今の状況であった。
「は、ハックション! ああ、さぶぅ……とりあえず何か着るもの探すか……」
まだ春を迎えたばかりのヒトクイの朝は、それなりに寒い。何の手入れもされず命の音すら殆どしない旧戦死者墓地ならば尚更でひんやりとした冷気がガイルズの体を冷やし大きなくしゃみがその場に響き渡った。
「ぅぅぅぅ寒い!」
ガイルズは寒さを吹き飛ばすように一声そう叫ぶと体温を少しでも温かく保とうと自分の体を摩りながら旧戦死者墓地の出口へと足早に向かうのであった。
― 小さな島国ヒトクイ ガウルド 商業区 ―
日が昇り静まり返っていた町に徐々に人の姿が現れる。商業区では店の開店準備を始める人の姿も現れ始めていた。
「なんか昨夜は、墓地のほうが騒がしくなかったか?」
定食屋の亭主が店の前を掃除しながら向かいにある精肉店の亭主に話しかけた。
「ああ? ……はてどうだったかな……」
精肉屋の亭主は定食屋の亭主の話に首を傾げた。
「なんか獣の雄叫びみたいのがきこえただろうよ」
余程気味が悪かったのか定食屋の亭主は表情を怯えさせながら精肉屋の亭主に詰め寄った。
「いや……あッ!」
何か思い当たる節があったのか精肉屋の亭主は少し考え込む。
「もかしたら……うちのかーちゃんの……ハッスルした声かも……」
頭を掻きそう言う精肉屋の亭主は昨晩の自分の嫁の姿を想像する。
「……えッ? ……ああ、なるほど、確かにお前の所の嫁だったら有り得るな……それにしてもお前元気だな……」
一瞬前まで旧戦死者墓地から不気味な雄叫びが聞こえたと表情を曇らせていた定食屋の亭主は、精肉屋の亭主の嫁を想像し納得すると途端に表情を二ヤつかせる。
「ああ? 何言っているお前だっていい歳して頑張ってんだろうよ、毎日のように聞こえるぞ、嫁さんの声……その所為でうちのかーちゃん火が付いちまってよ」
精肉屋の亭主は愚痴っぽくそう言うと表情をゲッソリとさせ苦笑いを浮かべた。
「はぁ……お前の所の嫁さんはいいよな、まだ若いから、うちの嫁さんなんてもう上に乗られたら押し潰されるかと……」
続けるように定食屋の亭主の嫁の事を羨ましいと口にした精肉店の亭主は、再び昨晩の自分の嫁の姿を思いだすと深いため息を吐いた。
「あんた……押し潰されるって何のことだい?」
精肉店の亭主がため息を吐いた直後、背後から野太く勇ましい女性の声が響く。その声に精肉屋の亭主の顔は一瞬にして青くなった。
「ああ……いや……これは……」
心なしか体が震えているようにも見える精肉店の亭主は、カクカクと顔を野太く勇ましい女性の声がした後方に向けるとそこには、先程定食屋の亭主と話していた、嫁の姿があった。
「ヒィッ!」
見るからに鬼の形相で自分を見つめる恰幅のいい自分の嫁の姿に小さな悲鳴を上げる精肉屋の亭主。
「あんた! 無駄話してないでさっさと開店準備を始めなッ!」
「あ、ああ……わ、分かった……すぐ行く」
そういうと顔を引きつらせ精肉屋の亭主は定食屋の亭主に挨拶も告げず店の中へと引っ込んで行った。
「ふんッ!」
定食屋の亭主を軽蔑するような目で一瞥した精肉屋の亭主の嫁は、鼻息荒く店の中へと入っていった。
「おー怖い怖い……」
圧倒されるほどの精肉屋の亭主の嫁の迫力に定食屋の亭主はそう小さくそう呟く店周りの掃除をしながら自分の嫁の事を考える。精肉屋の亭主の嫁に比べ自分の嫁は若くて綺麗、何よりも優しい。圧倒的に自分の嫁が勝っていると勝利の笑みすら浮かべ機嫌よく店周りの掃除を続ける定食屋の亭主。
だが今晩も楽しみだと考えていた定食屋の亭主は気付いていない。若く綺麗で優しいはずの嫁が背後で鋭い眼光を自分の背に向けていることを。そしてその後に待つ惨劇を定食屋の亭主はまだ知らない。
「あなた……ちょっとお話が……」
まるで小鳥が鳴くような綺麗で静かな声。しかしその声には明らかに不穏な雰囲気が混じっている。背後からしたその不穏を混じらせた小鳥の声に一瞬にして不穏を感じ取る定食屋の亭主
「……な、なんだいマイハニー?」
自分の背後にいるだろう自分の嫁になぜか言い知れぬ恐怖を抱く定食屋の亭主は、何故か顔を向けることが出来ない。その表情は精肉屋の亭主の比ではない程に青く染まりそして氷水に体を浸けたように震えあがっていた。
「……兎に角中へ……」
静かにだがはっきりとした嫁の声が背中に突き刺さる定食屋の亭主。
「あ、はい……」
何故か分からないが、自分の行く末、自分の顛末を悟ってしまった定食屋の亭主の鼓動は異様な高鳴りを告げている。背後に立つ嫁の言葉に潔く従う定食屋の亭主はそのまま店の中へと入って行くのであった。
「……ご愁傷さま……」
話の一部始終を精肉屋の店と別の店の間にある細い通路から聞いていたガイルズは定食屋と精肉屋の二人の亭主達の末路を案じながらキョロキョロと視線をその場に泳がせた。
「とりあえずこれでいいか……」
細い通路に落ちていた布を拾うとその布を上半身に羽織ったガイルズはその場を後にするのであった。
― ガウルド 宿屋街 安宿 ―
「……なッんッッッ!」
ソフィアが抱く罪の意識をガウルドの北の平原で打ち明けられたスプリング。その後、まともな会話が無いまま二人は、ソフィアが泊まっている安宿へと戻ってきていた。
自分の気持ちを吐露したことで何とも気まずい状況になったと感じていたソフィアは部屋につくなりすぐさまベッドにもぐりこみ寝てしまった。ソフィアには少し時間が必要だと思っていたスプリングは、別段ソフィアのその行動に疑問を抱くことなく自分も就寝しようと安宿の安っぽいソファーに体を預けた。
一人部屋であったために男女の関係になっていないスプリングがとった行動は、男として当然であり紳士とも思える行動であった。
だがそれ以前にスプリングはソフィアを女性として見ていなかった。状況的に自分が寝られる場所がソファーしか無かったというのが正直な所である。
偶然にも紳士的な行動をとっていたスプリングは、寝心地の良くないソフィーで眠りへと落ちていく、はずであった。現実と夢の狭間に立っていたスプリングは突如として現実へと引き戻される。その原因は突然の腕の痺れであった。腕の痺れに目を覚ましたスプリングはとその視界に飛び込んできた光景に思わず声を上げそうになっていた。
(どうしてベッドで寝ていたはずのソフィアが俺の横で寝ているんだ?)
必至に声が出るのを抑えたスプリングは、その混乱した状況の中でどうにか状況を冷静に分析しようとする。
少し動けば鼻と鼻がくっ付いてしまう距離にソフィアの寝顔がある。瞑られた瞼から伸びる長いまつげ。そこから少し下にいくと綺麗に筋が通った鼻があり、更にその下には男の何かを掻き立てるような唇がある。更には首を伝いはだけた衣服の隙間から覗く深くは無いが浅くも無い魅惑の谷がスプリングの目を直撃する。そしてスプリングの精神を更に刺激したのが、自分の腕を枕にしてソフィアが寝ているという状況であった。密着する体温を感じつつほぼ零距離で眠るソフィアの表情にはまだあどけなさはあるものの、男としての理性を吹き飛ばすに十分な威力がこの状況にはあった。だがそれでもスプリングは自分が持つ強固な理性で男の欲望を完全に抑制して見せた。
しかし精神的な危機を脱してもまだ物理的な問題が残っていた。自分の腕を枕にして眠るソフィアという状況であった。
もしこの状態でソフィアが目覚めたら、その先に待つのは目も当てられない程の惨劇だ。しかしこの状況を抜け出そうと無暗に腕を引き抜けばソフィアを起こしてしまう可能性がある。そうなれば自分の死期が早まるだけで腕を引き抜くことは出来ない。身動き一つ取れないスプリングは完全に逃れられない状況に陥っていたのだ。
(今……この状況でソフィアが目覚めるのは非常に不味い……)
腕の痺れを感じながらスプリングは、この状況をうまく切り抜けられないかと思考を巡らせる。だが考えようとするのだがソフィアの寝息が頬をくすぐり甘ったるい感覚が思考を邪魔する。理性でどうにか本能を抑え込んでいるが、本能とは違う男の性という物がどうしても顔を出してしまう。寝ているソフィアをマジマジと見つめるスプリングの鼓動は速まり冷静になればなろうとする程に高鳴っていった。
《……これが朝チュンという奴か……》
(おい、言葉の意味は分からないが、とてつもなく馬鹿にされている気分だ)
どこからともなく聞こえる自我を持つ伝説の武器ポーンの声に眉間に皺を寄せるスプリング。しかし内心、今の自分の思考に割り込んでくれて助かると心の中で感謝するスプリング。
《朝チュンとは異性同士が……》
(ああもういい……それよりこの状況をどうにかしてくれ)
ポーンの言葉を聞き、今はどうでもいい内容だと悟ったスプリングはすぐさまポーンの言葉を遮るとこの状況をどうにかしてくれと願った。今のスプリングは猫の手でも、いや伝説の武器の手も借りたい状態だったからだ。
《と、言われても主殿、私は女性を横にはべらせ朝を迎えた経験など……》
(違うッ! お前の女性経験の話を聞きたいんじゃないッ! どうにかしてソフィアを起こさずにィィィィィィ!)
「んんんん……」
スプリングが的外れな意見を口にするポーンに対してツッコミを入れている途中でソフィアが唸り、ゆっくりと目を開いた。
(不味い不味い不味い)
ビシッと目が合うスプリングとソフィア。ほぼ零距離の互いの視線の交差に一瞬時間が止まる二人。
「あ、ああ……お、おはよう……」
何事も無かったように体を起こしスプリングから距離をとったソフィアは挨拶を告げるとそのまま脱衣所の方へと向かっていった。
『……ふむ、どうやら、問題はなかったようだな』
「ない訳ないだろ……」
ソファーから体を起こしスプリングは頭を抱える。その顔は真っ赤に染まっていた。
今の今までソフィアの事を異性として認識していなかったスプリング。それこそ妹や近所の子供のように思っていたスプリングは、突如として起こったハプニングによって嫌でもソフィアが異性であり一人の女性である事を意識させられてしまった。
「……はぁ……と、とりえず……この事は一回頭から忘れよう……」
どうしようも出来ない事は忘却の彼方に捨てるに限る。そう判断したスプリングはソフィアに感じてしまった異性の感覚を一度、忘却の彼方に放り投げることにした。
「……と、とりあえず平常心だ……平常心でこの場をどうにか納めよう……」
そう自分に言い聞かせるスプリングは脱衣所の扉に視線を向けるのであった。
(ああああ……どうして私スプリングの横で寝てるのよぉぉぉぉぉ!)
脱衣所に入ったソフィアはそのまま腰を抜かすようにその場に座り込むと真っ赤に染まった顔を両手で押さえながら心の中でこれでもかというぼと叫んでいた。
(ど、どうしよう……まともにスプリングの顔が見れないよ……)
昨日の悩みは何処へ、今のソフィアの頭の中では全く別の悩みが渦巻いていた。
スプリングとは違い、既にソフィアはスプリングの事を一人の男、異性として見ていた。その心には僅かな淡い恋心もあった。だが今の状況はソフィアにとってはあまりにも早すぎる展開、状況であった。
心の準備もせずにスプリングの顔がほぼ零距離にあるという状況は今まで恋を知らず知ったばかりのソフィアにとってはハードルが高すぎるのだ。
(と、とりあえず冷静になろう……男女が二人同じ部屋に泊まっていればこんなことになってもおかしくない……おかしくない……いや、おかしいでしょ! そもそも何でもない二人が同じ部屋に泊まるって……何で別の部屋を用意しなかった……て、今はそんな事を考えている場合じゃ無くて……)
そう自分に言い聞かせるのだが、次から次へと疑問が浮かび思考が混乱するソフィアは目を回す。
(……キス……出来る距離……)
「な、なあソフィア!」
「はいッ!」
扉の向こうから自分を呼ぶスプリングの声に自分が何と言う考えに行きついてしまったのかと思わず動揺してしまうソフィア。その動揺が声に現れソフィアの声は変に甲高いものになった。
「その、俺もお前も転職しただろう? そうなると防具を新調しなきゃならない、だから……これから防具屋に行かないか?」
なぜソフィアを防具屋に誘うだけでこんなにドギマギしているんだと何かが引っかかるスプリング。
「え……う、うん……」
防具屋への誘いに驚いたような声をあげたソフィアは、戸惑いながらも同意の意思を告げた。
「そ、そうか……なら俺は外に出ているから用意が出来たら来てくれ」
そう言うとスプリングは外にでる支度をはじめた。だが何かに気づいたのか突然ドタバタと慌てながら部屋を出ていってしまった。
「……」
その慌ただしい音を聞きすでにスプリングが部屋にはいないことをわかっているにも関わらずソフィアは脱衣所の扉を恐る恐る開ける。
「はぁ……」
やはり扉の先にスプリングはいない。それに安堵するようにソフィアはため息を漏らした。
「……鳴りやまない……」
そう呟いたソフィアは自分の胸に手を当て少しはにかむような表情を浮かべるのであった。
ガイアスの世界
登場人物
スプリング=イライヤ
年齢 20
レベル 59
職業 拳士 レベル1
今までにマスターした職業
ファイター 剣士 ソードマン 魔法使い(初級)
装備
武器 無し (伝説の武器ポーン(打撃用手甲))
頭 破れた初心のフード
胴 ボロボロの初心の衣
靴 クタクタの初心の靴
アクセサリー 守りの指輪
夜歩者ギルの剣による一撃で生死を彷徨うこととなり、気付けば生と死の狭間にいたスプリング。人の姿をしたポーンの力を借りて、本来自分がいるべき場所へと戻ってくることとなる。
しかしその時の事を目覚めたスプリングは覚えていない。
魔法使いであったスプリングは自我を持つ伝説の武器ポーンの特殊能力によって再び強制的に戦闘職を転職させられてしまう。
スプリングが強制的に転職させられてしまった戦闘職は奇しくも生と死の狭間で思わぬ再会を果たした全く面影が残っていない傭兵時代の仲間が就いていた戦闘職の下位職であった。
この事が何か関係しているようだがスプリング本人がその時の事を全く覚えておらず自覚していないので分からない。
ただスプリングはまだ自分でも理解していない特別な技能を手に入れているようだ。
ちなみに拳士に転職したスプリングは、やはり打撃用手甲に形を変えた自我を持つ伝説の武器ポーンを装備出来ない。




