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伝説の武器が装備できません  作者: 山田二郎


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最後で章 35 4分30秒の戦い

 ガイアスの世界


 結界世界の時間の流れ。


結界世界はガイアスで流れる時間よりも遅い。ガイアスでの1分が結界世界での約3分である。


 最後で章 35 4分30秒の戦い



 人の感情によって消滅の道を進みだす世界、ガイアス



 レーニが作り出した結界世界の中に飛び込んだスプリング達は、結界世界に閉じ込められた『絶対悪』を探すため暗闇の中を駆け抜けていた。周囲は暗闇で視界は悪い。しかし幸いにも他に目立ったものは無くただ地面があるだけといった世界であり何かにぶつかるというような状況は今の所無かった。

 だがその暗闇は『闇』の力を持つ者によっては身を隠すには最も適した場所でもあった。


「来ます!」


スプリング達に合図を送るブリザラ。それと同時にブリザラはスプリング達の前に出て伝説の盾キングを構える。するとまるで暗闇から伸びてきたような黒い触手がキングにぶつかり弾かれる。


「もう、鬱陶しいな!」


キングによって弾かれた触手を大槍で串刺しにするソフィアは、全く見通せない視界に文句をたれる。しかし言葉の割にその動きは的確に黒い触手を捉えていた。


『凄いてすよソフィア様! こんな視界の悪い中、的確に貫けるなんて! 素晴らしすぎる!』


ソフィアの全身に纏われた簡易型伝説の武具ナイトは、暗闇の中でも戦闘力が落ちないソフィアを褒めちぎる。


「……全く見えない……でも見える……」


矛盾した言葉を口にしながら自分を襲う触手を的確に大槍で貫くソフィア。自分の目に起こった異変に驚く暇も無いほどに現在攻撃の要としてソフィアはブリザラ達の周囲を飛び回り駆け抜けていた。


「ソフィアさん、もう普通に世界を見る事を捨ててください、その目は物から発せられている波動を感知する力、波動を頼りに動いてください!」


ソフィアの目が真紅に染まっている事に気付いたブリザラはそう言い終えるとソフィアを真紅に染まった神の目で追う。


「うん、わかった! ありがとうブリザラ!」


触手と戦いながら神の目について説明してくれたブリザラに礼を言うソフィア。しかしそのブリザラの説明が必要ないほどに今のソフィアは、暗闇の中、縦横無尽に動き回り自分達を襲って来る触手を次々と貫いていく。


『……王よ……あの様子なら何も言わなくてもよかったようだな』


「……みたいだね……」


驚異的な速度で神の目に順応していくソフィアの姿に驚きを通りこして苦笑いを浮かべるブリザラ。

 的確に触手の位置を確認できている二人とは違い神の目を持たないスプリングは暗闇の中、苦戦を強いられていた。

 どこからともなく出現する触手をギリギリ避けることが精一杯で攻撃に転じる事が出来ないスプリングは苦虫を噛み潰した表情をしていた。


「くぅ……ポーン、クイーン、どっちでもいい、何かこの状況を打開する方法はないか?」


暗闇から突然襲って来る触手を今までの経験と勘だけでなんとかかわし続けるスプリングは、自分が手に持つ伝説の武器ポーンと自分が身に纏う伝説の防具クイーンに何かこの状況を打開する方法は無いかと懇願する。

 そんな隙をついてスプリングの目の前に大きな触手の先が詰め寄ってくる。


「スプリングさん!」


鈍い音を響かせたと同時に跳ね上げられた触手が暗闇の中に消えていく。


「わ、悪い、助かった……」


触手とし自分の前に割って入るようにして姿を現したブリザラはスプリングに向かってきた触手を手に持つキングで跳ね上げていた。


「よっこらせ!」


スプリングの目には暗闇に消えていったように見える触手を手に持つ大槍で一突きにするソフィア。


『ない事も無いが』


「何かあるのか?」


必至で触手を回避しながらスプリングはポーンの言葉を待つ。


『火の魔法で周囲を照らせばもしくは……』


「なるほど火の魔法か!」


『ちよっと待ってくださいスプリングさん』


ポーンの助言を素直に試そうとするスプリングを慌てて止めるクイーン。


『火の魔法で周囲を照らせば確かに触手の姿を捉える事はできるかもしれません、でも常に火の魔法を使い続ければ、スプリングさんの精神力が削られる事になります、今は少しでも温存できるものは温存しておくべきだと私は思います』


『そうなのだ主殿よ……だからなるべくこの案を採用しては欲しくない』


火の魔法で暗闇を照らすのはいいが、火の魔法を継続して使えば、その分スプリングに負担がかかる。そうなれば、いずれ対峙するであろう死神との戦いに支障をきたすことになる。そんな理由でクイーンはスプリングが魔法を使う事を反対する。歯切れの悪かったポーンもクイーンの意見に賛成のようでできるならば魔法を使ってほしくは無いとスプリングに伝える。


「確かに……でもどうしたらいい、このままただ避続けていても……」


スプリング達には急がなければならない理由がある。いち早く死神を見つける為にも攻撃できる者の数は多いほうがいい。スプリングは早急な決断を迫られていた。

 しかし決断をさせないというように再びスプリングに襲いかかる触手。しかも不味い事にスプリングは体勢を崩し迫りくる触手を回避できない状況にあった。


「スプリングさん!」


体勢を崩したスプリングと触手に割って入るブリザラは、キングを振りかぶりスフリングに襲いかかる触手を弾き飛ばす。


「大丈夫てすか、スプリングさん」


スプリングが窮地を脱した事を確認するとブリザラはスプリングに声をかけた。


「はあ……くぅ……悪い……」


自分の不甲斐無さに嫌気がさしてくるスプリング。それと同時にあの時、結界世界へ一人で向かわなくてよかったと安堵するスプリング。

 結界世界に突入する前、ソフィアやブリザラをこれ以上危険な目に合わせられないと最初自分一人だけで突入しようとしたスプリング。この暗闇の中襲って来る触手に手も足も出ない自分の考えが甘かったと痛烈に実感していた。


「へへ! 私を連れてき正解でしょうスプリング!」


今までスプリングの背に隠れて戦う事が多かったソフィアは、こんな状況でありながらもスプリングの前で戦えるという状況が今までの努力が無駄では無かったと言っているようでうれしさが込み上げてくる。それと同時にガウルドの墓地で数百という歩死人ゾンビと対峙し戦った時の事も思いだしていた。


「くそ、こんな状況になるなんて……」


ソフィアに守られる日がこようとはと触手を必至で避けながら落ち込むスプリング。


「落ち込まないでください、スプリングさん、レーニさんの言葉通りならスプリングさんは死神を討ち取る為の要です、それまでは全力で私達が守ってみせます」


ソフィアとは反対にしっかりとスプリングを持ちあげる事を忘れないブリザラ。


「あ、ありがとう……ブリザラ……」


ブリザラの優しさに礼を言うスプリングではあったが内心では複雑な気分であった。サイデリーの王に守られる自分。こんな話アキやサイデリーの国の人々には絶対口が裂けても話せない事である。


「くぅ……今はそんな事しどうでもいい……どうするどうすれば……」


 落ち込んだ気持ちを切り替えるように、ソフィアとブリザラの背を見つめながらスプリングはこの状況をどうにか出来ないかと思考をめぐらせる。すると突然スプリングの耳元に声が響く


― 我らが力を貸そう! ―


女性の声でありながら熱を持った猛々しいその声は、スプリングの耳に囁くとスプリングの胸の奥が熱く鼓動を始める。


「これは……」


一瞬何が起こったのか理解できないスプリング。だが次の瞬間、自分の中で炎のように滾る力が存在している事に気付いたスプリングは、納得したように頷くと剣聖の代名詞と言っても過言ではない数十本にも及ぶ剣を一瞬にして自分の背後に作り出した。


『主殿、何をする気だ?』


突然のスプリングの行動に疑問の声をあげるポーン。


「精神力を使わずこの場を明るくする方法を見つけた!」


『それは本当ですか!』


スプリングの言葉に半信半疑であるクイーン。


「ああ、まあ見てろ……成功するかは分からないけど、な!」


そう言うとスプリングは、己の中で滾るその力の流れに身を任せる。すると自分の背で浮遊する何十本もの剣にその力が伝わっていく。滾る力がスプリングの体から離れ何十本もの剣に伝わると剣はみるみるうちに炎に纏われていく。それは暗闇を照らす松明のようにスプリングの周囲を明るく照らす。


『す、凄い』


激しく燃える炎を纏った数十もの剣が周囲を照らす光景に驚きの声を漏らすクイーン。


「いけッ!」


合図と共に、スプリングの背で浮遊していた炎を纏った剣は、四方に散らばり地面へと突き刺さっていく。すると暗闇であったその場所は松明の炎によって暗闇を掻き消し、触手の輪郭を現していくのであった。


『そうか! 精霊の力か!』


スプリングの機転に声を跳ね上げるポーン。


『これならスプリングさんの最小限の精神力の消費で周囲を明るくする事ができますね』


カラクリに気付いたポーンとクイーンは頷くように声をあげる。


「ど、とういう事ですか?」


すこし幻想的な光景に見惚れてしまいそうになるブリザラは、すぐさま頭を戦いに戻しながらスプリングに説明を求める。


「今俺の中にはガイアス中の精霊達が宿っている、その中から火の精霊の力を借りたんだ……精霊から力を借りれば精神力の減りは魔法よりも少ない」


自分の精神力や想像によって具現化させる魔法よりも、元々それそのものである精霊から力を借りるほうが、精神力の消費は少ない。従い魔法で火を作り出し灯りにするよりも負担がかからないとスプリングは説明を加える。


「これで俺も戦える!」


暗闇を炎でかき消し視界が広がったスプリングは、すかさず自分に向かって襲いかかってきた触手をポーンで切り落とす。水を得た魚とい言葉通り灯りを得たスプリングは、今までの鬱憤を晴らすように目に入った触手を次から次へと切り落としていく。


「いい加減姿を現せ、死神!」


灯りが灯った事でその場に死神が居ない事を理解したスプリングは、どこに居るのか分からない死神に向けて叫ぶ。状況は好転したものの、姿を現さない死神に内心焦りを感じているスプリングは、挑発するように死神に向けて叫ぶ。

 スプリング達には時間が無い。スプリング達に残された時間は約4分30秒。それがレーニから結界世界を引き継いだユウトと伝説の本ビショップが維持できる限界時間であった。それを超えれば、スプリング達が現在いる結界世界は消滅し外に死神が姿を現す事になる。そうなれば現在絶たれている死神への負の感情の供給が再開され死神は再び無尽蔵とも言える力を取り戻してしまうことになる。そうなれば勝機は失われスプリング達の敗北を意味することになる。そうなる前に決着を付けなければならないスプリングは焦りを胸の奥に隠し死神がその姿を現すのを待った。


(……ポーン後時間はどれぐらいだ?)


小声で残された時間をポーンに聞くスプリング。


≪外の時間では後約3分程度、この世界では後10分といった所か≫


どういう原理なのか分からないが、結界世界で流れる時間は、外の時間に比べ進むのが遅くなっている。しかし制限時間がある状況に変わりは無く刻々と迫る制限時間に現実を突きつけられたようにスプリングは奥歯を噛みしめた。



「出てこい死神!」


そして内に秘める焦りは言葉となってスプリングの口から吐き出される。


「……ふふふ、焦りが見えますね……まあいいでしょう、暗がりから触手でいたぶるだけでは面白くありませんよね、ならば姿を現すとしましょう」


 暗闇に響き渡る人の勘に障る高い声。自分達を嘲笑うようなその声には余裕さえ感じ取れる。それがスプリング達では自分に勝てないという余裕からくるものなのか、それとも結界世界に制限時間がある事を知っているからなのかスプリング達には分からない。しかしスプリングの誘いにのるようにして声の主は、自分の姿を現すと宣言した。どこから現れるのか分からないその声の主に警戒心を強めるスプリング達。

 するとスプリング達の周囲の暗闇が一瞬にして消え去った。スプリング達の目の前にはただ地面が続くだけの寂しい世界が姿を現す。


「なッ!」


 しかし結界世界の光景を眺める暇も無くスプリングの影から髑髏顔が姿を現すと、死神が持つような『闇』を纏った大鎌をスプリングの首目がけて横に薙いだ。

 鈍い音が響く。突然の奇襲に反応が遅れたスプリングの首には死神の放った大鎌が直撃していた。だがスプリングが纏う伝説の防具クイーンが大鎌からスプリングの首をギリギリの所で防いでいた。しかしその衝撃は凄まじくスプリングの体はその衝撃に耐えられず吹き飛ばされる。吹き飛ぶ体を強引に曲げ衝撃を殺したスプリングは地面に着地するとすぐに姿をはっきりと現した死神に視線を向ける。


「流石ですね……」



スプリングを褒めるような言葉を残し影の中へと姿を消して行く死神。すると次の瞬間には触手を弾き飛ばしたばかりのブリザラの前に姿を現していた。


『王よ不味いぞ!』


触手をキングで打ち上げたばかりのブリザラの体勢は、隙だらけになっており死神はその隙目がけて大鎌を振う。


「させないよ!」


間一髪の所でブリザラの下に凄い速度で駆け寄ったソフィアは大槍で死神の大鎌を弾く目にも止まらぬ速さで死神の胴体を大槍で貫く。


「ゴフゥ!」


貫かれた死神の髑髏顔からはまるで血のような黒い液体がしたたり落ちる。だがまるでその黒い液体自体が意思を持つようにウネウネと動き出すと、目の前にいるソフィアへ纏わりつこうと飛びついて行く。危険であると判断したソフィアはその場からブリザラと共に後方に飛び死神から距離をとろうとする。


「えっ!」


ブリザラはその場から離れられたものの、ソフィアは大槍に木の根のように纏わりついた死神の所為で後方に飛ぶ事が出来ずもがいていた。


「ソフィア大槍から手を離せ!」


しかしスプリングの叫びも空しく、ソフィアが大槍を手放す暇も無く死神の一部はソフィアの手に絡みつき大槍を手放せないように拘束する。


「ふふふ……離しませんよ」


自分を大槍で貫いたソフィアに死神は不気味な笑い声をあげるとソフィアの体にゆっくり纏わりつき締め上げる。


「あぅぐぅうううううう!」


全身に纏わりつく死神の締め付けに苦痛の声をあげるソフィア。しかしまとわりついた死神の攻撃は物理的な苦しみだけでは無く自分が目を背けたい光景が映し出されソフィアを苦しめる。


「やめ、て……ご、ごめんなさい……ごめ……」


ソフィアの心に映し出される目を背けたい光景、それはガウルドの人々が傷つき倒れていく姿であった。ソフィア自身の心に深い傷として残る罪。例えそれが死神に操られていたとはいえソフィアは自分のその手で何の関係も無いガウルドの人々を傷つけてしまった。その心に負った傷を死神は利用していた。


「くぅ……どうすればいい」


ソフィアに纏わりついた死神をどう対処していいのか分からず苦しむソフィアの顔を見つめる事しか出来ないスプリング。


『迂闊に近づけば主殿も死神の幻惑にかかる可能性がある、近づくな』


ポーンの忠告にソフィアに駆け寄ろうとしていた足を止めるスプリング。


「くそッ……このままじゃソフィアが!」


ソフィアの心が本当はボロボロである事をスプリングも理解している。そんな状態のソフィアの心にこれ以上の負荷が加われば間違いなくソフィアの心は壊れる。そんな事は絶対にあってはならないと、スプリングは覚悟を決めソフィアの下へ歩き出そうとする。その時であった。


― 大丈夫、僕達にまかせて ―


スプリングに囁く声が再び聞こえる。しかし先程の猛々しい女性の声とは違い今度は無邪気で風のような子供の声であった。その声を聞いた瞬間、スプリングの内側には優しくも強い力を持った風が吹き抜けていく。


「……分かった」


自分の中に宿った先程とは違う力に気付いたスプリングは、再びその力に身を委ねるスプリング。すると力はスプリングの体を伝わって手に持つポーンに宿っていく。その瞬間ポーンの周囲には荒々しい風が吹きはじめる。


「……行くぞポーン!」


猛々しい力をポーンから感じ取ったスプリングは、確信にみちた声で伝説の武器の名を叫ぶ。


『ああ!』


その叫びに呼応するように返事を返すポーン。


荒々しく周囲に巻き起こっていた風はポーンを中心にして集束していく。


「くぅ……!」


荒ぶる風を纏ったポーンはスプリングの手で暴れるようにガタガタと震えだす。滅多に両手で剣を握らないスプリングは暴れるポーンを抑える為に両手でポーンを握る。


「うおおおおおおおお!」


叫びと同時にスプリングは荒ぶる風を纏ったポーンを両手で力一杯にソフィアと死神に目がけて振り下ろす。その瞬間、ポーンの剣先からは嵐でも起こったというような強烈な突風が発生し地面を抉り巻き上げながらソフィアの体に纏わりつく死神に直撃する。


「な、何……何だとぉおおおおおお!」


ソフィアの体に纏わりついていた死神は突風の威力に負け細かく切り刻まれながら剥がされ木の葉のように上空へと舞い上げられる。


「えっ?」


我に返ったソフィアの頬を心地よい風が撫でる。


「ソフィア大丈夫か?」


完全にソフィアの体から死神が剥がれた事を確認したスプリングは、ソフィアの下へ駆け寄る。


「……な、なによ今の……私に攻撃するなんて正気?」


自自分の心に起こった変化に戸惑いながらソフィアはスプリングの声で我にかえると自分に目がけて攻撃したスプリングに怒りを露わにした。


「わ、悪い、こうするしか無かった、でも怪我してないだろ?」


怒るソフィアに平謝りしながらも体には傷一つついてないだろと言い訳するスプリング。そう言われ自分の体を調べるソフィア。


「うぅ……確かに……」


自分の体に擦り傷一つついて無い事に気付くソフィア。なによりスプリングが死神に放った強力な突風は、ソフィアの体を避け、死神だけを排除していたようにソフィアには感じられた。だがスプリングは知らない。スプリングが風の精霊の力をかり放った突風が、ソフィアの心の傷をも吹き飛ばしていた事を。

 ソフィアの頬を心地よい風が撫でた瞬間、自分の罪を赦すと誰かに言われたような気がしたソフィアの心が軽くなった事を。


「そんな事より!」


「ちょ、ちょっと人に攻撃しておいてそんな事よりってどういう事よ!」


 表情がすっきりとしたソフィアは、自分の事をそんな事で片付けてしまったスプリングに再び怒りを露わにする。しかし今スプリングにはソフィアの変化に気付くほどの余裕は無かった。ぷんぷんと怒るソフィアから視線を外したスプリングはソフィアから引き剥がされ切り刻まれた死神の行方を視線で追う。


「まさか……ガイアス中の精霊の力を手に入れるとは……」


そこには体の半分を失った死神の姿があった。しかしこうしている間にも死神の体は元に戻ろうと再生していく。


「チィ……」


着々と体を再生させる死神に舌打ちするスプリング。


(不味い……このままじゃ勝てない)


例え結界世界によって負の感情の供給を絶とうとも、どれだけスプリングが強力な力を手に入れようとも、目の前の死神はその上を行く。


(今の俺には何が足りない……)


自分の力が死神に届いていない事、すでに自分達に時間が残されていない事に更に焦りが増していくスプリング。

 結界世界にスプリング達が突入してからすでに外の時間で2分以上、結界世界では6分経過している。残された時間は僅かである。後数分も無い時間の中で死神を討ち取らなければと、スプリングの肩にはガイアスの命運が圧し掛かってくる。


(どうする……どうすれば)


刻々と進んで行く時間の中で、死神を討ち取る方法を見つけなければならないという絶望的な状況の中、それでも諦めずこの状況を打開する手段は無いかと考えるスプリング。その時であった。

 突然の轟音と共にスプリング達の前を凄い速度で大きな光の塊が横切っていく。


「な、なんだ!」


その光の塊はスプリングが作り出した炎を纏った剣の灯りでは届いていない結界世界に広がる暗闇を喰らっていくように周囲を明るく照らしていく。


≪グオオオオオオッ!≫


突然の獣のような咆哮と共に姿を現す光の塊は、その場で唖然とするスプリング達を差し置いて真っ直ぐに死神の下へと突き進んでいく。


「騒がしい獣ですね……」


完全に再生した体を確認しながら迫ってくる光の塊に対して静かに呟く死神は自分に向かって来る光の塊をけん制するように周囲から触手を生み出し光の塊へと向かわせる。


≪やっと見つけたぞ! 死神ィイイイイイイ!≫


獣のような咆哮をあげていた光の塊が突然人語を喋る。それと同時にその場にいたスプリング達は、その光の塊の正体が何者であるかを知った。


「ガイルズ!」


向かって来る触手などお構いなしに死神へと突っ込んでいく光の塊の名を呼ぶスプリング。


「面倒ですよ、あなたは」


光の塊が死神に突進する瞬間、死神は片手を前に出し光の塊の動きを止める。


「なッ……あれがガイルズ……」


動きが止まった事によってその姿がはっきりとした光の塊の正体に驚きの声を上げるソフィア。


「……『上位聖狼ハイセイントウルフ』……『闇』を討ち滅ぼす獣……」


少し離れた所からスプリング達の下に駆け寄ったブリザラは、全身が銀色の毛で覆われ爪や牙までもが銀色に輝く巨大な狼の名を口にする。

 

≪強い奴は誰も俺の相手をしてくれない……お前は、お前なら俺の相手をしてくれるよな死神ィイイイイイ!≫


『闇』という存在を討ち滅ぼす為だけに人が作り出した獣。それは数百年前に『闇』に虐げられた人々が『闇』を滅ぼすために怨念をこめて作り出した兵器であった。その力をも凌駕する上位の存在である『上位聖狼ハイセイントウルフ』は獲物を狩るような鋭い目で、自分の動きを片手で封じた死神を見つめる。


「私、理性を失った獣には興味ありませんよ」


死神はそういうと何処からともなく大鎌を出現させ『上位聖狼ハイセイントウルフ』の喉元に突き立て引き裂いた。


「ガイルズ!」


そう叫びながら『上位聖狼ハイセイントウルフ』の下へ走り出すスプリング。しかし飛び出したスプリングの目には驚きの光景が映っていた。


「がぁああああああああ!」


 飛び散る『上位聖狼ハイセイントウルフ』の血。しかしその血さえもが『闇』を滅ぼす為の武器だと言わんばかりに、『上位聖狼ハイセイントウルフ』の首からしたたり落ちる血が体に付着した死神を苦しめていた。


≪グゥオオオオオ!≫


首が裂かれているにも関わらず『上位聖狼ハイセイントウルフ』は死神の肩に喰らいつくとその首を激しく揺らし上下に死神を振り回す。


「がぁあああああああ!」


すると『上位聖狼ハイセイントウルフ』の歯が突き刺さる肩が焼けただれていく。その痛みに死神は更に苦しみ悶える。


「す、凄い……」


あの死神を圧倒する力を持つ『上位聖狼ハイセイントウルフ』の姿に茫然と立ち尽くす事しか出来ないスプリング達。


≪おら、どうしたお前はこの程度か!≫


死神を喰らいながらまるで玩具で遊ぶように上へ下へと死神の体を振り回す『上位聖狼ハイセイントウルフ


「ゴフゥッ!」


上下に振り回された地面に叩きつけられた死神の髑髏の顔にヒビが入る。『上位聖狼ハイセイントウルフ』によって噛み千切られた体は下半身を失っていた。


≪まだだ、まだ終わりはしない……立て立って体を再生させろ、そして触手を出して俺に攻撃をしかけてこい、お前のお得意な幻術で俺を惑わせてみせろ、さあはやくはやくはやくはやくはやくはやく!≫


もはやその獣を聖獣と呼んでいいものかという光景がその場には広がっていた。


≪どうした? まだ再生しないのか? はやく早くだ! 俺は強い奴を欲している! お前はその程度じゃないだろう……早くだ!》


そう言いながら地団駄を踏む『上位聖狼ハイセイントウルフ』その衝撃で死神の体は潰されそこには黒い塊だけが残っていた。


「……はい、という感じでうるさい獣には幻術を見て貰っています」


「ハッ!」「えっ!」「なッ!」


死神が手を鳴らすと同時に、我に返ったスプリング達。今まで自分達が見ていた光景が死神が作り出した幻術だとだということに気付き、死神に視線を向ける。


「……!」


しかしスプリングの視線は死神に向かわずその前で倒れている何かに向かう。そこにいたのは四肢をもがれ地面に倒れるガイルズの姿であった。言葉を失うスプリング達。


「さあこれでちゃんと私の強さを理解していただけたと思います……例え『上位聖狼ハイセイントウルフ』であろうと結界世界で負の感情の供給を止められようとも、あなた達が理を外れし者であろうとも、神の目を持つ存在が二人いようとも、ガイアス中の精霊の力を一つにしようともあなた方と私の差は埋まらない、埋まらないのですよ……アッハハハハ!」


その場の者達の絶望の顔に酔いしれ心の底からの笑い声をあげる死神。


「さぁ……あなた達に残された時間は後何分でしょう? 時間まで……何をして遊びましょうか?」


スプリング達との戦いを遊びだと言い放つ死神は楽しそうにはしゃぐ。


「くぅ、もうこうなったら!」


大槍を死神に向けるソフィア。


「待て……」


ソフィアの前に手を出し死神に突っ込んで行こうとするのを止めるスプリング。


「あら? 駄目ですよ、折角遊ぶ意思がある人を止めちゃ」


「……」


それは一瞬だった。近づいた事すら分からなかったスプリングは自分の後ろで水が弾けるような音を聞く。


「……」


「ガッ……」


ソフィアを止めた腕に何か水のような物がかかった感触を感じたスプリングは、その腕を確認しようと恐る恐る自分の視界に腕を持っていく。そこには真っ赤に染まった自分の腕があった。


「はぁ……そ、ソフィアさん……」


何かに怯えるような視線で自分の後ろを見つめるブリザラの視線に誘導されるようにスプリングはゆっくりと振り返った。


「……ッ」


「ス……スプ……リング……」


そこには簡易型伝説の武具諸共腕を切り落とされ、腹部に大きな穴のあいたソフィアの姿があった。


「そ……ソフィア?」


目の前で何が起こっているのか分からないスプリングは顔を引きつらせながら小首を傾げる。


「スプリングさん!」


ブリザラの悲鳴のような叫びと共にスプリングの前に姿を現す死神は、手に持つ大鎌を振り上げ、そしてその大鎌を振り下ろすのであった。



― ガイアス ユウラギであった場所 ―


 人一人が入れる程であった結界世界への入口は今では一つの小さな島が入ってしまうほどの大きさへと拡大していた。それは即ちユウトや伝説の本ビショップの限界が近い事を現していた。


「……ま、まだ……終わらないんですかね?」


苦悶の表情を浮かべ、結界世界の維持に集中するユウトは、この苦痛がまだ終わらないのかとビショップに聞いた。


『どうやら……まだ……のようですね……』


いつもヘラヘラとしているビショップの声にも余裕は見られない。


「僕、頑張りましたよね……」


『はい、ユウト坊ちゃんは頑張りましたよ……』


ビショップの中に取り込まれた黒竜ダークドラゴンの生命力も限界を迎えユウトは力を使い果たしていた。


「……僕このまま何も出来ずに死んでしまうのでしょうか?」


『……』


ユウトの言葉に何も答えないビショップ。


「ねぇ? ビショップさん……聞いてます?」


『……ええ……聞いていますよ』


「ねぇ? ……ビショップさん……僕……この戦いが終わったら……旅に出るんです」


『旅……ですか……』


とぎれとぎれになるユウトの言葉を拾い頷くように相槌を打つビショップ。


「……ガイアスという広い世界で……僕は……ちっぽけな存在でしかないけど……僕もガイルズさんのように強い人になりたいんです」


意識か混濁している中でも自分が憧れる男の名だけはしっかりと口にするユウト。


『……大丈夫あなたならそのガイルズという人すら超える存在になれますよ』


ビショップは本当の事を口にしていた。今はまだ実力もその心構えも半人前であるユウト。しかしビショップは知っている。『不正チート』という能力を使わずともユウトは、磨けば磨くだけ輝く存在だという事。なぜなら


『あなたはユウトなんですから……』


「……なんですか……それ……ビショップさんって変な人……ですね」


ビショップの言っている事がよく分からず苦笑いを浮かべるユウト。


『私は……人ではありませんよユウト坊ちゃん……』


「……」


言葉を発しなくなったユウトは静かにその場に倒れ込んだ。


『……ユウト坊ちゃん、よく頑張りましたね、丁度今……4分30秒を超えましたよ』


4分30秒。維持できる時間を過ぎ、結界世界は崩壊を始める。それはまるで地獄の蓋が開くように終わる世界が始まろうとしていた。


『……今回も……無駄だったようですね……』


― いや、今回で終わらせる…… ―


崩れ始める結界世界へと高速で何かが飛び込んで行く。ビショップはその飛び込んで行く何かを見送ると静かに意識を別の場所へと移し伝説の本としての生涯を終えるのであった。




ガイアスの世界


精霊を召喚すると精霊から力を借りるの違い


ガイアス中の精霊の力を内包したスプリングは、精霊の力を借りる事によって暗闇に火をともしたり、突風を発生させたりした。

 しかし本来精霊は召喚するもので力をかりるものでは無い。召喚士が精霊を召喚する事によって精霊の力を使うのである。しかしスプリングは精霊の力を借りていた。この違いは似ているようでかなり違う。

 召喚士が精霊を召喚する場合、自分の精神力を使い精霊を召喚する。精霊の力が強ければ強いほど精神力を使う。

 だがスプリングのように借りるというのは精霊事体に力を借りるという事で、そこに殆ど精神力は関与してこない。

 なぜスプリングが精霊から力を借りる事ができたのか、それは精霊の神子であるテイチの力を吸収したからに他ならない。

 精霊の神子は、召喚士のように精霊を召喚する必要が無く、精霊から直接力を借りる事ができる。だからこそ常に精霊を常に実体化させられるという訳だ。

 勿論状況に応じて精霊の神子が精霊に精神力を分け与える事も可能である。


※ 私用でドタバタしておりまして、今回の話はいつも以上に分かりにくくそしてやっつけになっております。本当に申し訳ありません。近い内に(いつになることやら)できる限り修正をしていきたいと思っています(汗


 遅くなりましたが明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


                                      山田二郎


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