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真面目に合同で章 (スプリング&ソフィア編) 5 目覚め


 ガイアスの世界


 聖狼セイントウルフが持つ自己修復、自己再生


 聖狼セイントウルフは狩る対象である『闇』の力を持つ者達に対応する為に自己修復、自己再生の能力を持っている。

 これは『闇』の力を持つ者達の殆どが自己修復、自己再生の力を持っていることが大きく影響している。

 聖狼セイントウルフの全ての攻撃、その血液ですら『闇』の存在にとっては毒である。だがその攻撃も相手に届かなければ意味が無い。攻撃する前に殺されてしまえば意味がないのだ。

 そして確実にその毒となる攻撃で殺すことが出来なければ『闇』の存在はその驚異的な自己修復と自己再生によって生きながらえてしまう。

 そういった状況が起きないようにするために聖狼セイントウルフが行きついた能力が、『闇』の存在と同様、もしくはそれ以上の自己修復、自己再生であった。

 同じ能力を持つもの同士が戦った場合、最後に勝利の決め手になるのは、弱点を突けるかどうか、その点に置いて聖狼セイントウルフは『闇』の存在を圧倒した存在といえるだろう。




 真面目に合同で章 (スプリング&ソフィア編) 5



剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス



― 小さな島国ヒトクイ ガウルド安宿 ―



 統一してから安定した国となつたヒトクイは、他大陸からやってくる観光客や冒険者、戦闘職を受け入れる為に急速に発展していった。その中でもヒトクイの中心都市であるガウルドは、驚異的な速度で町の拡張や建設が行われ既に以前とは大きく違う町となっていた。

 その中でも大きくなったのは宿屋で他大陸からの観光客や冒険者、戦闘職を宿泊させる為、劇的に宿屋の数は増えていき今やガウルドの一角は宿屋街と呼ばれる規模にまでなっていた。

 だがそれでも毎日数千という数の旅行者や冒険者、戦闘職を受け入れられる宿屋の数には達していなく、宿屋に泊まれない人々が町に溢れる状況となっていた。その煽りを受けたのは冒険者や戦闘職であった。

 宿屋街にある宿は基本、観光客をターゲットにしており一泊の料金が高く設定されている。したがい他大陸からやってくるかけだしの冒険者や戦闘職にとって宿屋街の宿に一泊するのは中々に難しいのであった。

 しかし国の発展が目まぐるしいヒトクイの商人たちが宿をとれず野宿する冒険者や戦闘職を利用しないはずがない。喰うならば骨までしゃぶる、金を持つ者からはたえ小銭であっても落とさせる。そんなたくましい考えを持つヒトクイの商人たちは、かけだし冒険者や戦闘職でも問題無く泊まることができる安価な宿を考えた。

 冒険者や戦闘職はヒトクイに観光にきている訳では無い。ヒトクイにしか生息していない魔物から手に入る素材を狙っていたり各地にある遺跡ダンジョンの調査などが目的だ。そんな彼らにとって宿とは体を休めることが出来る場所であればいい。豪華な部屋で優雅な一時である必要は無いのだ。

 そうして作られたのが最低限の設備が整った安宿であった。旅行者が利用する宿屋街にあるような豪華な宿とは違い、ただベッドが置いてあるだけの狭い部屋。眠る事だけを考えた簡単な作りの宿だ。

 最低限、冒険者や戦闘職が体を休ませることだけを考えた宿は、設備費やらなんやらを極限まで抑えることが出来たことによって旅行者が利用する宿屋街の宿の値段の半額以下で宿泊できる安宿となった。お財布にも優しい安宿は当然、冒険者や戦闘職に受け入れられ喜ばれる結果となった。

 さらには安宿を作りだした商人達も今まで溢れて金を落とさなかった層から金を稼げるようになりご満悦であった。

 安宿の影響は凄まじく他大陸からヒトクイへやってくる冒険者や戦闘職の数は、安宿が作られる前の十倍程に跳ね上がったという。


 そんな安宿は地元の冒険者や戦闘職にも利用されている。先日、剣士になったソフィアもその利用者の一人であった。

 宿屋街の端にある安宿の一つ、ソフィアが借りている部屋から水が流れる音が響く。部屋の奥にある小さな部屋の中、そこには一糸まとわぬ姿のソフィアの姿があった。浴槽に溜まった水を手に持った桶で汲み体にかけるソフィアは、路地裏での戦闘で汚れた体を水で洗い流していた。


「イタッ……」


浴槽から再び水を汲み体に流そうとした瞬間、桶を持った手に突然痛みが走る。その痛みに思わず声をあげるソフィア。


「……」


 裏路地で襲ってきた獣人と戦闘になった際、知らぬ間に手に傷を負っていたのかと思ったソフィアは、一旦桶を置くと自分の手を見つめる。だがソフィアの手はかすり傷一つ負っていない綺麗な手をしていた。両手を握ったり開いたり動かして痛みが走らないか確認してみるがやはり先程のような痛みは無い。


「……はぁ……」


分の手に走った痛みに興味を失ったようにため息を吐いたソフィアは顔を下げた。


「……酷い顔……」


置いた桶に入った水が映しだす自分の顔を見てそう呟くソフィア。その表情は先程の戦いからくるものなのか、それとも襲われたとはいえ獣人達の命を奪ってしまったことからくる罪悪感なのか酷い表情であった。


「ンッ!」


水に映った自分の顔をかき消すように両手を桶に突っ込んだソフィアは、その水を手ですくうと思いっきり自分の顔へぶつける。


「……もしッ!」


気合を入れ直し立ち上がるソフィア。


「んッ?」


 するとその直後、ベッドが置いてある部屋から物音が響いた。その音にすぐさま反応したソフィアは、盗賊の時に培った技術を生かし自分の気配を瞬時に消すと部屋から聞こえる物音に耳を向ける。


(まさか……泥棒……)


 隣の部屋には意識を失い眠ったままのスプリングしかおらず物音がするはずはない。そう考えたソフィアの思考は泥棒が入り込んだのではないかという結論に達していた。ソフィアは自分の気配を消したまま手に取ったタオルを体に巻き今自分がいる部屋とスプリングが眠る部屋を遮っていた扉を静かにあけその隙間から部屋の様子を伺った。


「……」


スプリングが寝ているはずの部屋には誰も居なかった。泥棒は愚か寝ていたはずのスプリングも居ない。


「す、スプリングッ!」


再びスプリングが無意識に外へと出ていったのではないかと思ったソフィアは、はだけるタオルもお構いなしに扉を開き隣の部屋へと突入した。


「ん……何だ? ソフィアか?」


ソフィアの声に反応する男の声。だが声は聞こえるが肝心の声の主の姿が見当たらない。


「ああ……何だ……俺ベッドから落ちたのか……」


男の声はそう言ってベッドの影から姿を現した。


「……スプリング……」


ベッドに手をかけ体を起こし立ち上がった男の名を口にし思わず口を押えるソフィア。その瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちる。


「……スプリング!」


 ソフィアの目の前に姿を現した男。その男とは今まで意識を失い眠ったままであったスプリング本人であった。目覚めたスプリングに思わず飛びつくソフィア。


「な……や……あの……」


ソフィアに飛びつかれたスプリングは何かを見ないように必至で視線をあらぬ方向へと向ける。


「……あれから……スプリングが意識を失ってから大変だったんだから……ガイルズも……どっかに行っちゃうし……」


今まで堪えていた感情が決壊した水のように押し寄せるソフィア。


「……ああ、その……悪かったな……」


ソフィアの今の様子でだいたいの状況を把握したスプリングは、自分の胸で泣きじゃくるまだ少女と言ってもいいソフィアに謝った。


「……でも……よかった……意識を取り戻して」


時たま声を引きつらせながらスプリングが意識を取り戻したことに安堵の表情を浮かべる。


「ああ……俺も何が何だか……ただ何か追われるような夢を見ていたような……ウッ! ……そ、それよりソフィア?」


殆ど覚えていない夢の話を仕掛けた矢先、自分が置かれた状況を再確認したスプリングの表情は真っ青になった。


「何?」


そう言いながら上目遣いでスプリングの顔を凝視するソフィア。


「いや……その……怒るなよ……絶対に怒るなよ」


「怒るなって何?」


一切視線を合わせないスプリングに少し不満そうな表情を浮かべるソフィア。だがスプリングにはソフィアと視線を合わせられない理由があった。いや正確にはソフィアの今の姿に視線を合わせられなかった。なぜなら今のソフィアは下着すら纏っていない生まれたままの姿であったからだ。


「その……だな……何か服を着てくれないか……」


か細く申し訳ないというようにそう口にするスプリング。


「……?」


一瞬なんの事か分からないといった表情を浮かべるソフィア。しかしその次の一瞬で自分の今の状況を理解したソフィアの表情は急激に熱を帯び真っ赤に染まる。


「い、いやァアアアアアアアア!!」


安宿に響き渡るソフィアの悲鳴。その後何かを打ち付けるような鈍い音が安宿に響き渡った。


ソフィアの悲鳴を聞き駆けつけた安宿の亭主に対して赤く腫れあがった頬を摩りながら事情を説明するスプリング。恋人同士の痴話喧嘩として納得し今後気を付けてくださいよと去って行く宿屋の亭主の後ろ姿を見送ったスプリングは、一つため息をつきながら部屋へと戻った。

 

「その……ごめん……」


まだ恥ずかしさが抜けないのか、熱を帯びた頬で申し訳なさそうに部屋へ帰ってきたスプリングに謝るソフィア。


「あ、ああ……まあ……しょうがないんじゃないか」


状況的に被害者といってもいいスプリングは、苦笑いを浮かべつつもソフィアの行動を許すようにそう言うとベッドに腰掛けた。


『主殿は技能スキル幸運助平ラッキースケベの持ち主であったか……』


「五月蠅いぞポーン」


突然発せられた男の声に対しスプリングは迷惑そうに男の声に返事をすると腰掛けたベッドの横にある小さなテーブルに置かれたロッドに視線を向けた。

少し凝ったデザインをしたロッド。その正体は自我を持つ伝説の武器ポーンであった。


『ふふふ、元気そうで何よりだ』


意識を取り戻した自分の所有者であるスプリングの様子が元気な事に喜ぶポーン。


「はぁ……それでソフィア、俺が意識を失っている間何があったんだ?」


何処か呑気な自分の相棒ポーンに脱力しながらスプリングはモジモジしているソフィアに自分が意識を失っている時に何があったのかを聞いた。


「……それは……」


モジモジしていたソフィアの表情が一瞬にして真剣なものへと変わると少し間を開けてから今まで起こったことをスプリングに話した。


「……そうかガイルズが……」


「スプリングはガイルズがあんなばけ……人狼だって知っていたの?」


化物といいかけ人狼と言い直すソフィア。その表情にはまだ自分で気持ちの整理が出来ていないことが伺える。


「……いや、知らなかったよ……あいつが人狼に姿を変えるなんて……」


ガイルズが人狼に変身できることを一切知らなかったはずのスプリングは、ソフィアから聞かされたその情報にそれほど動揺していないようであった。


「ただ……あいつの化物じみた強さには何かあるんじゃないかとは……思っていた」


人間の割に恐ろしい程に頑強で怪力の持ち主であったガイルズに対して何か隠していることがあるのではないかと前から薄々思っていたスプリングは、その考えをソフィアに打ち明ける。


「……」


ソフィアはスプリングの言葉を聞くと何かを考えるように押し黙った。


「どうした?」


「スプリングは、ガイルズが怖くないの?」


『闇』の力を持つ夜歩者ナイトウォーカーを圧倒する程の力を持ちその姿を人狼へ変えたガイルズに対してソフィアは恐怖を感じていた。あの日ソフィアが目にした光景は間違いなくただの人間が割り込める余地のない化物同士の戦いであったからだ。


「……怖くないな……」


「何で?」


そう言いながらソフィアは思う。スプリングはあの光景を目にしていないからだだと。スプリングも人狼へと姿を変えたガイルズを目の当たりにすれば絶対に恐怖するはずだと。


「だって、どんな姿になろうとそいつはガイルズ何だろう? ……だったら俺は怖くないな」


「ッ!」


 スプリングの言葉にハッとなるソフィアは、旧戦死者墓地で夜歩者ナイトウォーカーと対峙した時、一目散にスプリングと一緒に逃げろと叫んだガイルズの姿を思いだした。

 しかしその後、夜歩者ナイトウォーカーを肉片になるまで容赦なく破壊し続けたガイルズの狂気に満ちた姿が脳裏をよぎったソフィアの表情は曇る。


「……私には分からないよ……」


「そうか……」


 ソフィアが何を思ってそう答えたのかスプリングには分からなかったが、今はそれでいいと暗い表情を浮かべるソフィアの頭を撫でた。


「スプリング……」


頬が薄っすら赤く染まるソフィアは頭を撫でるスプリングを見つめる。


「……ただ、今度会ったら二人でボコボコにしてやろうぜ」


 そう言いながらニカっと笑みを浮かべるスプリング。その笑みに釣られるように暗くなっていたソフィアの表情に僅かな笑みが戻った。


『気になっていたのだがソフィア殿、何か雰囲気が変わったような気がするが……』


場の空気が少し和らいだことを感じ取ったポーンは、自分が気になっていた事をソフィアに尋ねた。


「雰囲気……?」


ポーンに言われスプリングはソフィアの姿を凝視する。


「……その……私……剣士になったの……」


「……」


 まるで少女が何か秘め事を告白するように自分が剣士になった事を告げるソフィア。その言葉にスプリングの思考は一瞬停止した。


「多分その影響でポーンには雰囲気が変わってみえたんじゃないかな……」


まだ剣士になった事を自分でもあまり実感できていないソフィアは照れるようにそうはにかんだ。


『なるほど、主殿が意識を失ってから毎日出かけていたのは剣士になる為だったのか』


「う、うん……そう……何もしていないでスプリングが目覚めるのを待つよりは何かをして待っていたかったから……」 


スプリングを取り込み球体になっていた時もソフィアの気配は感じ取っていたポーン。毎日何処かへ出かけていたソフィアの行動の目的が分かりポーンは納得したといううんと頷いた。


「……剣士……だと……」


そんな中一人黙り込んでいたスプリングはワナワナと体を震わせる。


『どうした主殿?』


「まさか、体調が悪いの?」


様子がおかしいスプリングを心配するポーンとソフィア。


「だぁああああああ! 俺を差し置いて剣士になるとはいい度胸だなソフィア!」


突然そう叫びブチ切れるスプリング。


「俺はまだ魔法使いだって言うのに、お前は……お前は!」


「え、ええええ……」


剣士になった事を褒めるどころか嫉妬し怒りを露わにするスプリングのその姿に引くソフィア。


「俺は……いつになったら……いつになったら魔法使いを卒業出来るんだぁぁぁああああ!」


怒りを通りこし情緒不安定になるスプリング。


『主殿、自分の思いをぶちまけている所申し訳ないが報告がある』


「がぁあああああああああ!」


ポーンの言葉が耳に入らない程に錯乱するスプリング。


「……そ、それで報告って何なのポーン?」


会話が出来ない状態に陥ったスプリングに表情を引きつらせながら代わりにその報告が何であるかを尋ねるソフィア。


『あ、ああ……主殿は魔法使いでは無くなった』


「へ?」


ポーンの言葉に一瞬にして静かになるスプリング。


『何故かは分からないが、主殿の戦闘職が変更されたのだ……けんしに……』


「け……ん……し……」


 それはスプリングが待ちわびた言葉であった。元々上位剣士であったスプリングからすればランクは落ちるものの剣士は剣士。剣を扱う職業であることに変わり無い。けんしという言葉を噛みしめるように発したスプリングは無言のまま安宿の天井に向け拳を突き上げる。


「本当なの剣士って!」


スプリングが剣士になったという事実がまだ若干信じられないソフィアはポーンに尋ねた。


『ああ、けんし……拳士だ』


そう言うとポーンは自身の形を剣では無く所有者の拳を保護しながら打撃力を上げる打撃専用手甲アタックガントレットに変えた。


「あれ? ……これって……」


 打撃専用手甲アタックガントレットに変わったポーンの形に何とも言えない表情を浮かべ首を傾げるソフィア。


「はは……はは? ……けんし……剣士じゃ無くて拳士?」


顔を引きつらせそう呟いたスプリングは目をひっくり返しながらベッドに倒れ込むのであった。






 ガイアスの世界


拳士


 拳を使った戦闘職の一番ランクが低いものが拳士である。


能力としては拳を使ったスキルに長けた戦闘職であることと、素早い動きである。

 拳士の上位戦闘職には拳闘士がある。一般的にはこちらの方が有名で拳闘士は拳と名についてはあるが足を使った技も多くある。


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