エピローグで章 最終話 伝説の武器は装備できません
ガイアスの世界
裏設定
『純粋悪』は人が持つ負の感情を吸い上げるだけでは無く、ガイアスの寿命も管理していました。
『純粋悪』が失われたガイアスは、他の世界同様に寿命が存在するようになり緩やかではあるが滅びの道を進むことになります。といっても後数万年後の話です。
後のガイアスでは『純粋悪』が失われた事によって争いの絶えない世界へと変わって行きます。戦争をしてどこかの国が勝ち支配する。それを繰り返す争いの世界(現実世界と変わらない)世界になっていきます。
それがガイアスの寿命に関係しているかどうかは定かではありません。
後のガイアスでは現実世界にある核のようなものは存在しているようです。
魔物について。
時の流れによって魔物達は姿を消して行きます。それが絶滅なのかそれとも人間には見えなくなったのかは定かではありません。ガイアスから魔法が消えていくように緩やかな速度で魔物達は消えて行き人間達はその存在を忘れていきます。獣人達も同様です。
エピローグで章 3 伝説の武器は装備できません
永遠を失い滅びへと向かい始めた正常な世界、ガイアス
「うおおおおおおおおおお!」
ガイアスを創造した三人の神の一人、双子神の片割れの力である『世繋神ノ縁ノ剣』を、負の感情をばら撒きガイアスを消滅させようとする『絶対悪』死神に放ったスプリング。
【消えたくない!】【恨みがぁあああああ!】【やだぁああああああ!】
『世繋神ノ縁ノ剣』を受けた死神の口からは、今までに取り込んだ負の感情の持ち主達の叫びが広がる。『世繋神ノ縁ノ剣』から溢れだす半透明の緑色の光は黒く滲みだす負の感情を浄化するようにかき消していく。
― ……ここまでだ兄貴……後は俺が引き継ぐよ…… ―
山々よりも大きな『世繋神ノ縁ノ剣』に押し潰されその姿が散っていく死神と負の感情を見つめながらスプリングの脳裏には思いがけない者の声が響く。
「……アキ……」
幼いころに生き別れ、お互いの存在を知らずに生きてきた双子の兄弟。兄は両親の仇を討つため、弟は自分の周囲に起こる理不尽な状況を覆すためそれぞれ強さを求めガイアスの地を巡った。
偶然かそれとも必然か全く別の場所で双子の兄弟は伝説と名の付く武器と防具を手に入れることになった。そしてその伝説の武具に引き寄せられるようにして巡り合う双子の兄弟の運命ははそこから全く正反対の道を辿ることになった。兄は世界を救う為に、弟は世界を滅ぼす為に己の力をふるったのだ。それはまるでガイアスという世界に残る昔話や伝説に出てくる世界を生み出した三人の神の話に酷似していた。
双子神の兄と双子神の弟は二つの陣営に別れ壮絶な戦いを続けていた。なぜ争うのかその理由は定かでは無いが眩い光を放つ双子神の兄と黒い炎のようなものを纏った双子神の弟は壮絶な戦いの末、対消滅することになった。それを見ている事しか出来なかった女神が二人の消滅を悲しんで対消滅の後に残った力の残り香をかき集め生み出したのがガイアスという世界だと言われている。
― 遥か昔から続くこの連鎖は俺だけでいい、あんたと……あいつはもう解放されるべきだ ―
しかしアキはまるで三人の神の物語をなぞる事を否定するようにスプリングに語り掛ける。
「な、何を言っている……くぅ……」
スプリングの頭に響くアキの言葉。しかしアキが何を言っているのか理解できないスプリングは、アキにその言葉の意味を問おうとした瞬間、突然体中から力が抜け意識が遠のいていく。
― あんたが引き寄せた縁は全て俺が貰っていく ―
朦朧とする意識の中スプリングは自分の体から伝説武具達が一つまた一つと消えていく光景を目の当たりにする。
「ま、まて! 今こいつらが居なくなれば……」
体中から力が抜けていくスプリングに抵抗する力は無く、言葉もアキには届いていない。
『申し訳ありませんスプリングさん……』
「く、クィーン」
他の仲間達が伝説武具に形を変えた中、唯一伝説の防具であり続けていたクイーンは、力が抜けていくスプリングに謝罪する。
「……クイーン……アキと何をする気なんだ……」
アキとクイーンの行動か理解できないスプリングは力なく叫んだ。
『……マスターが……あの人が私を呼んでいる……』
まるでアキに導かれるようにスプリングの体から離れていくクイーン。
「……な、何をする気だ! アキ!」
自分から離れていくクイーンを手で追いながらアキの名を叫ぶスプリング。
― あんたが『絶対悪』と運命を共にする必要は無いってことだよ ―
意識が途切れる寸前、スプリングの頭に響くアキの声。それは魔王というにはあまりに優しく響く言葉であった。視界が真っ暗になるスプリングはまるでその暗闇に飲み込まれるように意識を失うのであった。
「じゃあな兄貴……また……いつかどこかで」
力を失い空から落下していくスプリングを見つめるアキ。落下していくスプリングの体は半透明の緑色の光に包まれると同時に落下していた速度は緩やかになっていく。緩やかに落下していくスプリングの姿を見届けたアキは、その視線を絶叫する死神へと向ける。
「さあ……最後の仕上げだ伝説武具共、納得できない事もあるだろうが、ここは俺に付き合ってもらうぜ!」
そこには魔王の時のような無表情で冷静な姿は無く、感情豊かなアキの表情があった。しかしアキの言葉に対して返事をする伝説武具いない。だがその代わりに伝説武具達は行動でもってその意思を露わにする。アキの全身に纏われていく伝説武具達。
「これは俺の意思に同意したってことでいいんだな!」
自分の体に纏われた手甲と盾の伝説武具を見てアキはそう叫ぶと死神を切りつける巨大な剣を見上げる。
「……お前もそれでいいんだな!」
反応は無い。しかし死神に対しての攻撃はより一層激しくなる。それが剣の伝説武具の返事であった。
『みな……マスターの意思に同意しています……』
「ああ、伝わってくるよこいつらの強い意思が!」
伝説武具から伝わる強い意思を感じ取るアキは大きく頷くと伝説の防具であるクイーンを見つめる。
『……それではマスター……私も失礼します……ご武運を』
唯一伝説の防具に留まっていたクイーンは決心したようにアキに別れを告げる。
「……ああ、今まで色々と悪かったな……その……またな」
クイーンの言葉に頷くアキは、クイーンの言葉を心に刻む。そしてそれに答えるように再び出会える事を信じまたなと別れを告げた。
『……はい、必ず……マスター……愛しています』
アキと再会する事を誓うクイーンはアキに愛を囁きながらその自我を失っていく。クイーンは光を発しながら他の伝説武具と同じように物言わぬ伝説武具ジョブブレイカーへと形を変えていくのであった。
「……さあ、身支度はできたか死神! これから俺と永遠に続く地獄の旅に付き合ってもらうぜッ!」
全身にそして『絶対悪』死神を切り裂かんとする山々よりも大きな巨大な剣、全ての『伝説武具』を纏ったアキは両腕を天にかざす。すると眩い光を放っていた『伝説武具』達は緑色の光を放ち始める。その緑色の光は天に掲げられたアキの両腕を伝い『世繋神ノ縁ノ剣』へと注がれていく。緑色の光それは想いを力に変える月石の光。アキと伝説武具の想いの塊であった。
【や、止めろ……その力を私に……】
「おらぁあああああああああああああああああああああああああああ……!」
想いを力に変えた緑色の光。だがそれはアキや『伝説武具』だけのものでは無い。スプリングが今まで出会った人々、縁を結んだ者達の想いも注ぎ込まれている。アキはスプリングが結んで行った縁を感じながら、それを力に変換し皆の想いを死神へとぶつけるのであった。
【いやだぁああああああ、死にたくない!】
【死ねる……滅びる事ができるぅううううううううう!】
死神と負の感情に犯された理『絶対悪』が正反対の事を叫ぶ。それは『絶対悪』と死神の滅びに対しての考えの違いからくるものであった。
『絶対悪』は自分を含めた全てが消滅する事を望んでいた。それに対して死神は、自分以外の全て滅びる事を望んでいる。それが滅びを前にした両者の叫びの違いであった。
想いの力を含んだ緑色の光を纏った『世繋神ノ縁ノ剣』は、その勢いを増し死神と『絶対悪』を押し潰していく。
【【ギャアアア嗚呼亜アア嗚呼嗚呼嗚呼アア亜あ……!】】
重なるようにして聞こえる死神と『絶対悪』の断末魔の叫び。『世繋神ノ縁ノ剣』の刃先はガイアスの大地に向けられるとそのまま落下を開始する。死神を押し潰したまま『世繋神ノ縁ノ剣』はガイアスの大地へ突き刺さった。その瞬間、ガイアスには大きな揺れが広がっていく。その揺れは『世繋神ノ縁ノ剣』にまで伝わりまるで大樹に咲いた花が強風によって散っていくように緑色の光をガイアス中へと散らしていくのであった。
その日、死神と『絶対悪』の世界消滅の希望は潰え、ガイアスは平和を取り戻したのであった。
― 場所不明 ―
「……とりあえず、お疲れさまといっておくにゃ」
何処かで聞いた事のある声が誰かと会話をしている。その声が発する言葉には独特な語尾ついており意識を失っていたスプリングの意識を覚醒させていく。
「……ここは……」
仰向けで倒れているスプリングの目に映る目知らぬ天井。ガイアスの今の技術では造る事が出来ないと思うような印象を受ける天井であった。
「おッ! 目覚めたかにゃ世界を救った英雄!」
天井をぼんやりと見つめるスプリングの視界を遮るように猫型の獣人が覗き込んでくる。
「……ロンキ?」
「そう我はガイアス一の鍛冶師ロンキにゃ……久しぶりだにゃ伝説の剣の所有者さん」
明らかにその場には似つかわしくない人物、猫型獣人の登場に動揺を隠せないスプリング。しかしそれに反してスプリングの体は一切の行動を許されないというように硬直していた。
スプリングの顔を覗きこんでいたのは、自称ガイアス一の鍛冶師であるロンキであった。
「ああ、無理に動こうとしては駄目にゃ……今あんたは死んでいるのと同じような状態、無理に動けばすぐに魂の保管所に連れていかれるにゃ」
「……魂の保管所?」
聞きなれないロンキの言葉に聞き返すスプリング。
「そうにゃ魂の保管所にゃ、この世界で死んだ者は精神世界に逝くと言われているが、本当はまず魂の保管所にいくにゃ……そこから次に何に生まれ変わるかを査定されてそれぞれの場所へと向かうにゃ」
「……」
ロンキが何を言っているのかスプリングには理解できない。いやそれ以前に単なる鍛冶師であるロンキがなぜ死後の世界の事を理解しているのか、スプリングには理解できなかった。
「……なんでお前が……そんな事を心で抱いているね……」
ロンキがスプリングの心を読んだように言葉を発した瞬間、動かないスプリングの全身は凍りつくように冷たくなる。
「……それは僕が魂の保管所を管理する者だからさ」
いつの間にか独特な語尾は消え失せ、その姿まで変化しているロンキ。その姿はスプリングと同じ人間の姿をしているが明らかに違うそう言った雰囲気を醸し出していた。人間とは明らかに違う雰囲気を持ったロンキであった者に警戒の表情を浮かべるスプリング。
「そんなに警戒しなくてもいいよ、別にこれから君に悪い事をしようとしている訳じゃない」
「……」
ロンキであった者はそう言うが、今一信じられないスプリングの表情は堅い。
「あんた……何者だ?」
「うーん、信用されていないようだね」
その雰囲気だけで事足りる信用の無さ。それに加えスプリングがロンキであった者を信じられない理由はまだあった。まず一つとして今スプリングがいる場所。スプリングとロンキだった者が今いるその場所は死神を追った結果、たどり着いた場所であったからだ。ガイアスにある建物とは明らかに違う雰囲気を持ったその場所をスプリングは死神の拠点と考えていた。
「ああ、この場所が気になるかい? ここはねぇ、君達よりも遥か昔に生きていた人々が、空の上……宇宙と呼ばれる場所を目指し旅立つ時に途中で休憩する場所として造り上げた中継基地のような場所さ、当時の言葉で言うと『宇宙ステーション』ていうのだけど」
「……?」
突然ガイアスの人間では聞き取れない単語を口にするロンキであった者。
「君はこの場所が死神の活動拠点だとでも思っているようだけど、安心してほしい……ここは君にとって安心できる場所だよ……いやこう言った方がいいかな……伝説の武具達が作られた場所さ」
「……ポーン達が……」
「そう伝説の武具達が誕生した場所なんだ……たまにポーン達が何処かに行っていたという経験は無いかい?」
「……」
ロンキであった者の言葉に答えを返さないスプリング。だが心の内では確かにそんな事が何度かあったとポーンの行動を思いだすスプリング。
「あれはね……伝説の武具達がここに集まって色々と話し合いをしていたんだ、まあでもその話の大半は君達所有者の事を自慢するだけの井戸端会議みたいなものだったけどね、私の所有者が一番だ! てね」
そう言いながらロンキであった者は猫のように目を細めクスクスと笑う。しかしそんな事を言われてもそれがロンキであった者を信じる確証にはならず、スプリングは警戒を解こうとはしない。
「うーん、どうたものかな……僕の事を信用してほしいのだけれど……どうしたら信用してくれるのかな?」
ひとしきり笑い終えるとスプリングを再度見つめたロンキであった者は、当然だとばかりに未だ警戒した表情をしているスプリングがどうしたら警戒を解いてくれるかと考える。
「……それじゃなぜ僕が猫型獣人の姿をしていたか……それについて説明したら信用してくれるかい?」
それはスプリングがロンキであった者に対して警戒を解けないもう一つの理由であった。なぜ目の前にいる者は姿を偽ってまで自分達に近づいてきたのか、もし何もやましい事が無ければ猫型獣人の姿などにならずそのままの姿でいればいいのではないかと。そんな事を考えていたスプリングの心を再び読んだかのようにロンキであった者は先回りするようにスプリングの疑問について答えると頷いた。
「それはねぇ……君達に変な警戒心を持たれちゃ困るからなんだ、伝説の武具の所有者である君達に警戒されてしまえば、伝説の武具達に近づくことが出来ない……そうなれば伝説の武具達にかかった『封印』を解除する事も出来なかった、だからそこ僕は猫型獣人に姿を変えて君達に近づいた……なぜ猫型獣人だったのかについては、猫型獣人は愛くるしくて可愛いからだ」
自分の猫型獣人の姿に自信があるのか胸を張るロンキであった者。しかしそもそもスプリングがロンキに出会った時の第一印象はあまり良くは無かった。警戒心を持たせないようにとアレコレと細工したロンキであった者の行動は失敗だと思うスプリング。
「あれ? ……あまり効果的では無かったかな?」
微妙な表情をするスプリングの表情に自分の行動が効果的では無かった事に気付くロンキであった者。
「ま、まあ……兎に角、僕は決して君達に害を与える存在じゃないって事さ、真光のダンジョンで僕が伝説の武具達を整備したお蔭で強くなったでしょ君達!」
今のままではスプリングに信じてもらえないと悟ったロンキであった者は、自分という存在を信じさせようとかなり強引な説得に乗り出した。
「……ああ、わかった……とりあえずあんたがぶっ飛んでいる奴だって事はわかったよ……」
ここまで説得が下手な者が何かを企んでいるとは思えないと思ったスプリングは少しだけ信用してみようと警戒を少し解いた。
「……で、死にかけている俺になんのようだ?」
ロンキであった者の言葉を全て信じた訳では無い。だがこの状態で主導権を握っているのはロンキであった者である事を理解しているスプリングは、半ば諦めたようにロンキであった者の目的を聞いた。
「うーん、完全には信用してくれていないみたいだね……まあ、でも及第点かな……そもそも君が僕の事を信じようが信じまいがこれから君に待っている運命は二つしかない」
「二つ……?」
まるで生か死か選べと言われているようにも聞き取れるロンキであった者の言葉に再び警戒を強くするスプリング。
「だから警戒しないでよ、別に君が生きるか死ぬかを選んでくださいみたいな話をしようとしている訳じゃないんだから」
警戒を強くするスプリングに困った表情で弁明するロンキであった者。
「これは言わばガイアスという世界を救った君へのご褒美、この世界の管理者である僕から君へのプレゼントなんだ」
「はぁ?」
思わず声が漏れるスプリング。
「僕は魂の保管所の管理と同時にこの世界の全ての管理も任されているんだ」
「それって……」
それを人は神と呼ぶ。今ロンキであった者は自分が神であると口にしたのだ。
「い、いや違うよ、僕は神じゃない……あくまで管理者だ、無軌道に三人の神が作り出してしまった世界を管理する者さ」
自分を管理者、神という奴を信用できる訳が無いという顔をロンキであった者に向けるスプリング。ロンキであった者はスプリングの冷たい視線に慌てるようにあくまで自分は神じゃないと主張する。しかしスプリングには神とロンキであった者が口にする管理者という存在の違いが分からない。
「僕はあくまで君達神が作った世界の管理を任されただけ……」
「……ッ!」
言葉にならない衝撃がスプリングを襲う。それと同時にロンキであった者の言葉に反応するようにスプリングの中にある双子神の記憶が息を吹き返したようにスプリングの脳裏を過っていく。
「……今ので理解してくれたかな? 君の頭に流れた光景、それは君が君になるずっと前、君が神だった頃の記憶、このガイアスという世界を作り出した双子神の兄の記憶さ」
双子神の戦いの記憶がスプリングの頭の中に蘇り波のように押し寄せてくる。
「今君が見ているその戦いの余波でこの世界は誕生したんだ……そして君達は光となって消え魂の保管所にやってきた……そこから君達の運命はグルグルとグチャグチャに絡まり始めたのさ……」
「……」
幾度となく繰り返される戦い。姿形は変わっても双子神の魂を持った者は戦い続けそして最後には光となり再び魂の保管所へと戻ってくる、そして再び戦う為に魂の保管所から旅立っていく。そんな光景がスプリングの頭の中では永遠と思えるほどに繰り返され続けていた。
「普通の魂なら魂の保管所にやってきたら次は別の運命が待っているはずなのだけど、君達神の運命は特別だからね……一度絡まったら早々に断ち切る事はできない」
神の魂を持つスプリングは戦いの運命から逃れる事は出来ないと説明するアキであった者。
「……まあでも今回は本当に驚いたんだ、君達の運命が君の弟によって断ち切られたんだから」
「……アキが……」
思いも寄らなかった者の名前が飛び出し驚きの表情を浮かべるスプリング。
「うん、今までは三人で分散していた永遠とも言える長い戦いを一人で引き受けたんだ……それによって君とブリザラはその運命から切り離され自由になった」
「ブリザラ……?」
「うん、君達双子の兄弟はそれぞれ双子神の神の魂を持っている、それと同時にガイアスを最終的に作り上げた女神の魂は、ブリザラが持っている」
自分だけでは無くアキやブリザラも神の魂を持っていた事に衝撃を受けるスプリング。
「そ、そうだ! アキは……アキはどうなったんだ!」
スプリングが最後に見たアキは自分から伝説武具の全てを奪った姿であった。その後意識を失ったスプリングはアキがどうなったのかを知らない。スプリングは、ロンキであった者にアキがどうなったのかを聞いた。
「アキは君よりも先に目覚めて僕の説明を何も疑わず聞いてくれたよ……どうやら自分の存在がどういうものなのか薄々気付いてたみたいだね……僕と話をして自分の運命を受け入れて旅立っていったよ……死んでも死んでも永遠に繰り返される戦いに……」
「……なっ……」
永遠の戦いに縛られた自分やブリザラの運命を断ち切る為にアキが全てを背負ったという事実にショックを受けるスプリング。
「ここまで話しておいて何だけど、君が責任を感じる必要は無いよ……彼は君の為に戦いの運命を背負ったんじゃない」
「え……」
「彼は戦いの運命に縛られたブリザラを解き放つ為にそうなる事を選択した、君はあくまでおまけ、ブリザラを助ける為には君の戦いの運命も背負う必要があったからなんだ」
「……」
アキがブリザラをどう思っていたのか知っていたスプリング。アキのブリザラを想いの強さに言葉が出ない。
「さて、じゃ本題だ、『純粋悪』を討ったのはアキではあるけれどそこまでに至る過程を築いたのは紛れも無く君の力の賜物だ……そんな君に二つの運命のどちらかを与える事が僕にはできる」
そういうとロンキであった者は自分の周囲に伝説武具達を出現させた。
「一つはこの伝説の武具達を纏いこの世界が消滅するその時まで神という存在としてガイアスという世界を見守るという運命……まあ君は元々神なんだからこの役目は当たり前だよね」
ロンキであった者はそういうと仰向けに寝かされているスプリングの下に伝説武具達を向かわせる。
「そしてもう一つは……君の想い人がいる世界に生まれ変わる……」
「想い人……」
スプリングの脳裏には一人の女性の顔が浮かぶ。
「……会えるのか……ソフィアに」
ロンキの言葉に驚きソフィアの名を口にするスプリング。
「うん、でも勘違いしないでね……言葉だけ聞けば君にとってはとてもいい事に思えるだろうけど、これはせっかく君の弟が断ち切ってくれた運命に再び飛び込むという事だから……」
「……」
「君の想い人はブリザラとは違う世界にいる同じ存在……ブリザラの戦いの運命は断ち切られても彼女の運命は未だ戦いの中にある……そこに向かおうとすれば当然君の運命もまた戦いの中ってわけさ……僕のオススメはガイアスの神になる事だね……多少暇でつまらないかもしれないけど下手な事をしなければ戦うことはもうないだうから」
永遠の戦いからの解放か、それとも想い人との再会を願い戦いの運命に身を投じるか、スプリングにとって辛い選択であった。
「もう戦いたくないでしょ……だったら伝説武具を手に取るんだ」
いつの間にか自由になるスプリングの体。まるで伝説武具を手に取れと言われているようであった。スプリングはゆっくりと体を起こし自分の周りに漂う伝説武具達を見渡す。もう何も発する事が無い伝説武具にスプリングは切ない表情を浮かべる。
「……俺は……」
「ん? 何だって?」
何かを呟くスプリング。その声をはっきりと聞き取れずに耳を近づけるロンキであった者。
「……俺はもう、伝説の武器は装備できない……」
ロンキに対してはっきりとした口調でスプリングは自分の意思を伝えると周囲に漂っていた伝説武具〈ジョブシリーズ〉達は霧散するように消えていく。
「それは即ち…戦いの運命に戻るということかい?」
「……ああ……正直これからもずっと戦い続けていくっていうのは辛いけど、それでも俺はあいつに会いたい!」
それは心の底からソフィアに会いたいと思うスプリングの言葉。ロンキであった者を見つめるスプリングの目、しかしその目に映るのは一人の女性の笑顔であった。
「……そうか……ならば君の意思を尊重しよう……」
驚くわけでも呆れるでもなく淡々とロンキであった者はスプリングの選んだ運命を受け入れ頷く。
「最後に、本当にこの世界に未練はないかい?」
「……無いと言えば嘘になる……まだやりたい事も沢山あるし……でも神様になったらそれも出来ない……」
「なるほど、愚問だったね……まだ君は若い、やりたい事、やり残した事は多いにあるよね」
目の前の若者はまだ二十歳を過ぎたばかり、当然やりたい事もやり残した事も沢山あるはずである。そんな青年に対して未練があるかとう質問は愚問であった。スプリングの言葉でそれに気付いたロンキであった者はスプリングに対して素直に謝罪を口にした。
「ならば僕も祈ろう、君がこの世界でやりたかった事、やり残した事を新たな世界で成せる事を」
「ああ、まあそんな暇があればだけど」
新たな世界でも自分には戦いが纏わりついてくる。それを理解しているスプリングは苦笑いを浮かべるのであった。
ガイアスを救った一つの命がガイアスから旅立っていく。旅立つ命を見送ったロンキであった者は魂の管理所の責任者としてそしてガイアスを紡ぐ語り部としての役目を終え自分一人となったその場所に佇む。
「これでガイアスという世界のお話はお終い……きっとこの世界は近い内に忘れ去られ消滅していく……でも別の世界に旅立っていた命はガイアスの小さな欠片を持っている……その欠片を持っているうちは例えガイアスが消滅したとしてもガイアスは存在したんだと証明してくれるはずさ」
誰も居ない広い部屋にポツリと置かれた机の上に置かれた小型の箱に向かって何かを打ち付けながら魂の保管所の管理者にしてガイアスの語り部である男は一人呟くのであった。
あとがきとお礼
どうも山田二郎です、今まで長い間読んでいただいた方、たまたまこの話だけ読んでいただ方、本当にありがとうございます。表現力も文章力も無い、誤字脱字辻褄が合わないのオンパレードであった作品でありましたが、何とかゴールにたどり着きました。それもこれも読んでいただいた方のお蔭です。
とりあえず今後はこの作品の修正作業と新作をやっていくつもりなので、また気が向いたら、お暇な時に……本当にお暇な時でいいので覗きに来てもらえたら嬉しいです。
一応完結はしましたが完結設定はまだ『続きます』にしておきます(修正作業が完了するまでは……出来るかな……(遠目
それではまたどこかで……
2018年 2月11日 某モンスターを狩るワールドなゲームが頭の中でグルグルしている中




