最後で章 25 見開く目
ガイアスの世界
ランギューニュが神精霊であるウルディネとインフェリーに反応しない理由。
理由の一つとして神精霊に性別がない事があげられる。見た目女性や男性であったとしても神精霊に性別は無い。ランギューニュは潜在的な部分でその事を理解しているという訳だ。
余談ではあるがランギューニュは女性か男性か性別の不明である人間を一瞬で見分ける事ができると言われている。見分けられるのは彼の中に流れるサキュバスの血が関係しているのかもしれない。
二つ目は彼の存在の半分が『闇』である事が言える。『闇』は神精霊の存在を苦手として
いる。それ故に半分『闇』の血が流れるランギューニュにもその影響が出ているようだ。
最後で章 25 見開く目
『絶対悪』を抑え込み魔王の『闇』が渦巻く世界、ガイアス
そこは小山や崖も無い見渡す限り平地の続く大地。その先にあるのは一面の海。その光景を目にした者達は誰一人としてそこがユウラギと呼ばれていたなどと思うことは無いだろう。しかし見渡す限り平地となった元ユウラギの中心には、黒い柱がそびえていた。その柱からは『闇』が発せられ何処までも広がっていた。
「ちょっと、何で私の後ついてくるのよ」
「別にお前について行っている訳じゃない」
そんな『闇』を放つ黒い柱を目指すように歩みを進める男女二人。だが周囲に漂う重く暗い雰囲気とは違い、男女が放つ雰囲気は良く言えば明るく、悪く言えば騒がしかった。
「たく、まさかこの状況で最初に出くわしたのがお前とはなソフィア」
夜歩者にしてヒトクイの王でもあり『闇』と『聖』を司る神精霊でもあるレーニの力によって何処かに飛ばされていたはずのガイルズ。その間の意識は無く気付いた時に今まで自分がいたはずのユウラギの大地は無く、一切の凹凸の無い開けた平地にガイルズは立っていた。
人間が扱うには大きすぎる特大剣を背負い上半身裸のガイルズは、呆れた表情で自分の背丈の半分ぐらいしかない女性の背を見つめながらため息を吐いた。
「……それはこっちの台詞、理を外れた者達を探せと言われたけど、まさか人の道を外れたあんたなんかを最初に見つけるなんてね」
突如目を開けられないほどの光が頭上から降ってきたと思えば、ガイルズと同じように気付けば何処までも続く平地の上にいたソフィア。何がどうなったか全く理解できないソフィアであったが、なぜかある人物からの言葉だけは覚えておりそれを頼りにあてもなくユウラギでは無くなってしまったその平地を彷徨っていると、ソフィアと同じように平地で突っ立っていたガイルズを発見し今にいたるという状況であった。
女性剣士がよく好む軽めの装備に身を包むソフィア。しかしその軽装には似つかわしくない重厚な手甲を右手に纏ったソフィアは、自分の背後を歩く背の高い男をガイルズに嫌味を発しながら、ガイルズ同様に深いため息をついた。
「理を外れた者って……誰に聞いたんだよ」
「あんたなんかに教える義理は無い……」
ガイルズの質問を強めの口調で拒否するソフィア。
「……なあ、ところでお前、サイデリーの船で会った時から気になっていたんだが、その手甲は何だ?」
背を向けるソフィアの細腕に纏われた到底女性剣士が身に着ける物では無い重厚な手甲を指さすガイルズ。
「……これ?」
「ああ、……何かこう……何処かポーンに似ているというか……」
はっきりと断言できはしないが、ソフィアの手に纏われている手甲の造形が何処か伝説の武器であるポーンに似ていると感じたガイルズ。そんなガイルズの観察力にデカブツのくせにそう言う所は鋭いと思うソフィアは、どう説明しようかと沈黙する。
『あの~私の事を話してらっしゃいますか?』
「……」
どう説明するか考え沈黙するソフィアを他所に、所有者より先にその正体を現してしまったその声。突然発せられる声に何処かで同じような経験をしたなとガイルズは苦笑いを浮かべる。
「……はぁ……」
苦笑いを浮かべるガイルズの表情、そして何処からともなく発せられた声にしまったという表情で頭を抱えるソフィアは深くため息を吐く。
目の前にいるガイルズは、ソフィアにとって状況はどうあれ仲間を裏切った敵である。そんな敵を前に自分の切り札をペラペラと喋りたくは無かったのだ。しかしその切り札はソフィアとガイルズの関係、そして場の空気も読まずその正体を現してしまった。
「はぁ……あんたの言う通り、これはポーン達と同じ伝説の名を持つ武具……」
『ソフィア様、それは少し違います、私はあの屑鉄たちよりも遥かに優秀な存在で……あがおごがあ』
言い逃れが出来なくなった状況でソフィアはしょうがなくその切り札の正体をガイルズに説明をしようとした瞬間、ソフィアの言葉を否定するように声を荒げる切り札。ソフィアは思わず自分の細腕に纏われた重厚な手甲を手で押さえる。するとなぜか口を押さえつけられたようにソフィアの切り札である手甲から発せられる声はもごもごととし言葉を発せなくなった。
「……伝説の武具、ナイト……これがこの手甲の名前……」
ソフィアの切り札、重厚な手甲の正体は伝説の武具ナイトであった。
あれほどナイトの意識が戻った時は嬉しかったはずのソフィア。しかし今のソフィアの目はあの時の感情が嘘のように死んだ魚のようであった。
「……なるほどな……確かにその力があれば、ユウトや俺に喧嘩を売ろうという気になるわな……」
明らかに自分が知る伝説の武器ポーンとは毛色の異なる性格を持ったナイトに、少々引いてしまったガイルズは苦笑いを続ける。
だが苦笑いを続けながらもサイデリーの大型船でソフィアと再会した時、自分に対して強気で突っかかってきた理由、そしてスプリングと共に行動していた時よりも遥かに自分の力に自信を持っていたのにはそういうカラクリがあったのかと納得するガイルズ。
「盗賊だったお前が……ね」
値踏みするようにガイルズは自分を見つめるソフィアを足の頭から足の先まで見渡す。
「何よ、いやらしい目つきで私を見ないで変態!」
突然舐め回すように自分の体を見られている事に気付いたソフィアは、気持ち悪いものでも見るようにガイルズに軽蔑の視線を向ける。
「……お前、強くなったんだな」
ボソリと独り言のようにガイルズの口から漏れだすソフィアへの称賛。
「なっ!」
ガイルズは理解していた。ただ伝説の武具を手に入れただけで、ソフィアが自分に自信を持った訳では無いという事を。年月とはいい意味でも悪い意味でも人を変える。二年という歳月がソフィアにとってどういうものであったかガイルズは知らない。しかし今目の前にいるソフィアをじっくりと観察することによってその力が過酷な訓練を積み勝ち取ったものなのだろうということはガイルズにも理解できたからだ。伝説の武具の所有者になった事で得た自信では無く己が努力の上に成り立つ自信と成長に正直驚き思わずソフィアに称賛を贈ってしまったガイルズ。
そんなガイルズの口から突然漏れた称賛の言葉に、自分の努力が突然認められた事にどうしていいのか分からず、その表情は笑みとも睨みつけるとも言えない複雑なものになっていた。
自分はガイルズの言葉にどう反応すればいいのかそんな事が頭の中を駆け巡るソフィアの手は当然おろそかになる。ナイトを抑え込んでいたはずの手の力がガイルズの突然の称賛の言葉に動揺して緩んでしまう。
『ぷっはっ! デカブツが偉そうに! 私とソフィア様が本気を出せばお前など、真正面からぶつかっても一瞬で消し炭……ほごもごもご!』
どこにあるのかも分からない口が解放された途端、ナイトは挑発とも言える言葉をガイルズ投げる。しかしナイトの言葉は再び遮られた。何処にあるのかもよく分からないナイトの口を抑えていた手の力が抜けていた事に気付いたソフィアは再びその手に力を込めたからだ。
「おうおう、お前の相棒は面白い事言ってくれるな……真正面から俺を消し炭にか、あっはは! 面白い俺はその時を楽しみにしているぞ」
伝説の武具を持たずして夜歩者や闇歩者と対等、あるいはそれ以上の力で渡り歩き、神精霊と言われる存在にまでその鋭い牙を向けるガイルズは、目の前に立つ小さな女性剣士とその相棒との対決を心待ちにするかのように、ナイトの挑発的な言葉を好意的に受け取ると不敵に笑みを浮かべ、大声で笑った。
目の前で楽しく笑うガイルズを前に、ソフィアの表情は全く笑えないと明らかに青ざめていた。確かにいつかガイルズを倒し積もりに積もった恨みを晴らしてやると考えているソフィア。だがこんな真正面からの宣戦布告などするつもりは一切無かった。
例え今の自分が意識をとりもどしたナイトと一緒に本気を出したとしても到底歯が立たない事はサイデリーの大型船で明らかであったからだ。だからこそソフィアは、正攻法では無くガイルズの不意を打つという元盗賊の力を生かした奇襲を仕掛けようと考えていたのだ。それなのに切り札として隠していたはずのナイトは自分の正体をあっさりとばらし、そのうえ真正面から戦うという宣戦布告まで言い放った。もう自分が考えた計画はグチャグチャだと呆れるソフィア。
「……まぁ、でも俺を消し炭にするのは、今の状況を何とかしてからだな……世界が終わりを迎えちまったら何の意味も無いからな」
そう言いながらガイルズはソフィアにニコリと笑みを浮かべた。
「はぁ……しょうがない……私とナイトの本当の力、いずれきっちりと見せてあげる」
吐いた言葉は呑み込めない。別にソフィアが吐いた言葉ではないのだが、ソフィアは覚悟を決めたように笑みを浮かべるガイルズに強気な笑みをかえした。
そんなやり取りをしているうちに気付けば二人の前には『闇』を放つ黒い柱の根元が姿をあらわしていた。その黒い柱の前でまるで眠っているかのように目を瞑る男の姿をまじまじと見つめるガイルズとソフィア。
「……皆から色々聞いてはいたけど……本当にソックリなのね……」
「……ああ、双子だからな」
目を瞑りそこに佇む男と直接的にあった事は無いガイルズとソフィアは、その男の顔を見つめ驚くように呟いた。細かく言えば違いはあるもののその男の顔は二人がよく知る人物に本当ソックリであったからだ。
「スプリング……」
目を瞑りその場に佇む男の顔とスプリングの顔を重ねるソフィア。その表情は切なさに満ちていた。
もう出会う事ができないかもしれない男の名を口にするソフィアの表情をニタニタとやらしい表情で見つめるガイルズ。
「なによ……」
ニタニタとやらしい表情をしたガイルズを視界の隅で捉えたソフィアは、はっきりと分かる拒絶の表情と声で、ニタニタといやらしく笑うガイルズのその表情の意味を問いただした。
「いや~別に」
ニタニタとしながら何でもないと口にするガイルズ。その言葉に苛立つソフィアの表情は一瞬にして鬼のような形相になる。その変化を見逃さないガイルズは、そそくさと視線を違う方向へと変えた。
「何よ、言いたい事があるならいいなさいよ」
低く腹の底から響くような声でガイルズに詰め寄るソフィア。その行動の意味を説明しろと視線を外したガイルズを睨みつける。
「青春だな……と」
「この馬鹿が!」
ソフィアの叫びと同時に腰の入った鋭い蹴りがガイルズの体をかする。
「冗談だ冗談!」
間一髪でソフィアの蹴りをかわしたガイルズではあったが、少しヒヤッとしたのか額には冷汗が滲む。
「冗談なら何なのよ?」
冗談であるならば、何なのかと更に問いただすソフィア。
「いや……お前、目の調子は大丈夫なのか?」
「目?」
思わぬガイルズの言葉に首を傾げるソフィア。
「うん? その赤く染まった目のことだ、痛かったりしないのか?」
「……赤い目? 痛い? ……何の事よ?」
「……自覚症状はまだ無いのか……」
勝手に納得するガイルズの言葉にソフィアは眉間に皺をよせる。
「だからなんなのよ!」
癇癪を起すソフィアは地面を何度も踏みつける。一回踏みつけるたびに周辺の地面に転がる石や砂が宙を舞っていた。
「……あ、はいはい……分かったって、ちゃんと説明するよ、たく……昔は一々怯えてた奴とは思えないな」
「何ッ!」
「いえ、何でもありません……あのなお前の目、サイデリーのオウサマと似た感じに赤くなってるんだよ」
鋭い眼光で睨みつけるソフィアの視線に耐えきれず視線を外すガイルズ。
「……私の目が……」
「何だお前、鏡で自分の顔見てないのか?」
「……うん」
自分の身だしなみなど考える暇があれば常に強くなる事を考えていたソフィアにとって、自分の顔を見る暇などありはしなかった。よくて朝自分の顔を洗う程度で自分の顔など隅々まで見たことなどこの二年無かったソフィアが、自分の目が赤く染まっている事など知る由も無い。
「お前、それは女としてどうなんだ?」
「五月蠅い!」
再び放たれるソフィアから放たれる鋭い蹴り。しかし今度は余裕をもって避けるガイルズ。
だが驚きなのは、全く自分の身だしなみを気にしていなかったソフィアの顔は何の劣化もすることなく、いやむしろ二年の間にその美しさが増している事にあった。だがそれを指摘するはずも無ないガイルズはそこから連続して蹴りを二、三度避ける事になった。
目が赤く染まったソフィアの姿は、すでに目が赤く染まっていたブリザラの状態と酷似していた。ブリザラ本人に聞いた訳ではないため、直接赤い目が関係しているのかははっきりと分からないがガイルズはブリザラの体に起こっている症状がソフィアにもおこっているのではないかと気になっていた。
サイデリーの大型船でブリザラと対峙した時、ガイルズはブリザラの目の視力が失われている事、そして本人は周囲に気付かせないように立ち振る舞っていたようだが、体の何処かに痛みを感じていた事に気付いていた。
もしブリザラと同じ症状がソフィアにも出ているとするならこれから先、ソフィアはその症状を背負い戦わなければならない訳で、症状が進行しているのならガイルズはソフィアを止めようと考えていた。しし当の本人ソフィアにその自覚症状が無いのなら、自分の勘違い、もしくはまだその症状が現れていないだけだと、願わくば前者である事を思いつつガイルズはそれ以上何も言わなかった。
ひとまずは問題無いと判断したガイルズはブスッとガイルズの言葉を待っているソフィアに目線を重ねる。
「……そんなに私の目……変?」
「……プッ……あっははははは!」
「な、何がおかしいのよ、あんた私を馬鹿にしているでしょう!」
ブスッとしていた表情から一変、不安げになったソフィアの表情は、どこか少女を連想させるもので先程まで殺すだの何なのと言っていた者と同じ人物の表情には見えず、そのふり幅が大きすぎて思わず笑いが込み上げ我慢できず噴き出し大笑いするガイルズ。
「ち、ちょっと! それ以上笑ったら今すぐここであんたの首跳ねるからね!」
何を笑われているのかは分からないが、とりあえず馬鹿にされている事だけは理解したソフィアはギロリと笑い続けるガイルズに睨みを利かす。
「ひぃーひひ、腹痛い……い、いやお前も女なんだなと思ってな……プププッ、だぁあははは!」
堪えようとするが我慢が出来ないのかガイルズは破裂した音の如く笑い声を再びあげる。
「あーもういい、あんたここで死になさいよ!」
怒りと呆れが入り混じった表情でガイルズに拳を振り上げるソフィア。
「あの~ あんたら今どういう状況か理解して夫婦喧嘩みたいな事してるの?」
ソフィアの前に姿を現した男の目の前にガイルズの巨体が倒れ込む。ソフィアが振り上げた拳は大笑いを続けていたガイルズの鳩尾を的確に打ち抜き、その強烈な一撃を鳩尾に受けたガイルズの大笑いはピタリと止んだ。
「……あんたは……」
鳩尾に強烈な一発を喰らいガイルズが悶えながら蹲る中、ソフィアは自分達に声をかけてきた男が何者であるかを理解するとその男に人を殺せそうな視線を向けた。
「はっはう! その御姿は……ブリザラ様ではありませんか!」
ブリザラが人を殺せそうな視線を誰かに向けた事があるかは定かでは無い。しかしソフィア達に声をかけた男はソフィアの前で悶え蹲るガイルズには目もくれず、自分の前に立つソフィアをブリザラだと認識し奇声を発しスキップしながらソフィアの方へと突然、突っこんでいった。
「あんたは鬱陶しい!」
「ガフゥ!」
スキップを利用し大きく跳躍、そのままソフィアへ突っこんでいく男にタイミングを合わせ的確に男の鳩尾にガイルズと同様の威力の拳を放つソフィア。
鳩尾に強烈な一撃を貫かれた男はそのまま顔から地面へと落下、ガイルズの横で同じ体勢で悶えながら蹲るという結果になった。
「ソフィアさん!」
「その声は、テイチ!」
それから少し遅れる事数秒、今度はソフィアの名を叫ぶ女性の姿が現れた。その声がテイチであると理解したソフィアは、自分の名が聞こえた方に視線を向けるソフィア。そこには神精霊達を引きつれたテイチの姿があった。
「ど、どうしたのこんな所に?」
駆け寄ってくるテイチの後ろをついてくるようにやってくる神精霊達に少々困惑しながらも笑顔をテイチに向けるソフィア。その表情は地面に蹲る男達に向けていた冷徹な表情とは別人のようであった。
「その、あの黒い柱が気になって……」
そう言いながらテイチの視線は黒い柱の中心で目を瞑り佇む男に向けられていた。
「そこで目を瞑っている奴って、テイチの知っている人?」
ソフィアは自分に向かず黒い柱の中心に佇む男に視線を向け続けるテイチに、ソフィアは質問した。
「ええ、私とウルディネがお世話になった人です……」
切なさそして悲しみの感情を含むテイチの視線を追うようにして水を司る神精霊のウルディネもその視線を向けた。そんなテイチとウルディネの表情を目の当たりにしたソフィアは自分がスプリングに向ける想いと同じようなものを二人から感じていた。
「そう……そうなんだね」
誰にも聞こえないほどの声で二人の想いを理解するソフィア。二人の視線の先にいる人物、それはスプリングの双子の兄弟にして伝説の防具の所有者でありそして現在は、ガイアスを滅ぼそうとしている元凶、魔王アキの姿であった。
「ところでテイチ」
「なんですか?」
いつまでも感傷に浸るのは良くないと考えたソフィアは、テイチに声をかけた。じっとアキを見つめていたテイチは我にかえるようにハッと顔を振り、ソフィアに視線を向ける。
「よかったね、ウルディネが帰ってきて」
「……うん!」
二年前サイデリーでソフィアは自分の力を高めるために訓練に励み、テイチは自分の出身地であるムウラガに居る人々をサイデリーへ移住させる為、勉学に励んでいた頃、二人はであった。お互い道は違うが高みを目指している事は一緒である事からソフィアとテイチはまるで兄弟のように仲良くなった。
それから数カ月後、テイチは一番大切な存在であったウルディネを失い、絶望の中にいた。そんな時ソフィアはテイチを励まし側にいられるときはずっと傍らで寄り添い続けたのであった。
辛かったテイチを知っているソフィアはテイチの傍らにウルディネが帰ってきた事が自分のように嬉ししかった。
「今までソフィアには迷惑をかけた、私からも礼を言わせてほしい」
テイチの傍らで二人の会話を聞いていたウルディネはソフィアに対して深く頭を下げた。
「ああ、いいのいいの、私姉妹とかいないから、テイチが可愛くて可愛くて」
顔が溶けてしまうのではないかというほど甘く優しい表情になるソフィア。
「何ッ! 聞き捨てならないな! テイチの可愛さを一番に理解しているのはこの私だ!」
そう言いながら己の体に纏わせた火を逆立てる火の神精霊インフェリーがその巨大な胸を張りながらソフィアとウルディネの会話に割って入った。
「ああ、五月蠅いのが出てきた」「全く……」
そんなインフェリーに呆れるソフィアとウルディネ。
「何だ! 今からどれだテイチの可愛さについ語るのではないか?」
二人の顔に視線をキョロキョロと往復させるインフェリー。
「今この状況で流石にその発言はありえないよインフェリー」
「はぁ……全く」
後ろで静かに黙っていた風の神精霊シルフェリアと土の神精霊ノームットはインフェリーの言葉に呆れため息を吐いた。
― 騒がしい……静かにしろ ―
いつの間にか『闇』を放つ黒い柱を中心にして集まった者達によってその場が騒がしくなった頃、突然その場の者達の頭に声が響いた。
「この声は……」
「アキさん!」
ウルディネとテイチがその声の主の方へと視線を向ける。そこには目をゆっくりと空けテイチやウルディネ達の方へと向ける魔王アキの姿があった。
― 理を外れた者達よ……待っていた…… ―
アキではあるがアキとは思えない重々しい雰囲気を持ったその声に、伝説の武具を持つ所有者も神精霊を使役する神子も、使役されている神精霊達も、流れる血の半分が『闇』のものである者も、内に聖の獣を宿す者ですらその一声に言葉を失うのであった。
ガイアスの世界
何もかもが違うユウラギ。
そこはまるで何も無い死んだ世界のような雰囲気を醸し出す場所。そこがユウラギであったなど到底思えないほど視界に広がるのは何処までも続く平地のみ。さらにその先には海がみえる。
しかしそこはユウラギと呼ばれる場所で間違いない。
死神の幻術が解かれた本当のユウラギ。いや名も無いただの平地が続く場所なのである。
なぜ一面平地なのか、そしてそこには生き物も草花も生息していないのか……それはその場所で死を司る存在がじっとその時を待っていたからであった。




