表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
486/512

最後で章 14 理を外れし者達

ガイアスの世界


 理を外れし者


 レーニやノームットが口にする理の外にいる者。その意味はまだよく分かっていないが、言葉から判断するにガイアスの世界から外れた者という意味に近いのかも知れない。

 その存在がどのような立ち位置で現在のガイアスに影響を及ぼすのかは分からないが、その影響は大きいと思われる


  最後で章 14 理を外れし者達



  『純粋悪』が渦巻く世界、ガイアス




  長く暗いトンネルのような穴を悲鳴を上げながら落ちるように滑っていくユウト。その穴から滑りぬけるとそこは、見渡す限りの海そしてユウラギの大陸であった。ユウトはユウラギの空にいた。


 「へッ?」


突然ユウラギの空に放り出されたユウトは一瞬自分に何が起こったのか理解できずめの前に広がる光景に気の抜けた声を漏らした。


「な、なああああああああああ!」


しかしそれは僅かな時間でありすぐさま今まで落下の衝撃を感じる事は無かったユウトの体は、ガイアスの重力を感じ内臓が浮き上がる感覚と共に自分が凄い速度でユウラギの大地へと落下している事に叫び声をあげる。

 その高さは普通の人間であれば絶対に助からない高さであり死を覚悟するユウトの視界は、凄い速度で落下しているというのにゆっくりになっていた。危機的状況にありながら心の中で冷静にゆっくりとなった光景を見渡すユウト。あそこにあんな形の山があるのか、あそこには川が流れてる、ユウラギ大陸って大きななどと目に映る光景に意識を向けていた。

 そして気付けばユウトの視界は自分を見つめるガイルズの表情までしっかりと認識していた。その瞬間ユウトは自分の置かれた状況を再認識し冷静であった心は消え、目の前に近づくユウラギの地面へと向けられていた。


「ガイルズさーん!」


「え? ……ユウト?」


地面に衝突するという事実はユウトの心を恐怖で支配し、その状況では何もする事が出来ないだうガイルズの名を何故か叫んでいた。本人的には切実な叫びのはずであったが地上から落下してくるユウトを見ていた者達からすればその声はどこか楽しんでいるようにも聞こえており、ユウトの叫びに反応して上空を見上げたガイルズは、なぜそんなに楽しそうなんだと驚き目を丸くしていた。


「人が空から降ってきた!」


ガイルズと共に落下してくるユウトを見つめる三人の神精霊の一人、風を司るシルフェリアは呑気な声で落下するユウトを見つめる。


「うっわぁあああああああ! 助けてぇえええええええ!」


助けを求める叫びを上げながらユウトは視界一杯に広がる地面を前に目を瞑る。


「ああ、遊んでる訳じゃないんだね」


 どう見れば空から落下するユウトが遊んでいるように見えるのか分からないが、落下するユウトの叫びがあまりにも楽しそうに聞こえたシルフェリアは、一瞬判断を誤りそうになる。しかしそれがすぐに遊んでいる訳では無いと気付くとおもむろに指を鳴らした。すると肉眼で確認できるほどの風の精霊達が現れユウトの体を包み込むと、今まで凄い速度で落下していたユウトの体はみるみるうちに速度が落ちていった。やがて落下していたユウトの体は空を浮くようにして止まる。


「へ? ……あれ? た、助かった……?」


いつまでたっても地面に叩きつけられる衝撃が無いユウトは恐る恐る瞑っていた目を開ける。すると自分の体が宙を浮いている事に気付き、その原因が自分の体に纏わりつく風の精霊であると分かると包みゆっユウトは助かったのだと安堵のため息を吐いた。

 風の精霊に導かれるように地面へと足を付けたユウトはすぐに腰を抜かすようにして地面に座り込んだ。


「ようユウト、お前確かそこら辺で固まっていたんじゃなかった?」


ユウトが命の危機に直面していたというのに、ガイルズは世間話でもするかのような感じで顔面蒼白になっていたユウトに声をかけた。


「い、いや……あの僕死にそうになったんですよ、形だけでもいいですから心配そうに声をかけてきてくれませんかね」


恐怖が残っているのか顔が引きつったまま硬直するユウトは空から降ってきたというのに心配もしてくれないガイルズに力無くツッコんだ。


「ああ、確かにあの高さから落ちてきたら大変だな」


「ああ……もういいです」


棒読みのようなガイルズの言葉に感情無く答えるユウト。


「まあ生きてたんだしよかったな」


そういいながらガイルズはユウトの腕を持ち引っ張ると強引に立たせた。


「あ! そ、そうだ! あれだけ皆が居る所ではあの姿にならないでくださいって言ったじゃないですか! それなのにあなたはなぜあの姿になったんですか!」


元はと言えばガイルズが上位聖狼ハイセイントウルフの姿となり、なんの躊躇も無く拘束遠吠バインドハウリングを使ったのが原因だった事を思い出したユウトは、今でる精一杯の声で文句をたれる。


「いやいや、申し訳ない、楽しくなっちゃって」


「なっちゃってじゃないですよ! お蔭で僕ら危うく動ける魔物にやられそうになったんですよ!」


ガイルズが上位聖狼ハイセイントウルフに姿を変え、拘束遠吠バインドハウリングを放ち、敵味方関係無く動きを封じた直後、動きを封じられたユウト達志願兵は、今はすっかり何も無くなってしまった木の魔物達が集まりることで出来ていた森で、外からやってきた魔物達に攻撃を仕掛けられそうになっていた事わガイルズに伝えた。


「おうおうそりゃ大変だったな、でも生きているんだ問題無いだろう」


生きていれば問題ないだろうと仮にも志願兵を率いる統率から出る言葉とは思えないガイルズの言葉にユウトの額には青筋が立つ。


「ガイルズさん! さっきもですね僕達はヒトクイ兵の方々にお荷物だなんだと罵詈雑言を浴びせられていたんですよ!」


「さっき? おいおい頭でもおかしくなったか? 何でお前達がヒトクイの奴らと話せるんだよ、あいつらはまだ沿岸付近にいるんだろ?」


 今ガイルズ達がいる場所からヒトクイの兵達がいる沿岸は、それなりの距離がある。例えユウラギの森にいたユウトが全速力で走り沿岸にいるヒトクイの者達の下へ向かい話をしてから帰ってきたとしてももう少し時間がかかる距離であった。しかしそもそも拘束遠吠バインドハウリングによってユウトは体の自由を奪われ走る事もできず沿岸に向かうこと事体が不可能であった。。

 そんなユウトがヒトクイの者達と話をしてきたなど到底信じられる訳もなく、拘束遠吠バインドハウリングには相手の頭を混乱させる効果でもあるのかと真面目にガイルズは考えてしまった。


「いや、そんな憐れんだような顔しないでくださいよ、僕が言っている事は本当ですよ! その……ええっとヒトクイの王が……その……」


ユウトは気付けばユウラギとは全く別の場所にいた。そこがなんであるのか、なぜ自分がそこにいるのかその場を作り出したという人物から説明を受けてはいた。なぜ自分がその場所にいたかは理解したユウトであったが、しかし結局の所そこがどういった場所なのかユウトには理解できないまま、気付けばユウラギの空に放り出されていたという訳であった。


「そうです、ユウトさんが言っている事は正しいですよ」


自分も理解できていないがとりあえずヒトクイの人々に会って話をした事は本当だと必至でガイルズに訴えるユウト。するとユウトが落下してきた空からガイルズにとっていやヒトクイに住む者ならば誰もが知っている声が聞こえてきた。


「あ? ……ああ、やっぱりあんたか……たくこの二年間何やってたんだよオウサマ」


そう言いながらガイルズはユウトの頭上に視線を向ける。そこには黒い球体を背にヒトクイの兵や志願兵をゾロゾロ引き連れて優雅に降りてくるヒトクイの王にして夜歩者ナイトウォーカーでもあるレーニの姿があった。


「申し訳ありません、色々ありまして」


フワリと地面に降り立ったレーニはガイルズにニコリと笑みを浮かべた。


「あ、あの、王……そんな優雅に降りられるなら、僕もそうして欲しかったのですが……」


自分とは違い全く命の危険を感じず地面に降り立つヒトクイ兵や志願兵達の姿を見てユウトは、先程の恐怖が残っているのかヒトクイの王レーニの気に障らぬよう細心の注意を払いながらやんわりと抗議した。


「ああ、ユウトさん、それは申し訳ありません……少しあなたの力が見たかったもので……」


「へッ?」


悪戯する少女のような笑みを浮かべるレーニの返答は、ユウトにとって全く考えの及ばないものであり困惑した。


「へーさすがだな……」


二人の会話を聞いていたガイルズはレーニの言葉にニヤリと笑みを浮かべた。


「フン! 王に対して無礼だぞ!」


レーニの後に続くようにして聖撃隊副隊長であるマシューは地面に降り立つと早々にレーニの前に立ちユウトを追い払うように手をシッシッと手を振った。


「おっとそこにいるのは無能な志願兵の統率役、ガイルズ殿ではありませんか」


そういいながらマシューはあからさまな嫌悪の視線をユウトからニヤリと笑みを浮かべていたガイルズに向ける。


「なるほどな……ユウトの言っていた事は本当だったようだな、ヒトクイの人も元気そうでなによりだ」


嫌味を言われたというのに一切笑みを崩さずというよりは嫌味を言われた事を理解していないガイルズはマシューを見てユウトの言っている事が本当であった事を理解する。


「ヒトクイの……人……おいお前、私の名前はマシューだ! まさか覚えてないとは言わせないぞ!」


「へ? 悪いな、俺物覚えが悪くてな」


「むむむ」


ヘラヘラするガイルズに沸点の低いマシューの怒りが増していく。


「こらこらマシュー君、あまり場を荒らしてくれるな、王に迷惑がかかるじゃないか」


他の者から遅れる事数十秒、ゆっくりと地面に降り立ったヒトクイの将軍であるガルワンドは自分が想像していた通りの光景に小さくため息を吐いた。


「あんな高い位置からの光景、滅多に経験する事が出来ない体験をさせてもらい感謝します王」


他の者達と一斉に黒い球体から飛び出してたはずのガルワンドは、どうやったか分からないがレーニの力とは別に落下する速度を緩め、空から見るユウラギの光景を楽しんでいたようだった。


「お! ガルワンド将軍も一緒なのか」


空の旅を王に感謝するガルワンドを見てガイルズは歓喜の籠った声を上げる。


「これはこれはガイルズ殿、ご無事でなによりです」


ガイルズの声に反応したガルワンドはほっこりとした表情を浮かべながらガイルズの無事を喜んだ。


「むむむむ……なぜだ、なぜお前は将軍の名前は覚えていて私の名は覚えていない!」


自分の時とは違い、はっきりとガルワンドの名を覚えていたガイルズに更に怒り増していくマシュー。


「あ、あっははは……あの人、強い人にしか反応しないんですよ」


乾いた笑いをあげながら怒りの増しているマシューにガイルズの行動原理を説明するユウト。


「何?」


しかし自分が虎の尻尾を踏んだ事に気付かないユウト。ただユウトも悪気があった訳では無い。ガイルズという人間がそういう人間であった事をただ正確に口にしただけだった。


「貴様……私が弱いというのか?」


「え? ……あ、いや……その……」


マシューの言葉でようやく自分が虎の尻尾を踏んだ事に気付くユウト。しかしすでに遅かった。沸点を軽く超えに超えたマシューは、不気味なほど静かに腰に携えていた剣を鞘から引き抜いた。


「貴様、そこまでいうなら……私の相手をしろ!」


「えええ! なんでそうなるの!」


剣先を向けられたユウトはなぜ自分が剣を向けられているのかよく分からず叫んだ。


「うるさい……剣を抜け! 決闘だ!」


「決闘? ま、まってください僕じゃありませんよ、ガイルズさんがという話です!」


剣を向ける相手を間違っていると抗議するユウトに問答無用で剣を抜く事を強要するマシユー。


「おッ! 敵地のど真ん中で仲間割れか? やれやれ!」


自分が原因だという事を分かっているのか分かっていないのか剣を抜いたマシューとオロオロするユウトを煽るガイルズ。


「はぁ……マシュー君、いい加減に……」


マシューの暴走を止めに入ろうとするガルワンド。その言葉にユウトは感謝の視線を向ける。


「いえ、やらせましょう」


しかしそこで意外な人物の声がガルワンドの言葉を遮る。


「王……ふむ、分かりました……志願兵に不満を持つヒトクイの者も多い……ここで膿を全部吐き出させるのもいいでしょう」


自分の言葉を遮ったレーニに視線を向けながらガルワンドは、少し考えてすぐに王の指示を飲み込み、それっぽい理由を付け加えた。


「ふーん、膿ね……オウサマは多分別な事考えていると思うけどな……」


ガイルズは独り言を呟きながらレーニに視線を向けた。ガイルズの視線の先にはガイルズに視線を向けるレーニ。互いの視線がぶつかり合うとどちらともなく何かを含んだような笑みを浮かべた。

 レーニとガイルズが何かを企んでいるような笑みを浮かべる中、ユウトは絶望に顔を引きつらせる。元々からぶっ飛んだ思考を持つガイルズは別として、ヒトクイで将軍と呼ばれ、今この場に居る者の中で一番の常識を持っていると思っていた将軍ガルワンド、そして一国の王であるならば普通この状況で決闘など言語道断と言うのが正解であろうレーニが、決闘を認めた事が信じられなかったからであった。


「ちょ……正気ですか皆さん! いつどこから魔物がやってくるかも分からない状況で、何で互いの背中を預け合う仲間と決闘なんてしなきゃならないんですか!」


それが意味の無い叫びであったとしてもユウトは叫ばずにはいられない。なぜならばその決闘は今の状況において何の意味も無いからだ。

 ヒトクイの兵と志願兵の間には大きな溝なり摩擦なりがある事はユウトも自覚している。何処の馬の骨とも分からない志願兵である戦闘職達が我物顔で城の中を歩き回るのを毎日国の為に働くヒトクイの兵達がよく思っていない事はユウトも理解していた。それにガイルズが作戦行動を無視して突っ走った事に対してマシューが怒っている事も理解できる。しかしだからと言って敵地のど真ん中でその摩擦を解消するために自分とマシューが決闘するという状況はおかしいと思ったからだ。


「ああ、大丈夫だ、魔物が現れたら俺とオウサマでどうにかするから」


「ハイ、安心して思う存分、悔いの残らぬよう全身全霊を込めてマシューさんと決闘してください」


「そう言う事言っているんじゃないですよ!」


安心しろと親指を突き上げユウトに向けるガイルズ。敵地で見せるその笑顔がもうただの狂気にしか見えないレーニ。そんな二人の言葉にユウトの切実な叫びが響く。


「ふん、言いたい事は言い終えたか? ならば剣をとれ!」


そして逆に清々しいとさえ思えるほどに何処までも頭が堅く、融通の利かないマシューの言葉にユウトは心の中で深いため息を一つ吐いた。


「やってやれ補佐! そんなへなちょこ黙らせろ!」


「ヒトクイの兵より俺達の方が上だって事みせてやれ!」


「聖撃隊副隊長の実力を見せてください!」


「いや私達ヒトクイの兵達が上である事を証明してください」


気付けばヒトクイと志願兵のうっぷん晴らしの代表に祭り上げられているユウトとマシュー。ヒトクイの兵達の声にまんざらでも無い表情を浮かべるマシューを見てユウトは今度は実際に深いため息を吐いた。 すると突然周囲の者達に聞こえるのではないかという何かが千切れる鈍い音が響いた。


「ギャーギャーうるせぇな! お前ら黙って聞いてれば好き勝手言いやがって……いつからどっちが上とかいうくだらない話になった!」


何かが千切れる音、それはユウトの堪忍袋が切れる音であった。ユウトの叫びはその場でヤジや激を飛ばしていた志願兵達を一瞬で黙らせた。

 普段少し頼りない所があるユウト。しかし温厚で志願兵の中で誰よりもしっかり仕事をこなし、若いながらも志願兵の中で間違いなく一番頼りにされている男のブチ切れは、志願兵達にとって初めて見るものであり皆一様に口を唖然と開き驚きの表情になっていた。

 方やヒトクイの兵達も少し前までオロオロとしていたユウトの様子が豹変した事に志願兵達と同じくその驚きから言葉を失う。


「敵地だぞ! すぐそこに魔王がいるっていうのに何でこんなくだらない事をしなきゃならないんだ? ……そもそもこういった揉め事が起こった時はあんたが一番前に立って色々とやるべきだろうガイルズ!」


見たことも無い鋭い眼光で自分の上司であるガイルズを呼び捨てにしながら睨みつけるユウト。


「お、おう……」


あまりの圧に思わず頷いてしまうガイルズ。


「それと一国の王が敵地のど真ん中でこんな無駄な事をさせるなんてどれだけ頭がお花畑なんですかね、レーニ王」


「あっあはは……これは手厳しいですね」


表情は笑顔のままだが額が薄っすらと汗ばむレーニ。


「もう一つ、部下に対しての教育はしっかりやってください、本来こういう状況になった時、ピシッと襟を正すのはあんたの役目でしょう将軍」


「な、なんとも面目ない」


片手を後頭部に持っていき平謝りするガルワンド。

 ユウトの怒りは志願兵やヒトクイの兵にだけに留まらず圧倒的な聖の力を持つガイルズや一国の王であり夜歩者ナイトウォーカーでもあるレーニ、戦場では笑う戦鬼とまで言われるガルワンドまで飛び火する。

 ユウトの豹変ぶりに困惑する三人、いやその場にいた者達全員がユウトの言葉に反論する事ができなかった。

 しかしその中で口を開いたのはやはりマシューであった。


「お、お前! 王に対して何たる言葉! もう我慢の……」


「……我慢の限界なのはこっちなんだよ石頭!」


「石頭……」


王や将軍を侮辱したユウトに何か言おうとするマシューであったがすかさずガルワンドから視線をマシューへ戻したユウトは、自分叫び声でマシューの言葉をかき消す。


「一番腹が立つのはお前だお前石頭! お前のつまらないプライドに付き合わされのには反吐がでる」 


温厚であった姿は消え失せ、積もりに積もった不満をぶちまける怒りの化身と化したユウトの迫力に一歩さがるマシュー。


「ゆ、ユウト君……俺達が悪かった、もう決闘しろなんて言わないからそろそろ優しいユウト君にもどってくれないかな」


「そ、そうですね、私も悪ふざけが過ぎました、早速次の行動を決める話をしましょう」


自分達が考えていた思惑とは全く別の方向へと事が進んでしまった事に聖獣とさえ呼ばれるガイルズとレーニはユウトをなだめるように声をかける。そんな二人にユウトはゆっくりと視線を向ける。


「……いや……何言っているんですか? やりますよ今から、決闘……」


抑揚無くそう言いながらユウトは腰に携えていた剣をゆっくりと抜剣すると先程マシューそうしたようにマシューに剣先を向けた。


「……やりたくてやりたくてたまらなかったんだろう? さあ決闘しようじゃないですか、聖撃隊副隊長、マシュー殿……」


「……えッ? ……ああ、よ、よし、い、いいだう」


暗く揺れるユウトの目。その目に圧倒されたのか声が裏返り明らかに腰が引けるマシュー。

 マシューの言葉を最後に再び静寂がその場を包む。その場にいた誰しもがユウトとマシューの決闘に視線を向ける中、存在を忘れ去られていた神精霊達は人間のしょうもない光景を、ため息を吐きながら見つめていた。


「……馬鹿らしいな」


「インフェリーは言っちゃいけないでしょそれ」


テイチを抱えながら呆れるように静かになった人間達を見つめ呟く火の神精霊インフェリー。そのインフェリーの呟き対し風の神精霊シルフェリアは笑いながらツッコんだ。


「……それにしても、今この場に居る者達、面白い面子が揃っておるの……」


「面白い面子?」


地面から顔を出している土の神精霊ノームットは人間達を見つめながらそんな事を呟く。それに対して首を傾げるシルフェリア。


「ああ、まずガイアスのわし達四大神精霊の使役に成功した神子テイチ、そして『聖』の力を持つ獣、そしてこの場にはいないがサイデリーの王」


地面から腕を出したノームットは面白い面子の者達を指差していく。


「ヒトクイの王もそうだな……そして怒りで豹変したあの人間……あれも面白い」


「テイチとガイルズという人間、そして赤き目を持つサイデリーの王は理解できるが、後の二人、確かに何か強いものを感じるがノームットがいう面白いかと言われれば私には理解できないのだが?」


ノームットが最初に口にした二人は理解できるが、強い気配を感じはするが、後の二人がなぜ面白いのか分からないインフェリー。それはシルフェリアも同じようでインフェリーの言葉に頷いた。


「うむ、まずはヒトクイの王……あれはまだまだ幼くはあるがわし達と同じ存在になりつつある」


「同じ存在に!」


「どういう事?」


ノームットの言葉に驚くインフェリーとシルフェリア。


「言葉通りだ……精霊にいや、神精霊になりかけておる……しかも『聖』と『闇』を両方備えた神精霊に」


「なッ!」「ええ?」


ノームットの言葉に更に驚きを重ねるインフェリーとシルフェリア。


「うむしかも更に面白いのが元々ヒトクイの王は『闇』の存在であったようだの、『聖』から『闇』へ堕ちる事はよくある話だがその逆は中々に珍しい」


 清き心を持った者が、何かのキッカケでその心を黒く染めるという事はよくある話である。それは精霊の世界においても同じであり、水の神精霊であるウルディネもそれに当てはまる。しかしその逆、『闇』の存在が『聖』の存在になったという事は殆ど聞いた事がなく、更に両方の特性を持つ存在など長い年月を生きて来たノームットにも初めての事であった。


「じゃあの王様、いずれは僕達の仲間になるって事?」


仲間が増えるのかとどこか楽しそうにノームットに聞くシルフェリア。


「それはわからん、いかんせんわしも見たことが無いからの……あのヒトクイの王の心しだいだろうの……」


「豹変した人間はどうなのだ?」


ノームットの言葉でレーニという存在が規格外である事を理解したインフェリーは、ノームットが言うもう一人の面白い存在について聞いた。


「……うむ、それがの、あの者は本当に分からん……強い気配は感じるのだが、それ以外が見えてこんのだ……」


「何も見えない? なら気にするほどでもないんじゃないの?」


「いや、だからこそだ、普通なら良くも悪くも何かが漏れ出してくるものなのだ、しかしあの人間からはそれすら無い……無意識なのかそれとも意図的に見せないようにしているのか……こんな事は初めてだの……」


「なんか近頃の人間ってすごいんだね……」


半ば呆れるようにシルフェリアは決闘を始めたユウトを見つめる。


「うむ、やはり人間というものはくだらない事を多くする存在ではあるが面白い」


自分の腕で寝るテイチを愛おしそうに見つめながら、インフェリーは、人間は面白いと言い放った。


「全くだの……しかも今上げた者達に共通するのはその全てが理を外れし者だということだ……まるで何かに仕組まれたように理を外れし者達がこのユウラギに集まってきておる……これは何かの兆しなのかもしれんの」


 魔王という存在が姿を現したユウラギの地に集う理の外にいる者と呼ばれる者達。その状況が明らかに異質である事を理解するノームットはガイアスという世界で何かが起ころうとしているのではないかと考えるのであった。





 ガイアスの世界


 レーニの持つ力の正体。


ノームットの話によればレーニは精霊、しかも神精霊になりかけているという。驚きなのが、『闇』と『光』わ併せ持つ存在だという。

 レーニは未だ自分が神精霊になりかけている事に気付いていないがその神精霊の力が今後どのようにガイアスに影響を与えるのかは分からない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ