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伝説の武器が装備できません  作者: 山田二郎


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エピローグで章 1  即位式

 ガイアスの世界


 エピローグ編に突入しました。エピローグと言えるのか?


まあそこら辺はお茶を濁す感じで……さて、この物語も後少しで終わりを迎えます。

この物語に出てくる登場人物が『絶対悪』死神の戦いの後、一体どうなったのかそんな話です。

 もしよろしければ読んでください。



                           山田二郎   2018年 1月28日


 エピローグで章 1 即位式



 永遠を失い滅びへと向かい始めた正常な世界、ガイアス


 その日、巨大な剣が大地に突き刺さった。その巨大な剣は雲よりも高くそびえガイアスにある三大大陸のどこからでも眺められる程の大きさがあった。見上げても追いつかない程の大きさを持つ巨大な剣の出現に当初ガイアスの人々は驚きと不安が隠しきれなかった。しかしすぐに人々の心に浮かぶ驚き不安は希望に変わる。

 三大大陸から眺めることが出来る巨大な剣は、半透明な薄い緑色の光を放つとたちまち世界は緑色の光に包まれていった。ガイアスを包んだ緑の光はガイアスのシステム、『純粋悪』もしくは『絶対悪』を破壊すると同時に世界に充満していた負の感情を消し去った。すると荒れていた大地や生物はみるみるうちにそれを目の当たりにしたガイアスの人々は、大地に突き刺さった剣が魔王を討ったのだと騒ぎだし、気付けばその巨大な剣は、神が放った剣だと人々の心を希望で包んでいくのであった。

 しかし人々は知らない。人々の負の感情を吸い上げ、ガイアスという世界の寿命すら操っていた『純粋悪』もしくは『絶対悪』と呼ばれるシステムが消失した事によって歪であったガイアスは本来あるべき姿に戻り、ゆるやかな滅びに向かい始めた事を。




― 小さな島ヒトクイ ガウルド ―



 三大大陸と同じく巨大な剣を眺めることができる小さな島国ヒトクイ。そのヒトクイという国の中心であるガウルドでは、その日新たな王の誕生の為、即位式が執り行われる事になっていた。


「……あ、あの……ムスバムさん?」


 まだ幼さの残る顔で周囲を見渡す青年は、自分に何が起こっているのか未だちゃんと理解できないという表情で隣に立つ初老の男を見つめる。青年の前に立ちふさがるようにそびえる大きな城門の先からは大勢の人々の声が漏れ出し青年の耳に伝わってくる。


「……数日前にも話したがこれはレーニ王からの遺言、ヒトクイの人々もお前の事を認め歓迎してくれるはずだ……その気持ちに答えるよう自信を持って王としての威厳を人々に示せ」


自分の立場を未だ理解できていないという部分と明らかに緊張した面持ちである青年に先代、先々代のヒトクイの王の右腕として仕えてきたムスバムは、情けない表情の青年に静かに激を飛ばす。


「お、俺は認めないぞ!」


「……まあ……中には、納得していない者もおるようだが……」


青年とムスバムの背後から青年と同年代の男の声が飛ぶ。その声にムスバムは呆れた表情を浮かべる。


「お前はおれ……俺の……永遠の……」


「マシュー将軍殿、諦めろ、もうお前さんの届く相手じゃない」


将軍と呼ばれたマシューは、青年を見つめながら何か伝えようとするのだがそれを遮るようにムスバムと同じくくらいの初老の大柄の男に遮られる。


「そ、そんな……ガルワンドさん……」


将軍の座をマシューに渡し戦術相談役となったガルワンドの言葉に撃沈するマシュー。諦めろとガルワンドに言われ、みるみるうちにその表情は暗くなり肩を落とすマシュー。


「さぁ時間だ……ユウト……この城門を出ればお前はもうヒトクイの王だ後戻りはできんぞ」


「後戻りも何も強制だって言ってたじゃないですか!」


元伝説の本の所有者であるユウトはムスバムの言葉に更に表情を引きつらせながらガウルド城の巨大な城門を見つめる。ゆっくりと開かれるガウルド城の城門の隙間から溢れる光に目を細めるユウト。


「おら無駄口叩くな」


「うわっ!」


頼りなく丸まったユウトの背中を叩くムスバム。その反動で躓きながら城門を通り過ぎたユウトは慌てながら体勢を立て直す。


「……!」


するとユウトの視線は硬直したように目の前に広がる光景を捉えた。そこには王の即位式をみに来たヒトクイ全土から集まった大勢の人々の姿があった。

 志願兵統率補佐の時に大勢の仲間達に向けられたものとは違う視線にユウトは顔を引きつらせる。見定めているようなガウルドに集まった人々の視線を感じながら、ユウトはなぜこんな事になってしまったのかと、全てが動きだした一週間前の事を思いだしていた。



「……んっ……」


 意識がはっきりとせずぼやけた視界を泳がすユウト。次第にはっきりとする意識の中、ユウトは見知らぬ高い天井を見上げていた。


「高いな……」


ぼーっと高い天井を見つめつつ体を起こしたユウトは、自分が何処にいるのか確認するため周囲を見渡す。


「……ん?」


 ユウトが見渡したした先にはこれまた見知らぬ広い部屋が広がっていた。部屋の作りはそこがヒトクイだと分かる程はっきりしたもので一目みただけで自分がヒトクイの何処かにいる事を理解するユウト。しかしその部屋はどれをとっても一流の物ばかりでユウトが生きている世界とは別世界のような高級感あふれる部屋であった。


「ま、眩しい!」


思わず声が出てしまう程に煌びやかな部屋にユウトは目は細めながら体を震わせる。


「な、なんで僕がこんな所に……」


高級感あふれる部屋に免疫の無いユウトは、その場にいる事が耐えられないというように恐る恐るベッドから体を床に下ろそうとする。


「て、デカッ!」


自分が寝かされていたベッドが自分の体の何倍もある事に気付いたユウトはその大きさに更に体を震わせる。右を見ても左を見ても高級感あふれるものばかりのその部屋に居づらいユウトは直ぐにでもこの部屋を出ようと広い部屋の扉を探しはじめるユウト。

 すると頃合いを見計らったようにユウトがいる居る広い部屋の扉が開いた。


「……」


「……」


扉からは現れたのはメイド姿の女性であった。部屋に入ってきたメイドと目が合うユウト。互いが見つめ合いおよそ二秒が経過した頃。


「あ、あのこれは! ……」


とりあえず自分が不審な者では無い事を告げようとメイドに声をかけるユウト、しかしメイドはユウトに弁明の隙も与えず大慌てで部屋を飛び出していく。


「え、ぇぇぇえええ……」


脱兎の如く部屋を飛び出していってしまったメイドの背中を見つめながらユウトは顔を引きつらせる。


「ど、どうしよう……」

 

すると部屋の外に出ていったメイドは騒がしく誰かの名を叫んでいる事に気付くユウト。


「……ムスバム?」


なぜそこで先代、先々代のヒトクイの王の右腕として仕えてきたムスバムの名が出てくるのか理解できないユウト。訳が分からずユウトが硬直しているうちにメイドの騒ぎを聞きつけ白衣を着た医者がユウトのいる広い部屋に入ってきた。


「目覚めたのか!」


医者は入ってくるなり硬直したままのユウトに一言そういうと、ユウトはお構いなしに体に触れ検査を始めた。


「うーむ」


触診しながら唸り声をあげる医者は、ユウトに名前や体に不調は無いか色々と尋ねてくる。言われるままにユウトは医者からの質問に素直に答えると、困ったようにも不思議そうにも見える表情を医者は浮かべた。


「どんな理由でそうなのか私には分からないが君は、健康すぎるぐらいに全く問題ない」


医者はユウトにそう告げると嵐のように去って行った。


「……」


医者の背を見つめながら再び硬直するユウト。


「目覚めたようだな……気分はどうだ統率補佐?」


すると今度は嵐のように去って行った医者と入れ違うように初老の男が部屋に入って来てユウトに声をかけた。


「ムスバム……様……? あ、ハッ!」


一瞬自分の前に誰がやってきたのか分からなかったユウトは、目の前に現れた人物がムスバムだという事に気付くと慌てて敬礼をムスバムに向けた。


「敬礼はいい、座れ」


そんなユウトの姿に一切表情を変えないムスバムはユウトにその場に座るよう指示を出した。


「あ、はい……」


ユウトは高級感あふれる広いベッドの隅に恐る恐る腰を落とすムスバムに視線を向ける。


「どうやら今の自分の状況が理解できていないようだな」


落ち着かないという表情のユウトを見つめながらムスバムは、ユウトの心中を見抜くように口を開く。


「あ、はい……あ、あの……僕は……ここは何処ですか?」


全く状況が呑み込めていないユウトは、何から聞いたらいいのかも分からずしどろもどろな質問をムスバムにぶつける。そんなユウトに対して魔王との戦いが終わった事、その戦いが終わってから七カ月が経過している事、そしてヒトクイの兵と志願兵達が死にそうなユウトと共にヒトクイに帰還した事など、細かくユウトに説明するムスバム。


「……戦いが……終わった?」


 苦しく辛かったあの戦いが数分前の出来事のように感じるユウトには、実感が無い。自分が七カ月もの間寝ていたと言われてもユウトは信じられなかった。


「……あの……所で……なぜ僕はここに?」


普通ならば戦いで重症を負った者は、まだ生きていれば病院に担ぎ込まれるはずである。しかし今ユウトとムスバムがいる部屋はどう考えても病院でもなければ霊安室でも無い。この場所はまるで王のような高貴な者が使う部屋である。なぜそんな所に自分が寝かせられていたのかユウトはまだ整理のつかない頭と心でムスバムに不器用に尋ねた。


「……それは……お前が次のヒトクイの王だからだ」


「……ああ、なるほど僕が王だからですか……ん? ……エッ!」


ムスバムの言葉に思わずユウトの目が点になる。ユウトの質問も不器用であったが、ムスバムの答えも大雑把で不器用そのものであった。


「あ、いやいや、そういう冗談はいいですから……なぜ僕がこんな高級感あふれる部屋に寝かされていたのかを教えてください」


笑えないムスバムの冗談に冷静を取り戻したユウトは、今度は丁寧に器用になぜ自分がこの場所に寝かされていたのかを尋ねた。


「冗談では無い、お前はヒトクイの王になる、だからお前はこの王の間にある寝室に寝かされ治療をうけていたんだ」


丁寧には丁寧に、器用には器用にと言うようにユウトの質問にムスバムはきっちりと答えた。


「あ、あ、あの……ちょ、ちょっと待ってください!」


しかしユウトにとってその答えは答えになっていなく、いうなれば新たなに謎が増える結果となった。事態を飲み込めないユウトは冷静に考えようと落ち着こうとする。


「なんですかそれ!」


しかし冷静になれる訳も無くユウトはムスバムにもう一度どういう事か説明を求めた。


「言葉通りだ、お前は一週間後、ヒトクイの王となる」


「いやいや、だからですね、色々とすっ飛ばしていますよ! 何で僕がヒトクイの王なんですか!」


何もかもをすっ飛ばし結果しか述べないムスバムに結果では無くそこに行きつく経緯を聞かせてくださいと叫ぶユウト。


「先代の……レーニ王の遺言……だ」


少し歯切れ悪くそう口にするムスバムは、そこからなぜヒトクイの次代の王がユウトなのかという説明を始めた。

 魔王との戦いが終わった日、即ち『絶対悪』死神が跡形も無く消し飛んだ日、ムスバムは一日の仕事を終え眠りについた。すると枕元にレーニが現れたという。夢枕に立ったレーニは志願兵統率補佐ユウトを次の王にと言い残してムスバムの下を去って行ったという。


「はぁ?……いやいや、そんな夢を信じるんですか! それでムスバムさんは納得できるのですか! 僕だったら納得できませんよ!」


あまりにいい加減なムスバムの言葉に呆れるユウト。例え先代の王が夢枕に立ち、次の王はユウトだと宣言したとしても普通の者ならばただの夢だと真に受けたりしない。そんな事で自分が王になる事が勝手に決まってしまった事に納得できないとユウトはムスバムの言葉を否定した。しかしムスバムの顔は真剣そのものであった。


「……確かに私一人が見た夢ならば私も信じはしない……しかしだ、同じ夢をサイデリーの人々の殆どがみていたならばどうだ?」


「……人々が……」


ユウトを前にして冗談のような言葉を発するムスバム。しかしその瞬間ユウトの背筋に冷たい汗が一筋流れる。

 小さな島国と言ってもヒトクイには沢山の人々が住んでいる。そして島国にも関わらずその存在感は大国と変わらずヒトクイに移住する者達も年々増え続け人口は増加している。そんなヒトクイの人々の殆どがムスバムと同じ夢を見た、普通ならば有り得ない話である。


「……先代の王ならばやりかねないと思わないか?」


「……」


ムスバムの言葉に生唾を飲み込むユウト。あの人ならば、神精霊にまで上り詰め、人智を凌駕する力を持ったレーニ王ならばやりかねないとユウトは口には出さないもののムスバムの言葉に納得してしまう。


「……でもレーニ王が何故僕を王にと言ったのか理解できません、僕は……ヒトクイの王になれるような人間ではありません!」


それを偶然というほうがおかしい。レーニの力が関与している事は明白であると納得しつつも、自分が王になるという事については納得できないと俯きながらムスバムに言うユウト。

 何処にでもいる平凡な戦闘職の一人でしかない自分が、なぜヒトクイの王に選ばれるのかその理由が分からない。それ以上にユウトには、ヒトクイという国に対して負い目があった。

 それは三年程前に起きたガウルド襲撃という事件に自分が関与しているからであった。実際にガウルドを襲撃したのは、ユウトでは無くユウトの意思を乗っ取っていた別の世界の自分であるのだが、それを他人に説明する事は難しく、そして例え実際は自分が手を下した訳では無いにしても自分に責任があるとユウトは思っていたからだ。


「……もう三年か……お前がこのガウルドを襲撃して……」


「……ッ!」


ユウトの心を読んでいたかのように突然ガウルド襲撃という言葉を持ちだすムスバム。思わず俯いていた顔をあげるユウトは自分がガウルド襲撃の首謀者であった事を知っていたムスバムに驚きの表情を向けた。


「……バレていないとでも思ったか?……ヒトクイの情報網を舐めるな、それぐらいすぐにつきとめた……だが何故かその時レーニ王は、一言、この件に手出しはするなと言われたんだ」


 今や他の国々と肩を並べそれ以上存の在感をみせるヒトクイ。それは他の国が持たないヒトクイ特有の技術やヒラキやレーニといった王の存在感による所が強いが、ヒトクイの強みはそれだけでは無い。ヒトクイ各所にある隠れ里に住まう影の者達による情報を入手する力があってこそであった。

 そんな情報に秀でたヒトクイが影を使えば、ガウルドを襲撃した者が何者であるかなど容易く調べあげることが出来る。影を使いガウルド襲撃の首謀者であるユウトが何者であるのかという事をつきとめたムスバムはその情報をレーニの前に提示していた。しかしその情報に目を通したレーニは、ユウトに関するあらゆる事に一切手を出すなとムスバムをはじめとした近い家臣達に口止めをしていたのだった。


「ギンドレッドに出来た深い穴の中心で発見されたお前がガウルドの病院に担ぎ込まれたという情報を得た私は、いつでもお前を拘束できる準備は出来ていた……しかしレーニ王は、一切お前に関わる事を禁じた……正直私にはレーニ王のお考えは理解出来なかった」


「……」


 魔王化したアキとの戦いの後、瀕死の重傷を負ったユウトは、ガウルドの病院に担ぎ込まれた。当時記憶を失っていたユウトは、自分がガウルド襲撃に関与していた事もしらず大きな事故に巻き込まれたという事を信じ数カ月入院することになった。まさかその裏で自分を巡ってそんな事が起こっていたなどしるよしも無いユウトはムスバムの話に驚愕する。


「私はレーニ王に聞いた、なぜお前を野放しにしておくのかと」


死亡者はいなかったとはいえ重軽傷者は多く、町は大きく被害を被った。大きな魔力の暴走による不慮の事故としてヒトクイでは片づけられたものの、真相を知るムスバムにとってユウトの行なった行為は許せるものでは無い。

 ガウルド襲撃の首謀者、強大な力を持つユウトを野放しにしておけば再びガウルドにヒトクイという国が惨事に巻き込まれる事になる。それを知りながら手を出すなというレーニの言葉が納得できずムスバムはレーニに何度も理由を尋ね抗議した。


「再三の私の抗議に対してレーニ王は私にこう言った……彼はこのヒトクイに必要な存在なのだと……」


何の確証も無いレーニの言葉。ガウルドを襲撃した者がこの国にとって必要な存在などとムスバムはレーニの言葉を信じられるはずも無かった。


「だが……お前は世界に危機が迫った時、再び我々の前に姿を現した……今度は我々と共に戦う者として」


魔王という世界を脅かす存在の出現によって、ヒトクイは戦闘職の者達から志願兵という形で魔王討伐に参加する者達を募った。その志願兵の中にユウトがいた。


「何の冗談かと最初は思った……お前は気付いていなかっただろうが、私はレーニ王には内緒で暗殺も視野に入れた監視役を数十人つけた」


「……」


志願兵になるべくガウルド城に赴いた当時のユウトにガウルド襲撃の首謀者であった時の記憶も自覚も無い。当然自分の命が狙われていたなどと気付きもしなかったユウトはいつ死んでもおかしくなかったのだと当時を思い出し背筋を凍らせる。


「まあ、志願兵統率、ガイルズは最初から気付いていたようだがな」


個々の集まりである戦闘職達をまとめ上げる志願兵の統率ガイルズの名にユウトは僅かに体をビクつかせ反応する。


「ガイルズさんが……」


「ああ、どうも私のやり方が気に入らなかったようで最初の頃、お前に付けた監視役はことごとく邪魔をされていたよ……」


「ガイルズさんが邪魔を……?」


ユウトに思い当たる節は一つも無い。それだけにガイルズという人間がどれほど大きく凄い人物であったかをまざまざと感じるユウト。


「ガイルズはお前に会った瞬間にお前の持つ力に気付いていたのだろうな……志願兵の訓練が始まって早々にガイルズは私の所に現れて言ったよ、監視するのは構わないが、邪魔だけはするなと」


当時の事を思い出したのか微かに笑みを浮かべるムスバム。


「そうした状況で、お前は監視され邪魔されている事にも気付かず沢山いる志願兵達の中、必至で志願兵統率補佐という地位まで上り詰めた……」


「……ま、まさか……志願兵の中にも……」


ガイルズとインベルラと共に訓練に明け暮れた日々を思いだしていたユウトは、もしかしたら一緒に汗を流した志願兵の仲間の中にも自分の事を監視していた者がいたのではないかとショックを隠し切れない表情で恐る恐るムスバムに口にした。ムスバムはゆっくりとユウトの言葉に頷く。


「だが仲間に裏切られたと思う必要は無い……お前を監視していた者達の報告はどれもお前を褒めるものばかりだった、気の利く奴だとか面白い奴だとか……おかしな話ではあるがお前を監視していた奴らは全てお前と一緒に魔王討伐に向かいたいと途中から監視役を捨てていた……」


「……」


ガウルドで一緒に訓練した者達、一緒にユウラギで戦った者達の顔を思いだすユウト。


「監視役達の言葉に私は呆れた……最初監視役達はお前に操られているとも思ったよ……しかし奴らは誰一人として操られてなどいなかった……何の偽りも無く純粋にお前という人間に心を動かされていたんだ……お前と一緒に戦いたいと奴らは口を揃えて私に言った」


そこで一度ため息を吐いたムスバムは、鋭い眼光を緩めた。


「そこまで監視役達の心を動かす何かがお前にあるのか……実際に自分の目でお前を見て確かめる事にした……そこで私は理解したよ監視役の者達が言っていた事を……」


ムスバムの言葉にユウトはある日、突然ムスバムが訓練に参加した事を思い出した。僅かな時間ではあったがムスバムは志願兵達の前で自分が持つ技や知識などを教えていた事を思いだすユウト。


「共に訓練して分かった、お前には人を引き付ける何かがある……あの短い時間の中で私自身がお前に下した結論だ……」


「そ、そんな……僕にはそんな力はありませんよ……人を引き付けるならガイルズさんの方が!」


ガイルズはユウトにとって憧れの対象であった。圧倒的な力、人を引き付ける力。それは自分には無いものでありユウトは必至でガイルズに近づこうと走り続けていた。


「確かに奴も類まれな力と人を引き付ける才能を持っている……しかしガイルズの才能は単なると力、戦場の時に輝く力だ、だがお前は違う、お前の才能は戦場という空間だけにとどまらず国を動かす事が出来るものだ」


「……そんな事……」


憧れていたガイルズよりも強い才能をお前は持っているとムスバムに言われ、それを否定するユウト。


「ならばなぜガイルズは自分の補佐役にお前を選んだ?」


「え……?」


言葉を詰まらせるユウト。ガイルズからしてみればどの志願兵達もどんぐりの背比べ程の実力しかない。その中でユウトを選んだ意味。


「それはお前が持つ才能を認めていたからじゃないのか?」


ガイルズが自分を認めていた。ムスバムの言葉にユウトの心は揺れ動く。


「お前がいなければ志願兵とガイルズの関係はもっと素っ気ないものになっていたと私は分析している……お前がいたからこそガイルズが率いた志願兵は驚く程の力を手に入れたと私は思っている」


「……」


志願兵の訓練が始まった当初、ガイルズと志願兵の間には重々しいく空気が漂っていた事を思いだすユウト。そんな重々しい空気を壊そうと自分が動いていた事も覚えている。だがまさかその程度の事が自分の才能であり結果的にヒトクイの王になる事の要因になるなどと思ってもいなかったユウトの表情は未だ信じられないというものであった。


「だからあの日、レーニ様が私の夢に出てきてお前を次の王にとおっしゃった時私は直ぐに納得した……夢から覚めた後どうすれば面倒無くお前を次のヒトクイの王にする事ができるか考えた……まあその苦労は意味が無かったがな……」


そう言いながらベッドの片隅にいるユウトに近づくムスバム。


「悪いがこれは強制だ、拒否は認められない、なんせ殆どのヒトクイの人々がお前が王になる事を認めているのだからな」


ムスバムはそう締めくくるとユウトが居る王の間を後にした。

 それからユウトにとっては怒涛の一週間であった。前のように何気なく外にでる事はできなくなってしまったし、城の中の者達はまだ王になっていないユウトをみるなり深く頭を下げる始末。正直一瞬にして自分の人生が変わってしまった事に体も心も追いつかない日々が続いた。

 そして自分が王になるという事とは別にユウトを驚かせた事がもう一つあった。


≪おう、どうやら元気そうだな≫


それはムスバムが王の間を去った直後であった。突然ユウトの頭に響く声。


「え……この声……まさか!」


≪そう黒竜ダークドラゴンにして竜帝である二コラ……≫


「ニコさん!」


その声の正体は人類が未熟であった時代、ガイアスという世界を支配していた竜族ニコラウス、通称ニコであった。

 名乗りに割り込み声を張り上げるユウト。


≪お前……俺をその名で呼ぶなと言っただろう!≫


「い、痛い痛い!」


頭に響き渡るニコの叫びに悶絶するユウト。


「……べ、別にいいじゃないですか! ……呼び方なんて」


≪良くない! 偉大な我がニコなどと呼ばれていては威厳が無いではないか!≫


ニコは自分がニコと呼ばれる事を嫌っている。しかしニコを知る者達の殆どはニコと呼ぶ。


「威厳も何も……人の体に寄生している時点で無いと思います……ん?」


ニコに対して自分の体に寄生している時点で威厳なんて無いと言いかけた所でおかしな事に気付くユウト。


「あれ? ……ニコさんってビショップさんの中にいたんじゃ……」


≪だから我をニコ……ぐぅ……これでは話が進まん……とりあえず話を続ける≫


再び自分をニコと言ったユウトを怒鳴ろうとしたニコ。だがこのやり取りを続けていると話が進まないと思ったニコは怒りをかみ殺し、話を続ける事にした。


≪奴が消える瞬間、奴は我をお前の中に送り込んだのだ、お前の命を守る為にな≫


「え……?」


伝説の本ビショップの最後。ユウトはビショップが消えた事を覚えていない。それはユウトが先に力尽きたからであった。


≪お前が力尽きた後、ビショップは我に言った……ユウト坊ちゃんを頼むと……珍しく頭まで下げて……我はその姿に呆気に取られてしまった……その隙にビショップは我に封印を施しお前に我を移し替えたのだ≫


悔しそうにそう話すニコ。


ビショップが頭を下げるなど前代未聞だからな……我が隙さえ見せなければ今頃我は自由にガイアスの空を駆け抜け人間が住む町を一つ二つと数えながら消滅させる遊びができたというのに……≫


更に悔しがるニコ。


「なんてものをビショップさんは僕の中に……」


顔を引きつらせるユウト。


≪だがビショップに感謝せよ人間、ビショップが我をお前に移した事によって今お前は何の後遺症も無く生きているのだからな……≫


「後遺症……生きている?」


ニコの言葉に首を傾げるユウト。


≪我がお前の中に入らなければお前は死んでいた、もし生きていたとしても何も見る事も考える事もできぬ体になっていただろう……≫


あの戦いでユウトが負った傷はそれほど深いものであったというニコ。


≪だが我の生命力があれば何の問題も無い、考えたくはないがビショップは全て見越していたのだろうな≫


「……ビショップさん」


ユウトとビショップが一緒にいた時間は短い。殆どお互いの事を知らないまま戦いに入りそして別れていったユウトとビショップ。そんなユウトに対してビショップは自分が出来る限りの事を残していったという事に気付いたユウトの目から涙が溢れだす。


≪ふふふ、感傷に浸っている暇などないぞ人間≫


「え?」


零れる涙を拭いながらユウトはニコの言葉に反応する。


≪我は人の心の暗い部分を喰って力を増していく……意味分かるな?≫


「……ッ!」


ニコの言葉に動揺するユウト。


≪王という地位は暗い部分が深そうだ……我の力が増すのも早そうだな……≫


深く暗い笑い声をあげるニコ。


「そ、そんな事、絶対させませんよ! それに僕はまだ王になるなんて言ってません」


≪まあ、どっちだろうと我には関係無い事……人間とは必ず心に暗い影を持つ生物だからな……≫


「くぅ……!」


ニコの言葉をはっきり否定できないユウト。


≪……まあ我に力を与えたくないというのならば……精々心に暗い影を落とさぬよう生きていく事だな……なっはははははははは!≫


そういうとユウトの頭に五月蠅い笑い声を残しニコは影を潜めていく。


「……恐ろしい事言っている割にちゃんとアドバイスはくれるんだな、ニコさん」


恐ろしい相手ではあるが、憎めない相手だとニコは微笑むのであった。




(正直僕は王なんて器じゃない……でも僕を支えてくれると人、僕を守ってくれる人の為に僕は……)


割れんばかりの歓声が響き渡るガウルド城、城門前。姿を現した新たなヒトクイの王を前にして城門前に集まったヒトクイの人々の熱気が漂う。


「皆、静粛に!」


ムスバムの通る声に歓声の響き渡っていた城門前は一瞬にして静寂に包まれる。


「今日この日、ヒトクイという国に新たな王が誕生する! 異論が無ければここに負わす者に盛大な歓声を!」


「……」


静寂が続く城門前。ユウトはその静寂に耐えきれないとばかりに目を瞑る。しかし次の瞬間。


「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」」」」」」


先程を上回る人々の歓声が響き渡りガウルド城門前を包み込んでいく。この日、ヒトクイに新たな王が誕生した瞬間であった。

 その後60年もの間、ヒトクイは繁栄を続けガイアスという世界の中で大きな存在感を持った国となっていくことになる。ヒトクイは侵略せずという国の方針は一切変える事無く周辺国との良い関係を築きあげたヒトクイに攻め入ろうとする国は一つも無く、ユウトが安らかに天に召されるまで一度も戦争は起こらなかったようであった。

  

 

ガイアスの世界


ユウトが王になったヒトクイのその後


ユウトが王に即位してから約六十年の間勤めあげることになる。その間小規模な戦いはあったものの大きな戦争などは一切おこらず、ヒトクイを平和を守り抜く事になる。

 立派に王としての役目を果たしたユウトは66歳でその生涯をとじる事になった。その日はヒトクイ中が悲しみの涙に包まれたという。

 余談ではあるがガウルドにはちょっとした噂がある。夜な夜なユウトに似た男がガウルドの繁華街で酒を飲み暴れているというものだ。これはユウト生きている時からある噂で死んだ後も目撃者は絶えない。

 まだユウトは王は生きている。そんな噂がヒトクイ中に広がっているようだ。しかしユウトの性格上酒を飲んで暴れるというのは少し折り合いがつかないように思える。もしかするとユウトが死ぬまで一切姿を現さなかった黒竜ダークドラゴンの仕業……だったのかもしれない。


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