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最後で章 37 緑輝く巨大な剣

 ガイアスの世界


伝説武具ジョブシリーズとは


伝説武具ジョブシリーズとは伝説の武具、ポーン達の本来の姿といってもいい。


月石ムーンロック』によって想いが力に変わる訳だが、その力を最大に引き出すのが伝説武具ジョブシリーズである。しかし最大に引き出した結果、その力は人では扱えない代物になってしまい、それをどうにか人が扱えるほどのものにする為に制御をかけたものが伝説の武具達という訳である。



 最後で章 37 緑輝く巨大な剣




人の感情によって消滅の道を進みだす世界、ガイアス




 白と黒の二色の流星がガイアスの空に流れる。しかしそれは流星のように重力に引きつけられ地面に落下するのでは無く、まるで意思があるかの如く上がったり下がったり左右に流れたりとガイアスの空を変則的に動き回る。何度も交わるように二つの流星はすれ違いガイアスの空に空気を揺るがす衝撃波をばら撒いていく。


「……ほほう、どうやら色々と犠牲にしてその力を得たようですね」


 一目みただけでそれが禍々しく恐怖を感じさせる黒い流星。しかしガイアスの夜の空よりも暗く邪悪な暗い光を放ったそれは単なる流星では無い。ガイアスという世界の首に死を呼ぶ鎌を突きつけた『絶対悪』死神が放つ『闇』と負の感情であった。


「……」


「あら、ダンマリですか」


 その不気味な髑髏顔からは感情は感じ取れないが、死神の声は笑っているようであった。暗闇しか映し出さず底が見えない死神の眼窩は、自分と対峙する白く輝く流星に向けられていた。対峙した白く輝く流星は、一見白い粒子を放ちキラキラと輝き美しく見えるのだが、何処か孤独と悲しみを内包しているようにも思える。しかし死神の眼窩は白い粒子では無くその中心部に視線を向けられていた。

 死神の視線の先には、伝説武具ジョブシリーズと呼ばれるガイアスでは伝説の武具を全て身に纏い、白い粒子とは相反するように怒りによって燃え盛るような真紅に染まった目で死神を見つめるスプリングの姿があった。

 伝説の武具達の想いを力に変えその身に纏ったスプリングは、死神の後を追うように崩壊した結界世界に両目を失い力尽きたブリザラをその場に残し飛び立っていった。

 死神にスプリングが追いつくのはそう難しい事では無かった。そもそも結界世界から抜け出した死神は、上空でスプリングが来るのを待っていたからだ。

 そしてスプリングと死神の戦いは唐突に始まったのであった。


「ふふふ、神の目まで……まさしく総動員……周りの者達を喰い人を捨てた力……その力で私を討ちますか?」


スプリングを見ただけでスプリングから溢れだす力が人のそれでは無いと気付いた死神は、髑髏顔を傾けながら手に持つ大鎌を一振りする。すると一振りした大鎌の軌道に合わせて負の感情を織り交ぜた『闇』が溢れだしスプリングに向かって襲いかかる。


「……」


しかし何事も無かったかのように顔色一つ変えずスプリングは、一切無駄のない動作で自分に襲いかかる『闇』を避けていく。


「ふふふ、まさしく持つ者の所に全てが揃った……という訳ですね!」


今までとは明らかに違うスプリングの動きを観察していた死神は、楽しそうに声を弾ませると唐突に姿を消した。すると突然スプリングの目の前に姿を現し大鎌をスプリングの首に目がけて振り下ろす。


「……」


しかしスプリングは死神の動きをしっかりと捉えており流れるようにして首元に迫った大鎌を左手に持った伝説盾ジョブアイズで防ぐ。


「……ッ!」


大鎌と伝説盾ジョブアイズが接触した瞬間、バギャン―—という鈍い音が響き、伝説盾ジョブアイズの周囲に『絶対防御パーフェクトディフェンス』のような結界が浮かび上がる。いると『絶対防御パーフェクトディフェンスは死神の大鎌を軽々と弾いた。弾いたと同時に『絶対防御パーフェクトディフェンス』のような結界は即座に消える。


「……なるほど、攻撃した瞬間、全自動防御オートガードですか、中々に厄介ですねその盾……元所有者が使っていた時よりも強力だ」


「……舌も無いのによく喋るな……」


死神による一方的な会話に嫌々そうにようやく口を開いたスプリングは、右手を広げると伝説剣ジョブマスターを出現させ握ると素早く不用意に近づいていた死神に切りつける。


「今更剣で私に攻撃ですか、私が斬撃でどうにかなると……」


避ける事すらせずスプリングが振う伝説剣ジョブマスターの斬撃を受ける死神。それは物理的な攻撃が自分には効かないと分かっていての行動であった。死神の言葉通りスプリングが振るった伝説剣ジョブマスターは、まるで雲でも切りさくかのように手応え無く死神の体を切りさく。


「……んッ?」


しかし次の瞬間、スプリングが持つ伝説剣ジョブマスターと自分の体に違和感を覚える死神。


「ふふふ……なるほど……その剣……盾以上に厄介なようですね」


切りつけられるまで死神は分からなかったが、スプリングが持つ伝説剣ジョブマスターにはガイアス中の精霊から加護を受けているようで一見物理的な攻撃に見えるスプリングの一振りは、ただの一振りでは無く死神に確実なダメージを与える剣になっていた。その証拠に精霊の加護を受けた伝説剣ジョブマスターに切りつけられた死神の体の傷口は、その形を保ったまま一切修復していなかった。その二つに気付いた死神は、すでに次の攻撃に入っていたスプリングの攻撃を今度は避けた。


「これは想定外でした……精霊の力を使って私の体を切り裂くとは……ですが……私にこの一撃を入れる為にあなたはどれだけの精霊を喰ったのですか?」


精霊の加護を纏う伝説剣ジョブマスターにどれだけの精霊の力を費やしたのか、挑発するようにスプリングに質問する死神。だが死神の挑発に乗らずスプリングは次々と攻撃をくりだしていく。


「ちょ、ちょっと、人の話は聞くものですよ」


自分の言葉に一切耳を傾けず黙々と攻撃を続けるスプリングに常識を問う非常識な死神。


「黙れ」


目の前にいる死神にすら聞こえない程の声でそう呟くスプリングの攻撃速度は加速するように鋭さが増していく。攻撃は死神に当たっていないものの、明らかに状況はスプリングに傾いていた。しかしスプリングの表情には余裕が見られない。


「あれ……? それだけの力を手に入れておきながら、その余裕の無い表情……どうしました?」


自分を追い込んでいるというのにその表情には全くの余裕が感じられないスプリングの顔を見て何かを見抜いたというよう探りを入れる死神。


「おっとッ!」


死神の探りに一切反応をみせずまるで死神の言葉を断ち切るように常人では見えない斬撃を一瞬にして数十、死神に放つスプリング。しかし死神は一瞬にして放たれた数十の斬撃を、体をくねらせ全ての攻撃を完全に回避した。


「うーん、何かが迫っているような……そう例えるなら自分の命が尽き始めている事に焦っている、そのように見えますね」


既に答えは知っているがあえて焦らしているというような口調で死神はスプリングの攻撃を掻い潜る。


「……!」


目の前に姿を現した死神はまるでスプリングを嘲笑うかのようにその髑髏顔を近づける。


「どうです? 私の推理、当てってませんかね?」


ギョッと顔を引きつらせながらスプリングは使づいた髑髏顔を伝説剣ジョブマスターで払いながら距離をとるように後退すると、死神に向けて伝説剣ジョブマスターを向けた。すると何も無い場所から剣が出現する。


「ほう剣聖の技……ん? ……いや、少し違いますね?」


何も無い空間から剣を作り出す、それは剣聖が持つ技の一つである。しかし死神はスプリングの周辺に出現した剣を眺めながら違和感を抱きその違和感の正体を見抜いた。


「斧に槍……杖やロッドまで……これはまるでこの世界の武器をかき集めたようですね」


続々と出現する剣や刀。それを追うように剣聖の力では作り出す事が出来ないはずの武器が出現し始める。ガイアス中に存在している武器、槍や斧といったものから剣とは呼べない魔法使いが触媒として使う杖までもがスプリングを中心にして出現していく。

 剣聖とは剣や刀に抜きんでた技術や技を持つ者だけがたどりつく職業である。槍や斧ならばまだ分からないでもないが、剣聖とは相反する職業である魔法使いが使用する杖やロッドまでも作り出すというのは剣聖の力を逸脱していると言っていい。それが死神の抱いていた違和感の正体であった。


「それにこの数……もう剣聖とは言えませんね……例えるなら『無限武器庫インフィニティアーマリィ』と言ったところでしょうか……ふふふ……アッハハハハ!」


何がおかしいのか高笑いする死神。だが確かに死神が言う『無限武器庫インフィニティアーマリィ』という言葉は今のスプリングの状況に適していた。スプリングが出現させている武器の量は剣聖の中でも異質の量であったからだ。

 歴代の剣聖でも瞬時に作り出す事ができる剣の数は、数十から百程度。ヒトクイの先代の王である剣聖ヒラキであっても瞬時に剣を作り出す事ができたのは数百だと言われている。ヒラキの数百という数も凄いものではあるのだが、今スプリングが作り出した武器の数はその次元を超えていた。その数は軽く千を超えておりまだ増え続けていた。


「いやー……これは壮観な光景ですね……さすがの私も少し緊張してきましたよ」


言葉とは裏腹に全く緊張などしている様子は無くどこか楽しそうに何も無い所から続々と出現する武器を見渡す死神。続々と出現する武器が全て自分に矛先を向けているというのに死神は全く怯む事なく逆に楽しんでるようにも見える。


「ふむ、しかし……こういうのはもっと盛り上げてから発動するのが戦いにおいてのセオリーというものではないのですかね?」


「お前の考えなんてどうでもいい、俺はただ一秒でも早くお前の気味の悪い髑髏顔を視界から消し去りたいだけだ」


「……そうですか……それが強がりでは無いといいですね」


 どうでもいいと死神の言葉を一蹴したスプリングは手に持つ伝説武器ジョブマスターを掲げる。


「お、そろそろですか、では私も準備をしましょう」


と言いつつも一切体を動かさない死神。


「その油断……後悔するなよ」


 スプリングが伝説武器ジョブマスターを振り下ろす、それは死神に刃を向けた武器への攻撃の合図であった。その場に出現した武器がスプリングの合図と同時に死神へと向かって行く。


「ふふふ、余裕がないのが見え見えですよ」


状況からして明らかに優勢であるのはスプリングであった。なのにも関わらず先程からスプリングの表情は堅く余裕が無い。それを指摘する死神は、スプリングの中で起こっているある事に気付いていた。

 それは不完全のまま発動した『縁ノ核』が原因であった。『縁ノ核』の発動によって伝説の防具クイーン以外の伝説の武具達は、自分達が持つ想いを全て『月石ムーンロック』に託し想いを力に変えスプリングに渡し終えると消滅していった。

 伝説の武具達の想いを託されたスプリングは伝説の武具達の想いが宿った『月石ムーンロック』に触れる事によって人を遥かに超越した力を手に入れたのだが、その強大な力は人であるスプリングには耐えられるものではなかった。伝説の武具達の想いが宿った『月石ムーンロック』の強大な力に耐えられずスプリングは自分の命を削りながら死神と戦っていたのだった。

 スプリングの合図と共に死神に向かって弓のように発射される武器。初撃は剣と刀の大群。次々と飛んでくる剣と刀を手に持つ大鎌で軽々と弾いていく死神。


「ほほ、これは中々、忙しいですね」


休みなく自分に向かって来る剣と刀を忙しいといいながらも次々弾き落としていく死神。


「お、今度は……」


直線状に向かって来ていた剣と刀を弾いていた死神は頭上を見上げる。するとまるで雨のように槍と斧が死神に向けて振ってくる。


「いやはや忙しい忙しい」


横からは剣と刀、上からは槍と斧と矢継ぎ早に向かって来る武器の大群を踊るように優雅に避けていく死神。千を超える武器の群を死神は次々と避けそして弾いていく。切りつける剣、突き刺す刀、斧は吹き飛ばし、槍は貫き。ガンドレッドは殴りつけ、弓は射抜く。武器が持つ攻撃の特性が全て死神を襲う。しかし死神はその全ての攻撃を避けてみせる。


「ふふふ……これで終わりですか?」


少し速度が落ちた事を感じ取った死神は、すぐさまスプリングに話しかける。


「ああ、これで終わりだ……」


死神の言葉に頷くスプリング。しかしそれは攻撃が終了したという意味では無い。


「えっ?」


突然間抜けな声をあげる死神。その視線の先にはスプリング。そしてその背後には百を超える杖やロッド。しかもそのどれもが一流の魔法使いでも中々到達できない領域の強力な魔法を発動させていた。


「いやー襲いかかってくる武器と戯れるのが楽しくて気付きませんでした……私はまんまと術中にハマったと言うわけですね」


自分に襲いかかる武器を前に戯れると言い放つ死神。楽しくてとまで言った死神は本当にスプリングが準備していた魔法には気付かなかったようであった。


「いけ……」


スプリングが短く呟くと同時に背後で待機していた杖やロッドは死神に向け火水風土闇光の魔法を同時に死神へと解き放った。


「ははは、綺麗ですね……んッ!」


 最初その光景を綺麗だと口にしていた死神は何かに気付いたように首を傾げる。しかし気付いた頃には遅かった。迫りくる六色の色を放つ魔法の群れは暗いガイアスの夜空で煌めき、その光景を見つめる死神を飲み込んでいく。

 六色の光が混じり合った瞬間、ガイアスの空が壊れるのではないかという程の爆発が巻き起こる。爆発によって生じた衝撃波は周囲の雲を全てかき消しガイアス中に広がっていく。当然その爆発はスプリングをも飲み込んでいく。しかしスプリングは左手に持った伝説盾ジョブアイズから発せられる『自動防御オートガード』を発動させ身を守る事で爆発によるダメージや衝撃を全て受け流した。

 凄まじい轟音と爆風がしばらく続きゆっくりと収束していく。スプリングは、弱ったとはいえ人など簡単に吹き飛ばしてしまう爆風をものともせず爆心地を凝視していた。

 まだ戦いは終わっていない。スプリングの勘はそう告げている。


(油断してはいけない)


スプリングは母バラライカの言葉を思い出しながら警戒体勢を解かず完全に爆発が終息するのを待った。


「……そう、油断してはいけませんでした」


まるでスプリングの心の中を読むようにして突然不気味な声がスプリングに耳に入ってくる。


「……ッ!」


それは油断というにはあまりにも酷であった。完璧に警戒していたはずのスプリング。その警戒を縫ってそれは突如スプリングの背後に姿を現した。


「いや、正直あの量の武器や魔法全てに精霊の加護が付与されているとはおもいませんでしたッよ!」


伝説盾ジョブアイズの『自動防御オートガード』が発動するよりも先にスプリングに伸びた『闇』の触手はスプリングを捉え締め上げる。


「ぐぅ……!」


体を締め上げる『闇』の触手はスプリングの体を壊そうと締め上げる力を上げていく。


「……いや……本当に予想以上です……まさかこれほどまでに私が追い込まれるとは……」


スプリングを締め上げる触手の先には髑髏顔に大きな亀裂が入り、体中に傷を負った死神の姿があった。


「いや、痛いとか苦痛を感じたのはどれぐらいぶりでしょう……まあそんな事はもうどうでもいいです……最初はあなたが力尽きるまで遊んであげようと思っていましたが、気が変わりました……いや素直に言いましょう……私はあなたが目障りになりました」


「それは俺も同感だ……」


締め付けられ身動きが取れないスプリングは死神の言葉に頷く。


「はい、今すぐにあなたは私が殺してさしあげます」


体中ボロボロになっている死神。伝説武器ジョブマスターの攻撃を受けた時と同じように体に負った傷は修復されていない。先程までのような陽気な声は消え深く暗い声を発する死神。その言葉の端々からは余裕が見えなくなっていた。


「う、ぅぐぅぅぅ!」


死神に悟られぬよう常に冷静を装っていたスプリングではあったが、ここにきて自分の命が削れていく痛みの強さが増し表情にはっきりと現れる。


「ぐぅああああああああ!」


その痛みは想像を絶するものであった。しかしスプリングは、その痛みを吹き飛ばすように吠える。スプリングは自分を締め付ける『闇』の触手を伝説武器ジョブマスターで吹き飛ばすとそのまま死神へと突っ込んでいく。


「ハハハ……終わりが近いようですね……私は……た、たの……楽しくて……たの……」


明らかに言動がおかしい死神。スプリングはこの時を待っていたというように体の痛みに耐えながら伝説武器ジョブマスターを死神に向け振り下ろす。すると死神は自分の身を守ろうと体から次々と触手を生やしスプリングの攻撃を防ぐ。しかし伝説武器ジョブマスターの切れ味は凄まじく『闇』の触手はスパスパと何の抵抗も無く切り刻まれていった。


(判断力が低下している……間違いない負の感情に取り込まれ始めている)


正常な判断が出来ている死神ならば、精霊の加護を受け死神にダメージを与える事が出来る伝説武器ジョブマスターによる攻撃を防ごうとはせず回避に専念するはずである。しかしそれをせず触手を使い守りに入った。これは明らかに死神が判断力を失っている証拠であった。それに突然変化した死神の言動。それは前に死神が同じような状況になり負の感情に飲み込まれた時と酷似していた。


(色々と頭を使って攻撃を仕掛けてくる死神よりも『闇』に飲まれた後の方がその行動は単調だった、今俺が持つこの力なら確実に『闇』に飲まれた死神を討つ事が出来る)


『闇』に自我が芽生え賢い死神よりも、怒りや恨みといった感情の寄せ集めである負の感情の方が勝機はあると悟ったスプリングは、軋み今にもバラバラになりそうな体を無視して死神の懐へと潜り込もうと突っ込んでいく。それを阻止しようと『闇』いやもはや怒りや憎しみによる負の感情を纏った触手で阻む死神。


「無駄だッ!」


自分の行く手を阻む負の感情を纏った触手を切りつけるスプリング。


「「「「「「「「「「ムダ……ムダ……」」」」」」」」」」


突然響き渡る無数の声。その声はまるで死者が発する暗く重くもはや死神の声では無い。不協和音とも言える不気味な声の大合唱に本能的に嫌悪を感じたスプリングの背筋は一瞬にして凍りついていく。

 そしてあれほど死神が放った触手に対して切れ味のよかった伝説武器ジョブマスターの刃は負の感情を纏った触手に通らず弾かれていた。


「なぁ……!」


思わず声が漏れるスプリング。


「「「「「「「「「「ムダムダムダムダムダ——」」」」」」」」」」


大合唱するようにスプリングの行動を拒否する声。


「ガハッ!」


―—バギン……という破裂音と共にスプリングを守るようにして『自動防御オートガード』が発動する。しかし『絶対防御パーフェクトディフェンス』と同等の防御力を持つ『自動防御オートガード』は呆気なく負の感情を纏った触手に砕かれスプリングに直接ダメージを与える。


「「「「「「「「「「ホロブ……ムダ……ホロブ……ムダ……」」」」」」」」」


もはや死神の意思はそこには無くただ負の感情が持つ今まで吸収してきた人々の憎しみや怒り悲しみが目の前のスプリングを殺そうと大合唱する。


死神の体を突き破るように次々と生える触手はスプリングを容赦なく痛めつける。


「ぅぐぅ……!」


悶絶する声すらあげることができない程に一撃が重い負の感情を纏った触手の攻撃は、スプリングの体だけではなく心もへし折っていく。

 その強さは圧倒的という他に無い。死神の自我が持つ賢さなど関係ないほどに負の感情の力はスプリングを圧倒的な力で追い詰めていく。


(みんな……ごめん……俺は……ここまで……)


― スプリング ―


スプリングが絶ち切れそうな意識の中、諦めの言葉を思い浮かべた瞬間、スプリングの耳に響く声。


「な……」


その声に目を見開くスプリング。


「……ここまでじゃない……俺は……まだやれる!」


その声は自分を守り散っていた者の声。スプリングの中で一番大事な存在となっていたソフィアの声であった。


「ソフィアが繋いでくれたこの命……ここで終わる訳にはいかない!」


歯を食いしばり負の感情を纏った触手による攻撃を何とか掻い潜るスプリングは逃げるように距離を離す。


「「「「「「「「「「ムダ……ホロブ……ムダ……ホロベ……」」」」」」」」」」


負の感情を纏った触手は不気味な大合唱を続けながらスプリングの後を追いかける。


― 行かせはせん! ―


突如としてスプリングの前に展開される『絶対防御パーフェクトディフェンス』。それは何重にも展開しスプリングを追う負の感情を纏った触手の進行を阻止する。


『キング!』


今まで沈黙していた唯一伝説武具ジョブシリーズにならなかった伝説の防具クイーンが叫ぶ。


― ソフィア様の意思は潰させない! ―


絶対防御パーフェクトディフェンス』によって進行を阻止されていた負の感情を纏った触手に何十本もの特大槍が突き刺さっていく。


「ナイト……」


それは幻聴では無い。スプリングの耳には『月石ムーンロック』にその全てを託した伝説の武具達の声が響く。


― 主殿……今が勝機だ! ―


「ポーン……」


スプリングの相棒であるポーンの声が響く同時に伝説剣ジョブマスターは緑色の光を発しながらその形を変えていく。それは大きくそして長く。

 それは人が持つような物ではなかった。緑色に輝く伝説剣ジョブマスターは巨人ですら持つ事が出来ないほどの大きさに姿を変えた。


「……『絶対悪』を穿つ剣……」


レーニの言葉を思い出すスプリング。


「これは……」


突然頭の中に入ってくる見知らぬ記憶。それがガイアスを創造した双子神の記憶の一部なのかスプリングには分からない。だがスプリングはその記憶を通して山のようにそびえる巨大な伝説剣ジョブマスターが負の感情を纏った『絶対悪』死神を討ち滅ぼす唯一の力である事を理解する。


「これで穿てば終わる!」


スプリングは手をかざす。すると山のように大きな伝説剣ジョブマスター『世繋神ノ縁ノ剣』はスプリングの意思を汲み取るようにその大きな刃を負の感情を纏った『絶対悪』死神に向けた。


― スプリングならきっとうまくやれる ―


「ああ……ソフィア……」


再び聞こえるソフィアの声に目を閉じるスプリング。すでに体の体力は限界を超えている。だが今はその限界さえも感じない程にスプリングの体からは力が溢れそしてその力は『世繋神ノ縁ノ剣』へと注がれていく。


「死神……いや『絶対悪』……! これで終わりだぁあああああああああ!」


体中にある全ての力を『世繋神ノ縁ノ剣』に叩き込むスプリングは、叫ぶと両腕を振り下ろした。それと同時に山のようにそびえる『世繋神ノ縁ノ剣』の刃はスプリングに向かって来る負の感情を纏った触手達を押し潰しながら本体である負の感情を纏った『絶対悪』死神へとその刃を下ろしていく。


「「「「「「「「「「イヤダ……ホロビタクナイ……ホロボシタイ……イヤダ、イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!!!」」」」」」」」」」


『絶対悪』死神に纏わりつく負の感情は、悲鳴を上げながら『世繋神ノ縁ノ剣』に触れたと同時に浄化され消し飛んでいく。


負の感情が消し飛びその姿が再び露わになる『絶対悪』死神。


「ガッ……なにが……一体……」


自分の身に何が起こっているのか全く理解できていない『絶対悪』死神は、突然目の前に現れた山のように大きな『世繋神ノ縁ノ剣』の刃を前に言葉を失う。『世繋神ノ縁ノ剣』の刃は髑髏顔を砕きながら死神の体は消し飛ばしていく。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」


雄叫びを上げながら緑色の光に包まれていくスプリング。その姿は命を燃やし尽くすように儚く散っていくようであった。


― ここまでだ……後は俺が引き継ぐよ……兄貴 ―


耳では無くスプリングの頭に直接響く声。


「ア……?」


その声を最後にスプリングの意識は途絶えた。


 



 スプリングが『絶対悪』死神を追いかけて少し経った頃、崩壊した結界世界の残骸の中、倒れているブリザラの前に『闇』に堕ち魔王となった男が姿を現した。


― ブリザラ……よく頑張ったな…… ―


傷つきそして両目を失ったブリザラの顔にそっと触れる魔王アキ。その手つきは触れればすぐに壊れてしまう物に触れるようなそんな手つきであった。


― 後少しだ、これが終われば閉ざされた運命からお前は解放される……俺は閉ざされた運命から解放されたお前を見ることは出来ないけど……いつか必ずお前の前に戻ってくる……そしたら……言え無かった言葉を言うよ…… ―


そう言って名残惜しそうにブリザラの頬から手を離そうとするアキ。すると突然、そのブリザラの腕が動きアキの腕を掴んだ。


「……それは……どういうことですか……アキ……さん」


途切れ途切れに言葉を発するブリザラ。弱々しく掴まれた自分の腕を振り払うことはアキには容易かった。しかしブリザラの手から感じる体温が振り払う事を躊躇させる。


「アキ……さん……教えてください……」


弱々しい声でありながらもしっかりとアキに説明を求めるブリザラ。


「はぁ……勘弁してくれよ……」


アキはまるで人のように困った笑顔で微笑むと両目を失ったブリザラの頬にもう一度触れた。


「アキ……さん」


目が見えないブリザラは必至で声からアキがどんな表情をしているのか想像する。そして魔王では無いアキがそこに居るように感じたブリザラは自分の体に残された力を使い体を起こした。


「わ、私は……」


そこにアキがいる。そう感じたブリザラは体を震わせながら自分の両手をアキの体に回そうとする。しかしまるでそこにアキは居なかったかのようにブリザラの両腕は空をきった。頬に残る僅かな感触を胸に、ブリザラは静かに涙するのであった。




ガイアスの世界


『世繋神ノ縁ノ剣』(ヨツナグカミノエンノツルギ)


それはガイアスを創造したとされる三神の一人双子神の兄が使ったとされる剣。全ての邪悪を払う剣である。

 しかしそれとは別に世界を繋げる力もあると言われている。その力の影響によって三神の一人である女神は永遠に続く閉ざされた運命に閉じ込められてしまった……らしい

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