最後で章 9 この場に来た意味
ガイアスの世界
ユウラギの魔物達
ユウラギには他の大陸には存在しない魔物や既存の魔物の上位種のような位置づけの魔物が多数存在する。
それはユウラギ独得な環境が影響しているようだ。
理由は定かでは無いが、ユウラギには常に『闇』の力が充満しており、その『闇』が魔物達に影響を与えているようだ。
魔王と化したアキがユウラギを本拠地にしたのもそれが関係しているようだ。
最後で章 9 この場に来た意味
闇の力渦巻く世界、ガイアス
サイデリーとヒトクイの混合船団はユウラギ大陸を黒く染めるほどの魔物の群れに襲われ、当初の計画からかなり外れた状況になり、出鼻を挫かれた形になっていた。
当初の計画ではユウラギ大陸に上陸した後、すぐに拠点を作る手はずとなっていたのだが、その作業が出来ないほど魔物の群れが沿岸付近に集結しており混合船団は、船から上陸後すぐに戦闘状態に突入せざる負えない状況に陥っていたのである。
更に独断専行で我先にと魔物の群れに飛び込んでいったガイルズ率いる志願兵達が抜けた事で状況が荒れることになった
―—と思われたのだが、混合船団が入り込んだユウラギの沿岸は、もし混合船団の全ての者が上陸すれば、戦闘はおろかまともに歩く事もままならなかったかも知れない事を、その場に足を下ろした者の全てが実際の沿岸を見て理解した。
それが突発的な考えからくるものなのか、それともただの戦闘狂の暴挙なのか分からないが、志願兵を率いるガイルズが我先にと先行した事で、サイデリーとヒトクイの者達は無事にユウラギの沿岸に上陸すする事に成功したのだった。
しかしその場の戦力が落ちた事は事実であり、その被害を一番受けたのは混合船団の一番後方にいたヒトクイの者達であった。
海から突如として現れた魔物の群れは、鉄壁と言われるサイデリーの王が展開した絶対防御を海という地形を利用することで絶対防御の隙をついてヒトクイの者達の背後から襲撃してきたのである。
ヒトクイの兵達は慣れない地形と思わぬ海の魔物の群れの襲撃によってかれこれ一時間ほどユウラギの沿岸に足止めされる状況になっていた。
そんな状況の中、サイデリーの王ブリザラはサイデリーの盾士達を引きつれ前進を続けていた。地上や空から攻撃を仕掛けてくる魔物の群れに対しては完璧な防御を貫き一匹たりとも潜入を許さなかった。鉄壁な防御体勢をとりつつ亀のようにジリジリと前進を続けたブリザラ率いる盾士達はようやくユウラギの陸地へとその足を踏み入れるのであった。しかしユウラギの大地へ到達したのも束の間、ブリザラ達の前には更なる困難が待ち受けていた。
ユウラギの陸地へ足を踏み入れたブリザラ達がそうそうにその目に捉えたのは、視界を埋め尽くすほどの広大な森であった。その森は他の大陸にあるような森とは違い、そこに生える木々事体が魔物であり、不気味に蠢き、この世のものとは思えない叫びを上げていた。
しかしその木の魔物の叫びは、突如として悲鳴に変わる。その森に生える木の魔物は次々に何かによってなぎ倒されていく。それと同時にブリザラ達の体に響く振動。その振動は一定感覚で響き、徐々に近づいてくるように大きくなっていた。
「……何か近づいてきているな……」
軽い口調ではあるが、その表情からは不安の色が見える最上級盾士ランギューニュ。それは最上級盾士としての危機管理能力がそうさせていた。
「……この振動は……足音……」
ランギューニュの隣でジッと森を見つめるブリザラは、自分達の体に響く振動が巨大な何かの足音である事を悟ると、真紅に染まる目を凝らしもう一度しっかりと森の中で木々をなぎ倒しながら進んでくる何かの正体を見極めようとする。
『王!』
しかしいち早くその足音の正体に気付いたのはブリザラが手に持つ伝説の盾キングであった。
「ハッ……!」
キングの言葉に僅かに遅れてブリザラもまたその真紅の目で足音の正体を理解し動揺を現した。
「おいおい……」
更に遅れてランギューニュが森に生える木の魔物をなぎ倒す存在の正体に気付き、見上げるようにして苦笑いを浮かべた。
ブリザラ達の前に姿を現した存在、それは本来ならば古代の遺跡でしかお目にかかれない古代人形であった。
しかしランギューニュを含めた盾士達はなぜ遺跡にいるはずの古代人形がこんな場所にいるのかなどと考える暇も無く、ただ一つの感想を抱いていた。
「なんだ……あの大きさ……」
それを例える言葉は規格外だった。元々人の数倍の大きさがある古代人形、しかし今ブリザラを含めたサイデリーの盾士達が目にしている古代人形の大きさは規格外なほどの大きさであった。
―— 古代人形、現在のガイアスの歴史よりも遥か昔、現在のガイアスの文明よりも遥かに高い技術力を持った文明が造り出したと言われている代物であり兵器であった。
その用途は今となっては記録には残っておらずはっきりしないが、ガイアス各地に無数に散らばる遺跡にその残骸、もしくは完全に機能を停止した物が発見されていることから、遺跡の防衛を目的の一つとして造られたのではないかと遺跡を調べている者達からはいわれている。
しかも驚く事に古代人形の中には何千年という年月が経過しているというのに、
未だ活動を続ける個体が存在することだ。作り出された時に組み込まれた命令を忠実に実行し続け、気の遠くなるような歳月の中、活動を続ける古代人形は、遺跡を巣にする魔物からとれるレアな素材や、遺跡の最深部にある宝を目的とした戦闘職達を当然のように侵入者と認識し襲いかかってくる。古代人形によって命を落とした者の話は珍しくもない。
その力は並の魔物以上の戦闘能力を持っており、個体によっては魔法にも似た力を使う個体も
いるという。そんな古代人形は戦闘職達にとって、遺跡に潜る上で、魔物以上に警戒しなければならない相手であることは常識の一つであった。
そしてそれは国の防衛を職務としているサイデリーの盾士達にとっても常識であった。
「……なんだよ、あのデカさ……」
「大丈夫なのか?」
盾士の上官や、訓練として実際にフルード大陸にある遺跡に潜り古代人形の強さを理解している盾士達は、目の前に現れた規格外の古代人形に対して表情を堅くし不安を漏らしていた。
『あれは……!』
「……くぅ……」
規格外な古代人形の圧倒的な存在感を前に明らかに盾士達の士気が落ちている事に気付くブリザラ。しかしブリザラもまた盾士達とは違う意味で動揺していた。
目の前に現れた規格外の古代人形には身に覚えがあったからだ。真光のダンジョンでその姿を現した古代人形、それはアキとクイーンが所有していた個体に非常に酷似していた。
『間違いない、クイーンと小僧の古代人形だ』
計り知れない知識をその身に宿すキングが目の前の古代人形がクイーンとアキが所有していた個体だというのだ。それは間違いなく事実なのだろう。しかしキングの言葉にブリザラは信じられないという表情を浮かべてしまった。
サイデリーの王として覚悟を決めていたブリザラではあったが、どこかでまだアキは魔王では無いのではないかと願っていた僅かな希望が、大きくぶち壊された瞬間であった。
『王?…』
突きつけられた事実を受け入れられずキングの言葉を遮るようにしてブリザラは耳を塞ぎ膝から崩れ落ちる。
「……い、いや……やだよ……そんなのやだよ……」
俯くブリザラの口からはまるで子供のような声が漏れる。
『王……』
戦意を失ったブリザラの心を反映するかのように、今までサイデリーの盾士達を守っていた絶対防御の力が弱まり始めていく。
「ま、まずい、キング、ブリザラ様と代れ!」
それに気付いたランギューニュは絶対防御の役目をブリザラと代るようキングに向けて叫んだ。今、絶対防御が破られるような事があれば、ただでさえ士気の下がっている盾士達の心は完全に絶望に堕ちる事になる。それだけは避けなければならなかったからだ。
『……あ、ああ!』
膝から崩れ落ち俯くブリザラに気をとられていたキングはランギューニュの言葉に我に返ると絶対防御の準備を始める。しかしその僅かな時間が森を背にして立つ規格外の古代人形に隙を与える。
今まで猫背のような姿勢をしていた規格外の古代人形は、突如として胸を反らした。すると規格外な古代人形の胸が開き、そこに眩い光が集まり出した。
「な、何だ!」
『くぅ……間に合わない!』
ランギューニュはその光に驚き、キングはそれが何であるかに気付いき自分の絶対防御が間に合わない事を悟る。
次の瞬間、規格外な古代人形の胸に集められた眩い光は、一本の線のようにしてブリザラ達を向けて放たれた。
規格外な古代人形から放たれた光にその場の誰もが死を連想した瞬間。
「俯くなぁああああああ!」
そう叫びながらブリザラの前に飛び出す全身防具を纏った女性の姿があった。
「……!」
俯いていたブリザラはその声に大きく目を見開き、ゆっくりと顔をあげる。そこには、伝説の武具ナイトを持つソフィアの後ろ姿があった。
「俯くな! 前を見ろ! 何も終わっちゃいないだろ!」
手に持つ槍を特大槍いや超特大の槍に変化させたソフィアは、規格外な古代人形から放たれた光を真っ二つに叩き切った。
「こんな所であきらめるな! たかが少し大きぐらいの鉄屑相手に絶望するな! 私達は何だ! あんたは何だ! お前達は何だ!」
放たれ続ける光を切り裂き続けながら叫び続けるソフィア。その言葉はブリザラだけに向けられているのではなく、その場にいるサイデリーの盾士達全員に向けられていた。
「ソフィア……さん」
「私は二日酔いなんだよ……凄く頭が痛いんだよ……だから私は何もかも終わらせて早く二度寝がしたいんだよ!」
訳の分からない事を叫びながらソフィアは規格外な古代人形から放たれた光をかき消すように手に持つ超特大の槍を振りぬく。すると二つに分かれた光は横にそれて大きな爆発を起こした。
その威力は凄まじく光が着弾した木の魔物で出来た森は一瞬にして焼け野原となった。
「す、凄い……!」
しかしそんな威力を持った光を弾き返したソフィアの腕に恐怖を忘れ見入る盾士達。
「……あの女……何者だ!」
規格外な古代人形の攻撃を打ち返したソフィアの姿は一瞬にして盾士達の心に巣くっていた恐怖を消し去り興奮させた。
「……はぁはぁ……ブリザラ……あんたは何をしにここに来た!」
超特大の槍を地面に思いっきり突き立てるソフィアは振り向く事無くブリザラに叫んだ。
「……わ、私は……サイデリーの王として……」
「違う! サイデリーの王としての話なんて聞いちゃいない……ブリザラは何をしにこんな魔物だらけの場所にきたんだ!」
ソフィアの問に目を見開くブリザラ。
「……会いたい人がいるんでしょ……」
「う、うん……」
最後の言葉だけはブリザラ以外には聞こえないように小さく言うソフィア。その言葉に小さく頷くブリザラは、立ち上がった。
「いつもありがとうソフィアさん……」
ソフィアの言葉と気遣いにブリザラは礼を口にした。そこには迷いを吹っ切った表情のブリザラの顔があった。
「いいよ……別に……」
今まで背を向けていたソフィアはそう言いながらブリザラに振り向いた。そこには優しい笑顔があった。しかしそれも束の間、一瞬にしてその笑顔を崩れソフィアの表情は青くなる。
「ごめん……もう限界……気持ち悪い……」
そういうとソフィアは口元を押えしゃがみ込んだ。
「……二日酔いって……本当だったんですね」
口を押え必至に何かと戦うソフィアを見ながらブリザラはせっかくかっこよかったのに台無しだと顔を引きつらせた。
「ここからは私にまかせてください!」
ソフィアの無様な姿を忘れるように気持ちを切り替えたブリザラは、そういうと力の弱っていた絶対防御に一気に力を流し込む。ブリザラの気力の充実は、如実に絶対防御に影響を与えていく。そこには一目で誰もがすぐに理解できるほど強力な絶対防御が築かれていた。
「すぅー!」
大きく息を吸い込むブリザラ。
「前方、巨大な古代人形をこれから巨大人形と総称、巨大人形に対し我々は完全防御体勢をとります! 皆さん固まってください!」
ブリザラは睨みつけるようにして巨大人形を見上げると恐怖に支配されている盾士達に向け声を張り上げた。今ブリザラ達に目の前の巨大人形を倒すだけの力は無い。今は耐える時と考えたブリザラは、後方から向かって来ているだろうヒトクイの兵達の到着を待つために防御体勢をとる決断をした。
「諦めるな!」
「急げ! 固まるんだ!」
「サイデリーの盾士の力を舐めるなよ!」
ソフィアの言葉や行動に心を震わせた盾士達は、息を吹き返すようにその表情に希望を持ち、遠すぎてソフィアの姿や言葉を聞けなかった仲間達に伝染していく。希望が伝染していく盾士達は徐々にブリザラの下へと集まり出すのであった。
集まっていく盾士達を全く感情が読み取れない虚ろな目で見つめる巨大人形は、一歩一歩と歩きだしブリザラの下へ歩き出した。
『……王よ、どうやら巨大人形は、あの攻撃を連射出来ないらしい、接近戦に持っていくつもりだ』
胸から煙を噴き出す巨大人形の様子から胸から光を放つ攻撃が連射出来ないと悟ったキングは、自分達の下へ向かって来る巨大人形が接近戦を仕掛けてくると判断した。
「わかってる……」
ブリザラはキングの言葉に頷くと、更に絶対防御に力を込め、その鉄壁を強なものとしていく。
「そ、そうだ……ブリザラ……」
すでに戦闘不能のような状態になっているソフィアは思いだしたように、ブリザラに声をかけた。
「な、何ですかソフィアさん」
今にも死にそうなソフィアの様子に若干引きながらブリザラは返事を返す。
「……精霊達を連れた女の子から伝言がある……」
「テイチさんから?」
そこでブリザラはそう言えばテイチの姿が何処にもない事に気付いた。
「テイチさんの事を忘れるなんて私は何てことを……」
色々な事に悩み自分を見失っていた事に再度気付いたブリザラはガクリと肩を落とす。
「……先に向かう……だってさ……うぷ……!」
限界が近いのか必至で口元を押えるソフィア。
「先に向かう? ……そうですか……テイチさんが……」
ブリザラはソフィアの言葉を聞き神精霊と心通わす少女の顔を思い浮かべながら、巨大人形の後ろにある森の先を見つめる。
「……その先にいるんですね……」
誰にも聞こえないほどの声でそう呟いたブリザラは、その視線をユウラギの森から更に奥に向ける。
「……そしてその先に……あの人がいる……」
その場所からでも強くはっきりと感じる事ができる巨大人形の所有者の片割れでありこの戦いの終着点でもある存在をブリザラは肌で感じるのであった。
ガイアスの世界
巨大人形
ユウラギに突如として姿を現した規格外の古代人形その正体は、アキとクイーンが所有していた個体であった。
通常の個体との違いはその大きさであろう。通常の個体の二倍以上の大きさを誇るアキとクイーンが所有していた古代人形はただ立つだけでその場の者達を恐怖に陥れた。
しかし一番の問題はその能力にある。クイーンが密かに改良を加えた古代人形のその能力は、未知数ではあるが、別の個体に比べ遥かに能力が高いのは確実であろう。そしてクイーンの手から離れた後も誰かによって改良が加えられた形跡があるようだ。




