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最後で章 36 散り輝く想い

 ガイアスの世界


 崩壊する結界世界


死神の力を抑え込んでいた結界世界が崩壊を迎える。

 それは死神が力を取り戻す事になる訳だが、すぐにというわけでは無い。結界世界の崩壊はその形を緩やかに崩しているようだ。それは延長戦のように僅かな時間でしかないが、まだスプリング達に死神を討つチャンスがあるということである。



 最後で章 36 散り輝く想い



 人の感情によって消滅の道を進みだす世界、ガイアス



― 結局、堕ちた心は堕ちた心でしか拭えない ―



「はぁ……はぁ……はぁ……」


弱々しく苦しそうな息が、暗闇に響く。


「うぅ……うっつ」


 スプリングが目を開けると、そこは何も見えない暗闇だった。自分の体に違和感を覚えながらスプリングはゆっくりと周囲を見渡す。


「……ここは?」


目覚めたばかりで視界がはっきりとしないスプリングの目の前には暗闇以外なにも映らない。そこが結界世界なのかそれともガイアスなのか判断する事が出来ないほどに暗いその場所を更に見渡すスプリング。 自分が発した声の響き具合から、自分がいる場所がかなり小さい空間である事を理解したスプリング。そこが光も届かない洞窟のような場所だと判断すると周囲を照らすために精霊の力で火を灯した。

 浮かび上がるその場所はやはり小さな洞窟のような空間であった。


「……?」


ただ洞窟だと言うのに、天井には岩のようなゴツゴツした凹凸は無く、まるで建築物のように滑らかな流線型であった。火の灯ったその空間で再度周囲を見渡すスプリング。やはり天井と同様、壁も滑らかな流線型になっておりそこが洞窟と呼べる場所では無い事を理解するスプリング。


「なんだ……ここ?」


大の字に寝っ転がったまま、スプリングは首を傾げた。そもそも自分がなぜこのような場所にいるのか、それ以前に少し前の記憶が飛んでいる事に気付いたスプリングは、何があったのか思いだそうと思考する。


「くぅ」


思い出そうとすると締め付けるような痛みが頭に響く。


「はぁ……とりあえず出口を探すか」


思い出せないものは仕方が無いと飛んだ記憶の事は今は置いておく事にしたスプリングは、この空間に

出口が無いか探す為に体を起こそうとする。


「……ッ」


スプリングが体を起こそうとした矢先、体が動く事を拒む。


「何なんだよ」


動かせるのは首と顔だけ。体を起こす事も今は諦め、動く顔だけを左右に動かし自分の視界に入る程度の範囲を再び見渡すスプリング。


「うーん……出口が無い……? 閉じ込められているのか?」


スプリングが見通せる範囲には出口は無かった。何よりも外からの風や音も感じないし聞こえない。その状況から考えて今自分がいる場所が完全な密閉空間であるという答えにたどりついたスプリングは、自分が閉じ込められている状態であると理解する。


「なぜ閉じ込められてる……ここは結界世界なのか……それとも……」


なぜ自分は閉じ込められているのか、なぜこの状態になったのか思いだせず、体も動かない。そして今自分がいる場所が、結界世界なのかガイアスなのか判断がつかないスプリングは深くため息を吐く。


「……そういえば……」


 明るくなった周囲をもう一度見渡すスプリングは、自分が目を覚ました時から感じている自分の体に乗る重さに意識を向ける。最初その重みのせいで自分の体が動かないのではと思ったのだが、どう考えてもその重みは手でどかす事が可能な重さでありそれが今自分の体が動かない直接の原因では無い事が分かったスプリングは、その重さから僅かな温かみを感じていた。


「温かい……」


だがその温かみはどんどんと冷えてきておりスプリングは温かみが無くなるソレに対して言い表せない不安を感じ始める。


「この不安は一体なんだ?」


なぜ今自分は冷えていく温かみに不安を感じているのか、自分の中に湧き出る訳の分からない不安の理由が分からないスプリング。ただその温もりを絶対に手放してはならないと自分の中に湧き上がる不安が言っているようであった。

 自分の心を不安に掻き立てる冷めていく温もりの正体を確認する為に頭を動かし視線を向けようとするスプリングであったが、やはり体が拒否をして自分の上に何が乗っているのか冷めていく温もりの正体を確認できない。


「ああ、訳が分からない」


言いしれぬ不安が心の片隅に抱きながら、流線型の天井を見つめるスプリング。するとその瞬間であった。


「はぁ……はぁ……」


突然スプリングの近くで聞こえた苦しそうな息に体がビクリと反応する。


「……」


自分の胸のあたり、それは自分の体に重さと温かみを感じさせている所から聞こえてきた。


「うぅぅぅ」


頭に響く痛みを感じながら、その痛みが温かみがそして苦しそうな息が何を意味するのかスプリングは徐々に理解し始める。だが頭で理解をし始めると心がその答えを直視する事を拒む。


「……」


しかし頭は自分の心に反して、その正体を捉えようと視線を再度自分の体の上に乗った重みの正体へと向けていく。


「……ッ!」


言葉にならない言葉がスプリングの口から漏れる。重みの正体を直視した瞬間スプリングの顔から血の気が引き時間が止まる。


「……うっ……ああああああああああああああああああ!」


それは夢でも幻でも無い現実。スプリングの中で止まった時間が再び動き出した瞬間、喉が千切れそうな程の絶叫がその場に響き渡った。


「ス、スプリングさん!」


空間に響き渡るスフリングの絶叫に、その空間の外からブリザラの声が響く。ブリザラはスプリングが居る空間の外にいるようであった。


「どうしましたスプリングさん!」


中の様子を伺う事が出来ないブリザラはスプリングに心配そうに声をかける。しかし中から聞こえるのはスプリングのすすり泣く声であった。


「……」


それが何を意味しているのかすぐにブリザラも察した。スプリングが現実を直視したのだと。それと同時にブリザラはスプリングにかける言葉を失う。ブリザラは小さな空間に閉じ込められたスプリングのすすり泣く声をただ聞く事しか出来なかった。


「……ブリザラ……無事だったんだな……」


 突然スプリングのすすり泣く声が消える。その代わり全く覇気が無く感情も抑揚も無い声がブリザラの耳に聞こえてきた。


「は、はい……スプリングさん……」


歯切れ悪く無事であったことを口にするブリザラは、スプリングの様子の変化に戸惑う。


「……そうか……それは良かった……」


「……」


沈黙するブリザラ。心を失ったようなスプリングの言葉にどう答えていいのか分からないブリザラは黙り込むしか無かった。


「……体中から血が一杯出ていてさ……どんどん冷たくなっているんだ……呼吸も弱くて……」


淡々と中の状況の説明を始めるスプリング。当然それがスプリングの状態では無い事を理解しているブリザラは、スプリングが閉じ込められている空間の外側の壁に背をつけズルズルと座り込みながら胸を抑える。頬からはまるで涙のように血が滴り落ちていた。


「なぁ……ブリザラ……どうしてソフィアはこんな事になってるんだ?」


「ッ!」


直球なスプリングの質問に体を硬直させるブリザラ。

 スプリングは焦点の合っていない目で自分の胸に抱かれたソフィアを見つめる。ソフィアの体は大量の出血をしておりスプリングが纏った伝説の防具クイーンを真っ赤に染めていた。体温が失われてどんどん冷たくなっていくソフィアの体温を感じながら、動くようになった体でこれ以上冷たくならないようにとスプリングはソフィアの体を抱きしめていた。スプリングに抱きしめられ小さく弱々しい呼吸を続けるソフィアの姿は、その状態で生きているのが奇跡といっていいほどに酷いものであった。

 肘から先が失われた片腕。腹部に空いた穴は、殆ど下半身と繋がっていない。 そして背中には何かを庇ったような大きな傷を負っていた。


「なあ、なんでソフィアは……」


 なぜソフィアがこんな姿になっているのか思いだせない、いや思いだしたくないスプリングは、外側にいる黙り込んだブリザラに何度も疑問をぶつけた。


「くぅ……それは……」


スプリングの質問に言葉を詰まらせるブリザラ。あの時何があったのかブリザラの脳裏にはその時の光景が蘇ってくる。

 死神と再び対峙したスプリングの横を目にも止まらぬ速さで通り過ぎた死神は、スプリングを狙わず背後にいたソフィアを標的にした。まずソフィアの腕を凄い速度切り落とす死神。

 腕を切り落とされたソフィア本人ですら何が起こったのか分からず、腕が無くなった事によってバランスを失い体勢を崩した。

 体勢を崩したソフィアに死神はトドメを刺すように大鎌を持っていない方の腕でソフィアの腹部を貫く。そして豪快にソフィアの腹部を貫いた腕を引き抜いた。

 死神の腕がソフィアの腹部から引き抜かれると噴き出すように血が溢れだしソフィアの行動を止めようとしていたスプリングの腕に降りかかる。腕に違和感を抱いたスプリングは、ソフィアの血がついた自分の腕に視線を向ける。その瞬間スプリングの体は凍りつくように固まる。


「ス……プ……リング」


背後から聞こえる弱々しいソフィアの呼びかけに、無防備な体勢のまま視線を向けてまうスプリング。


「……ソフィア?」


自分の目の前で倒れるソフィアを茫然と見つめる事しか出来ないスプリングは顔を引きつらせ小首を傾げる。目の前で何が起こったのか理解できないスプリングを前に死神は、狙いスプリングに切り替え、大鎌を振り上げた。


「うあああああああああ!」


スプリングに迫る死神の大鎌。その瞬間、どこにそんな力があるのかという叫び声を上げながらソフィアは突進しスプリングを弾き飛ばすと死神から振り下ろされる大鎌によってを背中を切り裂かれた。その瞬間ソフィアの背中からは血が噴き出しスプリングの視界を赤く赤く染める。


『ソフィア様!』


地面に転がるソフィアの腕に纏われた簡易型伝説の武具ナイトは、その光景に絶叫しながらあらゆるものを拒絶するように球体へ己の形を変化させソフィアとスプリングを自分の内側へと飲み込んでいった。それがブリザラの見たスプリングとソフィアの身に起きた事実であった。


「……」


 その一瞬の出来事をブリザラはスプリングに口にする事が出来ない。口にする資格が無いとさえブリザラは思った。あの時自分が飛び出していれば、すかさずキングで死神の攻撃を防いでいればそんなもしもがブリザラの頭をグルグルと過っていたからだ。


「ス……プ……リング……」


「……ソフィア?」


今にも消えそうなか細い声でスプリングの名を口にするソフィア。すでに喋る事も出来ないはずのソフィアは失っていない方の腕を伸ばしスプリングの頬に触れる。


「よかった……無事……み……だね……」


ソフィアが伸ばした手からは体温を感じない。しかしスプリングはソフィアにはまだ生きる力が残っていると感じられた。


「き、気がついたのか……ソフィア?」


すでに視力を失った暗い瞳でスプリングを見つめるソフィア。その姿に声を荒げるスプリング。


「あ……」


「ま、待て喋るな……今治してやるからな! ポーン!」


何かを喋ろうとするソフィアを止めたスプリングは、自分の相棒とも言える伝説の武器ポーンの名を叫ぶ。


『……主殿……』


「お前だったらソフィアの傷を治せるだろう、早く治してくれ頼む!」


自分の手に握られていたポーンを自分の胸の前、ソフィアの顔の前に持ってきたスプリングは、ソフィアの傷を治してくれと頼む。


『……手遅れだ主殿……』


「……へっ?」


ポーンの言葉に気の抜けたような声を上げるスプリング。


「待て、待てよ待て待て待て……今は冗談なんていいんだ、ポーンは凄いのが使えるじゃないか、一見気持ち悪いけど大きな口に形を変えて傷ついた者を飲み込んでその傷を治すやつ、それでソフィアの傷を治してくれよ、ポーンだったら余裕だろ? 早くそれをやってくれよ!」


冗談だろという口調でポーンが持つ傷を癒す能力をソフィアに使ってくれと叫ぶスプリング。


『主殿! ……手遅れだと言っている……もうソフィアは死んでいる……』


叫ぶスプリングを抑え込むようにして叫んだポーンは、少し間を開けて気持ちを押し殺すような声でソフィアは死んでいるという事実をスプリングに突きつけた。


「な、なんでだよ……ソフィアは死んで無い、死んじゃいない!」


ポーンの言葉を否定するようにスプリングはソフィアが死んでいないと声を荒げる。その悲鳴のような叫びに耐えられずブリザラは耳を塞ぐ。

 確かにスプリングの目に映るソフィアはまだ死んでいなかった。弱々しくではあるがまだ息もしている。これの何処が死んでいるのかとスプリングはポーンを睨みつけた。


『……主殿……それはナイトが持つ月石ムーンロックの力だ、主殿が見ているソフィアは、ソフィアの強い想いが月石ムーンロックに反応してソフィアの魂が具現化した姿だ……』


 ポーン自身にソフィアの魂は見えない。それはスプリングだけに向けられたソフィアの最後のメッセージなのだと、ポーンは悟る。

 スプリングが見ているソフィア、それはソフィアの想いに強く反応したナイトの月石ムーンロックがスプリングに見せたソフィアの魂の姿であった。


「スプリング……」


「……ち、違う……ソフィアは……ソフィアは……」


優しくスプリングに語り掛けるソフィア。その声には苦しみは無い。だがその優しいソフィアの声色がソフィアの魂の声だとは納得できないスプリングは表情を強張らせながら首を横に振った。


「スプリング聞いて……私はあなたと出会えて本当によかった……」


「や、やめろソフィア……そんな事……」


このままソフィアの話を聞き続ければ自分の胸の中からソフィアが消えてしまうと考えたスプリングはソフィアの言葉を遮ろうとする。


「駄目……ちゃんと聞いて」


ソフィアはそう言うと失ったはずの腕をスフリングの顔に伸ばし人差し指をスプリングの口に押し当てる。


「最初は、敵同士だったね、それから少しの間一緒に冒険して……そしてまた敵同士になってそんな私をスプリングが救ってくれて……本当にありがとうスプリング、私本当に感謝してる」


自分達の出会いを思い出し語るソフィア。人差し指を押し当てられたスプリングはその指を振り払おうとするが何故か振り払えない。


「ずっとスプリングに守られていた私がスプリングにしてあげる事があるとすればこれぐらい」


「……なっ!」


不意に人差し指を離したソフィア。スプリングはその隙を逃さずソフィアに向かって叫ぼうとした。だが次の瞬間、再びスプリングの口が塞がれる。


「……」


ソフィアの唇がスプリングの唇に重なる。短い、だが二人の間では長いキスであった。


「……スプリング……私はあなたが好き、大好き……例えこの身が滅びても私はあなたを地獄の底までだって追いかける自信がある、それくらい私は、あなたを愛してる……」


「……」


ソフィアの唇の感触とその後に続いた言葉に体の力が抜けていくスプリング。強張っていた体の力が抜けたと同時にスプリングの目から涙が頬を伝う。



「……俺……ぐぅ……俺……」


涙でソフィアの顔がはっきりと見えないスプリングは自分の想いをソフィアに告げようとするが感情の昂ぶりと涙の所為で、言わなければならない大事な言葉が出てこない。


「フフフ……スプリングの気持ちはちゃんと届いたよ、私今……とっても幸せな気分……ありがとう……またいつか、どこかで出会えたら、今度は最初から仲良く……なりたいな……」


「ソフィア……」


満面の笑みを浮かべるソフィアはそう言い残すと光の粒子のように輝き始める。


「……ソフィア……俺、何も……まだ何も言ってない……」


自分はまだ何も伝えられていなと姿が消え始めるソフィアに訴えるスプリング。だがソフィアは満面の笑みをスプリングに向けるだけでもう何も語らない。

 月石ムーンロックの力によってその想いがそした魂が具現化したソフィアの姿は光となって消え、そしてすでに魂の無いソフィアの体も魂と同じように光となって舞い上がる。すると球体の形をしていたナイトは、ソフィアの魂を天に返すように己の形を元の手甲へと戻していく。崩壊した結界世界を飛び出しガイアスの空へと舞っていく光となったソフィアの魂は霧散して消えていくのであった。


「ソフィアさん……」


空に昇り霧散していくソフィアの魂を見送るブリザラ。


「私は……ソフィアさんのようにあの人にこの想いを告げる事ができるでしょうか……」


ソフィアの強い想いを感じながら『闇』へと堕ち魔王となった男の姿を思い浮かべるブリザラ。


「アキさん……私はもうこの目であなたを見ることは出来ないけど……それでも私は…あなたの姿が……見たい」


球体であったナイトに体を預けていたブリザラは、ナイトが元の手甲に戻った事によって支えを無くし力無く地面に倒れこんだ。


「……」


真っ赤に腫れた目をつぶりながらスプリングはその場に立ち尽くす。ソフィアという存在を失った事はスプリングの心に大きな傷を残す事になった。しかしスプリングは決心したように涙によって腫れた目を見開き、地面に落ちたナイトを拾う。そしてナイトを自分の腕へと纏わせた。


「ナイト……お前の所有者を無理矢理にでも俺に書きかえろ」


『……』


 スプリングの言葉に一切答えないナイト。それはお前がもっとしっかりしていればというスプリングに対しての無言の抗議であった。


「お前の気持ちは痛いほどよく分かる……俺を恨みたければ恨めばいい……」


無言を突き通すナイトにスプリングは、そう言うと何もかもが全て消えてしまったソフィアが、今までそこにいたという証、クイーンに付着したソフィアの血を手で拭う。するとそのソフィアの血をナイトに塗り付けた。


「だが、まず俺を恨む前に自分にけじめをつけろ! お前はソフィアが持っていた伝説の武具ナイトだろ!」


 それはスプリングの怒りの叫びであった。ナイトがスプリングを恨むように、スプリングもまた一番近くにいたはずなのに死神に対して何の抵抗も出来なかったナイトを恨んでいた。


「でも本当に憎むべき相手は違うだろナイト!」


それはお互いに理解している事であった。憎む相手、討つ相手は他にいると。


「だから死神を討つ力俺に貸せナイト!」


絶叫するスプリング。するとナイトはスプリングの叫びに合わせるように緑に輝き出すと形を変えていく。それはまるで盗賊時代のソフィアが愛用していたナイフのように鋭い形へと変化していく。


「……」


ナイトの形が変わった事を確認するとスプリングは倒れているブリザラの下へと向かう。


「ブリザラ……俺達に被害が及ばないように頑張ってくれたんだな……」


腰を落とし地面に倒れているブリザラの顔を見つめながら語り掛けるスプリング。ブリザラの目は両目ともに潰されていた。両目を潰されたブリザラの顔を見て、スプリングは自分達を守る為に死神と壮絶な戦いを繰り広げていたことを悟る。


「……お前の想い俺が持っていく」


倒れたブリザラにそう言いながらスプリングは戦いによって負ったブリザラの体から流れる血をてに付けると視線をブリザラから外す。


「……キング……」


倒れているブリザラに寄り添うようにして地面に転がっている伝説の盾キングに呼びかけるスプリング。


『……ああ……私の想いも……王の想いと一緒に持っていってくれ』


その声は静かであった。だが強い意思が感じられる。キングの言葉を聞いたスプリングは、ブリザラの血が付いた手でキングに触れる。するとナイト同様にキングもまた緑の光を放ち始めながら形を変えていいきまるでサイデリーに降る真っ白な雪のように変色していくキング。


「ポーン……」


『分かっている主殿』


すでに覚悟は出来ているというようにポーンはスプリングに返事を返す。腰に差した鞘からポーンを引きき抜いたスプリングはそのポーンの刃で自分の腕を切る。すると滴り落ちるスプリングの血を吸っていくポーン。スプリングの血を吸ったポーンは、ナイトやキングと同様に緑の光を放ちその姿を変えていく。 それは精霊が持つ属性を模したような六色の光がポーンの刃に纏わりついていきポーンの刃を鋭くそして強靭なものへと変化させていった。

 伝説の武具達に起こったに変化、それはスプリングの持つ『縁ノ核』によって引き出された力であった。自分達の所有者の血に触れる事で伝説の武具達は、新たな伝説の武具『伝説武具ジョブシリーズへと変化を遂げたのであった。


「みんな……ありがとう」


伝説武具ジョブシリーズ』達に感謝の言葉を告げるスプリング。


しかし強大な力には犠牲がつきものである。それをスプリングを含めた『伝説武具ジョブシリーズ』達は理解していた。


『ふん、お前などに頼むは癪だが、ソフィア様が愛した男として……頼む、私の分までソフィア様の仇を……』


「ああ」


ナイトの願いに頷くスプリング。


『スプリング……我王と私の想いを……』


「うん……」


キングの願いに頷くスプリング。


『主殿……今まで楽しかった、ありがとう』


「ポーン……俺の方こそ、ありがとう」


そして苦楽を共にしてきたスプリングの絶対的相棒であるポーンの言葉に感謝を付けるスプリング。その言葉を最後に『伝説武具ジョブシリーズ』の声は聞こえなくなった。


「悪いなクイーン……」


『分かっています……』


一人、『縁ノ核』が発動できず残されたクイーンは、全てを理解したというようにスプリングの言葉に頷くような声をあげる。


『……第三秘匿情報までの封印データが解除され開示されました』


 まるでスプリングがポーンと出会った時のように、クイーンは感情の籠っていない声でスプリング達が使っている言葉とは違う言葉を口にする。クイーンが一体何について話しているのか全く分からないスプリングであったが今のスプリングにはそれはどうでも良い事であった。『縁ノ核』を発動させ、ポーン達の命を吸って生まれた死神を滅ぼす力、『伝説武具ジョブシリーズ』を纏ったスプリングは失われた大切命達の想いを胸に自分が向かう道へと目を見開き歩き出す。

 その目は真紅のように染まながら輝き、完全に消滅した結界世界を抜け出し、ガイアスに放たれた星の命を狩ろうとする死神へ向けられていた。




ガイアスの世界


『縁ノ核』によって生まれた力。


スプリングが持つ『縁ノ核』の発動によって自分達の所有者の血に触れ形を変えていく伝説の武具達は、『伝説武具ジョブシリーズ』へと変化した。それは伝説の武具達のクラスチェンジといってもいい。

しかしスプリングは本来の『緑ノ核』の使い方とは違う無茶な近い方をした為に『伝説武具ジョブシリーズ』達は正しいクラスチェンジを行えず自我を失う事となった。

『縁ノ核』を使う上でまだスプリングに足りないものがあるようだ。しかし一度『縁ノ核』を発動してしまった以上、もう『伝説武具ジョブシリーズ』の正しいクラスチェンジを見る事は叶わない。

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