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真面目に合同で章 (スプリング&ソフィア編)3 死に抗う者達

ガイアスの世界


ガイアスの人々の死後の世界のイメージ


 死んだ者は死者の扉と呼ばれる大きな扉の前に立つ、とガイアスの人々は信じている。そこから先は死者の世界であり決して現世へ戻ることが出来ない。

 扉の先には死神が待っており死者の扉の先、どこへ向かうか指示してくれるという。だがもし死神が一切方角を示してくれなかった場合、その者に待つのは完全なる死だと言われている。

 真面目に合同で章 (スプリング&ソフィア編) 3 死に抗う者達



剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス



『私は今から、主殿の魂を引き戻しに行ってくる』


 自我を持つ伝説の武器ポーンがスプリングを担ぎ小さな島国ヒトクイの中央都市ガウルドにある安宿に向かうソフィアにそう告げてからかれこれ数十分が経過していた。

 あの日、旧戦死者墓地の戦いによってボロボロになった初心の衣を身に纏ったままのスプリングの懐に入ったポーンは一切口を開かない。そしてそれは現れた。

 ポーンが黙った直後、ガウルドの町に獣の咆哮が突然響き渡った。本来魔物の侵入を一切許すはずがないヒトクイの中央都市ガウルドに響く獣の咆哮は、真っ直ぐにソフィアがいる場所へと向かっていた。

 遠くから聞えた獣の咆哮がじょじょに自分に近づいたと同時に、ソフィアは突如として自分が立つ場所に違和感を抱いた。あれほど飲めや歌への馬鹿騒ぎをしていたはずの町の人々の声が一切聞こえないからだ。

 違和感を抱いたソフィアは周囲を見渡す。するとその視線に入ってきたのは、色を失ったガウルドの町並みであった。淡いピンク色の花を咲かせていたはずの木も今はモノクロでその色を失っている。それが魔法使いが使う遮断魔法の一種であることにソフィアが気付くのにそんなに時間はかからなかった。だがその状況に顔色が悪くなるソフィア。

 空間を切り離し別の空間へと導くことができる遮断魔法、当然、それは自然に起る現象では無く、何者かによる魔法であることを告げている。それはつまり自分達が何者かに狙われているということであったからだ。


「まさか……」


押し寄せるあの日の記憶。旧戦死者墓地で『闇』の眷属による圧倒的力の前に成す術が無かった恐怖を思いだしていた。

 担ぐスプリングを落としてしまいそうになる程に強烈な震えがソフィアの全身を襲う。


「くぅ……ダメ」


だがソフィアは堪える。意識を失ったままのスプリングを守ることができるのは自分しかいないと、心に残った僅かな勇気を振り絞り無理矢理恐怖を押し込めたソフィアは、恐怖を堪える為に噛みしめた口の端から僅かな血を滲ませた。

 絶えることなく続く獣の咆哮は、四方から聞こえてくる。気配を探る必要も無いほどにその存在感はソフィアの精神を削る。

 これだけ獣の咆哮が響き渡っているというのに一切人々が騒ぐ気配はなくそれ以前に人が居ないのでは無いかと思えるほどの静寂、やはり自分達は遮断魔法の中にいるのだと確信したソフィアは、自分達に助けが来ない事を悟る。


「……はぁはぁ……全く気配を捉えられない」


 走っても居ないのに息を切らすソフィアは、色を失った町並みに目を這わせる。今問題なのは自分達に迫る獣よりもこの状況を作り出した術者、その気配を必至に探すソフィアだったが、気配は愚か痕跡すら見つからない。


「……駄目だ……やっぱり分からない」


 元盗賊であり気配を探知する能力には自信があったソフィア。しかしその能力をもってしても一切気配を感じ取ることが出来ず、ただただ獣が近づいてくるのを許してしまう。それに加えまるで邪魔するかのように響き渡る獣の咆哮がソフィアの集中を削ぎ、探知の精度が落ちていく。得体の知れない何者かが獣を引連れ自分達を襲撃しようとしている。全く正体が掴めない状況はソフィアの精神を追い込むのには十分な威力であった。


「くぅ……来るならさっさと来なさいよ」


確実に近づいてきているものの、未だ攻撃を仕掛けてこない獣たちに不安が大きくなっていくソフィアは、それを苛立ちに変え言葉に変換して発散する。しかしたいした効力も無くここにきて恐怖がぶり返すソフィアの体は再び震えはじめた。


「くぅ……なんなのよッ」


 ぶり返す恐怖に自分の足を叩くことで恐怖を抑え込もうとするソフィア。しかしその震えは恐怖だけからくるものでは無い。それと同等に自分がこの場を切り抜けられるのかという不安がソフィアの心を支配し始めていたからだ。

 まだソフィアは正規の戦闘職、剣士になって十数時間しか経っていない。剣士になってから町の外に一度も出ていないソフィアは、当然魔物や獣との戦闘も経験していない。その経験の有無がソフィアの心に不安を広げるのだ。

 盗賊としてならば魔物や獣との戦闘経験は十分にあるものの、盗賊とは勝手が違う剣士は、現在ソフィアが置かれている状況も相まって心に不安の影を落としているのであった。そしてソフィアが今置かれている状況というのが、さらに不安に拍車をかける。

 盗賊として今まで一人で戦ってきたソフィアにとって誰かを守りながら戦うという状況は無かった。他人を、しかも大切だと思える仲間を守りながら戦わなければならないという状況は経験したことが無くソフィアはその難しさを痛感するのであった。


「……!」


 そんな時、不意に背中に感じる熱。スプリングが発する体温にソフィアの表情は覚悟を決めたように鋭くなった。自分の背中に感じた体温、それはスプリングが生きていることを示す証。この命を、この熱を冷たい物にしてはならないとソフィアは頭をフル回転させる。


「こんな時、団長達ならどうしていた……どうしていたッ!」


 蘇る今は無き懐かしき記憶。脳裏に刹那の如き速度で流れていくソフィアが盗賊団の仲間達とすごしていた頃の記憶。

 その全てが良いものであった訳では無い。時には辛く悲しいこともあった。だがその全てが今のソフィアを形作っている。


「これだッ!」


 自分の脳裏に流れていく記憶を無理矢理止めるソフィア。止めた記憶の中には大きな背中があった。それはソフィアの育ての親でありソフィアが所属していた義賊団、『未来風』の団長、ゴッゾ=バルミリオンの背中であった。

 

「うらああああ!」


スプリングを担ぐソフィアは全身に力を籠めるとその場から飛び出していく。


(壁……壁ッ!)


その場を飛び出したかと思えばソフィアは壁を探し始めた。


(同時に来られたらひとたまりも無い……こんな時、団長は壁を背にして戦っていた)


 それはソフィアの幼い頃の記憶。ゴッゾと二人で出かけていた時だった。森に入ったソフィア達は魔物の集団に襲われたことがあった。

 本来ソフィア達が入っていった森は、魔物の出現が少ない比較的安全な森であった。しかしその日は運悪く餌を求め大移動する魔物の群れに鉢合わせてしまった。

 魔物達がどれだけの距離を移動してきたのかはソフィア達には分からない。しかしその様子からかなりの距離を移動してきたことは、その当時まだ幼かったソフィアにも直ぐに分かった。      

 どの魔物も飢えていた。よだれを垂らし血走る目は獲物を探す為に必至に動いていた。そんな魔物達はソフィアとゴッゾを見つけるやいなや全速力で迫ってくる。ソフィアは恐怖で一切身動きが取れなくなった。そんなソフィアを片手ですくい上げたゴッゾは一目散でその場から逃げ出す。

 しかし魔物もソフィア達を逃せば自分達に待つのが死であることを自覚しているのか本来以上の速度で逃げるゴッゾを追う。

 気付けばむき出しになった魔物の牙がゴッゾの背中を襲う。それを寸前で躱したゴッゾは舌打ちを打ちながら覚悟を決めた表情で突然ソフィアを自分の後方へと放り投げた。


「よく覚えとけソフィア! 仲間の助けが望めず逃げることすら出来ない状況になったら、ひとまず遮蔽物を探せ!」


「遮蔽物……?」


ゴッゾの言葉にハッしたソフィアは自分の背後に視線を向けた。そこには森の自然が作り出した大きな壁のように隆起した場所があった。


「自分を覆い隠すほどの遮蔽物だ! 背後をとられなければそれだけ不意を突かれる確率は減る……後は気力と根性だぁぁぁぁぁ!」


まるで獣の雄叫びをあげるようにそう言い放ったゴッゾは迫る魔物の群れを一体、また一体と戦闘には頼りない小型ナイフで切り捨てていく。

 結果として深い傷を負ったもののゴッゾはソフィアを守りながら魔物達の群れの襲撃を退けることに成功する。その時に見たゴッゾの背中はソフィアにとってどんなものよりもかっこよくそして大きく映った。

 その背中を、その教えを守るようにソフィアは建物の壁を背にすると担いでいたスプリングを地面に下ろした。


「……状況は揃った……後は気力と……根性ぉおおおおおお!」


あの時ゴッゾが叫んだ言葉をソフィアもまたその口から雄叫びのように放つ。

 

《ウォオオオオオオー!》


叫びに反応するようにソフィアが立つ場所の四方を取り囲んでいた獣の一匹が咆哮をあげる。それは先程とは音色が違い何処か鋭い。


「来るッ!」


 咆哮の音色が変わったことに気付きそれが突撃の合図だと判断したソフィアは、後方から迫ってくる獣の気配は無視しめの前に現れた二匹の魔物に視線を向けた。


「……獣……人? ……」


 鋭い咆哮と共にソフィアの視界に飛び込んできた黒い影。それは獣と人の間、獣人と呼ばれる種族であった。

 獣だと思い込んでいたソフィアは自分の目の前に現れた獣人に驚きの表情を浮かべる。なぜなら獣人は、姿こそ獣に近い部分はあるが人間と意思疎通をかわすことが出来る理性と知性を持った、ガイアスという世界において人間と同じ人類の括りに属する存在だからだ。

 しかしソフィアの目の前に現れた獣人からはその知性と理性が全く感じられない。ただ餌を求める獣のような目。口元からだらしなく垂れ流される舌、そこから滴り落ちる唾液。そこにいたのは到底同じ人類とは思えないただの獣であった。


《グルォオオオオオ!》


目の前の獣人の姿に気をとられるソフィア。


「ハッ!」


その不意を突き後ろに控えていた獣人がソフィアに向け飛び出していく。完全に不意を突かれ飛び込んできた獣人に反応が遅れるソフィア。獣人は鋭く尖った爪をソフィアに向けて振りかぶるのだった。




― 生と死の狭間 ―




「なあ……ポーン?」


「なんだ主殿?」


「俺達もう結構歩いているよな……」


 一面真っ白だった世界は、その本来の風景を取り戻しスプリング達の視界に広がる。だが本来の風景を取り戻しても殺風景なことに変わりは無くスプリング達の周囲にはただ遠くに見える生者の階段へと続く道しかない。


「そうだな」


 後方を歩いているポーンは、スプリングの言葉に淡々と頷きながら、目的地である生者の階段を見つめる。距離にしてみれば数キロ。数十分も歩けば辿り付く距離なのだが、歩けどその距離は縮まらずかれこれ二人は数時間歩き続けていた。


「何で辿り付かないんだ?」


 場所が場所だけにガイアスの常識が通じないことは何となく理解しているスプリング。だからこそ何が原因で目的地までの距離が縮まらないのか疑問であった。


「……もしかすると……この場所に主殿を繋ぎ止めておきたいのかもしれないな……」


「ああ? 誰がだよ?」


脈略の無いポーンの言葉に冗談じゃないぞという具合で言葉を返すスプリング。

 今スプリング達がいる場所は、本来現世で死んだ者達がやってくる生と死の狭間と呼ばれる場所であり、死んだ者は、スプリング達が向かっている生者の階段とは逆の方向にある死者の扉に向かっていく。

 例外として現世の呼びかけに反応し生者の階段を昇って行く者もいると言われているがその殆どは死者の扉へと吸い込まれるようにして向かっていくのである。


「今我々はこの世界の摂理に逆行している……当然そんな我々を面白く思わない存在がいるとは思わないか主殿?」


 スプリングの『誰が?』という問にそう答えるポーンは、既に何かに気付いているようだった。


「……うわー何か物凄く嫌な予感がしてきた……」


 スプリングの嫌な予感は見事に的中していた。スプリング達の後方にある死者の扉がゆっくりと開き始めそこから骨の手がヌラっと姿を現す。


「お前の話が本当なら洒落にならないぞ……」


 ポーンの言葉に冗談であってくれと願いを込めるスプリング。しかしその願いは叶うことは無い。スプリングが何に願ったのかは定かではないが、もしそれが神という存在であるならば、その願いを聞き入れないのも神である。

 背後に迫った骨の手はゆっくりとスプリングの肩に触れようとする。


「ッ!」


すんでの所で前に飛びのくスプリングは瞬時に体の向きを変え自分の背後にいる何かを目視する。


「……こりゃまた何の捻りも無い姿だな……」


 苦笑いを浮かべるスプリング。だがその表情の裏には確実な絶望が隠されていた。スプリング達の前に姿を現したのはボロボロの漆黒のローブを身に纏い、ローブに付いたフードを深く被った存在。フードの隙間からは何処までも続く暗闇のような二つの穴がスプリング達を見つめていた。


「死神」


 ポーンがそう称するように、スプリング達の前で漆黒のローブをヒラヒラさせ大きな鎌を肩に担ぐその存在の正体は死神であった。

 死神とはその名の通り死を司る神。死者を死の世界へと導く存在である。死神が持つ鎌に切り裂かれた魂は完全な死を迎えると言われている。

 実際に存在しているとは思ってもいなかったスプリングは、死を司る神を前に絶望を抱くのであった。

 死神はゆっくりと肩に担いだ大鎌をスプリングに向ける。それはここから逃がさないと意思表示しているようにスプリングの目に映る。


「おいおい、死神とどう戦えばいいんだ?」


 死神が持つ鎌に切り裂かれれば完全と言われる死が待っていることはスプリングも理解している。そんな相手と素っ裸で武器も無い自分がどう戦えばいいのか分からないスプリングの苦笑いはとうに消え失せこの場をどう切り抜けるか真剣に思考する表情へと変わっていた。


「……主殿、一つ言っておくことがある、私は彼らに最も近くそして最も遠い存在だ……」


「はぁ? どっちだよ、はっきり言え!」


こんな時に変な謎解きをしている暇は無いとスプリングはポーンに対して即座に答えを要求する。


「分からんという事だ!」


 ポーンのその言葉を皮切りにまるで事前に打ち合わせしていたかのように全く同じタイミングで生者の階段が続く道へと走り出す二人。



「そうかー分からないかー……っておい! いつもは色々とあーでもないこーでもないって知識を披露するところじゃないのか?」


全速力で死神から逃げるスプリングは、横で同じく全速力で走るいつもは博識なはずのポーンに文句を垂れた。


「主殿は私を神か何かと勘違いしていないか? 私は全知全能では無い、専門外だこの世界のことは!」


まったく詫びる様子も無く自分にも知らないことはあると言い切るポーン。


「いや、お前は神だよ、疫病神だ!」


 元を辿ればポーンに出会った事が全ての元凶だと言うようにスプリングは更に走る速度を上げ追って来る死神との距離を離す。


「なるほど言うではないか主殿、ならば仕方ない、そんな主殿に私の力を見せてやる!」


そう言うとポーンは必至に動かしていた足を止め、迫りくる死神に体を向けた。


「お、おい! 何する気だポーン!」


ポーンの突然の行動にスプリングの足も止まる。


「私は伝説の武器だ、武器は攻撃する為にある、逃げるのは性に合わない」


「早まるなポーン! 戦うって言っても俺達には武器が無いぞ!」


明らかに本来の冷静が欠けている様子のポーンを止めようとするスプリング。


「武器? ……それは問題無い……」


 スプリングに背を向け死神と対峙するポーンはそう言うと両手を広げる。するとその両手に光が集まり二本の光の剣が形を成して現れた。


「お、おい! なんだ、その剣!」


ポーンの両手が持つ煌びやかに輝く二本の剣に驚くスプリング。


「なにって……決まっているだろう伝説の剣だ」


さらっとスプリングにとって重要な言葉を口にするポーン。光が纏いしっかりとした形状を確認することは出来ない二本の剣をポーンは伝説の剣と称した。


「なるほど……伝説の剣か……て、おいっ! ……何でお前がそれを持っているんだよ!」


スプリングは訳が分からないというようになぜポーンが伝説の剣を所有しているのか聞いた。


「主殿……私は何だ?」


「はぁ? お前は伝説のロッドだろ!」


こんな時にまたなぞかけかと若干イラつくスプリング。


「……主殿……それは違う、私はロッドでは無く伝説の武器、武器だ……」


武器という言葉を強調するポーン。


「はぁ?」


しかしその意図はスプリングに伝わらない。


「私はガイアスに存在するあらゆる武器に精通している……魔法使いが好むロッドにも剣士が扱う剣にも姿を変えることが出来る!」


「……へっ? ……な、何だとぉぉぉぉぉ!」


それはスプリングにとって衝撃的な事実であった。


「ちょ、ちょっと待て! だったら何でそのことを早く言わない! もっと早くその事を知っていれば苦労して魔法使いの修練なんてしなくてよかっただろう!」


スプリングの言い分はもっともであった。もし初めからそれが分かっていれば今ごろスプリングは伝説の剣を手にした『剣聖』になっていたことであろう。しかし現実は全くかけ離れた戦闘職、魔法使いで右往左往する日々である。


「細かいことを……」


「どこが細かいんだ!」


ポーンの言葉にすかさずツッコむスプリング。

 そんな二人のやり取りをただ見ていた死神は痺れを切らしたのか構えた大鎌をポーンに降り下ろした。


「フンッ!」


振り下ろされた大鎌は見た目ほど威力は無くポーンは片方の手に持った剣で軽くいなす。


「それは仕方がないことだ、あの時の主殿に剣としての私を扱う資格が無かったからだ!」


「はぁ? 資格だと! 俺は上位剣士だったんだぞ! 上位剣士が持つ武器と言えばロッドじゃなく剣だろうがッ!」


ポーンの言葉に怒りを昂らせたスプリングはその勢いのままポーンに再び攻撃を仕掛けようとしていた死神に体当たりを喰わせる。


「それでも主殿は剣としての私を扱う資格は無かった!」


スプリングの体当たりによってよろめく死神に対して追い打ちのように一撃、二撃と斬撃を放つポーン。


「だったら俺なんて選ばなければよかっただろう! なんで俺がお前に合わせるように魔法使いになんかならなきゃいけないんだよ!」


 ポーンの斬撃によって地面に膝をついた死神に怒りを込めたスプリングの踏みつけが放たれる。


「それは主殿が私を所有する資格を持っていたからだ!」


そう言いながらポーンはスプリングが踏みつけていた死神の髑髏の顔に二本の剣を突き刺した。


「資格資格って、どれだけお前を扱う為には資格が必要なんだよッ!」


 死神の髑髏の顔に突き刺さった剣を引き抜いたポーン。その直後その髑髏の顔目がけて振り上げられたスプリングの蹴りが直撃する。するとまるでボールのように飛んでいく死神の髑髏の顔は、宙を舞いながら砕け散った。残った体はまるで砂のようにサラサラと風に舞って霧散していく。


「……主殿……魔法使いという戦闘職は、主殿にとって必要のないものであったか?」


 いつの間にか死神との戦闘を終えていたポーンは対峙するスプリングに魔法使いの経験は無駄であったかと問う。


「そ、それは……」


 最初は嫌々始めた魔法使い。自分には合わないと敬遠していたが、実際になってみて魔法使いも色々と奥深いものがあり学ぶことも多かった事を自覚しているスプリングは、ポーンの問に言葉を詰まらせた。


「……確かに自分が求める道に目を向けることは大事だ、だが時々横道に反れることによって新たな発見をする可能性は大いにある、それは必ずいつか自分が求める道への手助けになってくれると私は考えている……」


「……」


 スプリングは考える。ポーンと出会わなければ、魔法使いという戦闘職を経験することは無かった。いや言い換えたほうがいいのかも知れない、経験することが出来なかったと。

 完全な遠回りではあるが、今自分の中で魔法使いという経験は無駄にはなっていないと思うスプリング。


「……ああ悪かった……お前の言うことが正しい……けどな……」


自分が悪かった事を素直に認めるスプリング。だがその直後。


「なんかかっこよく纏めているお前が気に喰わねぇ!」


再び怒りの炎を燃やしたスプリングは手に持つ二本の剣を鞘に戻そうとしていたポーンに飛びかかった。


「あ、主殿! や、止めろ!」


「かせその剣を俺によこせ!」


 再び死者の扉から死を司る死者たちが姿を現していることにも気付かず、スプリングとポーンはまるで子供の喧嘩のように生と死の狭間の真ん中で騒ぎ散らすのであった。


ガイアスの世界


義賊団 『未来風』


 数十年前、とある大陸で続く大きな戦争の末期、汚い金で富と名誉を手に入れる商人や貴族だけに絞った盗賊団が突如として現れ始めた。その盗賊の名は『未来風』。その名に込められた想いは豊かな未来のために風を起こす。

 戦争によって商人や貴族たちが莫大な利益を得た時代がガイアスにはあった。だが一方で戦争によって一番被害にあった貧しい人々も存在する。そんな者達を救うべく突如として現れ出したのが、盗賊団『未来風』である。

 たちまち『未来風』は貧しい人々のヒーローになった。商人や貴族から奪った宝石や金を貧しい人々に対して何の手も差し伸べなかった商人や貴族たち。その商人や貴族たちは戦争で莫大な利益を得た時代、ばら撒いたからである。

 貧しい人々からは義賊と呼ばれ感謝され、商人や義賊からは盗賊と呼ばれ忌み嫌われるる存在であった。


 そんな『未来風』は数十年経った今でもその正体は分かっていない。ソフィアが生まれる数十年も前の話である。


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