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最後で章 24 平行線

ガイアスの世界


バラライカの放った魔法


バラライカがレーニ向け放った魔法は、どれもが魔法使いが初歩で覚える魔法ばかりである。

 魔力と技量がくわわれば、初歩的な魔法でも恐ろしい威力になる事を物語っている。しかし早々バラライカのように初歩的な魔法を強力な魔法にする事は出来ない事も事実で、バラライカの放つ魔法はほぼオリジナルといってもいい。


最後で章 24 平行線



『絶対悪』渦巻き、それを抑え込むようにして魔王の『闇』が広がる世界、ガイアス



 耳が壊れるかと思うほどの爆発音と共にそれに続く地鳴りと爆風。バラライカによって放たれた大量の巨大火球はレーニを巻き込みながら地面へと衝突、周囲を巻き込みながら衝突したその場所を一瞬にして焼土と化した。その爆発は規模にすれば町や村が一つ消し飛ぶほどのものでありスプリングにとって両親たちとの思い出の地でもあるその場所は、見る影も無く一瞬にして消し飛んでいた。

 町や村を一つ消し飛ばすほどの爆発は着弾したその場所から遠くへ離れていたスプリングやリューにも眩い光と熱風が届いていた。熱の籠った爆風は簡単に人を吹き飛ばすほどの威力を持っており、離れた場所にいたスプリングやリューさえも気を抜けば体を持っていかれてしまうほどであった。爆の籠った熱風を体で感じ、爆発による光を手で遮りながら、スプリングとリューは爆発が収まるのを待った。

 そんな威力を持った攻撃をまともに喰らえば常人であればまず生きていない。しかしスプリングは知っている。どんな状況でもレーニは生きて帰って来る事を。それが夜歩者ナイトウォーカーの持つ驚異的な再生能力なのか、それとも神精霊となった力なのか、はたまたその二つとは違う力なのかはスプリングには分からない。しかし絶対にあの地獄のような光景からレーニが必ず帰って来るとスプリングは信じていた。


「……みなさい、スプリング、あの光はお母さんの覚悟の証、お前を奴から助け出す為の光だ」


しばらくして熱の籠った爆風と爆発による光がゆっくりとではあるが弱まり収まり始めた頃、リューはバラライカの放った爆発に指をさし隣で同じ光景を見つめていたスプリングに話かけた。


「……」


何を言っているのかと戸惑いの表情をみせるスプリングにとって目の前で起こった爆発もそうだが、自分の横に立っている男の言葉、いやその存在自体が理解できないでいた。


「……呪縛とか、母さんが俺をレーニさんから助ける為とか、何を言っているのか分からない……それに……」


そこまで言いかけ言葉を飲み込むスプリング。なぜ死んだはずの両親が、しかも自分と同じぐらいの年齢の姿で現れたのかと口にしたかった。だが今はそれよりも横に立つ自分が知っている頃よりも若い姿をした父親に尋ねなければならない事がスプリングにはあった。


「……奴っていうのは……レーニさんの事?」


スプリングの父親であるリュー。そのリューの言葉の所々に奴という言葉が出てくる。奴を示している者がレーニである事は間違いない。そしてリューがレーニに対して切りかかったという状況が、レーニの事を敵視しているという事を露わにしていた。しかしなぜリューがレーニの事を敵視しているのかがスプリングには分からなかった。


「ああ、そうだ」


短い答えがリューから返ってくる。


「……なぜ父さんはそこまでレーニさんの事を敵視しているの?」


「……奴がお前を騙し自分の手駒としているからだ」


スプリングの問に答えたリューの表情は、スプリングに見せていた優しいものから一変、冷たい無表情に変わった。

 

「……あの人は、俺を騙したり手駒にしたりなんかしていない」


リューの返答に納得の出来ないスプリングは、リューの言葉を否定する。


「はぁ……」


スプリングの言葉に呆れるようなため息をつくリュー。


「……スプリング、お前の言葉が全てを語っている……大抵騙されている者は皆そう言う……自分は騙されていない……あの人はそんな人では無いと……」


騙された者がよく口にする常套句だとでもいうようにリューは、スプリングの言葉を否定しかえした。


「よく考えろ、奴は数十年の間、人が住む国で人々の目を欺き自分が王だと私利私欲を尽くした……夜歩者ナイトウォーカーだ」


「それは違う!」


やはりそこかとリューがレーニを敵視する理由に納得するスプリングは、リューの言葉を強い口調で否定した。


「何が違う?」


「……確かに、あの人は人間の宿敵だった夜歩者ナイトウォーカーだ、でももうそれは昔の事だ、今、夜歩者ナイトウォーカーは人間と共存しようと頑張っている」


スプリングも詳しい事は知らない。しかし以前レーニから自分の同胞の中には人間と共存を望んでいる者達が多くいると聞いた事があった。


「……違うな、奴らは人の目を欺き虎視眈々と自分達が再び支配者となる時を待っているだけだ」


人間と共存を望む夜歩者ナイトウォーカーも確かにいる。しかしそれとは逆に以前の力を取り戻す為、再びガイアスの支配者となるべく影で暗躍している夜歩者ナイトウォーカーの存在がいることも確かである。リューの言い分も正しかった。


「……その者の王となるのはヒラキ王の力をかすめ取った奴だ、いずれ、何百とも何千ともしれない同胞を引きつれ奴はヒトクイを支配するだろう」


ヒトクイの王となったレーニが同胞を秘密裡に国の中に侵入させ時を待っていると言うリュー。


「違う……父さんはあの人の苦労を知らない……あの人は先代のヒラキ王の力や地位をかすめ取った訳じゃない、先代ヒラキ王の想いを守ろうとヒトクイの為に頑張ってきたんだ」


あの夜、自分が夜歩者ナイトウォーカーである事を告白したレーニの表情を思いだすスプリング。そしてレーニがヒラキから王を継いだ経緯知っているからこそスプリングは、リューの言葉を否定し続ける。


「……ならなぜ、奴は闇王国ダークキングダムを野放しにしていた……闇王国ダークキングダムを仕切っていた者は……夜歩者ナイトウォーカーだったのだろう?」


 直接の関わりは無いがリューやバラライカの若かりし頃、ガウルドで凄腕の盗賊団の噂が広がり始めていた。それが闇王国ダークキングダムの前進集団であった。しかし単なる盗賊集団でしかなかった闇王国ダークキングダムは、リューやバラライカがガウルドから離れた後、その勢力を伸ばし続け年月その規模を拡大さていた。リューやバラライカが死んだ頃には誰も手がつ向けられないほどの大きな組織としてガウルドの地下にその根城を作り上げるまでになっていた。その全てを取り仕切っていたのが、レーニの同胞、いや夜歩者ナイトウォーカーの上位存在、闇歩者ダークウォーカースビアであった。


「何も手を打たず野放しにした結果、夜歩者ナイトウォーカーを王とした盗賊集団は、国をも脅かす規模の組織となった……本当に奴が人間と共存を望んでいたのなら、規模が小さかった時点で、その芽を潰す事、同胞である闇王国ダークキングダムの王の首を狩る事も出来ただろう……それをしなかったということは……」


闇王国ダークキングダムを野放しにし続けていたていた理由は、レーニが闇王国ダークキングダムと繋がっていたからだと主張するリュー。


「それは違う……」


違うと否定するスプリング。あの当時レーニには闇王国ダークキングダムを潰せない理由が幾つかあった。

 一つは単純にレーニだけでは闇王国ダークキングダムの王スビアを倒す事が出来なかったからだ。当時のレーニの力では、上位種である闇歩者ダークウォーカーであるスビアにどう挑もうとも勝勝算が無かった。そのためレーニは待ったのだ、スビアを倒す事が出来る者が現れるのを。

 二つ目はガウルドの裏を支配してい闇王国ダークキングダムがガウルドの人々を人質にとっていたたということだった。表面上平和であるガウルドであったが常に闇王国ダークキングダムはガウルドの人々を監視していたのだ。思いだしたようにガウルドで大きな事件を起こすことでレーニを脅していたのであった。


「……何でそれを……」


しかしスプリングはリューに対してそれらの説明を出来ないでいた。その理由は闇王国ダークキングダムがガウルドの裏側を支配した頃、リューはすでに死んだ後であったからだ。死んだ者がなぜ死んだ後にガウルドで起こった出来事を知っているのか理解できなかった。


「知っているさ……奴の事は私とバラライカを生き返らせてくれたあの方から全て聞いていたからな」


「……あの方……」


リューとバラライカをこの世に再び呼び戻した存在、リューの言葉を聞いた時点でその者が誰なのか大体の見当がついたスプリングの表情は曇る。


「お前が奴の毒牙にかかっている、助けなければ大変な事になると、あの方は私達を生き返らせてくれた……スプリング、人を信じたいという気持ちは理解できる……だが奴は人では無く夜歩者ナイトウォーカーだ、奴だけは信じては駄目だ……お前は奴の力を理解していない、奴の吐く言葉はそれだけで強力な力を持ち人々を欺くんだ……正気になれスプ……」


「違う!」


朗々とレーニが危険な存在であると語るリュー。しかしそのリューの言葉をピシャリと止めるスプリング。


「何が違う?」


スプリングの言葉に首を傾げるリュー。


「今あんたが言った事、全部そっくりそのままあんたに返すよ、正気になってくれ父さん!」


「何だと、どういうことだ?」


リューはスプリングの言葉が理解できず聞き返した。


「言葉通りだよ、あんたは……自分や母さんを殺した者の言葉を信じるのか? あの日、父さんの前に姿を現した黒ずくめの男があんたを殺した張本人なんだよ!」


リューやバラライカを殺した黒ずくめの男、そしてリューやバラライカを殺したあの方、その二人が同一人物であり、そしてスプリング達が倒そうとしている死神である事は明らかであった。スプリングはリューが知らないであろう真実を叫んだ。


「ふん……何を言うかと思えば……スプリング馬鹿な事を言うな、私とバラライカを殺したのは奴だ……表向きはイライヤ一族が起こした反乱の責任を取る為、私やお前達をガウルドから追放するという事になっていたが、真実はヒトクイの辺境で静かに私達を葬ることだったんだ……」


リューが語る話は、リューを裏で操る存在の都合がいいように改変されていると思うスプリング。それ故に何処までいってもスプリングとリューの考えは寄り添う事なく平行線のままであった。


「何でだ……何で理解してくれない……わかってくれスプリング、私はお前の事を思って言っている、お前の事が心配だから言っているんだ……」


自分の考えが絶対であると信じているリューのその言葉は、スプリングからしてみれば矛盾していた。


「もういい……」


ゆっくりと首を横に振りながら伝説の武器ポーンに手を添えながらリューの隣から距離をとるスプリング。


「スプリング!」


何かが弾ける音が響く。その衝撃でスプリングの顔は横にそれ頬は赤く染まった。それは何の変哲も無いただの平手打ち。リューの平手がスプリングの頬を打った音であった。


「なんて目を親に向ける! 何をしようとした!」


今まで凛々しくもスプリングには優しい表情を向けていたリュー、だがスプリングの行動に思わず手を上げてしまったという動揺がリューの表情を歪ませていた。スプリングの目は殺気立ち、その手はポーンを抜こうとしていたのであった。


「もう話は終わりだ……俺も父さんも剣士だ、話し合いですまない事は、剣で決着をつけるしかないだろう」


動揺が表情に現れているリューとは逆に、覚悟を決めたように鋭い眼光をリューに向けるスプリング。


「スプリング! 私の事を信じず、あんな奴の事を信じるというのか?」


スプリングの行動に更に動揺が走るリュー。


「父さんこそ、俺の事を信じず、死神の事を信じているじゃないか」


「なっ!」


腰に差した伝説の武器ポーンと戦続きの剣に手を伸ばすスプリング。ゆっくりと二本の剣を抜くとはっきりと殺意の籠った眼光をリューに向けた。


『主殿……』 『スプリングさん』


親と子、本来ならば刃を向けてはならない者に刃を向けるスプリングの行動に戸惑いの声を漏らすポーンと伝説の防具クイーン。


「親に刃を向けるのかスプリング?」


二本の刃を向けられるリューの表情は苦悶に歪む。そこに怒りは全く無くただ悲しいそう言った表情であった。


「もうこの手段しかない……」


父と子の主張はどこまでも平行線のまま交わる事は無い。


「……そうか……お前の心に、もう私や母さんは存在しないのだな……」


スプリングの言葉に俯くリュー。ゆっくりと腰に差していた剣に手を添える。


「ならば……何も言うまい……」


 静かに剣に手を添え、腰を落とすリュー。その姿に先程までの柔らかな雰囲気は一切なく、一人の剣士としてのリューの姿があった。スプリングに対して向けられる視線もまた親のそれでは無く一人の剣士としての視線でありその視線を向けられたスプリングの体は一気に強張った。

 初めて感じる父親の剣士としての姿に圧倒されながらも自身も剣士である事を自覚するスプリングは伝説の武器ポーンと戦続きの剣を構える。互いが向かいあい、数秒が流れた時であった。それは何の合図も無く始まる。

 先手を取ったのはスフリングであった。スプリング自身が持つ身の軽さを生かし素早く前に出てリューをけん制するように戦続きの剣を横に薙ぐ。しかしそれを見切っていたリューは、剣に手を添えたまま巧みにその一撃を避ける。その瞬間だった。

 それは一瞬。鞘から抜かれたリューの剣は抜かれた事も分からないほどの速さで抜剣され、スプリングの胸を切り捨てる。しかしスプリングは半歩足を下げリューの放った一撃を胸のアーマーを僅かにかすらせながらギリギリの所で回避すると素早く屈み、リューの視界から消え去る。そのまま足を狙いけん制に横に薙いだ戦続きの剣を引き戻し再び横に薙ぐスプリング。

 その一振りは、スプリングの身体能力や今までに積み上げた技術、そして身に纏った伝説の防具クイーンの力が積み重ねられ尋常では無い速度を持っていた。だがそれでもリューはその尋常じゃない速度で振られた戦続きの剣を、抜剣した体勢から素早く剣を地面に突き刺しふせいでみせる。


「くぅ! うおおおおおおお!」


 確実にリューに攻撃が入るとは思ってはいなかったスプリング。しかし涼しい顔で易々と防がれたその一撃が悔しくないと言ったら嘘になる。しかしそんな事で剣を止めるような状況では無い事を知っているスプリングは、間髪入れず次の攻撃の動作へと移っていた。

 戦続きの剣による横薙ぎが防がれた瞬間、スプリングは叫びながら右手に持った直剣の形をしたポーンを縦に振り下ろす。振り下ろされたその一撃もスプリングの身体能力、今まで積み上げられた技術、クイーンの力が積み重なりそしてポーン自身の力も加わり、戦続きの剣以上の速度を持っていた。このまま何事も無く振り下ろすことができれば間違いなくリューの体は真っ二つになる、そんな速度と威力を持った。

 しかしスプリングの手にその手ごたえは無い。手に感じるのは弾かれたという重い感触。そこにはもう人間が放つ一撃とは思えないほどのスプリングの一撃をあっさりと軽くいなしてみせるリューの姿があった。地面に突き刺していたはずの剣は気付けば目にも止まらぬ速さで引き抜かれ頭上に迫ったポーンへと向かわせると弾いてみせたのだ。

 スプリングの持つ二本の剣を一本の剣で見事に全て捌いてみせたのだった。全て受け切ったリューは、下に振り切られたままの左手に持った戦続きの剣を踏みつけると、ポーンを弾かれ体勢を崩したスプリングのガラリと空いた胸に目がけ剣を一旦自分の下へ戻しそれをバネにして鋭い突きを放った。

 堅い物同士がぶつかり合う鈍い音が響き渡る。リューの放った突きは確実にスプリングの胸を捉えていた。はずであった。しかし次の瞬間、スプリングの胸に突き刺さるはずだったリューの剣は一瞬にして砕け散る。


「強固な鎧だ……」


砕け散った自分の剣を前に一切の動揺を見せないリューの左手が光出し新たな剣を作り出される。


「なっ!」


 何も無い所から剣を作り出すという行為。それはスプリングにとっての憧れであり向かう道であり、そして自分の両親を殺した者を討つために目指した力でもあった。


「……剣聖……」


その時初めてスプリングは自分の父親であるリューが、剣を扱う者にとっての憧れであり戦闘職の中で最強と言われる職業、剣聖である事を知った。



― ユウラギと呼ばれていた場所 ―



「おいおい、悪夢にうなされていたと思ったら……ここは何処だ……」


 見渡す限り平地が続きその先にあるのは海。元最上級盾士にして剣を扱う者達にとっての憧れであり戦闘職の中で最強と言われる職業、剣聖であるランギューニュは夢見心地の悪い夢を見た後のように少し不機嫌な表情を浮かべながら、見たことも無い風景を眺め頭をかいた。

 よくよく見ると周囲にはランギューニュと同じく自分達のいる場所に戸惑っている盾士達や、離れ離れになったはずのヒトクイの兵や志願兵の姿もあった。


「一体どういうことだ……?」


頭を傾げながら周囲の状況を確認しようと周囲を再び見渡すランギューニュ。


「ん? ……なんだあれ?」


その場にいる者達の中で、ランギューニュ一人だけがその違和感に気付く。


「黒い柱? ……あれは『闇』か?」


その体の半分に流れる血が、ランギューニュの視線の先にそびえ立つ黒い柱を『闇』だと感じさせる。


「まじかよ……あれだ!」


思わず大声を上げるランギューニュはその勢いのままそびえ立つ黒い柱に向かい走り始めた。

 走る最中何人もの盾士やヒトクイの兵、志願兵とすれ違ったが、すれ違った者達全ての者の表情は疲弊しきっていて今戦えるだけの気力は残っていないようだった。そんな状態の者達に声をかけられる訳もなくランギューニュは単身一人でその黒い柱へと向かう事になった。


「……戦えるのは俺一人……て訳じゃ無さそうだな」


『闇』を発する黒い柱にまるで導かれるようにしてランギューニュが近づいていくと、そこにはランギューニュと同様、戦えるだけの気力を持った者達の姿が数名その場にいた。


「どうもどうも~」


明らかにその場の雰囲気には合わないテンションで『闇』を放つ黒い柱に集まった者達に声をかけるランギューニュ。

 しかしその声に反応する者は誰一人居ない。ランギューニュ以外にその場にいた者達は『闇』を放つ黒い柱の中心に居る男の姿を見つめていたからだ。


「あれ~あそこにいるのは……アキ君じゃないか」


サイデリーの王ブリザラがサイデリーの港から旅立つ時、その旅に同行した男の姿を思い出したランギューニュはその男まじまじと見つめた。


「何か雰囲気変わっちゃって……たく意外に楽しみにしていたのにな手合わせ……そんな力を身に纏ったら俺失望しちゃうよアキ君」


口調はふざけているが、その表情に一切のおふざけは無く、周囲に剣を生み出していくランギューニュ。


「大切なブリザラ様を預けた身としてはその力は許さないよ」


 盾士としての禁足事項を破ったランギューニュは名目上、サイデリーの王であるブリザラの名において、サイデリーとサイデリーの王を守る最上級盾士の資格をはく奪された。しかしはく奪されたとはいえ、その使命はまだランギューニュの心の中にしっかりと残っていた。盾士としての資格が無くとも、サイデリーやブリザラを守る事は出来る。ランギューニュは盾から剣に持ち代える事によって、その使命を果たそうと剣聖の代名詞とも言える姿、数十本を超える剣や刃のついた武器を周囲に作り出していた。


「待ってください、ランギューニュさん!」


ランギューニュが『闇』を放つ黒い柱に向かい飛び出そうとした瞬間、横から割って入る小さな影。それに続く大小様々な影。


「あれ? テイチちゃんもきてたの?」


女好きを公言するランギューニュは、目の前に飛び出して来た小さな人影が誰であるか一瞬にして言い当ててみせると真剣だった表情を一瞬に崩しデレデレとだらしない表情になった。


「はい、ランギューニュさんもご無事で何よりです」



「うんうん僕は君の為にここまでがんばってきたのさ!」


純粋すぎるのかランギューニュの言葉が一切通じないテイチは首を傾げる。しかしそんなテイチだとしても全く気にしないランギューニュは、エネルギー補給でもしたというように表情を緩ませだらしない表情をテイチに向ける。


「それ以上糞を吐くようなら、私の剣で消し炭になってもらう」


「熱ッ!」


しかしランギューニュの幸せは一瞬にして崩れ去って行く。火が燃え上がる音がしたかと思えばランギューニュの喉元には真っ赤に燃える刃が突きつけられていた。


「……ああ……この感じ……」


ああまたこれかテイチに近づくと現れる鬱陶しい存在の事を思いだすランギューニュ。


「はいはい、分かりました、すいません」


近くに居るだけで焼死しそうになるほどの熱を持った存在、ランギューニュの喉元に真っ赤に燃える刃を突きつけたのは、火を司る神精霊インフェリーであった。


「……お前、それで本当に心の底から詫びているつもりか?」


「冷たッ!」


しかし次の瞬間、ランギューニュの喉元にはインフェリーの熱とは違う凍え死にそうなほど冷たい冷気の刃が漂った。


「……あれ? 俺この感触は……知らな……」


インフェリーに燃える刃を突きつけられた事は何度かあったランギューニュ、しかし今感じる凍え死にそうなほどの冷たい冷気を感じるのは初めてであった。そんな無駄口を叩くランギューニュの口を強制的に止めるように喉元に冷たい冷気の刃が教えてられる。

 インフェリーの燃える刃にクロスさせるように鋭く尖った氷の刃を突きつけた者の正体、それは水を司る神精霊ウルディネの姿であった。

 インフェリーもウルディネも神精霊ではあるが人間にも分かるほどの美しく煌びやかな容姿の持ち主である。しかし一見両手に花ともいえる状況であるが、ランギューニュの女性感度には反応しないのかその表情は両手に花では無く両手に死神とでも言うようにゲッソリとしていた。


「ふふふ、やっぱり賑やかになったね」


「ふぅ……全く年寄りには辛いの」


より一層テイチに悪い虫がつかないようその防御が強固となった事を賑やかになったと嬉しそうに表現する風を司る神精霊シルフェリア。そんな賑やかさに年齢を理由についていけないとため息を吐く土を司る神精霊ノームット。


「さてさて、冗談は置いておいてだ、今の状況を教えてくれるかな」


まるで盗賊のような軽やかな動きでインフェリーとウルディネの間から抜け出したランギューニュはテイチの背後にまわると現在自分達が置かれている状況をテイチに問いただした。


「それが……私達にも詳しいことはわかりません、ただこの黒い柱が気になって……」


そう言うとテイチはその視線を再び『闇』を放つ黒い柱の中心にいる男、魔王アキに向けた。


「まあ、あれだけ目立っていれば、気になるよな……」


テイチと同じく目を閉じ佇むアキに視線を向けるランギューニュ。


「……でだ……あそこにいる二人は何をしているのかな?」


その場の誰もが『闇』を放つ黒い柱の中心にいるアキに視線を向けている中、ランギューニュの視線は柱に近づいていく男女の姿に向けられるだった。



ガイアスの世界


 リューの戦いの特徴。


スプリングの父親であるリューもスプリングが憧れる戦闘職、剣聖であった。しかし他の剣聖とは違いリューの剣聖としての戦いは至って地味である。大量の剣を出現させ敵に対して放つことは無く、戦いの中、一本一本をその場の状況に応じて使い分ける戦い方であるからだ。

 その戦い方には理由がある。剣に優れたイライヤの一族の生まれであるリュー、当然剣の才能を持っていたが、その才能だけでは剣聖にたどりつけなかった。しかしそれを努力で埋め合わせリューは剣聖となった。しかしそこで再び壁にぶち当たることになる。

 リューには剣を生み出す為の力が他の剣聖に比べ圧倒的に少なかったのだ。その為他の剣聖のように大量な剣を作り出すはできず、それでも剣聖の道を極めんとした形が、その場、状況に応じて剣を切り替えるという戦い方であった。

 その独自の戦い方は他の剣聖には真似できず、一対一の戦いでは剣聖最強なのではと言われるほどだったらしい。

 

 



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