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最後で章 19 理を外れし者達の歩み その1


 ガイアスの世界


 死神の幻術に掛かった者達が見る世界


現在死神がユウラギにいる者達に見せている幻術は一人一人違う。だが共通しているのは、強烈な負の感情を沸き立たせる状況が目の前に広がっているということ。

 例えば親しい仲間が魔物に殺された、愛する者が他の男に奪われた、自分の子供や妻が事故で死んだなど、各種様々な負の感情が沸き立つ内容となっている。

 そんな死神の幻術の中、ガイルズやユウト、テイチやソフィアはどんな幻術を見ているのだろうか。そして魔王アキは……






最後で章 19 理を外れし者達の歩み その一




 『純粋悪』渦巻き絶望の幻術が広がりつつある世界、ガイアス




 ― ……こりゃまた……いやらしい攻撃だな ―


 気だるそうな男の声がボソリと色を失った世界にため息のように吐かれる。色を失った世界、そこには幼い少年の姿があった。きっとこの色を失った世界はその少年の主観的な視界なのだろう。何もかの色が失われたその世界の片隅で少年はじっとその場に留まっていた。しかしそんな色を失った世界の中で、不自然と言っていいほどに色を持つ男ガイルズは、苦々しそうな表情をしながら頭を掻いた。


― ……ああ、なるほどね……俺を今回のルールの説明役にする訳だな ―


少し思考したガイルズは、自分が置かれた状況をすぐに理解すると、生きる気力を失ったような目で自分が流れてきた川を見つめる少年に視線を向けたガイルズは一つ息を吐いた。


― 俺にこんなもの見せたって何の意味も無いってのに ―


ガイルズの口調は至って普段通りである。しかしその言葉には何等かの力があるのか、突然、色を失った世界に亀裂が入り始める。


― そいつはもう死んだ……俺とは何の関係もない……俺はそんな所じゃ死なない、俺の死に場所は……戦いの中だ…… ―


亀裂の入った色のを失った世界の中で、死にそうな目で一点を見つめ続ける少年よそに、その少年に対しガイルズはてまるで決別するかのように少年に言うと所々に亀裂の入った色を失った世界を見渡した。


― ああ、腹立つな……俺を勝手に説明係にしやがって……俺は説明係になる気も無ければ、こんな場所で道草食っている暇も無いんだよ ―


そこが本来どんな場所で、何を目的としているのか、そして自分が与えられた役割を理解していたガイルズは色の無い世界の空を見上げる。


― いいからうだうだ言ってないで、さっさとここから出せ! ―


 色の無い空に響く人間の声量とは思えないガイルズの怒号。ガイルズのそれが誰に対して叫ばれたものなのかは分からない、しかしガイルズの怒号に反応したのか、色の無い世界は亀裂の入った場所から割れると同時に大きな破片となって崩れ始めた。


― ふぅ……そうそう、言われる前にすぐやれよ ―


降り注ぐ色の無い世界の欠片を眺めながら、ガイルズは面倒臭そうな表情を浮かべ耳の穴をほじる。


― ん? ……ほおー洒落た事をやってくれるじゃないか ―


 降りそそぐ色の無い世界の欠片から視線を外したガイルズの目の前には、突如として暗い一本道が現れていた。その一本道に気付いたガイルズは、一本道の続く先を見てニタリと笑みを浮かべる。

 ガイルズの視線の先に広がるその一本道に終わりは見えなかった。永遠にも思える長く暗い一本道。しかしそんな長く暗い道を前にしてなぜかガイルズの表情は笑みを浮かべ続ける。

 その長く暗い道の先に待つのは絶望、しかしガイルズはそれが自分に待ち受けている運命であるというように、それが自分の行きつく先であるというように笑みを浮かべ続けながら、何の躊躇もなくその一歩を踏み出すのであった。




 そこは海が一望でき、夜ともなれば煩わしい音は一切無く波の音だけがその場を支配するとある集落。言葉だけ聞けばどこかのリゾート地にも聞こえなくないが、その集落には冒険者達に癒しの空間を与える部屋も無ければ波の音に誘われながら眠るベッドも無く、近くにある海の幸を使った豪華な食事を提供することも出来ない貧しい集落であった。

 その集落の何件かある家屋の一つに弱々しくも温かい光が灯る。お世辞にも人が生活する場所とは言えない雨風を凌げるだけといったその家屋の中には、若い夫婦が弱々しくも温かい光に抱かれ寝息をたてる幼い少女を愛おしそうに見つめていた。


「……私達は罪を背負った一族なのだ」


「私達は、ご先祖様達の罪を背負い、罰を受けなければならないのよ」


寝息を立てる幼い我子に語りかける若い夫婦の光景を見つめるその場には似つかわしくない少女の姿があった。


― これは……記憶? ―


その少女の姿の顔つきはどことなくその夫婦に似ており、眠る幼い少女とは瓜二つであった。


― ……お父さん……お母さん…… ―


今自分の目の前に広がる光景が誰のものなのかは分からない。なぜ自分がそんな光景を見せられているのかという疑問もある。しかしもう会うことは叶わないと思っていた両親を前に、自分がその光景にとって異質である存在だと理解しつつも、テイチは自分の感情を冷静に保つ事が出来なかった。

 今まで両親に対し抑え込んでいた感情が溢れだしてくるテイチ。止まる事なく湧き上がる感情、それは寂しさであり悲しみでありそして愛しさでもあった。抑えようとしても歯止めが利かない様々な感情がテイチの心を支配していく。しかしテイチが自分の感情を抑えきれなくなるのも当然である。手を伸ばせばすぐにでも触れ合え、そして話しかければすぐにでも返事を返してくれそうな距離に居るテイチの両親はすでにこの世に居ないのだから。


― お父さん! お母さん! ―


テイチの感情は溢れだしそれは叫びとなった。

 あの日テイチが住んでいた集落が襲撃され命を失った両親との再会は、テイチの心を混乱させ叫ばずにいられなくしたのだ。

 しかし溢れだす感情を吐き出したテイチの叫びは、空しくその場に響くだけで幼い少女に向けられたテイチの両親を振り向かせる事が出来なかった。

 しかしそれもそのはずだと何となく今自分が見ている光景が何であるのかを理解したテイチは俯く。テイチが見ているその光景は今のテイチにとって過ぎ去りし過去であったのだから。


― …… ―


触れられる距離にありながら、声をかけられる距離にありながら、自分はこの場において何の干渉も出来ない傍観者なのだと理解したテイチの感情はどうしていいのか分からず凍りついた。


「……この子にも……同じ運命を背負わせなければならないのか……」


「……この子だけでもこの運命から逃れる事は出来ないの……」


しかし自分がこの場に置いて何の干渉も出来ない傍観者であるという事実に気付いたテイチは今まで困惑していた感情が冷静になり霧がかっていた頭の中が晴れていくのを感じていた。冷静になったテイチは自分が今おかれている状況に矛盾を抱いた。


― もし……これが私の記憶から生み出された光景だとすれば……お父さんとお母さんは私の前でそんな事は言わない ―


 テイチの中にある記憶の中にいる両親は、二人とも明るくよく笑っている人達であった。テイチが居ない場所ではもしかしたら後ろ向きである発言を口にしていたのかもしれないが、テイチの記憶が正しければ両親がテイチの前でそんなそぶりをもみせた事は一度もなかった。従いテイチには両親の暗い姿の記憶は無いのである。だとすれば今自分が目にしている光景は自分には無い記憶であり別の何かであるということだ。そしてなにより一番テイチが違和感を抱いたのが両親の発言であった。


― お父さんもお母さんも自分達が背負った罪の事は知らないはず…… ―


ムウラガという大陸に住む大半の者達の先祖は、元々は一つの一族であった。遥か昔に大罪を犯したその一族はその罪を償うためムウラガという大陸に追放されたのである。しかし長い年月と共にそれらの記憶は風化していき、今では自分達が大罪を犯した先祖の末裔であるということ知る者は殆どいない。それはテイチも同じで両親から大罪を犯した一族の末裔であるという話聞いたことは一度たりとも無かった。

 もしかしたらテイチが知らないだけで両親は自分の立場を知っていたのかも知れない。だがそうなると今テイチが見ている光景事体の説明がつかなくなる。今テイチが見ている光景はテイチ自身の記憶であるのならば、記憶の中の両親がそんな事を言うはずがないからだ。


― これは……何? 私に何を見せようとしているの? ―


誰が何のために自分にこんな光景を見せているのか分からないが、テイチに一つだけ分かる事があった。それはこの光景を見せることによってテイチの心に何者かが干渉しようとしているということだった。

 テイチが冷静になった事を見抜いたように突如としてテイチの目の前に広がっていた光景が変わる。そこに現れたのは、当時深い眠りについてテイチにはどう足掻いてもみることのできない光景であった。

 焼け燃える自分が住んでいた集落。近所のおじさんやおばさん達の悲痛な叫び声。その叫びを容赦なく塞ぎ切り刻んでいく悪魔のような顔をした盗賊達。その光景の全てが自分の記憶には無い光景であった。


― …… ―


時間にしてみればほんの数分の出来事。集落は僅かな時間で壊滅しそこには燃えるものや人の臭いが充満していた。


― ウッ! …… ―


目も当てられない光景に思わず視線を手で塞ぐテイチ。しかしその光景は手で塞いだとしてもへばりつくようにテイチの視線を支配する。


― やめて……もうやめて…… ―


その光景はなぜか迷うことなくテイチの住んでいた家へと進んで行く。そして家の扉を開けた先には無残な姿となったテイチの両親が横たわっていた。


― ヒィ…… ―


悲鳴にならない声を漏らすテイチ。どこかまだ両親の死をちゃんと受け入れていなかったテイチにその光景は余りにも残酷に両親の死を実感させることとなった。


― おと…… おか…… ―


今にも消えそうな声で呟くテイチ。もう父なのか母なのかも分からなくなるほど無残に切り刻まれた両親の顔に意識が飛ぶテイチ。しかし今のテイチは意識が飛ぶ事を許されずすぐさままたその無残な光景を見せられ続けることになった。


「……大丈夫、大丈夫だ私がついている……」


何度その光景を繰り返しただろうか、気付けば燃え盛る集落を鎮火させるようにして大量の雨が降りだした光景に変わっていた。その雨と同時にテイチの心に響く聞き馴染みのある声。


― ……ウルディネ…… ―


その声はテイチの命を救ったばかりか、一時期は体を共有し今では神子と神精霊という間柄にまでなった水の神精霊ウルディネの声であった。


「落ち着け……大丈夫、私がずっとそばにいるから」


まるで夜泣きする子供を優しく抱く母のような声色でウルディネは誰かに向け声をかけ続けていた。

 当然そんな記憶テイチには無い。ウルディネはテイチには優しかったがそれでもここまで優しいウルディネの声をテイチは聞いた事が無かった。無いはずであった。しかし何故かそのウルディネの言葉に聞き覚えのあるテイチはその言葉で自分の心が落ち着いていく事に気付いた。


― ……これは……もしかして…… ―


何かに気付いたテイチ。それと同時に見ていた光景が再び変化する。次にテイチの目の前に広がった光景は、墓であった。盗賊の襲撃によって死んでいった集落全ての人々の墓がテイチの前に広がった。

 その光景はテイチがムウラガとサイデリーの架け橋となるべくサイデリーで猛勉強していた頃、視察としてムウラガに出向いた時、ウルディネと立ち寄った自分が住んでいた集落跡の光景とソックリであった。だがその時の光景よりも今自分が目にしている光景の方がいくらか真新しいと感じるテイチ。


「……よし、こんなものか」


何十とある墓の前で泥だらけとなっていた手を叩く男の後ろ姿。


― ……アキ……さん? ―


その後ろ姿に見覚えのあるテイチは思わずその男の名を口から漏らす。しかし当然その男はテイチの声に反応する事無く、何十もの墓に祈りを捧げると立ち上がった。なぜかその男の後ろ姿を見ているだけでテイチの心臓の鼓動が早くなる。


― この光景……そうだこの記憶は……私の記憶であって……私の記憶じゃない……これはウルディネの記憶 ―


幼い自分に両親が嘆いていた光景も、無残な姿に成り果てた集落を前に母のような声でテイチの感情をなだめたのも、そして集落の人々の墓を作った男の後ろ姿を見つめていた視線、そしてその気持ちも全てはウルディネの記憶である事に気付いたテイチ。


― そうか私の体に憑依している時のウルディネの記憶が、私の体の中に残っていたんだ…… 私を……私をまた守ってくれたんだ…… ―


そこで突っかかっていた物がとれたようにテイチの頭の中では点と点が結ばれていく。


― ウルディネはずっと前から私の事を気にしてくれていたんだ……そしてあの日……私は自分の集落が燃える光景を消えかける意識の中で見ていた、その光景を直視して不安定になっていた心を落ち着かせるように優しく包み込んでくれたのはウルディネだったんだ ―


 おぼろげではあるが蘇る苦しい記憶と光景、しかしそれを直視させる事無くテイチの心を安定させていたのはウルディネであった。そして再び邂逅し今度は直視してしまったその光景からもウルディネは自分を救ってくれたのだと理解するテイチ。


― 私はウルディネに助けてもらってばかりだ ―


ウルディネとの出会いから今までずっとウルディネに助けてもらっていた事を再確認したテイチは、自分の目から溢れだす涙を手で拭うとしっかりとした目つきで、目の前に広がる光景を見据える。


― ……誰が何のために私にこんな酷い光景を見せ続けるのかは知らない、でももう無駄…私にはウルディネがいる……私の側には私の記憶の中にはウルディネがいる……どんな酷い光景を見てもウルディネが私を救いだしてくれる……」


自分の記憶を利用して酷い光景を見せる存在に対してテイチがそう言い放った瞬間、テイチの前に広がっていた光景はガラスに亀裂が入りそして崩れていく。

 テイチの記憶を模して作られた世界は音を立てるようにして崩れていく。しかしそんな崩壊していく世界の中心で、テイチは今誰より自分の気持ちをぶつけたい相手にその視線を向けた。テイチの見つめる先にいるのは黒い影。


― うん、その姿のあなたが出てくる事ももう分かっていた…… ―


テイチの前に姿を現したのは、『闇付』となったウルディネであった。


― 今度は私の番……私が……あなたを救う番 ―


そこで一度言葉を切ったテイチは思いっきり息を吸った。


「帰って来てウルディネぇぇえええええええええ!」


テイチの叫び。その叫びは形を成したように光の矢となり宙を舞うと一直線にウルディネの胸に突き刺さった。その瞬間、ウルディネの全身に覆われていた『闇』が引きはがされていく。テイチの想いが形となった光の矢はウルディネから『闇』を引きはがすと同時に周囲の光景を本来の姿へと戻していく。


「……テイチ……」


何も無い空間でポツリと消え入るような声で目の前の少女の名を呟くウルディネ。


「へへへ、ウルディネにやっと、会えた……」


ウルディネの呟きに満面の笑みで返すテイチの目からは大粒の涙が流れていた。


「テイチ……すまない……私は……自分の内から溢れだす感情を抑える事が出来なかった……」


ウルディネの目からも大粒の涙が流れ落ちる。


「ううん……こっちこそ……ウルディネの気持ちに気付いてあげられなくてごめんね」


本来の姿に戻った二人はどちらともなく手を取り合った。するとその二人の手からはテイチの想いが形となった矢と同じような光が灯った。その光は輝きを強くすると二人に関係した者達、焦点を失った目で何も無い空を見上げ続ける神精霊達の下へと降り注いでいく。


「ん? ……ここは?」


「あれ? 僕どうしていたんだろう?」


「……テイチ……おおテイチ……!」


若干一人反応の違う者がいるが、テイチとウルディネの光に導かれ死神の幻術から解放された神精霊達は我に返り状況を確認しよう周囲を見渡していた。


「あれは……」


ウルディネは他の神精霊達を前に申し訳ないという表情で声をしぼませる。


「なッ! ムムム! お前は、『闇付』になった水の神精霊ではないか!」


周囲から遅れようやく我に返った火の神精霊インフェリーは、ウルディネをその視界に捉えるとすぐに戦闘態勢に入った。


「ま、待ってインフェリー!」


「テイチそいつから離れるのだ!」


人を愛しテイチを好きすぎるが故にインフェリーはその好きなテイチの言葉を無視して横に立つウルディネに炎の刃を向ける。


「こらこら、待たんかインフェリー」


そんな状況に割って入ったのは土の神精霊であるノームットであった。


「あれ~? なんだかウルディネの雰囲気が違うよ?」


ノームットとは別の意味でウルディネとインフェリーの間に割って入る風の神精霊シルフェリア。


「……どういうことだ、テイチ」


今にも飛び出しそうなインフェリーを土の壁でけん制しつつノームットは静かに現在の状況をテイチに聞いた。


「見ての通り、ウルディネが帰ってきたの」


「うそ!」


「何だと!」


「何てこった! 一番の座が!」


大幅に一人何か反応が違うが、テイチの言葉に驚くウルディネを除く神精霊達。


「凄いよ! 闇付になった精霊を元に戻すなんて!」


「ううむ、これが奇跡という奴か……」


「くぅ……これではテイチを独占出来ないではないか!」


既にご理解していただけていると思うが一人反応が違う者はいるもののテイチの言葉を素直に受け取るウルディネを除く神精霊達。


「ま、待ってくれ、そんなにあっさりと信じてもいいのか? もしかしたらこれは敵の策略で私が偽っているとは考えないのか?」


テイチの言葉を何の疑いも無く信じる神精霊達にウルディネは、思わず言わなくてもいい疑問を投げかけてしまった。


「……ふむ、わし達はのう、お前の数倍は生きておる、お前が『闇付』かそうでないかなど一目見れば……」


「そうか! そういう考えもあったか! テイチやはりそいつから離れるのだ!」


「うぐぅ……んーゴホン! ……まあ何だ……我々の主の言葉だ……疑う余地は無いだろうて……」


一人空気の読まない神精霊の所為で神精霊の長としての威厳を潰されたノームットは、一つ咳払いし土の壁をインフェリーの顎に直撃させるとウルディネが抱いた疑問に簡単に答えてみせた。


「よかったね、ウルディネ! これから仲良くしようね!」


「あ、ああ……」


どうみても自分よりも年下にしか見えないシルフェリアに馴れ馴れしく話しかけられるウルディネは顔を引きつらせながらシルフェリアの言葉に頷いた。


「……うむむ! お前が正気に戻った事は理解した……だがテイチの横は譲らない! お前が二番で私が一番だ! それだけは心に留めよ!」


勘違いするのも早ければ納得するのも早いインフェリーの訳の分からない言葉にげんなりした表情をするウルディネは横で先程の涙はすでに渇き今はニコニコと笑うテイチの顔を見た。


「ん? どうしたのウルディネ?」


「ああ、その……私の目の前にいる者達は本当に神精霊と呼ばれる者達なのか?」


三人の神精霊に聞かれないようテイチに耳打ちするウルディネ。その言葉に手で口を押え、笑いを堪えるテイチ。


「な……どうした? 私は変な事でも言ったか?」


「ううん……そんな事ないよ……ウルディネ……」


「なんだ?」


「お帰り!」


「……ああ、ただいま」


テイチの真っ直ぐなその言葉に自分の全てが生まれ変わったようにすら感じたウルディネは、今一度心の中でテイチを守る為の存在でいようと心に誓った。例え自分が愛した人が目の前に立ちふさがろうとも。








ガイアスの世界


ウルディネの記憶が与えた影響


テイチの体に憑依していたウルディネ。その時の記憶は体の持ち主であるテイチにも深く簡単には思いだせない場所に保管されていた。それによってテイチの受けた負の感情を増幅させる死神の放った幻術は相殺されていた。

 いやウルディネが『闇付』から引きはがされた事によって死神からすればマイナスといっていいだろう。しかし負の感情によって肥大を続ける死神にとっては痛くも痒くも無いかも知れない。

 しかしウルディネを含めたガイアスを代表する四大精霊の神が揃った事によって何かが起きてもおかしくは無いのかもしれない……。

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